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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

二人の妻 第84回

「俺は麻里を少しでも癒してやりたかった。K温泉に行ってお前と江美子さんに会わせたのも、麻里の気持ちに区切りをつけさせることと、出来れば江美子さんを交えてでも、理穂ちゃんと定期的に会うことがの出来ればと思ったからだ」
「俺と江美子がK温泉に行くことは、理穂から聞いたのか?」
「理穂ちゃんは江美子さんがお前と結婚してからは、江美子さんに気を使って麻里とは連絡をとっていない」
「それなら、どうして?」
「理穂ちゃんがブログを開いていることを知っているか?」
「ブログだって?」

隆一は有川の意外な言葉に聞き返す。

「理穂はパソコンはやらないが」
「ブログは携帯でも更新出来る。マリアが偶然理穂ちゃんのブログを見つけた」
「そんな偶然があるのか?」
「結構人気のあるブログらしい。両親が離婚した女子中学生のブログってことでな」

隆一がショックを受けているのを見て、有川は「悪かった」と声をかける。

「俺が原因をつくっておいて、無神経だった。とにかくそのブログの存在を俺が麻里に教えた。さっきも言ったが、マリアの記憶は麻里は共有出来ない。だから必要に応じて俺はマリアから麻里への仲介役になった」

「麻里は理穂ちゃんのブログに匿名で書き込みをするようになった。自分が母親であることを明かさずに理穂ちゃんの悩みに色々とアドバイスをするのが麻里にとっての唯一と言って良い楽しみになった。理穂ちゃんが普段は強がりを言っているが本音では母親と会いたがっていることを知ったのもそのブログを通じてだ」

「麻里はお前と江美子さんがK温泉へ行くことを知った。理穂ちゃんは家族の思い出の場所へお前達二人が行くことを否定はしていなかったが、お前と麻里の三人で言った旅行のことを思い出すと寂しくてたまらないと……」

(麻里……理穂……)

隆一の心の中に深い後悔が湧き起こる。

(俺はなんて自分勝手だったのか。俺の知らないところで麻里が、そして理穂がそんな深い悲しみに苦しんでいたとは。二人の苦しみも知らず、江美子という新しい伴侶を得た俺だけが浮かれていたのか)

「理穂はコメントの相手が麻里だとは知らなかったのか」
「まさか……」

有川は首を振る。

「中学生とはいえ、女の勘を甘く見るもんじゃない。お互いに気づかないふりをしていただけだ。しかしそれが結果として、マリアにお前達、特に江美子さんの行動を把握させる手段となった」

「隆一、マリアは父親から、言葉に出来ないほどのおぞましい仕打ちを受けている。それが江美子さんに対する加虐性に向かっている危険性がある。俺がマリアを制御出来なかったために江美子さんに何かあったら――」
「わかっている」

隆一はうなずく。

「そうならないように、麻里、いや、マリアを止めなければ」

ようやくタクシーは目的地につく。隆一と有川は車から降りると、地下のバーへ向かう。
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  1. 2014/09/30(火) 09:20:19|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第83回

「隆一の方だって同じ。自分が江美子を抱いているのなら、交代人格の私が身体を支配しているときに、あなたに抱かれる麻里を責めることはできないわ」
「そんなことがうまく行くものか。だいたいそれでは江美子さんの感情はどうなる」
「それをうまく収まるように色々と細工をしているんじゃない。江美子が私と同じように、色々な男に抱かれることに喜びを感じる、娼婦のような恥知らずの女になれば何の問題ないわ。つまり隆一はよき妻、よき母としての麻里と、欲望のはけ口としての江美子の二人の妻を得ることになるのよ」

マリアはそこまで話すと再びクスクスと笑い出す。

「理穂ちゃんがそんな不自然な関係を受け入れることが出来るものか」
「少なくとも理穂には、交代人格の私になった麻里の姿を見せずにすむわ。江美子はもともと慎みのない不倫女。理穂が気にする相手じゃないわ」
「マリア……」
「とりあえず麻里の馬鹿な行動を止めないとね」

マリアはそこで電話を切る。

----------------------------------------------------------------------

「……それ以来マリアと連絡が取れない。マンションを訪ねてみたが、帰っていない」

有川の話を聞き終えた隆一はしばらく呆然としていたが、やがて口を開く。

「ひょっとしてK温泉に行っていないか?」
「実は俺もそう思ってTホテルには連絡してみたが、来ていないそうだ」
「ホテルが守秘義務の関係で隠しているということはないか?」
「この前泊まった時は俺の妻ということにしておいたから、それはないとおもうが」

有川は首をひねる。

「理穂も連絡が取れないそうだ」
「そうか……」

隆一の不安が極限まで高まった時、携帯がメールの着信を告げる。ディスプレイには、渋谷のバーのバーテンダーの名前が表示されている。

「麻里が、いや、マリアが渋谷に現れた。おそらくは江美子も一緒だ」
「何だって?」

隆一が立ち上がると有川も後に続く。

「俺も一緒に行く。麻里のマンションの合鍵を持っている」
「わかった」

隆一は喫茶店を出るとタクシーを拾う。渋谷に向かうが、年末の金曜日だけあって道は混んでいる。

(電車で行くべきだったか……)

隆一は苛々しながらすっかりクリスマス一色になっている街並みを眺める。

「有川」
「なんだ」
「お前はマリアのカウンセリングにずっと付き添っていたのか」
「ああ」

有川はうなずく。

「とは言っても、マリアはお前と麻里が結婚している間はずっと部屋の中に閉じこもっていたし、その後も出現するのは週に二、三度、それも夜だけだ。カウンセリングはあまり進んでいない」
「麻里の方はどうなんだ」
「解離性人格症候群の原因となった精神的外傷があるのは交代人格のマリアの方だから、麻里のカウンセリングはそれについてはあまり意味がない。ただ……」

有川は口ごもる。

「ただ、何だ?」
「麻里はひどく傷ついている」
「どうしてだ」
「決まっているだろう。お前と別れなければならなくなったからだ」

有川の激しい口調に隆一は言葉を失う。
  1. 2014/09/30(火) 09:19:12|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第82回

「交代人格であるマリアが持っている心的外傷を治癒していくしかない。それは長く、今期のかかる作業だ。お前はそれを、マリアといっしょにやっていくことが出来るのか」
「……出来るかどうか、やってみなければわからないだろう」
「いや、わかる。マリアのことは俺が一番分かっている」

有川は首を振る。

「北山、麻里の気持ちを分かってやれ。麻里がどんな思いでお前との別れを選んだのか。お前を苦しめたくなかったんだ」
「麻里……」

隆一は頭を抱える。

「そして、何よりも理穂ちゃんを苦しめたくなかった。マリアの人格に変貌したところを、娘には絶対に見せたくなかった。また、自分の存在が娘の将来の重荷になることを恐れた。そんな麻里の気持ちを分かってやってくれ」

(俺はなんていうことを……)

有川の説明から、すべてのことが腑に落ちる。どうして麻里が有川と不倫をしたのか、どうして「二度と繰り返さないと約束することは出来ない」といったのか……。

あの言葉は麻里の誠意だったのだ。麻里はたった一人で苦しんでいたのだ。

「有川、お前は電話で麻里の命がどうとか言っていたが」
「そのことだ。水曜の夜に麻里からメールが入った。マリアではなくて、麻里の方からだ」

有川は表情を引き締めて話し出す。

「マリアが江美子さんに接触するのを止めてくれ、と言っていた。自分もできるだけのことをすると。俺はそのメールを見たとき、麻里が自殺する気なのではないかと思い、慌てて麻里に電話をした。しかし出たのはマリアだった」
----------------------------------------------------------------------

「自殺ですって?」

マリアが聞き返す。

「あのバカ、何を考えているのかしら。こっちが折角、色々と骨を折ってあげているというのに」
「マリア、お前はいったい何をしているんだ」
「麻里を隆一のところに返してあげようとしているのよ」
「返すだと?」

マリアの言葉に有川は耳を疑う。

「そんなことが出来るはずがないだろう。北山にはもう江美子さんという妻がいるんだぞ」
「だからいいのよ」

マリアは楽しそうにくすくす笑う。

「理穂が母親を欲しがっているのよ」
「理穂ちゃんが……」
「私の悪ふざけで麻里が離婚することになったのことは、これでも責任を感じているのよ。理穂のことも嫌いじゃないし。麻里の娘ってことは私の娘でもあるからね」
「馬鹿な」

有川は耳を疑う。

「北山が今さら江美子さんと別れて、麻里と復縁するわけがないじゃないか」
「別に別れなくてもいいのよ。麻里と江美子、両方自分のものにすれば良いでしょう?」
「……どういう意味だ?」
「その時には江美子は私の役割を演じてもらうわ」
「マリアの役割?」
「いい、麻里はもう一度隆一のものにする。麻里の交代人格である私は以前のようにあなたにも抱かれ、他の男にも抱かれる。江美子も私と同じように隆一にも、娼婦のように他の男にも抱かれる。これで麻里は隆一に対しても、江美子に対しても罪悪感を持つ必要はなくなるのよ」

マリアは声を弾ませながら続ける。

  1. 2014/09/30(火) 09:18:14|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第81回

「せっかく希望の職場に転職出来たのに、プレッシャーかしら。麻里は真面目すぎるのよ。理穂のことももっと手を抜いてもいいのに」
「おかげで私が急遽代打で登場。でも、このところずっと部屋に閉じこもりっぱなしで、麻里のことも観察していなかったから仕事の会話もチンプンカンプンだわ。誠治、昔の誼みでちょっと手伝ってくれない?」
「マリア……」

有川は10年ぶりに会った「恋人」の姿を呆然と見つめている。

「もちろん無料奉仕とは言わないわ。ずっと部屋の中に閉じこもりっぱなしの禁欲生活でイライラしているのよ」

マリアはそう言うと意味ありげに足を組み直し、妖しく有川にほほ笑みかける。

----------------------------------------------------------------------

「俺はひさしぶりにマリアを抱いた。お前には申し訳なかったとは思っている。しかし、俺は10年以上マリアを待って、ずっと独りでいたんだ。言い訳をさせてもらうなら、お前から麻里を奪うつもりは全くなかった。俺が好きなのは一貫してマリアだけだ」
「しかし、ある時マリアが悪戯心を起こした。俺に抱かれている最中にいきなり部屋に閉じこもったんだ。当然主人格である麻里が現れた」
「何だって?」

隆一は耳を疑う。

「人格交代の様子をこの目で見た俺も驚いたが、麻里はもっと驚いただろう。気がつけば俺の上で素っ裸のままつながっていたのだからな。麻里は混乱してパニックのようになり、次に激しく俺を責めた。俺が無理やり麻里に酒か薬でも飲ませて正体を失っているときに抱いたと思ったのだろう」

「俺はしょうがなく、必死で麻里を落ち着かせようとした。麻里はひどく興奮していたが、俺が解離性同一性障害のことを説明すると、徐々に落ち着きを取り戻していった。麻里はマリアとは違って自分がそれだとは知らなかったようだが、ある程度思い当たるところはあったのだろう。過去、頻繁に記憶がなくなるのは酒のせいだと思っていたようだ」

「マリアはほんの冗談のつもりだったらしいが、麻里にとっては大変なショックだったようだ。その後はマリアもそういった悪戯はやめるようになったが、俺との関係は続いた。しかし麻里はずっとそのことに罪悪感をもっていたのだろう」

「麻里にとってもっとも堪えたのは、自分がマリアの行動を制御できないということだ。そしてマリアが再び部屋から出るきっかけを作ったのが、無意識的ではあったが自分の弱さがそうさせたことだった」

「麻里は治療のためカウンセリングに通ったが、解離性同一性障害が極めて治療が困難な人格障害だということを知ってショックを受けた。また、カウンセリングの過程で自分が過去、父親から悪戯されている時、その肉体的・精神的苦痛は交代人格のマリアが引き受けていたこともわかり、マリアに対して罪悪感を抱くようになった」

「一方、マリアはタガが外れたように俺との関係に溺れた。そんな麻里の異常にお前が気づかないはずがない。そしてあの破局が訪れた」

隆一は苦しげな表情で有川を見る。

「どうして俺に言ってくれなかった」
「解離性同一性障害のことをか?」
「そうだ」
「麻里から堅く口止めされていた」
「なぜだ」
「事実を告げたら、お前は絶対に麻里と別れないだろう?」
「当たり前だ。そんな麻里の苦しみを放っておけるか」
「それを麻里は恐れたんだ」

隆一はいきなり頬を殴られたような顔付きになる。

「麻里と一緒に暮らすということは、彼女の中のマリアも許容するということだ。マリアには貞操観念はない。お前は自分の妻が他の男に抱かれても耐えることができるのか?」
「俺が……一緒に麻里を治す」
「お前はこの障害のことを良くわかっていないからそんなことが言える。解離性人格症候群はいまだ確立された治療法すら存在しないやっかいなものだ。以前は人格統合が最善の治療法だと考えられていた。しかし、麻里とマリアの人格は違いすぎて統合は極めて難しい。また、マリアが持っている心的外傷体験を下手に麻里が共有してしまうと、麻里までが壊れ、パニックや自殺の原因になることもある」
「自殺……」

隆一は有川の言葉に息を呑む。
  1. 2014/09/30(火) 09:16:55|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第80回

「人はあまりにもつらいことが起きると、それは自分ではなくて自分の中の他人、別の人格の身に起きているんだと思い込むことによって自分を守ろうとする。そうやって麻里の中に生まれたのがマリアだ。マリアは不道徳で、性に対してもだらしなく、父親からそんな悪戯をされても仕方がない女だ。しかし、俺はそんなマリアにどうしようもないほど恋をした」

有川の告白は続く。

「これは絶対にかなえられない恋だ。麻里の身体はほとんどの時間を主人格が支配している。交代人格のマリアが現れるのは週に二、三日ほど、それも主に夜だけだ。マリアにはそもそも一人の男を守ろうという貞操観念はないから、俺だけではなく他の男とも付き合う。それが俺には耐えられないほど苦しかった」

「誤解を恐れないで言えば、俺が好きなのはあくまでマリアであって麻里ではなかった。しかし、マリアとそっくりの女が――本人なので当たり前だが――昼間お前と親しげに話しているのを見るのもつらかった。また、清楚で貞操観念の強い主人格の麻里は、真面目な北山とお似合いなのも分かっていた」

「交代人格は主人格が出現している間も、主人格の行動を観察し、その体験を共有することが出来るらしい。逆に主人格は、交代人格が支配している間自分が何をしていたか覚えていない。麻里とお前が親しくなっていくにつれて、それを観察しているマリアに変化が生じて来た。ある時マリアが俺に、関係を終わりにしようと告げた」

----------------------------------------------------------------------

「お前まで隆一が好きになったのか」
「そうじゃないわ」

マリアは苦笑する。

「このままいったらいずれ修羅場になるわ。私、そういうのは苦手なのよ。それに交代人格は主人格があっての存在よ。隆一と結婚することが麻里の望みなら、それを叶えた上でうまくやっていくしかないのよ」
「それならこれからも俺と付き合ってくれればいいじゃないか」
「だから、そうすると修羅場になると言っているでしょう?」

マリアはくすくす笑う。

「俺と別れて、マリアはどうするんだ」
「そうね、しばらく『部屋』の中に閉じこもっているわ」
「部屋?」
「人格の中に部屋があるのよ。表に登場しない人格はそこで静かに暮らしているの。色々な仲間がいるから退屈しないわ。男だっているのよ」

有川は寂しさに胸が締め付けられそうになってマリアに尋ねる。

「もう帰ってこないのか」
「そんなことはないわよ」

マリアは優しげに笑う。

「また会いましょう、誠治。色々な男と付き合ったけれど、あなたが一番好きよ」
「隆一よりもか」
「隆一よりもよ」

マリアはそう言うと、有川に軽く接吻をした。

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「それが俺とマリアの別れになった。その後麻里はお前のプロポーズを受け入れた。お前は、俺とマリアが付き合っていたことを薄々知っていた。もちろんそれが麻里の交代人格だとは気づかなかっただろうが」

「俺がお前と麻里の結婚式の司会を引き受けたことに驚いたかもしれないが、そのこと自体は俺にとって大したことではなかった。俺はマリアを失う事で十分辛い思いをしていた。お前と結婚するのは麻里であってマリアではない」

「その後約束どおりずっとマリアは現れなかった。俺は麻里の解離性同一性障害がこういった形で治るのなら、寂しいことだがそれはそれでしょうがないと諦めかけたころ、突然マリアが俺のところにやってきた」

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「麻里の馬鹿が職場放棄したのよ」

マリアは有川が勤めるオフィスの応接間のソファに腰をかけると、うんざりしたような声で有川に告げる。
  1. 2014/09/30(火) 09:16:06|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第79回

隆一は驚いて有川の顔を見る。有川は深刻そうな表情を崩さず隆一をじっと見つめ返している。

「冗談を言っている訳ではない」

有川は続ける。

「解離性同一性障害には基本人格と呼ばれる元からの人格と、後で生じたいくつかの人格がある。よく二重人格という言葉があるが、この症状で人格が二つしかないのはむしろ珍しいらしい。また主に発現するものを主人格、それ以外を交代人格というが、麻里の場合は基本人格が主人格になっている」
「交代人格のうち最も多く発現し、一時的には主人格をしのぐほどのものがある。麻里のそれは自分ではマリアと名乗っている。主人格の麻里は純情で慎み深く、性に対しては臆病だ。一方交代人格のマリアの方は奔放で、麻里とは対照的な性格だ」
「ちょっと待て、有川」

隆一が有川の言葉を妨げる。

「どうしてお前は麻里がその解離性同一性障害だということを知っている?」
「本人から聞いた」
「本人からだと?」
「ああ、学生の頃、本人に聞いたんだ。マリアからな」

有川の言葉に隆一は再び驚く。

「ずっとおかしいと思っていた。女には二面性があるというが、お前に対する麻里の態度と、俺に対する態度がまるで違う。お前を出し抜いて夜、麻里とデートしたことがあるが、翌日の朝そのことを話題に出しても、まるで覚えていないという顔をしている。そして昼間はお前に親しげにしている。俺には訳が分からなかった」
「ある夜、麻里と一緒にいた時、我慢出来なくなって問いただした。どうして昼間は俺に冷たい態度を取るのかと。すると麻里はあの大きな目を一瞬見開いて、次に笑い出した──」

----------------------------------------------------------------------

「あれは私とは別の人間。夜のことを覚えていないのは当たり前よ」

麻里は有川に向かって悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「どういう意味だ?」
「区別するために夜の私といる時はマリアと呼んでちょうだい」
「マリア……」
「聖母様の名前よ」

麻里はそこでもう一度ほほ笑んだ。

----------------------------------------------------------------------

「──最初俺は麻里、いや、マリアからからかわれているのだと思った。しかし、ずっと付き合っているうちに、マリアの言っていることは比喩でも冗談でもないことがわかった」

有川はそこでいったん言葉を切り、隆一を正面から見る。

「北山、解離性同一性障害というのは、何が原因で起こるか知っているか?」
「いや……」

隆一は首を振る。

「多くは幼少期の虐待だ。性的なものを伴うことが多い。お前に心当たりはないか」
「あ……」

隆一は麻里の父親のことを思い出す。

麻里は幼いころに母親を亡くし、ずっと父と娘の二人暮らしだった。麻里の父は暗くなよっとした男で、隆一はどちらかというと苦手なタイプだった。二人の披露宴の際も言葉は少なく、花嫁の晴れ姿を見ても無言で皮肉っぽい笑みを浮かべているような男だった。

隆一と麻里が結婚してから五年ほど後に癌で亡くなったが、その時の麻里はさほど悲しみも見せず、淡々としていたことを覚えている。

「麻里は小学校高学年から中学生くらいまで、父親から日常的に性的な悪戯をされていたんだ」
「何だって?」

隆一は耳を疑う
  1. 2014/09/30(火) 09:15:10|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第78回

青山のイタリアンレストランで麻里と別れてから一週間以上が経った。

バーテンダーからメールは届かない。江美子の様子も落ちついている。「水」という男からのメールもその後はない。

(麻里のやつ、諦めたか)

クリスマスイブを含む三連休を控えた金曜の夜、溜った仕事にようやく区切りをつけた隆一はひとまずほっとした心地になる。

(あんなにきつく言わなくても良かったのかも知れない)

きっと江美子にも隙があったのだ。そしてもしそうだとしたら、俺との関係に自信がもてなかったのがそうさせたのだろう。裏切られることに臆病になって、根拠のない猜疑心が江美子を追い詰めたのではないか。

このまま麻里との接触がなくなれば江美子は落ち着くだろう。今度のことはそれで終われば、男たちとの間に何があったのかなどと、江美子を追求するつもりはない。

隆一がそんなことを考えていると、突然携帯が鳴った。ディスプレイには「理穂」という名前が表示されている。

『パパ!』
「どうした、理穂」
『ママが、ママがいなくなっちゃった』
「何だって? どういう訳だ」
『ママが死んじゃうかもしれない。どうしよう、私……』
「理穂、落ち着いて話せ。どういうことだ」

理穂は泣きじゃくるばかりで会話にならない。その時、審査部のアシスタントが隆一の名前を呼ぶ。

「北山審査役!」
「取り込み中だ」
「すみません。どうしても大至急話したいという方が」
「誰からだ」
「有川さんという方です」
「有川?」

隆一は理穂に「いったん切るぞ」と声をかけ、携帯をオフにすると電話をとる。

「北山、俺だ。有川だ」
「こんな時に何の用だ」
「こんな時? 麻里がいなくなったことか」
「麻里の居場所を知っているのか?」
「知らない。しかしお前に話したいことがある」
「今はそれどころじゃない」
「今じゃなきゃだめだ。麻里の命にかかわる」
「何だって?」

有川のただならない口調に隆一は驚く。

「すぐ近くの○○ビルの喫茶店まで来ている」
「わかった。今から行く」

隆一はアシスタントに「悪いが今日はこれで上がる」と告げるとオフィスを出る。有川が指定した喫茶店はオフィスから五分ほどの場所である。有川は店の奥で深刻そうな表情をして待っている。

「挨拶は抜きだ。お前にずっと隠していたことがある」

隆一が席に着くなり有川は口を開く。

「北山は解離性同一性障害というのを知っているか?」
「なんだ、それは」

突然の有川の言葉に隆一は面食らう。

「昔はよく多重人格と言われたものだ」
「多重人格? 一人の人間の中にいくつもの人格が存在するってやつか」

いったいそれが今、麻里にどういう関係がある、と隆一は苛立つ。

「麻里がその解離性同一性障害だ」
「何だって?」
  1. 2014/09/30(火) 09:14:01|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第77回

「それもいつも同じ男という訳ではない。周りから見たら男漁りそのものだ」
「……」
「別にそのことを非難するつもりはない。しかし、そんな自堕落なお前の行為に江美子を引きずり込むのはなぜだ?」
「……隆一さん」
「おまけに江美子の写真を撮らせて、ご丁寧に江美子の昔の男の名前で送ってくる。なぜそいつが俺のメールアドレスを知っているのかと不思議だったが、ようやく分かった。麻里が送っていたのだな」
「……違う、隆一さん、聞いて」

麻里は必死な表情を隆一に向ける。

「江美子がどうしてお前の男遊びに引きずり込まれたのかは分からない。暴力や脅迫を使ったという訳でないのなら、江美子のことはある程度は自己責任だ。もしそうならこのことについて麻里も江美子もそれほど責めるつもりはない」
「……」
「しかし、許せないのは理穂を使ったことだ」

麻里の表情が青ざめる。

「理穂を……」
「お前は理穂を通じて俺達の情報を得ていたのだろう? 俺達がK温泉に行くことも理穂から聞いていたか?」
「そんなことは……」
「おまけにお前は理穂を使って江美子の心を操ろうとした。江美子の不安感をあおりながら。白いマフラーはお前の差し金か?」
「白いマフラー?」
「理穂が結婚一周年のプレゼントに江美子にプレゼントしたものだ」

麻里は再び強い衝撃を受けたような顔になる。

「携帯メールを送って江美子が俺を裏切るのを見せつけ、俺が江美子に愛想を尽かすのを待っていたのか? それなのに俺がいっこうに行動に移さないから、理穂を使って探りを入れさせたか? 残念だったな。麻里の思ったようにはならないぞ」

言い過ぎているかもしれない。しかし、隆一はもはや言葉が激烈になるのを止めることができない。麻里はじっと顔を伏せ、隆一の次の言葉を待っている。

「俺がお前と別れたのは、お前が有川と不倫をしたからではない。お前が俺に対して裏切りの事実を詫びながらも、二度と繰り返さないとは約束出来ないと言ったからだ」
「……」
「あれでもう駄目だと思った。一緒には暮らせない。麻里と夫婦としてやっていくことは出来ないと」
「……わかっていました」

麻里は小声で呟く。

「何だと?」
「そのことが理由だと分かっていました。私は結婚すべきではなかったのです。でも、あなたと結婚しなかったら理穂は生まれて来なかった」

顔を上げた麻里の頬を幾筋も涙が伝え落ちている。

「あなた……隆一さん、お願いです」
「何だ」
「江美子さんに、二度と私に近づかないように言ってください」
「何だと?」

隆一は思わず聞き返す。

「何を訳の分からないことを言っている? 麻里が江美子を誘わなければ良いだけだろう」
「それが、あの時と同じなのです」
「あの時?」
「隆一さんとの別れの原因になった時です。二度と繰り返さないとは約束できないのです」

麻里は苦しげにそう言うと、隆一を見つめる。

「私も、自分の出来る限りのことはします」
「麻里……」
「隆一さん、理穂をよろしくお願いします。江美子さんとお幸せに暮らしてください」

麻里はそう言うと立ち上がり、深々と頭を下げる。そして白いコートを身に纏い、クリスマスソングの流れる青山通りへと姿を消して行った。
  1. 2014/09/30(火) 09:11:54|
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二人の妻 第76回

(何をとぼけているんだ)

隆一は皮肉っぽい気分になる。

(結婚している時は分からなかったが、これほど裏表がある女だったとは――。やはり俺の感覚は間違っていない。俺は麻里に裏切りを許せないから別れたのではない。麻里が人を裏切るような女だから別れたのだ)

「でも、折角のクリスマスなのに、私と食事なんて良いの?」
「イブはまだ10日以上先だ」
「まあ、その日は江美子さんと予定がありということね。ご馳走様」

麻里はくすくすと笑う。

「お前だって有川と過ごすのだろう」
「さあ、どうかしら。彼とはずっと会っていないから」
「そうなのか?」
「ええ、この前のK温泉以来会っていないわ。あの旅行だって本当に久しぶりなの。それまでも2年近く会っていなかったかしら」
「それなら、ずっと一人で暮らしているのか?」
「ええ」

それで寂しくなって頻繁にマンションに男を引き入れているのか。隆一はしげしげと麻里の顔を見る。

「どうしたの、私の顔に何かついているかしら?」
「いや」

隆一は首を振る。

食前酒と前菜が運ばれてくる。イタリアンとしては値段もかなりのものだが味は悪くない。しばらく世間話をしながら二人は食事を楽しむ。

いや、少なくとも隆一には楽しむ余裕はない。自分が江美子を陥れようとしていることなど素知らぬふうに、屈託なげに話す麻里が信じられない。

(麻里、いつからお前はそんな化け物のような女になった?)

聖母のような顔をして江美子を食い殺し、その後釜に座ろうとする。そんなことを隆一が許すと思っているのか。理穂を抱き込めばそれが可能だと思ったのか。

(有川とはもう切れている、と言いたいのもそういうことか? お前をずっと待っていた有川はどうなるんだ?)

隆一はたまらず麻里に切り出す。

「麻里」
「はい?」
「最近、江美子と会ったことがあるか?」
「えっ?」

フォークにパスタを巻き付けるのに夢中になっていた麻里は顔を上げ、怪訝そうな表情を見せる。

「いえ、K温泉以来会っていませんけど」
「本当か?」

隆一が念を押すと、麻里の顔が見る見る青ざめる。

「隆一さんはどこかで、私と江美子さんがいるのを見かけたのですか?」
「質問しているのは俺だ」
「まるで尋問ね」
「冗談を言っているんじゃない」

麻里はぐっと押し黙る。しばらく答えを待っていた隆一は沈黙したままの麻里に焦れて口を開く。

「渋谷のAというカウンターバーだ。そこで週に二回は江美子と会っているだろう」
「……」
「そこで男二人と待ち合わせ、四人でお前のマンションへ行く」

隆一の言葉を聞いた麻里は衝撃を受けたような表情になる。

(何をいまさら驚いている。自分がやっていることだろう)

隆一は麻里のわざとらしい演技に苛立つ。
  1. 2014/09/30(火) 09:10:53|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第75回

隆一はそこで突然麻里の意図を理解する。麻里は江美子を陥れようとしている。そして、理穂を抱き込んで再びこの家に戻って来ようとしているのだ。

「理穂、お前はまだママと連絡をとっているのか?」

隆一の言葉に理穂は途端に落ち着かない表情になり、顔を伏せる。

「連絡を取ったらいけないという意味じゃない」
「……取っていないわ」
「ママから何か聞いているのか」
「何も聞いていない」

理穂は顔を伏せたまま首を振る。

「少なくとも江美子さんがこの家にきてから、私はママと連絡を取ったことはないわ」
「……話題を変えよう」

理穂には罪はない。問い詰めるのは残酷だと考えた隆一は懸命に口調を穏やかにする。

「そういえばもうすぐクリスマスだ。プレゼントは何が良い?」
「……特に欲しいものはないわ」
「そんなことはないだろう、何でも言ってみろ」
「あっても、パパには買えない」
「パパを馬鹿にするもんじゃない。昔ほどじゃないが、銀行員は高給取りなんだ」
「じゃあ、おねだりしてもいい?」

理穂は挑戦するように顔を上げる。

「パパとママと私、三人でクリスマスを過ごしたい」
「理穂……」

隆一は言葉を失う。

「分かっているわ。無理でしょう。パパには買えない。困らせてごめんなさい」

理穂はそう言うと立ち上がり、ダイニングを出る。理穂が子供部屋に消えた後、金縛りになったようになっていた隆一は、テーブルの理穂が座っていた位置に涙がこぼれているのを見つける。

(麻里も声を上げないで泣く癖があった)

隆一は麻里と迎えた夫婦としての最後の日のことを思い出す。

(だから俺は、麻里が泣いていることにずっと気がつかなかったんだ)


水曜の夜、青山にあるイタリアンのレストランで隆一は人を待っていた。クリスマスムードで賑わう街は恋人同士らしいカップルが楽しげに笑い合う声がそこここに響いている。

「お待たせ、隆一さん」

やがて入り口に隆一の待ち人、明る目の栗色の髪、ドレッシーなスーツに身を包んだ麻里が現れる。

「久し振りね」
「ああ」

麻里は屈託のない笑顔を見せながらテーブルに着く。髪の色や服装だけでなく、全体の雰囲気が月曜日に見た麻里とは違っていることに隆一は気づく。目の前にいる麻里はむしろ隆一が見慣れた昔の麻里である。

「美容院にでも行ったのか?」
「どうして?」

月曜とはヘアスタイルと髪の色が違うから隆一は尋ねたのだが麻里は怪訝そうな顔をして首を傾げている。

「あ、俺と会うのにどうしてお洒落をして来ないのか、という意味ですか? ごめんなさい。ここのところずっと忙しくて」

そういうと麻里はコロコロと無邪気な笑い声を上げる。

「でも、そんな風に期待してくれるいたなんて嬉しいわ。結婚している時は私が美容院に行っても気づかないことが多かったあなただから」
  1. 2014/09/30(火) 09:09:56|
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二人の妻 第74回

「飲み過ぎだわ。ビールは一本までよ」
「ああ……」

隆一は我に返って理穂を見る。理穂はレンジでお湯を沸かし始める。

「勉強は良いのか」
「休憩も必要よ。それに、たまにはパパと水入らずで話もしたいし」
「そうか……」

そう言われてみれば最近は江美子のことで余裕がなく、理穂とろくろく話ができていない。二人暮らしだったころがよほど会話をしていたと言える。

思春期にさしかかっている理穂が特に父親を疎んじる気配がないのは有り難いことだと思っている。少し大人びてきた理穂の顔を改めて見ると、別れた妻にますます似てきていると感じさせる。

「話って何だ? 勉強のことか、友達のことか?」
「違うわ」

理穂は首を振る。

「江美子さんのことよ」
「江美子のこと?」

隆一は胸がドキリとするのを感じる。

「パパに聞きたいのだけれど、江美子さんがもしママのようにパパを裏切ったら、やっぱり離婚するの?」
「離婚……」

理穂の唐突な質問に隆一は言葉を失う。

「どうしてだ?」
「だって、ママがパパを裏切ったから離婚をしたのでしょう。江美子さんがもしパパを裏切ったら同じように離婚をしなければ不公平だわ」
「理穂、男と女は……いや、夫婦の仲は公平だとか不公平だとか、そういった理屈だけで決まるものではない」
「そんな……」

理穂は不満そうに口をとがらせる。

「それなら、江美子さんがもしパパを裏切ったらどうするの? 離婚はしないの?」
「理穂はさっきからしきりに裏切りという言葉を使っているが、意味が分かっているのか」
「もちろん分かっているわ」

理穂は真剣な表情で隆一を見つめている。

「そうか……」

隆一は小さくため息をつく。

「江美子が裏切ったらどうするか、そんなことは考えたこともないし、もし仮にそうなってもその場になってみないと分からない」
「そうなの?」
「理穂はまるでパパと江美子さんが別れて欲しいような口ぶりだな」
「そんなことはないけれど……」

理穂は顔を伏せる。

「でももし、その時になって江美子さんを許すのなら、ママも許してあげて欲しい」
「許す?」

隆一は缶ビールをテーブルに置き、理穂の顔を見直す。

「パパはママをもう許している」
「そうなの? でも、少なくともママはパパに許されたと思っていないわ」
「理穂、そもそもママを許すとか許さないとか、パパはそんな人を裁けるような上等な人間じゃないんだ」
「パパが裁かなければ誰が裁くの」

理穂はまっすぐ隆一の目を見つめる。そのくっきりした大きな瞳は母親そっくりであり、隆一はまるで麻里に見つめられているような錯覚に陥る。

(そうか、麻里。そういうことか)
  1. 2014/09/30(火) 09:08:48|
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二人の妻 第73回

翌日の火曜日の夜、隆一がマンションに戻ってきた時、江美子はまだ帰宅していなかった。

(今日も麻里と、そして男と会っているのか……)

隆一は疑念を抱くが、本部勤務の隆一よりも営業店の江美子の方が帰宅が遅いのはさほど珍しいことではない。昨日の今日、連日ということはないだろうと隆一は思い直す。

(それに、あのバーに現れたらバーテンダーが連絡をくれるはずだ)

妙に飄々とした感じの男だったが、隆一はなぜかあのバーテンダーが信用できるような気がした。隆一自身が求めておきながら、麻里と江美子のことを話したところはやや軽薄な印象もあったが、よく思い直してみると、バーテンダーが話したことはあの店に長く通っていれば誰でも気づくことであり、特段誰かの秘密を漏らしたという訳ではない。現に、麻里と江美子が男達とどのような会話を交わしたかについては、隆一には話していないのだ。

隆一は着替えるとダイニングに入る。食卓には理穂が用意した夕食が並べられ、温めれば良いだけになっている。麻里が出て行ってから理穂は幼いながらも立派にこの家の主婦を務めている。隆一と江美子が結婚して以来仕事の分担は変わったが、二人が仕事に出る平日の理穂の役割は今も変わっていない。

冷蔵庫には常に缶ビールが冷えている。未成年の理穂がいつもどうやって酒を買って来れるのか、隆一はたずねたことがある。

「そんなの簡単よ」

理穂はくすくす笑いながら答える。

「買い物にくるお母さんたちとはすっかり顔なじみになっているの。その時だけ保護者になってもらうわ。お店の人も良く分かっているから特に何も言わないわよ」
「そうか」

その時は妙に感心したものだが、後になって考えると理穂に子供らしくない気遣いをさせていることに対して、隆一は胸が詰まるような思いになったものだ。

(理穂……)

自分と麻里のせいで理穂には寂しい思いをさせたに違いない。江美子がこの家にやってくることで理穂の心も癒されるのではないかと隆一は期待していたし、この前のプレゼントのマフラーの一件からみてもそれらしい気配はあった。

しかし、江美子はその白いマフラーを身につけて男と会っていた。それは隆一だけでなく、理穂の思いに対しても裏切りではないのか。

(裏切り?)

そこまで考えた隆一は「裏切り」という言葉にふと違和感を覚える。

(どうしてそれが裏切りなのだ)

江美子が俺に対して誓ったことは、結婚の際に互いに貞節を尽くすということだけだ。理穂の良い母親になるとか、結婚前に隆一以外の誰かに不実なことをしていないことを誓った訳ではない。知らず知らずに隆一は江美子に対して過剰な期待をしていたのではないか。

それにまだ、隆一に対しても裏切ったという確たる証拠はないのだ。

(確かに江美子は俺に対して隠し事をしていた。現在も他の男と会っているかもしれない。しかし、俺に対する江美子の愛がなくなったとはどうしても思えない。それでも裏切りと言えるのか)
(いや、男と女が一緒の部屋にいて何もないと考えるのが不自然だ。江美子も、そして麻里もあの男たちに抱かれているに違いない)
(それならどうして帰って来てからあれほど俺を求める。ただのアリバイ作りか)
(いや、そうではない。あの乱れ方はとても演技とは思えない。もし男たちに抱かれたあげく、俺をあれほどまでに求めるのなら、江美子はただのニンフォマニアということになる)

二本目の缶ビールを空けた隆一が泥沼のような思考に囚われ始めた時、頭の上で声がした。

「パパ」

隆一は顔を上げる。パジャマ姿の理穂が気遣わしげな顔付きで隆一をのぞき込んでいる。
  1. 2014/09/30(火) 09:07:49|
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二人の妻 第72回

「誤魔化すな。さっきのように尻たぶを広げてケツの穴を見せるんだ」

隆一は江美子の双臀にビンタを揮う。

「わ、わかりました。もう叩くのはやめて……」

江美子は命じられたとおり、両手で尻たぶを広げる。明るい場所で見る江美子のその部分は先ほどとは比較にならないほど淫靡で生々しい。江美子の秘裂からは赤く充血した陰唇がはみ出し、かつしっとりと潤いを見せて表面に露を光らせている。江美子の形の良い肛門は完全に露出され、隆一の目の前で恥ずかしげに息づいている。

「ケツの穴の襞の数まで数えられそうだ」
「嫌っ」

隆一に指摘された江美子は小さく悲鳴を上げて揺ら揺らと尻を振るが、隆一に命じられた姿勢は崩そうとはしない。隆一が江美子の秘奥に指を入れると、そこはすでに泉が湧き出るような潤いを見せている。

「あ……ん……」

江美子はさも切なげな喘ぎ声を上げる。

「こんな恥ずかしい格好をさせられているのに、濡らしやがって……」

隆一は指先で江美子を責め立てる。泥濘を歩くような淫靡な音が寝室に響き渡る。

「いや……恥ずかしい音を立てさせないで」
「今さら何を言っている」

隆一はパシンと江美子の尻を叩くと、愛液に濡れた指で窄まった肛門をさすり上げる。

「あ……そこは……」

江美子は隆一の指先から逃れようとするが、それは積極的な拒絶とはいえないものである。隆一は人差し指で江美子の菊の蕾のようなその部分を貫く。

「あっ……駄目っ」

江美子のその部分は意外なほどあっけなく隆一の指を受け入れる。隆一がゆっくりと指を抜き差しすると江美子ははあ、はあと荒い息を吐きながら軽く身悶えする。

「江美子」
「はい……」
「お前はここで男を受け入れたことはあるのか」
「えっ……」

江美子は戸惑ったような声を上げる。

「アナルセックスをしたことがあるのか、と聞いているんだ」
「そんなこと……したことはありませんわ」
「水上に対してもしていないのか」

隆一は江美子の狭隘な部分を貫いた指をぐいぐいと捻る。

「あっ、ああっ……」
「どうなんだ、言ってみろ」
「み、水上さんに対しても……そんなこと、したことはありません」
「それならここのところは処女というわけだな」

隆一は小さく笑いながら江美子をいたぶる。江美子は眉をしかめて「ああ……」と苦しげに呻いているが、抵抗らしい抵抗は見せない。

「今度ここを犯してやる」
「そんな……無理です」
「試してみないうちにどうして無理だと分かる」

隆一は江美子のその部分を指の根元まで貫く。途端に江美子は甲高い悲鳴を上げる。

「ああっ!」
「いいな、今まで誰にも許したことのない部分を俺に捧げるんだ」
「は、はいっ……」
「ケツの穴が裂けてしまわないように、自分で広げておけ。準備が出来たら俺にそう言うんだ。期限は……そうだな、クリスマスだ」
「わ、わかりましたっ」
「それまではこっちの穴で我慢しておいてやる」

隆一はすでに鉄のように硬くなっている肉棒の先端を、江美子の秘奥に押し当てる。一気に貫いた途端、江美子は傷ついた獣のような悲鳴を上げてがくがくと裸身を震わせるのだった。
  1. 2014/09/30(火) 09:06:45|
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二人の妻 第71回

江美子は最近、しばしばこのように隆一をマゾヒスティックな仕草で誘惑する。これも以前の江美子には見られなかったことである。

「ねえ、ねえ……不倫女の江美子を思い切りお仕置きして……ああ、あなた……」

そうやって妖しく誘われているうちに、江美子の対する隆一の憤りが溶けてなくなると考えているのか。言葉では殊勝げに見えるのだが、結局は自分の肉体の魅力で、隆一をねじ伏せようとしているだけではないのかと不快な気分になる。

(これまではこうやって色仕掛けでごまかされて来た。しかし、今夜はそういう訳にはいかない)

「そんなにお仕置きしてほしいのか、江美子」

隆一が冷ややかに声をかける。江美子は隆一の心の裡も知らず、微かにほほ笑みながらこくりと頷く。

「ケツを高く上げろ」
「こう……ですか?」

江美子は隆一に言われるまま四つん這いの姿勢で豊満な尻を高々と上げる。

「両手を使って尻たぶを広げろ」
「えっ……」

江美子はさすがに眉をしかめる。

「言われたとおりにしろ。お仕置きして欲しいんだろ」
「きゃっ!」

隆一にいきなりぴしゃりと尻を打たれ、江美子は小さな悲鳴を上げる。江美子は躊躇いながらも隆一に言われる通り、両手を後ろに回して尻たぶを広げる。

隆一は江美子の尻に顔を近づける。生々しくさらけ出された江美子の女陰と肛門が羞恥に震えるさまは、まるでそれが別の生き物であるかのようである。あの清楚で上品な江美子がこんな獣のような姿をさらすなど隆一には信じられない。自分が命じたことでありながら、隆一はまるで江美子に裏切られたような気分になっていた。

(どうしてこんな女になった……誰がお前をこんな風にしたんだ)

これまでもセックスの際に、江美子はもちろん隆一の技巧で多少乱れることはあった。しかし、このように自らのマゾヒスティックな欲情を露わにすることはありえなかった。隆一はかつて自分が愛した女、慎ましく柔順で、決して自分を裏切ることがないと思われた江美子という女が遠くに去って行くような寂寥感を覚えていたのである。

すべては二カ月前の出来事がきっかけである。麻里との出会いが江美子を変えたのだ。

(江美子、今夜、お前はあの男たちに抱かれたのか?)

隆一はそこで行き詰まる。麻里や江美子に調査をかけたところで、今晩隆一が目にした事実以上のことが明らかになるとは思えない。麻里のマンションに男たちと入って行っただけでは不貞の証拠にはならないのだ。

羞恥のあまり小刻みに震えていた江美子の尻は、いつの間にか隆一を誘うように淫らに揺れている。隆一は、それが手も足も出ない自分を笑っているような錯覚に陥っていく。寝室の照明を完全に落としていることが江美子を大胆にしている。

(畜生っ)

江美子から離れ、ベッドから起き上がった隆一は「そのままでいろ」と江美子に告げると、いきなり電気をつける。

「いやっ」

煌々とした電灯に江美子のあからさまな姿態が照らされる。江美子は慌てて上掛けで裸身を覆おうとするが、隆一はすかさず引き剥がす。

「お願いっ、電気を消して」
「今さら何をカマトトぶっている」

隆一は再び、ぴしゃりと江美子の尻を平手打ちする。

「さっきと同じ格好になれ。そのまま姿勢を崩すな」
「そんな……」
「言われたとおりにしろ」

隆一は江美子に冷たい声を浴びせる。江美子は隆一の勢いに脅えながら四つん這いになる。
  1. 2014/09/30(火) 09:05:52|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第70回

結局月曜の夜、江美子は終電ぎりぎりで帰ってきた。

「仕事が溜まっちゃって、ごめんなさい……」

玄関に出迎える隆一に言い訳をしながら江美子は靴を脱ぐ。心なしか、隆一と視線を合わさないようにしているようである。

「大変だったな」

隆一は江美子に対する疑いを口に出さない。メールが来たことももちろん黙っている。

(本当に仕事だったかもしれないからな……)

隆一は理穂からのプレゼントの白いマフラーを首から外す江美子を見ながら、ありえない事とは思いつつそう心の中でつぶやく。

「シャワーを浴びてきます」
「先に寝ているぞ」
「わかりました。お休みなさい」

江美子はそう言うと、隆一の目を避けるように浴室へ消える。隆一はベッドに入るが目がさえて眠れない。やがて寝室のドアが開き、江美子が入ってくる。

「あなた……もう休まれたんですか」
「いや」
「そっちへ行っても良いですか?」

江美子が掠れたような声で隆一に声をかける。

(何を考えているんだ、この女は)

麻里のマンションで本当に男に抱かれてきたのなら──それはすでに疑いから確信に変わりつつあるが──その後すぐに夫にセックスを求めるなど、相当の神経だ。江美子はこれほどまでに図太い女だったのか。隆一は呆れたような思いになるが、一方で残酷な好奇心も呼び起こされる。

「良いぞ」

男に抱かれた痕跡があるのか確かめてやる。そう思い隆一が承諾すると江美子はバタフライのようなパンティのみを身に付けた半裸のまま、無言でベッドに潜り込んでくる。

(この身体を男に抱かれてきたのか)

隆一は江美子にのしかかると小ぶりだが形の良い乳房をぐいと掴む。江美子はそれだけで「ああ……」と切なげな喘ぎ声をあげる。

江美子を両手で抱いたまま、うなじや胸元に軽く接吻を注ぎ込む。股間に手を触れると、秘裂はすでに溢れんばかりに愛液をたたえている。

「まだほとんど何もしていないのに、どうしてこんなに感じているんだ」
「あなたが……上手だから」

(何を言ってやがる)

ついさっきまで男に抱かれてきたからじゃないのか。隆一は腹立たしくなり、わざと荒々しくバタフライをむしりとる。

「あっ、嫌ンっ」

江美子は反射的に両肢を閉じようとするが、隆一は両手を内腿にかけてぐいと押し開く。さほど濃くない江美子の陰毛の奥に、いまだ紅鮭色を保っている媚肉が覗いている。その部分に顔をうずめようとした隆一は、送られてきたメールに添付されていた写真の構図を思い出し、一瞬嫌悪感に身体が硬直する。

(あの男も江美子の股間に顔をうずめていた)

じっと静止したままの隆一に江美子は怪訝そうな表情を向けていたが、いきなりくるりと身体を反転させると、豊満な双臀を突き出すようにする。

「ねえ……あなた」

江美子は甘えるようにそう言うと、大きな尻をゆらゆらと揺らす。

「江美子の……江美子のお尻を苛めて……ああ、あなた……」
  1. 2014/09/30(火) 09:04:41|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第69回

「どんな話をしていたか教えてもらえないか?」
「それはちょっと……」

バーテンダーは困ったように首をかしげる。十中八九仕事絡みではないと隆一は確信する。

「お客様は、あの女性の?」
「亭主だ」
「どちらのですか?」
「若い方だ」
「そうすると、もう一人はお客様の義理のお姉さんですか」
「えっ?」

隆一は驚いて聞き返す。

「お二人は姉妹じゃないんですか」
「違う」
「顔つきや雰囲気がよく似ているので、てっきり姉妹だと思っていました。以前から来られているほうの女性が『あれは妹』とおっしゃっていましたし……」
「姉妹……」

麻里がそのような説明をしていたというのか。

「まあ、似たようなものだ」

隆一は苦笑するとホットワインを飲み干し、グラスを置くと手帳を取り出し、携帯のメールに走り書きをする。

「お願いがあるんだが……今度あの二人が店に現れ、男たちと合流したらこのアドレスにメールをくれないか?」
「それは……」
「メールには何も書かなくていい。空メールでいいんだ」

バーテンダーはしばらく迷っていたが、やがて「わかりました」と頷く。

「ただ、お客様がいる前では出来ませんから、注文が途切れた時に打つということになりますよ。それでもいいですか?」
「それは仕方がない。よろしく頼む」


隆一はバーを出るとJR渋谷駅から湘南新宿ラインに乗り、自宅のマンションに戻る。江美子はまだ帰ってきていない。隆一はダイニングで缶ビールを飲みながら一昨日の土曜日の、横浜駅近くでの出来事を思い出している。

──いつもと雰囲気が違うんで、最初は全然分からなかったよ。
──人違いなもんか。僕はこれでも人を見分ける目には自信があるんだ。
──いつもの大胆さはどうしたんだ。
──なんだ、亭主がいたのか。

(あのときの男の言葉は……)

いつもの大胆さ、とはいったいどういう意味だ。男の態度や口ぶりは、江美子と男がただならぬ関係にあることを示しているのか。

(しかし、麻里はいったいどういうつもりだ)

今夜見かけた麻里が、隆一にはかつての自分の妻と同じ人間とはとても思えない。姿かたちは確かに麻里のものだが、どうしても以前の麻里とは重ならないのだ。

その時、隆一の携帯がメールの着信を告げる。隆一がメールを開くと、いきなり大股を拡げた女の写真が飛び込んでくる。女の股間には男が頭をうずめているが、後ろ向きなので顔はよく分からない。隆一は衝撃を受けながらもあることに気づく。

(この後ろ頭の傷は今夜、渋谷のバーで見かけた男のものだ)

さらに一通の着信がある。そこには快楽に喘ぐ女の表情が映し出されている。

『表題:クリニングスされて絶頂寸前の奥様です』
『本文:女の大事な部分を粘っこく愛撫されて、歓喜に打ち震える奥様の姿です。奥様は本当にいい声で泣きますね。声を聞いているだけでこちらまでぞくぞくして来ます。愛液の量もとても多くて、こちらの顔の顔までがびっしょり濡れて来てしまいます。 水』

隆一はメールを読み終えると震える手で携帯を閉じる。

(間違いない……これは水上などという男からのものではない。そして、有川が送ってきたものでもない)

この写真は恐らくたった今撮影されたばかりのものだ。そして送ってきたのは麻里だ。

(五年前に解決すべき問題が、解決されていなかったのだ)

麻里に会うしかない、それも早急に。隆一はそう心に決めるのだった。
  1. 2014/09/30(火) 09:01:46|
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二人の妻 第68回

「これは」
「ホットワインです」

バーテンダーが隆一に笑いかける。

「お風邪でしょう? これは効きますよ。店からのサービスです」
「……ありがとう」

マスクをして入ったせいで誤解されたか。しかし、身体が冷えているためちょうどいい。隆一はホットワインに口をつける。

「うまい」

隆一は思わず声を上げる。

ほどよい甘さにクローブとレモンが効いており、麻里のマンションの前で突っ立っていたせいで冷えた身体が心地よく暖まっていく。

「クリスマスにはホットワインがつきものです」
「クリスマスか……」

渋谷の街は華やかにイルミネーションが施され、クリスマス一色である。江美子と結婚してから二回目のクリスマスシーズンをこのような気分で迎えようとは、隆一は想像していなかった。隆一はしばらくためらっていたが、思い切ってバーテンダーに話しかける。

「先ほどの女性客二人のことだが……以前からよく来るのか?」

グラスを拭いていたバーテンダーが顔を上げる。

「迷惑はかけない」

隆一は小さく折った一万円札をバーテンダーに渡す。バーテンダーはためらうように、しばらく無言で隆一を見ていたが、やがて口を開く。

「お一人は以前からご贔屓にしていただいている方です。若い方の女性がいらっしゃるようになったのは、ここ二ヶ月くらいでしょうか」

(……K温泉で麻里と有川に会ってからだ)

「男二人の方は?」
「一人は、かなり前からいらっしゃっている方です。もう一人の男性は最近、その方がお連れになるようになった方です」
「前から来ている女の方の知り合いか?」
「そうですが、この店でお知り合いになられたようですね」
「仕事上の知り合いではないということか」
「この店は女性一人のお客様がよく来ることで知られていまして……」

バーテンダーは意味ありげな笑みをたたえながら頷く。

「どれくらいの頻度でこの店に?」
「女性の方ですか? 週2、3度というところですかね」
「二人とも?」
「はい」
「いつもああやって、この店で男と待ち合わせているのか?」
「いつもというわけではありません。女性同士お二人だけで飲まれるときも。しかし、最近は大抵どなたかと待ち合わせられますかね」
「同じ相手か?」
「先ほどのお二人と、それとは別に一組いらっしゃいます。そちらはもう少し若いですね。30になるかならないか、という感じでしょうか」
「男同士が鉢合わせすることはないのか?」
「曜日が決まっていますから……。先ほどのお客様は月曜と木曜、もう一組は火曜と金曜に来られます」

隆一の銀行では水曜日は「早帰り」の日であり、極力残業はしないことになっている。江美子もその曜日は避けているということか。

それにしても江美子が少なくとも週に二度以上のペースで麻里に会い、そればかりか男と待ち合わせて麻里のマンションに行っているなど隆一は想像もしていなかった。

(どうして江美子が麻里に会う必要がある? どうしてそれを俺に秘密にする? やはり後ろめたいことがあるからか?)
(あの男たちと江美子、麻里はいったい今何をしている? 有川は何も知らないのか?)

隆一は色々な疑問が一気に湧き上がり、胸が締め付けられそうな思いになる。
  1. 2014/09/30(火) 09:01:01|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第67回

「あのタクシーを追っかけてくれ」
「お客さんの連れですか」
「いや、違うんだ。出来るだけ気づかれないように頼む」
「弱ったな。面倒なことに巻き込まれるのは御免ですよ」

ためらうドライバーに、隆一は一万円札を押し付ける。

「頼む」

ドライバーは無言で頷くと、車を発進させる。隆一を乗せたタクシーは麻里たちの車から2台ほどを間に挟んで走り出した。

車は明治通りを恵比寿へ向かう。山手線の恵比寿駅の近くで住宅街に入り、中層マンションの前で停車する。隆一は麻里たちのタクシーの停車位置を確認すると、ドライバーに追い越して次のブロックで停めるように頼む。

「このまま少し待っていてくれ」

車から降りた隆一は、麻里たちを降ろしたタクシーが走り去るのを確認してから、マンションに近づく。マンションはオートロックがかかっているため中には入れない。隆一はメールボックスのネームプレートに「中条」という名前があるのを見つける。

(麻里のマンションか……)

「中条」は麻里の旧姓である。江美子は麻里と、バーで待ち合わせをしていたと思われる二人の男と一緒に、麻里のマンションに入ったことになる。

(これがラブホテルに入ったとでもいうのならまだ話は簡単かもしれないが……)

麻里のマンションに入ったというのが微妙である。

(俺は何を考えている。ラブホテルなんかに入ったら最悪じゃないか)

隆一が知っている限りでは、麻里は多少親しくなったから問って、軽々に自分の部屋に男を招きいれるような女ではない。逆に、その麻里が部屋に入れたということが、男たちとはなんでもないということを示しているともいえるのではないか。単に場所を変えて仕事の打ち合わせをしているのかもしれない。

(……いや、そんな呑気なことを言っていられない)

一人暮らしの女の部屋に上がりこむということそのものが非常識である。何か親密な関係にあると思われても仕方がない。おまけに麻里も、そして江美子も、隆一が考えていたような貞操観念の強い女ではなくなっているのかもしれないのだ。

(いずれにしてもこれだけでは何の証拠にもならないのだ。江美子にしても、麻里にしても、男たちとなんらかの関係を持っていることの証明にはならないのだ)

麻里──。

(江美子のことはともかく、俺はさっきからどうして麻里のことを気にする。もう自分とは何の関係もなくなった女ではないのか。ひょっとして俺は、麻里がいつまでも独りでいるのは、いつかは自分の元に帰って来るからだと期待していたのか)

自分の今の妻は江美子だ。そんなことはありえない。しかし、どうして麻里のことでこんなに心が乱される。今はとりあえず江美子の身を心配すべきだろう、と隆一は思いなおす。

(ここは住宅地だ。こんなところでずっと待っていては怪しまれる。そもそも男たちはいつ出てくるのか分からない)

隆一はその場から逃げるように、停車したままのタクシーへ戻る。隆一を迎えるようにドアが開く。

「元の場所へ戻ってくれ」
「わかりました」

タクシーは明治通りを渋谷に向かう。六本木通りと青山通りが交差した場所へ戻ると隆一は車を降り、再び地下のバーへ戻る。

「いらっしゃいませ」

バーテンダーは入ってきたのが隆一であるのに気づき、会釈をする。客はそれほど多くない。さっきまで座っていたカウンターの隅の席が空いている。隆一がそこに座ると、バーテンダーがカウンターにグラスを置く。赤い液体が入ったそれは静かに湯気を上げている。
  1. 2014/09/30(火) 09:00:09|
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二人の妻 第66回

(誰かを待っているのか)

隆一はサイドカーを飲みながら、ちらちらと二人の様子を窺う。やがてまた扉が開き、二人連れの男が入ってくる。

「いらっしゃいませ」

入って来た二人連れの男のうち一人の顔を見て隆一は驚く、この前の土曜日、横浜で江美子に声をかけた男である。もう一人の男も同じくらい、30代後半といった年齢である。麻里は二人を見つけると「こっちよ」という風に軽く手を上げる。隆一がさらに驚いたことに、江美子までが男たちに向かって微笑を浮かべている。

隆一は気づかれないように顔を伏せる。男のうち一人の後ろ頭に、目立つ傷があるのが隆一の目に入る。男たち二人はカウンターの麻里と江美子の隣に座り、飲み物を注文する。「この前は……」とか「だって……」といった男たちと麻里や江美子の声が切れ切れに聞こえて来る。

(どういうことだ)

隆一は混乱する。あの男たちは一体誰だ。一人がその水上という男なのか。

いや、そんなはずはない。横浜でしつこく話しかけて来た男に対して江美子は「人違いだ」と繰り返していた。いくら何でも過去、不倫の関係にあった男から話しかけられて「人違い」と返すことは不自然だ。考えられるのは行きずりで知り合った男に声をかけられて……。

そこまで考えた隆一は愕然とする。江美子はここで麻里と一緒に男漁りをしているというのか。

(馬鹿な。そんなはずはない。いくら何でもそんなことをする女ではない)

そんなことをする女ではない、とはどちらの女のことだ? 江美子のことか、麻里のことか? 隆一は自問する。

(どちらもだ)

自分の先妻と今の妻、ともに清楚で純真だった妻たちがバーのカウンターで男を漁るなど、考えられない。

(……本当に考えられないか?)

考えられないといえば麻里が有川と不倫をすることも、江美子が結婚前に水上と不倫をした女だったということも考えられなかった。貞淑な妻、良き母としての麻里や江美子の姿は隆一の幻想の中にだけあったのではないのか。

麻里と江美子、そして二人の男たちは親しそうに話し、時々笑い声まで上げている。江美子の笑顔だけでなく、麻里のそれまでが隆一にまるで心臓を締め付けるような苦痛を与える。

別れた妻である麻里が何をしようが隆一が文句を言う筋合いのものではない。しかし、実際に麻里が他の男と楽しげに話しているのをみると、江美子に対するものと同じような、いや、ことによるとそれ以上の嫉妬を感じるのだ。

(麻里、お前がこんなことをしているのを有川は知っているのか。もし知っているのならなぜ奴は何も言わない?)

(有川も有川だ。俺が最終的に麻里のことを諦めたのは、相手が有川だったからだ。麻里に対して変わらない愛を捧げていた有川だったから、俺は麻里を譲ることが出来た。なのになぜお前は麻里をしっかり捕まえていない)

いや、早とちりはまずい。ただの飲み友達かもしれないではないか。麻里がインテリアコーディネーターとして仕事上付き合いのある人間に、江美子は単に紹介されただけかもしれない。江美子も銀行で営業をしているのだから、人脈は重要だ。男漁りなどと決めつけるのは早計だ。

隆一がそんな風に懸命に自分自身を落ち着かせていると、男二人と麻里が立ち上がる。一瞬江美子がためらう風情を見せるが、麻里に催促されて後に続く。男たちが勘定をしている間、隆一は気づかれないように顔を伏せる。

四人が店を出るとすかさず隆一は立ち上がり、バーテンダーに声をかける。

「いくらだ」
「1300円です」
「釣りはいい」

隆一は千円札を2枚置くと急いで店を出る。地上に出た隆一は、麻里たち四人がタクシーに乗り込むのを見る。隆一は急いでタクシーを止める。
  1. 2014/09/30(火) 08:59:19|
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二人の妻 第65回

隆一はその場で10分ほど突っ立っていたが、これ以上この場所で待っていると凍えてしまう。離れた場所でも良いからどこか店に入ろうか、それとも引き返そうかと迷っていると、通りの向こうから江美子に良く似た女が歩いて来ることに気づく。

(あれは……)

髪型といい服装といい、遠目では江美子にそっくりである。さっき店に入ったのはひょっとして江美子ではなかったのか、と隆一は驚いてその女を見つめる。女が近づき隆一と目が会う。瞬間、隆一はあわてて目を逸らす。

(麻里だ)

顔立ちは確かに麻里のものなのに、どうしてこんなに近づくまで分からなかったのか。あまりに江美子とよく似ていたため動揺していたせいか。

(違う)

雰囲気や歩き方が、隆一の知っている麻里のものではないのだ。5年経てばあれほど変わるものか。

麻里は幸い隆一には気づかなかったようで、江美子が入ったバーへと降りて行く。隆一はしばらく迷っていたが、近くのドラッグストアに飛び込むとマスクと脱脂綿を購入する。

隆一は綿を小さくちぎって口に含み、マスクで口を覆う。そして思い切って地下へと降りて行った。

「いらっしゃいませ」

バーの中は意外と広い。バーテンダーが隆一を認めて挨拶する。隆一はカウンターの出口側に近いコーナーに座る。

江美子と麻里はカウンターの反対側の隅に並んで座り、何やら話をしている。隆一が入ってきた途端、ちらと視線を送って来たが、すぐに何もなかったように話し出す。どうやら気づかれずにすんだらしい。

「何か作りましょうか」

バーテンダーに聞かれて隆一はマスクを口から外す。

「サイドカーを」
「かしこまりました」

バーテンダーは会釈をするとブレンデーとホワイトキュラソー、レモンジュースをシェイカーに入れてシェイクし始める。やがて隆一の前にカクテルグラスが置かれる。

隆一はサイドカーを呑み始める。バーテンダーの腕は悪くない。隆一は改めて麻里と江美子に視線を送る。二人はまるで姉妹のように見える。江美子がいわゆるサブリナカットにしてから多少なりとも感じていたことだったが、服装といい、仕草といい、非常によく似ている。

(昔の麻里に似ているというわけでもない。まるでもうひとりの麻里がいて、江美子がそれに近づいてきているといった風に思える)

それにしても江美子と麻里はここで一体何をしているのか。一人の男の先妻と今の妻が会って話をしている。あまり日常的な光景とは言えないが、世の中にはそういったこともさほど珍しくはないだろう。先妻が残して来た娘の養育問題など、相談すべきことはないとは言えない。しかしそれが男には内緒で行われているとしたらどうだろう。

さらに二人が出会ったきっかけが問題である。江美子は麻里のことを、10月にK温泉のTホテルで会うまで知らなかったのだ。それまで隆一や理穂との関係がうまくいっていなかったというのならともかく。いまさら麻里に何を相談することがあるというのか。

(いや、むしろ色々な問題が出て来たのは、あの時有川と麻里に会ってからではないのか)

「水」という名で送られて来るメールによって、江美子と水上の過去の不倫が露見したこと、そして江美子の驚くような変貌と不可解な行動。

(それらの出来事と麻里が関係しているなどとは思ってもいなかった。なぜなら有川のもとに走った麻里の側に今さら俺とかかわるような理由はないからだ。しかし、それは俺の思い違いだったのだろうか)

耳をすまして見ても、隆一がいる場所から江美子と麻里の会話は聞こえてこない。隆一の後でカップルが一組と、女二人連れの客が入って来る。その度に江美子と麻里は入り口の方へ素早く目を走らせる。
  1. 2014/09/30(火) 08:58:30|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第64回

月曜の6時過ぎ、隆一は渋谷の、江美子が勤務する支店の近くの喫茶店にいた。

江美子には久しぶりに昔の友人と会うから遅くなると告げている。職場には外で資料調べをするからと言い残し、直帰扱いにしてもらっている。時差の関係で休日も仕事を強いられる職務であるため、多少の融通は認めてもらっているのだ。

隆一は渋谷駅近くのデパートのトイレで、それまで着ていたダークスーツから明るい色のジャケットと替えズボンに着替えていた。ここ2、3年はあまり袖を通していなかったものである。ネクタイもわざと派手なものに変え、眼鏡も昔のセルフレームのものをかけている。髪をジェルで固めると、ちょっと見では隆一だとは分からないだろう。

(探偵の真似事までして、いったい何になるのか)

江美子が何か隆一には言えないことをしているという、はっきりとした根拠はない。また、仮にそうだったとしても今夜行動を起こすとは限らない。そして仮に今夜、江美子が何か行動を起こしたからといって、その時にどうするという覚悟が隆一にある訳ではなかった。

しかし、このところの江美子の変貌振りが、隆一をなんらかの行動に駆り立てないではいられなかったのだ。

(麻里の時は、俺が麻里に裏切られたという衝撃よりも、麻里のもつ二面性を理解出来なかったことが別れの原因となった。だから、江美子と結婚する時は、以前の失敗は決して繰り返すまいと心に決めていた)

それは理穂をもう一度傷つけたくないからだと、隆一は理屈付けていた。しかし今はそれだけでないと分かっている。隆一自身が傷つきたくないのだ。

(俺が江美子と結婚したのは、本当に江美子を愛していたからなのか。江美子なら二度と傷つかないと思っていただけなのではないか)

隆一は今、そんな自分自身の狡さ、臆病さを目の前に突き付けられる思いだった。江美子も清楚で貞淑なだけの女ではない。有川と不倫をした麻里と同様、淫奔な面をもった女なのだ。その江美子を本当に愛することができるのかと。

(いや、麻里と有川はもともと愛し合っていた。割り込んだのは自分なのだ)

江美子はそうではない。隆一と知り合う前のこととは言え、妻子持ちの男と二年も不倫の関係を持っていた女だ。麻里よりも悪いではないか。言っていることの辻褄が妙に合いすぎていることも気になる。

そこまで思考を進めた隆一は、自分の心の醜い断面に気づいて愕然とする。

(俺は何ということを……)

江美子は水上と出会った時、奴が妻子持ちということを知らなかったのだ。俺と理穂がいながら有川と関係を持った麻里と一緒にはできない。

(しかし、麻里と江美子、どうしてこう重なることが多いのだ)

共通するのは差出人不明のメール。その謎を解けば、すべてのことがほぐれていくような気がする。あれは水上からなのか、有川からなのか、それとも……。

(とにかく、江美子の変貌の理由を確かめないと前に進めない)

隆一はじりじりする思いで店の通用口を見つめる。やがて7時少し前になると、白いコートを着た江美子が姿を現す。

(出てきた)

隆一は伝票を持ってレジへ向かい、手早く勘定を済ませて外へ出る。

理穂からプレゼントされた白いマフラーを首に巻いた江美子から少し離れて、隆一は後へ続く。気づかれないように2、3人を間に入れて歩くが、思いのほか尾行というものは難しい。

江美子は六本木通りと青山通りが交差したあたりのビルの地下1階にあるバーに入る。

(店に入るか? いや、それはいくら何でも危険だ)

またどこか喫茶店にでも入って見張るかとあたりを見回したが、適当な店がない。隆一は仕方なく少し離れた場所で佇む。

渋谷の街はクリスマスムード一色である。道行く人達も心なしか普段よりもカップルの比率が高いようである。

(俺は一体何をしているんだ)
  1. 2014/09/30(火) 08:57:00|
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二人の妻 第63回

隆一と江美子は西湘バイパスを小田原に向かっている。からりと晴れて乾燥して澄み切った空はどこまでも高く、車窓から見える相模湾は空の色を映し出し、微風にさざめく波頭が白い海鳥のように見える。

「冬の海というのも良いですね」
「ああ」

助手席の江美子が顔を窓の方に向けて呟く。それまで運転に集中していた隆一がちらと江美子の方を向く。隆一は、江美子の瞳が濡れたように潤み、頬は薄いピンク色に染まっているのに気づく。

FM横浜の女性アナウンサーと、DJの男性作家の掛け合いが車の中に流れている。国道との合流地点での渋滞にかかった時、ハンドルを握っていた隆一の手に、いきなり江美子が手を伸ばす。

「危ないじゃないか」
「当分車は動きませんわ」

江美子は悪戯っぽく笑うと、隆一の手を自らの股間にいざなう。

「何をするんだ」

江美子の大胆な行為に隆一は驚く。

「スカートをめくってみて」
「こんなところで……」
「この位置なら大丈夫。隣りの車からは見えませんわ」

追い越し車線のワンボックスカーのドライバーは、なかなか解消されない渋滞に苛々した表情を見せており、こちらを気にする様子はない。

隆一は江美子に導かれるまま、グレーのスカートを持ち上げて行く。赤いバタフライのような小さいパンティに覆われた江美子の股間が姿を現す。

(これは……)

隆一が昨日、タンスの引き出しを探した時には見なかったものであるが、その時見つけたどの下着よりもエロチックである。

「触ってみて」

江美子に言われるまま隆一はバタフライに触れる。指先に微かな振動が伝わってくるのを感じた隆一は、驚いて江美子の顔をみる。

江美子は悪戯っぽい笑みを顔に張り付けたままバタフライをずらして行く。ピンク色の小さなローターが江美子の股間にしっかりと固定されている。

「江美子……」

あまりのことに隆一は唖然として江美子をみる。

「隆一さん、私は隆一さんの前ならいくらでも淫らになれるわ。でも信じて。それは隆一さんに対してだけなの」
「江美子、俺は何もそこまで……」
「私は隆一さんの前で本性を隠したくないの。私は職場では男の人と同じように営業で働き、家庭では良き主婦でいたいと思っている。それももちろん私の一面。でも、隆一さんには女としての私のもう一つの面を知っておいて欲しい」

江美子は隆一の手を両手で掴んで、露わになった自らの股間に押し付ける。江美子の淡い繊毛はしっとりと潤っており、秘裂からは今にも樹液がこぼれ落ちそうになっている。

「この下着も、ローターも、隆一さんのために買って置いたものなの。隆一さん、男の人ってみんなこんなものを使って、女の人を恥ずかしい目に合わせるのが好きなんでしょう?」
「江美子、誰からそんなことを聞いた?」
「誰でもそうよ、みんなそうだわ……」

江美子は情欲に潤んだ瞳を隆一に向けながら、うわ言のようにそうつぶやく。人が変わったような江美子の姿に隆一は恐怖さえ感じるが、その手を振り払うことが出来ない。ようやく渋滞の車が流れ出し、隣りのワンボックスカーが動き出す。

隆一は救われたような気分になり、ハンドルを握り、アクセルを踏む。隣りの席の江美子ははあ、はあと荒い息を吐いている。

「隆一さん、もうドライブは良いわ。ねえ、これからホテルに行きましょう」

江美子はとろんとした瞳を隆一に向ける。

「江美子をうんとお仕置きして、ねえ、不倫女の江美子を思い切りお仕置きして」
  1. 2014/09/30(火) 08:56:09|
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二人の妻 第62回

結婚してから十年近く、いや、出会ってから十五年、隆一が知っていた麻里と、有川と関係をもっていた麻里は全く別人だった。

有川から送られて来た、写真が添付されたメールを麻里に突き付けた時、麻里は本当に何も身に覚えがないと言って否定した。何かの悪戯に決まっている。携帯メールの写真など何の証拠にもならないと。

(そう、ちょうど昨夜の江美子のように)

しかしその後、麻里に対する疑いは消えなかった。結局隆一は興信所に調査を依頼することによって、有川との不倫の動かぬ証拠を手にしたのだ。

(せめて最初に俺がメールを突き付けた時に事実を認めて、謝ってくれていたら……)

あの後、隆一はあれほど態度を硬化させなかっただろう。また、不倫の事実が明らかになっても、誠心誠意詫びた上で、二度と過ちを繰り返さないと誓ってくれれば隆一は許しただろう。

(しかしあの時麻里は、有川と関係をもったことについては謝るが、二度と繰り返さないと誓うことは出来ないと言った)

隆一にとっては信じられない発言だった。自分がやったことを反省していないのか。詰め寄る隆一に麻里は答えた。

「もちろん反省しています。でも、どうにもならないのです。私は自分を止めることが出来ないのです」
「何を馬鹿なことを言っている。自分の身体だろう。自分で止めることが出来なくてどうするんだ」
「あなた」

麻里は興奮する隆一を遮った。

「私と別れてください」
「なんだと」

隆一は驚いた。理穂を溺愛している麻里は、自分から離婚を口にすることは絶対にないと考えていたのだ。

「なぜだ」
「私といればあなたは、そして理穂も不幸になります」
「俺と別れてどうする。有川と一緒になるのか」
「なりません。有川さんもそのつもりはありません」
「嘘をつけ。もう俺を愛していないんだろう。おまえは有川を愛していたのだろう。学生のころからずっと。おれと結婚したことを後悔しているんじゃないのか」
「私が愛しているのはあなた一人です。有川さんを愛したことはありません」
「出鱈目を言うな。学生のころも有川と付き合っていた時期があるじゃないか」
「あれは……」

麻里はそこで言葉を詰まらせる。

「違うんです」
「どう違うんだ」
「とにかく違うんです。愛ではありません。少なくとも私の愛では」

(分からなかった。麻里のことが何も分からなかった。分かっていたような気になっていたのはすべて俺の幻想だったのか)

「あなた」

不意に声をかけられ、隆一は驚いて顔を上げる。

「どうなさったんですか、珈琲がこぼれそうです」
「ああ」

隆一は夢から覚めたような気分になる。目の前では江美子が心配そうに首を傾げて立っている。その姿を見た隆一は息を呑む。

(麻里……)

以前は健康的な小麦色だった江美子の肌が驚くほど白くなっている。はっきりした目元、豊かなヒップ、黒いサブリナヘア、そして洋服の趣味。目の前にいる女はまさに六年前の麻里とそっくりだった。そう、ちょうど麻里が有川と不倫を開始したころの。

(メイクのせいか……いや、それだけではない)

隆一はある可能性に気づき、愕然とする。

(昨夜送られて来た写真はひょっとして、水上からでも、有川からでもないのでは)

「隆一さん、お天気が良いから、ドライブに行きませんか。年末はまだ先だからそれほど道も混んでいないんじゃないかしら」

江美子は隆一に向かって無邪気に微笑みかける。
  1. 2014/09/30(火) 08:55:12|
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二人の妻 第61回

(いきなり携帯を突き付けたのはまずかった)

翌日の日曜、朝食後の珈琲を飲みながら隆一は昨夜の流れを後悔する。

(確かに江美子の言う通り、あんなメールではなんの証拠にもならない。江美子のものでないかもしれないし、仮に江美子のものであってもなんでもない場面を写したものかもしれない)

江美子は昨日の朝同様、隆一に背を向けたまま食器を洗っている。理穂は友人と映画に行く約束をしているということで、朝から出掛けている。

隆一はちらと江美子の後ろ姿に目を向ける。昨夜と違ってパンツ姿だが、ぴったり生地のフィットしたそれには下着の線が見当たらない。

(またTバックか、それとも……)

隆一はそれ自身が生き物のようにくねくねとうごめく江美子のヒップをぼんやりと見つめる。

あんなことがあったのも、江美子はすっかり忘れたように平然としている。隆一を魅了する江美子の逞しいまでに豊満な尻も、一方でなにか女のふてぶてしさといったものを感じさせる。

昨夜いきなり素っ裸になった江美子は、隆一にのしかかり騎乗位の姿勢になると、激しく腰を使いあっという間に隆一の精を絞り取った。そしてことの終了後、唇や舌を使って隆一のものを奇麗に掃除したのだった。かつての江美子には考えられない積極的な行為だった。

「ああ、江美子、こんなに隆一さんを愛しているんです。そんな私が裏切るようなことをするわけないじゃないですか」

江美子はそんな風に甘く囁きながら隆一を粘っこく愛撫するのだ。

「わかるものか」

すっかり江美子のペースに乗せられた腹立たしさもあって、隆一はわざと冷たい口調でいう。

「不倫女の江美子のことだからな、完全に信じる訳には行かない」
「隆一さんの意地悪……」

江美子は隆一のものから口を離すと、くるりと後ろを向き、隆一の目の前で豊かな尻をゆらゆらと振るのだ。

「ねえ、お仕置きして、隆一さん。不倫女の江美子を思い切りお仕置きして……」

(勢いに負けてメールも削除してしまったし……これでは江美子に主導権を取られっぱなしだ。しかし、江美子がこんな強い女だとはおもわなかった)

江美子は隆一よりも六つ年下で、かつては職場での部下ということもあり、結婚前、いや、ほんの少し前まで隆一に対しては素直で、どちらかというと従属的な女だった。もちろん自分の意見をはっきりもっているところはあり、そんな強さに隆一がひかれたのは確かだが。

一方、今の江美子は少しでも隆一に疑いを生じさせるようなことがあれば、女の武器を最大限に駆使してそれを叩き潰していく。まるで別の人間になったようである。しかしながら以前と変わらない素直さや純真さも残っているのだ。昨日、理穂からマフラーをプレゼントされた時に流した感激の涙が偽りのものであったとは思えない。

(水上との不倫が発覚してからだ)

あれから江美子はしばらくの間沈んでいたが、ある時から開き直ったような態度を見せるようになった。水上との関係は隆一にとって愉快なものではなかったが、隆一と出会う前のことであり、江美子も最初は水上という男を独身だと思い込んでいたのだから、所詮、隆一が今になっていつまでも責め立てて良いような問題ではない。

結婚前に、相手に対して自分の過去をすべて明らかにしなければならないといった決まりはない。そんなことを言い出せば、隆一にも江美子に話していなかったことはたくさんあるのだ。

(たとえば、麻里と離婚した理由だ)

隆一は、麻里が有川と関係をもったことに対してはもちろん憤りを感じたし、今でも完全に許せた訳ではない。しかしそのことだけなら麻里と別れを選ぶことはなかっただろう。

誰にでも過ちはある。そして償えない過ちは滅多にないというのが隆一の考えである。理穂のためにも夫婦関係をやり直すという選択肢は当然隆一の頭の中にあった。

(しかし、俺は麻里との別れを選んだ。それは、俺が麻里のことが分からなくなったからだ)
  1. 2014/09/30(火) 08:54:26|
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二人の妻 第60回

「貸してください」

江美子は隆一の問いには答えず、突きつけられた携帯に手を伸ばす。

「メールを削除するつもりか」
「まさか、そんなことはしません」

江美子は携帯を受け取ると、メールの本文を読み、改めて添付された写真を見る。二通のメールとそれぞれに添付された写真を見終わった江美子は、表情をこわばらせて黙り込んでいる。

「どういうことか説明してくれ」

隆一に声をかけられ、江美子は顔を上げる。

「……これは、悪戯です」
「なんだと?」
「この前と同じです。『水』というのは水上のことです。私に嫌がらせをしているのです」
「これに写っているのは江美子だろう?」
「わかりません」
「わからないだって?」

隆一は苛立ちの声を上げる。

「この服装も、昼間に江美子がしていたものだ。髪型といい、どう見ても江美子じゃないか。昼間に○○ストアやその前の公園で撮られたんだろう」
「こんな写真、撮られた記憶はありません。私にはまったく身に覚えのないことです」
「証拠があるのに否定するのか?」
「証拠? 証拠って、何の証拠ですか? ○○ストアはチェーン店です。どこの店も内装は似たようなものです。この公園にしたって、ベンチとその周りしか写っていません。私が買い物に行く○○ストアだという証拠も、その前の公園だという証拠もないのです」
「江美子、自分が何を言っているのかわかっているのか?」

隆一は呆れたような声を出す。

「ここに写っているのは江美子だろう?」
「そんな風にも見えます」
「そんな風に?」
「この前も申し上げたように、これくらいのサイズの写真なら合成でなんとでもなります。今の私を写したものとは限りません」
「しかし、この服装は……」
「隆一さん、仮にこれが、昼間の私を写したものだとします。だからどうだというのですか?」
「開き直るつもりか?」
「そうではありません。もしも私だとしても……このメールに書いているようないやらしいことを私がしているという証拠にはならないということです」
「……」
「買い物をしているときに私は急に気分が悪くなりました。しばらく我慢していたんですが、どうにも辛くなってしばらく公園で休んでいたんです。その時に撮られたものかもしれません」
「江美子……お前」

隆一は江美子の言い分に唖然とする。

「言っていることが滅茶苦茶だぞ。この写真は自分のものじゃないと言ったり、自分のものだと言ったり、いったいどっちなんだ」
「私が言いたいのは、こんな写真やメールはどうにでも細工が出来るということです。隆一さんは私を信用していないのですか」

江美子はまっすぐ隆一の目を見つめる。その目の真剣さに隆一は思わず怯む。

(しかし、ローターが……)

隆一が思わず脱衣籠の中で見つけた淫具のことを口にしようとすると、江美子が機先を制するように口を開く。

「私は隆一さんを裏切るようなことは絶対にしていません」

江美子は挑むような口調でそう言うと、ネグリジェを脱ぎ捨てる。江美子がその下に何も着けていなかったので、隆一は驚く。

「信じてください」

江美子はそうほざくように言うと、全裸のままで隆一に抱きついていった。
  1. 2014/09/30(火) 08:53:28|
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二人の妻 第59回

その夜、隆一はなかなか眠れないでいた。

理穂からもらったプレゼントのせいで幸福そうにしている江美子に対して、ローターのことはついに問いただすことは出来なかった。

隣りのベッドで江美子は静かに寝息を立てている。その安らかな寝顔を見ていると、それが今朝がた隆一をノーパンで挑発した女と同じ女だとはとても思えない。

(まるで江美子の中に二人の女がいるようだ)

清楚な妻であり、また理穂に対する態度で分かるように良き母としての素質を持った女。そして露出的な服装で男を翻弄し、ローターを身につけて外出する淫らな女――。

(それにしてもあのローターは)

江美子のイメージにはまったく合わない。30を過ぎるまで独身でいた女が全く肉欲がないとは隆一もさすがに思っていない。当然男性経験もあったしオナニーくらいはすることもあるだろう。ああいった「大人の玩具」も最近はネット通販などで女性も買い易くなったと聞いている。ローターの一つや二つ、持っていてもおかしくない。

しかしながら近くのスーパーにそんな大人の玩具をつけたまま買い物に出かけ、人目のある場所でひそかにオナニーに耽るということが考えられないのだ。

世の中にはそういった秘められた性癖を有する女性もいるだろう。だが、あの清楚な江美子がそんな淫らな行為に耽る女だということは隆一には信じられない。

(しかし、麻里のときも俺は同じように思っていた)

隆一が五年前の、麻里の不倫が発覚したときの苦い記憶を反芻していると、枕元に置かれた携帯電話がいきなりメールの着信を告げた。

(誰だ、こんな時間に)

隆一は不安に駆られて携帯電話を取り上げ、メールを開く。それを目にした隆一は激しい衝撃を覚える。

『表題:奥様の雄姿です』
『本文:ご無沙汰しています。さっそくですが、今日の午後、○○ストアで買い物をされている江美子の姿をお届けします。様子がおかしいと思いませんか? 実は江美子はオマンコにしっかりとローターを当てて、激しく感じながら買い物をしているのです。どうです? そういわれて見ればいかにも目が虚ろでしょう? こんな風に暇があれば江美子を調教させてもらっています。 水』

メールには確かに江美子が、見覚えのあるスーパーで買い物をしている写真が添付されている。やや内股で身を屈め、何かに耐えるように眉をしかめている様子は、敏感な箇所に当てられたローターから生じる快感をぐっと堪えているように見える。

隆一が茫然としていると、続けてもう一通のメールが届く。

『表題:江美子ついにいっちゃいました』
『本文:○○ストアの中ではなんとか恥をさらさすにすんだ江美子ですが、耐えられなくなったのか近くの公園のベンチに座ったまま、気をやってしまいました。その時の江美子の姿です。どうですか、実に気持ち良さそうじゃないですか。 水』

次のメールにもやはり江美子の写真が添付されている。公園のベンチに座ったまま股間を押さえるようにしている江美子はぐっと目を閉じ、口を半開きにさせ、あたかもたった今快楽の呻きを発したように見える。白いセーターとグレーのスカート、そしてサブリナカットの黒髪は確かに江美子のものだ。

(こんな……馬鹿な)

逆上した隆一は隣のベッドで眠っている江美子の肩に手をかけ、揺り起こす。

「江美子、起きろ、起きるんだ」
「う、うーん」

江美子はぼんやり目を開く。

「隆一さん……どうしたんですか」
「しっかり起きてこれを見ろ」
「何? こんな夜中に……明日の朝じゃいけないの?」
「ブツブツ言わないで見るんだ」

薄いピンクのネグリジェに身を包んだ江美子は、ベッドの上に半身を起こす。隆一は江美子に携帯の画面を突きつける。完全に眠りから醒めないのかぼんやりしていた江美子の表情が見る見るうちに硬くなる。
  1. 2014/09/30(火) 08:52:34|
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二人の妻 第58回

「家でお鍋なんて久し振りね」

理穂が目を輝かせる。

「そんなに久しぶりかな」
「そうよ、5年……いえ、6年以上はやっていないわ」
「ごめんなさい、理穂ちゃん、お鍋が好きだったの? もっと早くすれば良かったわね」
「あ、いいのよ。江美子さん。特に好きって言う訳でもないの。ただ、パパと二人ではお鍋っていう感じでもなかったし」

理穂は首を振る。

「でも、こうやって三人でお鍋を囲んでいると、家族っていう感じがしていいわ」
「感じ、ってことはないだろう。立派な家族だ」
「そうね。なんだか昔のようにママと一緒にいるような気になることがあるわ」
「そうか……」

隆一は苦笑しながら江美子を見る。江美子はほっとしたような笑顔を理穂に向けている。

「なあ、理穂」
「なに? パパ」
「そろそろその、江美子さん、って呼び方をやめてみないか」
「なんて呼ぶの?」
「それは……」

隆一は口ごもる。

「言っておくけれど、ママと呼ぶ訳にはいかないわ」
「それは……」
「パパも江美子さんのことを江美子、って呼んでいるじゃない。ママの時はママ、って呼んでいたわ。私にだけ変わるように期待するのはおかしくない?」
「……」
「誤解しないでね、江美子さん。だからといって江美子さんを認めていないということじゃないの。いくら悪いことをしたと言ってもママはママ。それは変わりはない」
「理穂……」
「だけど、私はママにこの家に帰って来て欲しいなんて思ったことは一度もない。江美子さんとパパが結婚して本当によかったと思っている」

理穂はそう言って立ち上がる。

「どこへ行くんだ」
「ちょっと待っていて。すぐに戻るわ」

理穂は自分の部屋に入ると白い紙袋を持ってくる。

「江美子さん、これ」

理穂は紙袋を江美子に手渡す。

「少し遅くなったけれど、結婚1周年の私からのプレゼントよ」
「えっ……」

江美子は驚きに目を見開かせ、紙袋を開ける。そこから現れたのは純白のマフラーだった。

「先月のうちに買おうと思ったのだけれど、お小遣いが足らなかったの。今月ようやく貯まったから……その代わり、クリスマスプレゼントとの兼用ということで勘弁してね」
「理穂ちゃん」

江美子の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

「ありがとう……ありがとう」

理穂はマフラーを江美子の首にかける。江美子はそのまましばらくすすり上げていたが、やがて顔を上げてほほ笑む。

「汚すと大変だわ」

江美子はそう言うとマフラーを丁寧に畳み、紙袋にしまう。

「ありがとう、理穂ちゃん。大事にするわ」
「お鍋が煮立ってしまうわ。さ、食べましょう、江美子さん」

理穂はそう言ってテーブルにつき、箸を取り上げる。江美子はそんな理穂の様子を楽しげにじっと眺めている。

(麻里の表情だ)

隆一はそんな江美子の姿を見ながら、別れた妻のことを思い出していた。麻里もあんな風にいとおしげに理穂の仕草を見ていた。江美子に、理穂の母親のような感情が宿り始めて来たのか、それとも……。
  1. 2014/09/30(火) 08:51:38|
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二人の妻 第57回

「そうですね、ちょっと遅くなってしまいました。ごめんなさい」

江美子は微笑すると靴を脱ぐ。出掛ける前に見られた翳りは、今の江美子からは感じられない。

「どうかしましたか?」

自分にじっと注がれる視線を感じたのか、江美子は小首を傾げて隆一を見る。

「いや、なんでもない」
「おかしな隆一さん」

江美子は微笑すると「少し汗をかいたので、着替えて来ます」と言い残し、寝室に入る。

(今日は確かに晴れていて、もう12月としては暖かいが、ちょっとばかり外に出ていたからといって汗ばむほどだろうか)

隆一は江美子の後ろ姿を見送り、首をひねる。そのまましばらく隆一は悶々としていたが、思い切って寝室の扉を開ける。

「きゃっ」

素っ裸の江美子が驚いて立ち竦んでいる。ベッドの上にはそれまで着ていたセーターやスカートが畳まれ、脱ぎ捨てられた純白の下着が床の上に見える。丸まっているので良く分からないが、レースをあしらった高級そうなものである。

「駄目よ、着替え中に入ってくるなんて」
「急に江美子の裸が見たくなった」
「もう……いくら夫婦の仲だって礼儀というものがありますわ」

江美子は裸のまま引き出しの中から新しい下着を出す。隆一には見慣れたシンプルなものだ。江美子は脱ぎ捨てた下着をつまみ上げ、白いバスタオルを身体に巻き、新しい下着とセーター、そして部屋着にしているジーンズを抱えて寝室を出ようとする。

「そんな格好でどこへ行くんだ」
「このままシャワーを浴びちゃいます」
「理穂が部屋にいるんだぞ」
「裸という訳じゃなし、さっと浴室へ入っちゃえば大丈ですわ」
「風邪を引くぞ」
「大丈夫です」

そう言うと江美子は部屋を出て、廊下を小走りに浴室へ向かう。

(ああいうことも昔はなかった。よくいえば、これまで俺と理穂の二人所帯だったこの家で、自分の家のようにくつろいでくれているということになるのだが)

隆一は心に引っ掛かるものを感じ、浴室へ向かう。音を立てないようにそっとドアを開く。

脱衣所に入った隆一は、曇りガラスの扉の向こうで江美子がシャワーを浴びているのを確認すると、脱衣籠の中を確認する。

(下着がない……)

自分で浴室へ持って入り、洗っているのか。

(シャワーを浴びたいといったのはそのせいか)

隆一は何げなく脱衣籠の中のセーターを押さえる。

(何だ?)

隆一は何か硬いものの感触を掌に感じ、畳まれたセーターをめくる。

(これは……)

そこで隆一が目にしたものは、ピンク色の小さなローターだった。
  1. 2014/09/30(火) 08:50:25|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第56回

(あいつ、ひょっとして江美子のことを)

混浴温泉で江美子の裸身を見ていた有川の好色そうな目付きを思い出すと、隆一はかっと頭に血が上るのを感じる。

(復讐のつもりか……有川め、俺から麻里を奪っただけでは飽き足らず)

そこまで考えた隆一は、今は何も証拠はないことに改めて思い当たる。

(動機を考えると奴しか思い浮かばないが、麻里という女が有りながら有川が江美子に手を出すだろうか。麻里はなぜそれを許した? 麻里は何も知らないのか?)
(いや、そんなはずはない。江美子の髪形や洋服、下着の趣味が変わったのは偶然ではない。明らかに麻里の影響を受けている。そして、麻里の背後にいるのは有川だ)
(それなら麻里の意図は何だ? どうして江美子を有川と近づける? 俺や理穂を捨ててまで有川の元に走った麻里がそれでいいのか)

いずれにしても証拠がないままでは動きようがない。江美子を興信所に調査させるか、と隆一は考える。

(駄目だ、それは不味い)

もし江美子が潔白で、自分が江美子をそこまで疑ったことが後になって江美子に分かれば取り返しのつかないことになる。

(それに、もともと江美子は被害者だ)

俺たち三人の問題に江美子を巻き込んでしまった結果がこれだ。この前のK温泉でも、麻里や有川に甘い顔を見せるべきではなかった。いや、それ以前にもっとはっきりとケリをつけるべきだったのだ。

(五年前はそれが出来なかった)

麻里があの時開き直っていれば、もっと俺を責めていれば、麻里に対する未練はなかっただろうに。麻里は自分の非を認め、ひたすら俺に詫びるだけだった。理穂の親権についても決して争おうとしなかった。あいつを責める俺の方が悪いのかと思うほどだった。

隆一はふとベッドの脇に置かれた時計を見る。考え事をしているうちに時間が経ってしまった。じきに江美子が帰ってくるだろう。

(そうだ、携帯)

江美子は近くに買い物に出るくらいなら、携帯はリビングに置いてある充電器に差しっぱなしにしている。受発信の履歴を調べれば何か分かるかもしれない。

隆一はリビングに戻り、充電器をチェックする。

(ない……)

そこにあるはずの江美子のパールホワイトの携帯電話は見当たらなかった。

(持ったまま出掛けたのか。しかし、なぜ)

隆一は時計を見上げる。

(遅い……)

近所のスーパーへ買い物に行っただけだから、そろそろ帰ってもいいはずだ。このマンションに住み初めて一年ほどの江美子は、近所付き合いらしい付き合いもまだほとんどない。「理穂の保護者」として認知されてとも言い難いので、いわゆるママ友との付き合いもないから、麻里が時々そうしたように途中で誰かに出会って話し込んで遅くなるということもないはずだ。

隆一はじりじりする思いで江美子を待つ。それから30分ほどしてから「ただいま」という声がした。隆一は玄関で江美子を出迎える。

「遅かったな」
「え、そうですか」

隆一は江美子が手にさげている買い物袋に目を走らせる。特にたくさん買ったというような量ではない。江美子は買い物はいつも手際が良く、店頭で延々と迷うということはない。

江美子の表情に変わったところはないが、妙に顔が上気しているのが気になる。外気が冷たかったせいか。それとも……。

買い物に携帯を持って出掛けてもおかしくはない。買い物から帰るのがいつもより30分ほど遅れても不思議ではない。その程度の遅れで一々連絡をしなくても不自然ではない。しかし、そんな些細な事、いつもの江美子ならやらないことがすべて、隆一には気になるのだ。
  1. 2014/09/30(火) 01:58:51|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第55回

(しかし、今度は違う。俺は二度と傷つきたくはない。そして理穂も傷つけたくはない)
(江美子に限ってそんなことはしないと思う。しかし俺は麻里の時もそう思っていた。理穂もいるのにまさか俺を裏切るまいと思っていた)
(何もなければそれが一番いい。しかし、疑いをそのままにしておくことは出来ない)

隆一は翳りがさしている江美子の顔をちらちら見ながらそう心に決めるのだった。

江美子が夕飯の材料が足らないからと買い物に出たのを見計らい、隆一は寝室に入るとタンスの引き出しを調べる。

(またもや女房の下着を調べることになろうとはな)

隆一は内心でため息をつく。下着が入っている引き出しを開けると、几帳面な江美子の性格を反映してか、白がほとんどの下着が奇麗に折り畳まれてしまわれている。ほとんどが隆一にも見覚えのあるシンプルなものだが、中に薄い青やピンク色の艶っぽいものが交じっている。

(これはたしか見たことがある。こっちはどうだっただろうか……)

隆一は奥の方にしまわれたパンティを一枚手に取り、畳み方を良く覚えてから広げて見る。白いレースに縁取られたそれは局部の所が極端に薄くなっており、陰毛まで透けて見えそうである。

(これはこの前はいていたな)

次に手に取ったパンティは手触りからしておろしてから間もないようだ。扇情的な赤のそれは隆一は見た記憶がない。

(どうも良く分からない。疑い出せばきりがない。そういう気持ちで見ればどれもこれもが怪しく感じられる)

隆一は広げたパンティを見ながら考え込む。どれもこれも見たことがあるようで、実は定かではない。そこで隆一はあることに気づく。

(麻里の持っていたものと似ている)

それで分からなくなっていたのだ。隆一の記憶がやや混乱しており、下着には見覚えがあるのだが、それを麻里がはいていたのか、江美子がはいていたのかがはっきりしなくなっているのだ。

(しかし、麻里と別れたのはもう5年も前のことだ。それなのにまだ、江美子のことと混乱するほどその記憶が鮮明だというのか)

少なくとも、江美子の下着の趣味は最近急速に変わって来ている。以前はこのような派手な下着は決して身につけなかった。

(K温泉に行ってからだ。あそこで麻里と有川に会ってから、江美子の様子が変わった)

しかし、なぜ……。

江美子に問いただすべきか、と隆一は考える。

(何も証拠はないのだ)

以前送られて来た「水」という男からのメールも、その後ぱったりと来なくなり、江美子の言った通り、ただの嫌がらせだということで決着している。江美子自身に関しても以前から変わったということは確かだが、寝室の中で積極的になるというのは男にとってはある意味で望ましい変化であり、文句を言うべき筋合いのものではない。

(浮気をすると夫とのセックスを拒むようになるというし……江美子の場合それは一切ない。むしろ自分から求めるようになったほどだ)

それではやはり浮気ではないのか。

(いや、そうと決めつけることは出来ない)

麻里が有川と関係していた時、俺とのセックスを拒んでいた訳ではなく、むしろ積極的だった。だから江美子についても浮気をしていないとは言えないのだ。普通の浮気相手なら、女が亭主とセックスをすることはおもしろくないだろうが、それを許容する男もいる。例えば……

(……有川)

隆一の頭の中に、K温泉で会った有川の顔が浮かぶ。
  1. 2014/09/30(火) 01:57:20|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第54回

「それにしても江美子さん、最近ますますママに似て来たような気がするわ」
「えっ」

江美子は虚を突かれたような顔をする。

「そうかな。随分顔立ちは違うような気がするが」
「そんなことはないわよ。もともと目が大きい所は似ているし。洋服だってなんだか、今のママだったらこんなのを着るだろうな、っていうのを選んでいるようだわ」
「そ、そうかしら……」

江美子が落ち着きを失ってテーブルの上に視線を落とす。そんな江美子の様子を理穂はしばらく興味深げに見ている。

「でも、パパたちがデートするたびにケーキやプリンを買って来られたんじゃあ、太ってしょうがないわ。ちょっとは仲が悪くなってもらった方がいいかも知れないわね」

理穂は笑いながらそう言うと「ごちそうさま」とスプーンを置く。理穂は使っていた紅茶カップと皿を流しに運び、洗い始める。

「あ、理穂ちゃん。あとで私がまとめてやるから」
「いいのよ。江美子さん。今までは私がパパの分までやってあげていたの。自分のものを洗えば良くなっただけでも助かるわ」

理穂はそう言うとテキパキと洗い物を終える。

「洗濯物があればやっちゃうけれど」
「だ、大丈夫よ。お勉強していてちょうだい」
「勉強よりも洗濯の方が楽なんだけれどな」

理穂はそう言いながら自分の部屋に入る。

「すまないな。あんな風に麻里と江美子を比較するようなことを言うなんて、まだ子供なんだから勘弁してやってくれ」
「あ、あら、別に気を悪くしたわけじゃないのよ。むしろ理穂ちゃんが私に親しみをもってくれたんじゃないかと思いますわ」
「まだ江美子のことをママとは言えないようだ」
「それは仕方がありませんわ。理穂ちゃんにとって母親は麻里さんだけなのよ。だって……」

そこまで言いかけた江美子は急に口をつぐむ。

「どうした」
「何でもありませんわ」
「そうか」

隆一の視線を感じた江美子は視線を逸らす。

「どうした、なんだか元気がないな」
「そんなことありませんわ」
「横浜へ行ってから様子がおかしい」
「きっと、人混みで疲れたのよ。そう言ったでしょう」
「渋谷で営業をしている江美子がか?」
「……」

江美子は無言で視線を泳がせる。

「江美子」
「何ですか?」
「今日、横浜で声をかけて来た男だが」
「ああ、あれですか。私が一人だと思ってナンパするなんて、そんな軽い女に見られたかしら」
「ナンパ? 人違いと言わなかったか?」
「あ……で、ですから人違いです」
「どっちなんだ」
「あんな風に人違いを装って声をかけてくるのが、ナンパの手口だと思います」
「そうか」

隆一は釈然としない思いで頷く。江美子は残った紅茶をゆっくりと飲み干している。

(この感覚はいつか経験したものだ)

隆一は漠然とした疑いが徐々に形を成して行くのを感じる。

(そう、麻里が有川と浮気をしていた時に感じたものだ。あの時の麻里はもっと平然としていたので、俺は理由のない不安を感じるだけでなかなか行動に移せなかった)
  1. 2014/09/29(月) 01:21:19|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第53回

想像していたよりは早く済んだ。隆一が待ち合わせの場所に戻ると、江美子は隆一よりも少し年下の男と話していた。隆一はとっさに江美子に気づかれないように柱の影に隠れ、二人の会話に耳を傾ける。

「……いつもと雰囲気が違うんで、最初は全然分からなかったよ。こんなところで会うとはね」
「……私、あなたにお目にかかったことはありません。人違いですわ」
「人違いなもんか。僕はこれでも人を見分ける目には自信があるんだ。せっかくだからお茶でも一緒にどうだ」
「そんな、困りますわ」
「ふん、やっぱり認めるんだね。いつもの大胆さはどうしたんだ」

(どういうことだ)

隆一は頭がかっと熱くなり、我慢出来なくなって柱の陰から姿を現す。

「あなた」

江美子が隆一にすがるような視線を向ける。江美子に纏わり付いていた男は隆一に気づいて、ぎょっとした顔付きになる。

「なんだ、亭主がいたのか」

男は吐き捨てるようにそう言うと、その場をそそくさと立ち去る。江美子は心細そうな顔を隆一に向けている。

「誰だ、あれは。知っている男か」
「いえ」

江美子は首を振る。

「人違いです。誰か似ている人と間違えたみたい」
「そうか……」

隆一は江美子の顔が微かに青ざめていることに気づく。

「大丈夫か、江美子。顔色がよくないぞ」
「いえ、大丈夫です。少し人混みに酔ったのかも知れません」
「そうか」

江美子の表情には再び憂いの色が走っている。隆一は江美子の手を取ると「今日はもう帰ろう」と頷きかける。

「でも、まだあなたの買い物が」
「急ぐものじゃない」

隆一はそう言うと江美子の手をひいて改札へ向かった。


「美味しい」

パンプキンプリンを口にした理穂はぱっちりした目を一層大きく見開き、感嘆の声を上げる。

「でも、また二人だけでデートに行ったのね。ずるいわ」

理穂が恨みがましくそう言うと、江美子は「ごめんなさいね、今度一緒に行きましょう」と慌てて口にする。

「冗談よ。新婚さんのデートを邪魔するほど無粋じゃないわ」
「もう新婚じゃないぞ。この前一周年の記念日は終わったからな」
「え、そうなの? 新婚の定義って一年だけなの?」
「普通はそうじゃないか。理穂は何年くらいだと思っていた」
「10年くらいだと思っていたわ」
「そりゃあ長い新婚だな」
「だって、ママとはそれくらいはずっと仲が良かったんでしょう?」

プリンを口に運ぶ江美子の手が急にとまるのがわかる。理穂は不穏な空気を察したのか「ごめんなさい」と小声で口にする。

「いや、気にするな。そういえばママと別れたのは結婚10周年の年だったな。それならあと9年は大丈夫か」
「あなた……」
「冗談だ」

隆一は顔の前で軽く手を振る。
  1. 2014/09/29(月) 01:20:08|
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二人の妻 第52回

「パンティが見えそうなスカートをはきやがって。こんな格好をして外でも男を誘っているんだろう」
「そんなこと……してません」

江美子はなよなよと首を振る。

「私は隆一さんだけです。それに……絶対に下着は見えませんわ」
「嘘をつけ、こんなに短ければ、ちょっと屈むと丸見えじゃないか」

江美子は恥ずかしげに頬を染めて、隆一の方を意味ありげに見ている。訝しく思った隆一は江美子のスカートをまくり上げる。

例によってTバックのショーツに包まれていると思っていた江美子の双臀が完全に露出されたので、隆一は驚く。

「下着を着けていなかったのか」

江美子は含羞を浮かべながら無言でうなずく。

「……言ったでしょう? 絶対に見えないって」

隆一が江美子の秘裂に指を当てると、そこはすでに、愛液が太腿を伝って流れ出すほどにじっとりと潤っている。

「この淫乱女め」

江美子は夢を見ているような表情で再びうなずく。隆一は慌ただしくパジャマのズボンを降ろすと、江美子の逞しいまでに豊満な尻をしっかりと抱え込んだ。


その日の午後、隆一と江美子は横浜まで買い物に出掛けた。江美子は朝方見せた大胆さが信じられないような、人妻らしい清楚な装いをしている。会話の端々で、江美子の表情に時折憂いの色が走ることに隆一は気づく。

(今朝方自信たっぷりな態度で、まるで妖婦のように俺を誘っていた江美子とは別人のようだ)

隆一はそんな江美子の様子を見ながら、麻里のことを思い出す。

(麻里もこんな感じだった。夜は娼婦のように俺を翻弄するのだが、昼間、本来の麻里に戻ると不安そうな表情を浮かべていた。後で考えると、それは有川と関係していたからだと分かったのだが)
(いや……そうではない。麻里の場合、結婚した時からその傾向はあった。あれはどうしてなのか。自分の中の娼婦の性質を抑えることが出来なくて煩悶していたのか)

食事をしながら理穂のことなどを話していると、江美子は次第に落ち着き、笑顔も見えるようになってきたので隆一はようやく安心する。

(少女のような笑顔だ。今朝、俺を誘った時の色っぽい笑みとは大違いだな)

隆一は心の中で苦笑する。

(清楚さと淫らさが両立しているというのは男にとっては魅力的なものだ。麻里の場合、そのバランスがよくなかったのだ)

なぜだろう。今日はやけに別れた妻のことを思い出す。江美子と一緒にいながらこんな風では申し訳ない。

しかし、江美子の髪形だけでなく、その装いや化粧の仕方までがどことなく麻里に似て来ているような気がするのは思い過ごしだろうか。

スカイビルのレストランで食事を終えた二人は地下に降りる。地下の商店街はすっかりクリスマスの装いを見せている。二人が地下の連絡通路を歩いていると、ルミネの前辺りで隆一の携帯が鳴る。

「土曜まで仕事の電話か」

隆一はうんざりした声を出す。

「少し時間がかかりそうだ、ちょっとここで待っていてくれ」

隆一は江美子にそう告げると、駅の方へ戻る。電話は銀行の海外支店から与信の判断を求めて来たものである。原地の営業が今週中の実行をコミットしてしまったもので、審査担当に対してはいわば後付けの承認依頼である。そのこと自体はルール違反であるが、隆一の判断ではまだ余力のある先である。週明けに必要な書式をそろえることを条件に、隆一は承認する。
  1. 2014/09/29(月) 01:18:46|
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二人の妻 第51回

土曜日の朝、隆一は食後の珈琲を飲みながら新聞を読んでいる。銀行での多忙な仕事に追われる隆一にとって、ほっとくつろぐことのできる時間である。理穂が学校に行ったため、マンションには隆一と江美子の二人きりである。

隆一は食器を片付けている江美子の後ろ姿に目を走らせる。江美子は太腿の半ば以上まで見えるようなミニスカートに包まれたヒップを隆一の方へ向けている。揺ら揺らと動くそれは生地が肌色に近いクリーム色ということもあり、まるで裸の尻のように見える。スカートの薄い生地から下着の線が透けていないところを見ると、下はきっとTバックなのだろう。

(理穂がいない時は当たり前のようにあんな格好をしてくる)

隆一は最近の江美子の急激な変化に対しどこか懐かしいような感覚と同時に、胸の奥がざわめくような戸惑いと不安を抱いていた。

結婚前の江美子は男性に対して、ことさらに距離をとるようなところがあった。そのため江美子に対する隆一の印象は、清楚で真面目な女性というものである。結婚歴がないとは言え、30歳を越えた女性に全く過去がないとは考えられなかったが、少なくとも江美子の日常からは男の影を感じさせることはなかった。

隆一も最初は江美子のことをさほど意識することはなかったのだが、一緒に仕事をするうちにその誠実な人柄と、ふとした瞬間に見せる女らしい仕草に徐々にひかれるようになった。

既視感――今考えれば、江美子にひかれたのは、そこに学生時代の麻里の姿を見ていたからかもしれない。今の彼女からは信じられないが、麻里もかつては清楚で真面目、男の影などは全く感じさせない女性だった。

(麻里もあんな風に変わっていったのだろうか)

隆一はゆらゆらと揺れる江美子の尻を見ながら、別れた妻のことを思い出す。

麻里は隆一との行為の最中、それこそ人が変わったように奔放になることがあった。麻里はそれが「スイッチが入る」と表現していたが。若かった隆一は、それは麻里が隆一とのセックスに満足しているからだと思い込み、単純にうれしくなったものだ。また、行為の後で寂しげにしている麻里の目は、隆一に対してあられもない姿を見せた羞恥からだと思っていた。

しかし、麻里はそんな奔放な姿を隆一だけに見せていたのではなかったのである。

麻里を変えたのは自分ではなかった。学生時代の短い付き合いで、麻里は有川から開発されていたのだ。麻里が隆一のもとを去ったのも、有川との行為の快楽が忘れられなかったからだと隆一は考えていた。

(しかし、麻里はどうして有川と結婚しない?)

有川は望んでいたとおり麻里を隆一から奪った。別れの際の修羅場も、結局はK温泉で有川が言ったように、合意書と慰謝料によって解決している。麻里と有川を阻むものはもはや何一つないはずだ。

(理穂のことが気になるのか)

考えられる理由はそれくらいである。離婚の際に麻里が最も気にしていたのは理穂のことである。娘を溺愛していた麻里が、離婚に際して理穂を引き取ることを主張しなかったことは隆一を驚かせた。当時は、男のせいで母親としての責任を忘れるなど、そこまで物事が見えなくなってしまったのかと、激しい怒りを感じたものだ。

しかし麻里が離婚しても有川と籍を入れなかったこと、理穂の養育費の支払いや、誕生日や卒業、入学祝いなど節目のお祝いを一度も欠かさなかったことなどから、麻里の理穂に対する母親としての情愛に疑う余地はないのではないかと隆一は考えるようになった。

(俺は女に振り回されてばかりだ。麻里のことは結局何も分からなかった。今、江美子のことも分からなくなってきている)

江美子は本当はどんな女なのだ。そんな思いに駆られて珈琲カップをおいた隆一は、自分がいつの間にかひどく欲情していることに気づく。

隆一は立ち上がり江美子の身体を背後から抱く。

「あん……駄目……まだ洗い終えていないんです」
「朝っぱらからそんな風にケツを振って俺を誘っておいて、白々しいことを言うな」
「そんな……ひどいわ。私、そんなエッチな女じゃありません」
「なら、このスカートはなんだ」

隆一は江美子のミニスカートの生地を撫で回す。
  1. 2014/09/29(月) 01:17:54|
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二人の妻 第50回

「あっ、駄目っ!」
「何が駄目だ」

隆一はセパレーツのウェア越しに江美子の胸を荒々しくまさぐる。

「こんな格好で俺の前で出てくるなんて、江美子は俺を誘ったんだろう」
「ち、違うわ。隆一さん。私はダイエットを……」
「何がダイエットだ。江美子が体重を気にしているなんて聞いたことがないぞ」

隆一はウェアを引き上げると江美子の乳房を丸出しにすると、激しく揉み立てる。

「あ、あんっ! や、やめてっ」
「本当のことを言え。俺を誘ったんだろう」

隆一は江美子のスパッツを引き下ろす。Tバックの白いショーツに覆われた江美子の尻が露わになる。

「なんだ、この卑猥な下着は」
「だ、駄目よっ。見ては駄目っ」
「何が見ては駄目だ。散々見せつけやがって」

隆一はパシンと江美子の尻をたたく。

「い、痛いっ」
「下着の線が見えないと思っていたら、こんなものを履いていたのか」
「こ、これはスポーツ用のショーツよ」
「嘘をつけ」
「嘘じゃありませんっ、あっ、痛っ!」

隆一は再び江美子の尻を平手で打つと、スパッツを完全に脱がし、江美子の身体をリビングの床の上に押し倒す。

「駄目っ、隆一さん」

隆一は江美子のTバックショーツを引き下ろし、秘裂に指を入れる。

「濡れてるじゃないか、江美子。これはどういう訳だ」
「そ、それは汗ですっ」
「嘘をつくなっ」

隆一の指は江美子の秘裂の奥をまさぐる。

「ああっ……」
「自慢の尻を見せつけて、俺を誘って、ここをびしょびしょに濡らしていたんだろう」
「そんな……」
「正直に言うんだ。言えっ」

隆一は江美子の豊かな双臀にパシッ、パシッとスパンキングを浴びせる。そのたびに江美子はああっ、ああっと悲鳴をあげながら身悶える。

隆一はパジャマのズボンを引き下ろす。信じられないほど高々と屹立した隆一の肉塊が飛び出し、江美子は目を見張る。

隆一は亀頭をすっかり濡れそぼった江美子の秘口にあてがうと、ぐいと押し込む。身体が引き裂かれるような圧迫感と、子宮が震えるような激烈な快感に江美子は裸身をのけぞらせる。

「ああっ、りゅ、隆一さん」
「俺を誘っていたんだな、江美子」
「は、はいっ、誘っていました」
「誘いながら身体を濡らしていたんだな」
「はいっ、濡らしていましたっ」
「淫乱女めっ」

隆一の言葉は乱暴だが、怒りは感じられない。江美子が思わず隆一の唇を求めると、隆一は微笑を浮かべて江美子に接吻を施す。舌と舌をからめ合うような接吻の後、隆一は江美子の耳元でささやく。

「抱いて欲しかったのか」
「そうですっ、抱いて欲しかったですっ」
「そうか」

隆一は微笑すると腰をぐいと突き上げる。

「ひ、ひいっ!」
「淫らな女めっ。江美子はこんな淫らな女だったのか」
「そ、そうですっ。江美子は淫らな女ですっ」

隆一は江美子の中で激しく荒れ狂う。快感の波に翻弄される江美子は何度も絶頂近くに押し上げられ、すぐに落とされる。

「どうだ、江美子。どんな気持ちか言ってみろ」
「き、気持ち良いっ……ああっ、狂いそうっ」

切なさとじれったさ、そしてかつて経験しなかったほどの快美感にのたうつ江美子は、隆一の首にしっかりと腕を回し、荒々しい律動に合わせて狂ったように腰を揺らせている。

『娼婦になって、これまでの自分から本来の自分を解放させるの。その先には目が眩むような快感が江美子さんを待っているわ』

江美子は頭の中にそんな麻里の声が聞こえてくる。隆一はついに江美子の中に欲望を解放する。江美子は身体の深奥に隆一の迸りをはっきりと知覚しながら、快楽の頂きへと上り詰めるのだった。


(第一部 了)
  1. 2014/09/29(月) 01:16:46|
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二人の妻 第49回

「どうした、江美子。その格好は」
「最近ちょっと太りぎみだから、ダイエットしようかと思って」
「そうか……」

隆一は興味なさそうに頷くと再び新聞に目を落とす。

江美子は気がくじけそうになるが、ここであきらめるのは早すぎる。江美子は麻里から借りたDVDをプレイヤーの中にセットする。

休日の朝、パジャマのままで新聞を読んでいる夫の目の前で、肌に張り付くようなセパレートのトレーニングウェア姿の妻がストレッチを始める。

(まるで安手のコントだわ)

江美子は自分がやろうとしていることの滑稽さと恥ずかしさにそう自嘲する。

モデルとしても有名な米国の映画女優が演じるワークアウトのビデオである。これに合わせて身体を動かせば、多少は恥ずかしさも紛れると麻里から勧められたものだ。

軽快な音楽とともにレオタード姿の女優が現れ、ストレッチを始める。江美子は画面の女優の動きを真似始める。テレビから流れる音が気になったのか、隆一が再び顔をあげて江美子の方を見る。

「ごめんなさい、うるさいかな?」
「いや、かまわないよ」

隆一はそう言うと再び新聞を読み始める。

江美子は出来るだけ隆一のことは気にしないようにしながら、ワークアウトに集中する。どうやら初心者向けのコースのようだが、日頃の運動不足のせいか、江美子にはかなりハードである。江美子は次第に夢中になって身体を動かし始める。肌が徐々に汗ばみ、ウェアの薄い生地が江美子の素肌に張り付いて行く。

画面の中の女優は大きく身体を前傾させ、お尻を思い切り突き出しながら背筋の運動を始める。手を床に付けて、身体をゆっくりと前に倒す。まるで猫が伸びをするような動作を繰り返す江美子は、いつの間にか隆一が自分の身体に時折視線を送っていることに気づく。

(こっちを見ているわ)

隆一に見られていることを意識し始めた江美子の身体が、急にかっと熱くなる。

(馬鹿なことをしている、と思っているかしら……でもここまで来たら恥のかきついでだわ)

硬い身体が徐々にほぐれていくのに従って、江美子の動きはより滑らかになっていく。DVDはストレッチの段階を終了し、ダンス音楽に乗った本格的なワークアウトが開始される。

10分もしないうちに江美子の息があがっていく。江美子は「はっ、はあっ」とリズムに合わせて息を吐きながら懸命に身体を動かす。

隆一はもはや新聞をテーブルに置き、江美子の動きに見とれている。江美子はそんな隆一の視線が、ウェアの薄い生地を通して肌に突き刺さってくるような気がする。

(隆一さん、気づいているかしら。私が挑発していることを)

激しい運動のせいか、江美子の頭は次第にぼんやりと霞んでくる。江美子は麻里の言葉を思い出す。

『貞淑な妻でよき母親、そして奔放な娼婦。男は二人の妻をほしがるのよ』

(私は隆一さんの前ではずっと貞淑な妻でいた。麻里さんに代わって理穂ちゃんの良い母親になりたいと思っていた。それなのにこんなことを……)

K温泉で有川と麻里に出会ったことが自分を変えたのか。それとも自分にもともとそういった素質があったのだろうか。

『娼婦みたいに隆一さんを悩殺してあげなさい』

(娼婦……そう、私は娼婦だわ。あられもない格好で隆一さんを誘う娼婦)

江美子は次第に夢中になって、画面に合わせてダンスを踊る。グラマラスな金髪美女が踊るダンスは不必要なまでにエロチックである。江美子は隆一の熱い視線を感じながら、次第に陶然としてくるのであった。

ワークアウトの映像が一時中断される。床に崩れ落ちそうになった江美子を、いつの間にかリビングに入って来た隆一がいきなり背後から抱き締める。
  1. 2014/09/29(月) 01:15:39|
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二人の妻 第48回

次の日、土曜の朝、理穂が学校へ行った後、隆一と江美子はマンションで二人きりになる。孝之の件が後に引いているのか、隆一との間は相変わらずぎこちない。ダイニングで無言で新聞に目を落としている隆一を見て、江美子は小さくため息をつく。

(このままではいけない……)

悪気はなかったとは言え、孝之の件を黙っていたのは自分に責任がある。なんとかこの状況を打開しなければ――江美子はそう思い定めると寝室へ向かう。

江美子は姿見の前で裸になると、昨夜麻里から手渡された紙袋から白いTバックショーツを取り出して身につける。

(これは……)

江美子はこれまで実用度の高い、地味な下着しか身につけたことがない。余分な飾りのないスポーツ用のTバックは実用本位だが、それを履いた自分の姿は思いがけないほど扇情的である。

白い布地がいわゆるVゾーンに食い込み、股間の筋までが浮き出しているようである。江美子は顔を赤らめながら、脇からはみ出した陰毛をショーツの中に押し込める。

次に身体を反転させた江美子は、自らの後ろ姿を見ていっそう狼狽する。ショーツの布地は江美子の双臀の割れ目に食い込み、豊かな両の尻肉はすっかりあらわになっている。

(これなら裸の方がずっとましだわ)

江美子は慌てて麻里から渡されたスポーツウェアを身につける。オレンジ色のウェアは、江美子の小麦色の肌に良く映えているが、セパレーツタイプの上衣の薄い生地には江美子の乳首がくっきりと浮き出しており、肌に張り付くスパッツも江美子の羞恥を和らげる役割はほとんど果たしていない。

(こんな格好で隆一さんの前に出たら何と思われるかしら……)

隆一はこれまで自分に対して清楚な印象を抱いていたのではないかと江美子は思う。そんな自分のイメージをぶち壊しにして、隆一を失望させることにならないかと江美子は懸念する。

(やっぱり私、とんでもない馬鹿なことをしようとしているわ)

そう考えた江美子がオレンジ色のウェアを脱ごうとした時、昨夜の麻里の声が蘇る。

『心配ないわよ、江美子さん。たまには貞淑な女の殻を打ち破り、娼婦みたいに隆一さんを悩殺してあげなさい』
『私は……そんな』
『あら、Tホテルの露天風呂で、有川さんの目の前で裸を晒したところなんか、私は感心したのよ。なかなか大した度胸だし、娼婦としての素質は十分だわ』
『あれは……麻里さんが先に……』
『私は有川さんに命じられたからだし、そもそも私は平気で不倫が出来る女よ』
『そんな……平気だなんて、思っていませんわ』
『気にしなくてもいいわ、江美子さん』

麻里は大きな瞳を妖しく光らせる。

『男は自分の妻に淑女と娼婦の、二つの役割を求めるものよ。昼は貞淑な妻でよき母親、夜は奔放な娼婦。二人の妻をほしがるのよ』

(二人の妻……)

江美子は鏡の中の自分の姿を改めて見つめる。

(そういえば、孝之も同じようなことを言っていた。自分には二人の妻がいるのだと。私は孝之の欲求を満たすための娼婦だったのだろうか)

そこまで考えた江美子は、急に胸が締め付けられるような感覚に陥る。

(もし、隆一さんが同じように二人の妻を求めたら、私には耐えられない。罪を犯した身だからわかる。利己的と言われようが、孝之の奥様のようには絶対になりたくない)

(隆一さんは私の不倫の過去を知ってしまった。私は隆一さんにとって、貞淑な妻の仮面をかぶり続ける訳には行かないのだ。奔放な私を愛してもらわないと……)

江美子はそう心に決めると姿見に向かい、薄く化粧を施す。そして黒髪をヘアバンドでまとめると思い切って寝室を出る。

オレンジ色のトレーニングウェアを身につけた江美子が、リビングルームに現れると、隆一は読んでいた新聞から顔をあげて江美子を見る。
  1. 2014/09/29(月) 01:14:28|
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二人の妻 第47回

「江美子さん、この前この店で飲んでいる時に、私にそのことで悩んでいるといっていたじゃない?」
「私、そんなことを言ったんですか?」
「あら、覚えていないの?」
「ええ……」

江美子はちらりとカウンターの向こうのバーテンダーに視線を向ける。バーテンダーは素知らぬふりでグラスを磨いている。

「そんなに酔っていたかしら……そう、確かに酔っていたわね。あの時は私も、調子に乗ってお酒を勧めて、悪かったわ」
「いえ、いいんです」

江美子は首を振る。

「それより私、何を言っていたんですか?」
「ちょっと言いにくいわね……やっぱりもう少し飲みましょう」

麻里はカクテルのお代わりを注文する。2つのグラスがカウンターに並べられると、麻里はそれが癖なのかグラスを掲げて「乾杯」と声を上げる。

麻里が一気に3分の1ほどグラスを空けるのに釣られて、江美子もレモンライムの爽やかな味が利いたカクテルを飲む。少し酔いが回るのを感じ始めた江美子の耳元に、麻里がそっと囁く。

「もっと隆一さんにベッドの中で愛されるにはどうしたらいいか、って私に聞いていたわ」
「えっ……」

江美子は頬が一気に赤くなるのを感じる。

「私、そんなことを麻里さんに聞いたんですか」
「そうよ、本当に覚えていないのね」
「ええ……」

麻里は困惑する江美子を楽しそうに眺めている。

「それで……」

江美子は羞恥に頬を赤らめながら口ごもる。

「それで、何なの?」
「麻里さんは何と答えたんですか」
「まあ、やはりそれが悩みだったのね」

麻里は小さく笑うと、足元に置いた紙袋を持ち上げると、中から紙の包みを取り出す。

「その時は私も酔っていたせいか名案が浮かばなかったの。後でいろいろと考えたのだけれど、これが一番手っ取り早いわ」
「何ですか、これは」
「開けてみて」

麻里はそう言って包みを江美子に手渡す。江美子が包みを破ると、そこからオレンジ色のトレーニングウェアが現れた。

「これは……」
「セパレーツタイプで、下はスパッツになっているの。身体にぴったりフィットするようになっているから、これを着る時は普通の下着は駄目よ」

麻里はさらに小さな紙の包みを手渡す。江美子がそれを開こうとすると麻里は「ここでは開けないで」と止める。

「スポーツ用のTバックよ」
「まあ……」
「ストレッチやヨガ、エアロビクス、なんでもいいからあの人の前で動き回りなさい。思い切りお尻を突き出すのを忘れないでね」
「そんなこと……」
「K温泉で言ったでしょう。隆一さんは女性のお尻が大好きなの。特に大きくて形の良いお尻が」

確かに自分と麻里は胸はそうでもないが下半身が豊かなところが似ている。有川はそれが隆一の変わらない好みだと指摘したが、隆一がそんなに女性のお尻に対する執着があったとは、江美子にとっては意外なことだった。

「それじゃあ、健闘を祈るわ。これは私から江美子さんへのプレゼントよ」
  1. 2014/09/29(月) 01:13:01|
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二人の妻 第46回

(私の時と同じだ)

江美子は言葉を失い、麻里の話を聞いている。

「おまけに一度だけのことなのに、そのメールには私はもう何度も有川さんに抱かれると書かれてあったの。私はパニックになったわ。絶対に秘密を守ってくれると約束してくれたのに、有川さんに裏切られたと思った」
「それで、麻里さんは認めたのですか?」
「否定したわ。でも、私の青ざめた顔色やうろたえた態度が私の言葉を裏切っていた。その日は週末だったから、携帯電話を取り上げられた私は寝室から一歩も出ることを許されず、有川さんに連絡を取ることもできなかった」
「その間もメールは次々に届いた。私が有川さんと……口には出せないような卑猥なことまで行っているという内容のものーー普段の私は貞淑そうな仮面を被っているだけで、実態は淫らな牝猫だと。それらのメールにももちろん写真が添付されていて……」
「厳しく責め立てられた私はついに有川さんとの関係を認めた。隆一さんは有川さんをすぐに呼び出し、問い詰めた。有川さんは一切の言い訳をせず、すべて自分が私を隆一さんから奪いたくてやったことだと認めたの」
「そんな……」

麻里の衝撃的な告白に江美子は息を呑む。

「麻里さんは弁解しなかったのですか。メールの内容は嘘だと」
「そうしたかったわ。でも、一度だろうと何度だろうと、私が隆一さんを裏切ったのは事実よ。その時の彼の悲しそうな顔を見ると、その時の私は何も言えなかった」
「そんなこと、変です。有川さんにメールのことを抗議しなかったんですか」
「もちろん後になって問いただしたわ。どうしてあんなメールを送ったんだって。でも彼は約束は破っていない、メールを送ったのは自分ではないと言ったの」
「えっ……」

江美子は驚きに目を見開く。

「それじゃあ、一体誰が」
「隆一さん自身よ」
「そんな……まさか……」
「私もまさかと思った。でも、そうとしか思えないの」

麻里は静かに首を振る。

「私が有川さんとその……関係を持った時、写真を撮られることはなかった。有川さんもそんなことを要求しなかったし、要求されたとしても私は絶対に拒んだわ。私が眠っている間に撮られたのかとも思ったけれど、どう考えてもその……無理なポーズがあったわ」

麻里は頬を薄赤く染めて口ごもる。

「目の前にどんな証拠が突き付けられようとも、私は断固として否定すべきだった。そうすれば、隆一さんは私のことを信じたと思うの。私は彼が差し出した踏み絵を踏むことが出来なかった。いえ、平然と踏めばよかったものを、ひどく狼狽してしまった。それが隆一さんの不信感を決定付けたのよ」

江美子は麻里の告白を、言葉を失って聞いている。

「江美子さん、これからもし、隆一さんがあなたに対して同じようなことをすることがあったら、全力で否定するのよ」
「えっ」

江美子は麻里の言葉に虚を突かれる。

「たとえその中に真実の一端があったとしても、すべて否定するの。そうすれば隆一さんは安心するわ。あなたを試すようなこともいずれしなくなる」
「……」
「まあ、こんなことを言わなくても江美子さんは心配ないわね。私のように隆一さんに対して隠さなければならないことは何もしていないだろうから」

麻里はそう言うと微笑する。江美子はそんな麻里の表情に気圧されるものを感じながら頷く。

「隆一さんとはその後うまくいっているの」
「え、ええ……」
「何だかはっきりしない返事ね、何か心配があるの?」
「いえ……」
「やっぱりセックスのことかしら?」
「えっ……」

麻里の唐突な問いかけに江美子は狼狽する。
  1. 2014/09/29(月) 01:11:46|
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二人の妻 第45回

「それは前も言った通り、私が有川さんと浮気をしたからよ」
「それが原因だということは分かるのですが、それだけなんでしょうか」
「どういうこと?」
「麻里さんが理穂ちゃんのことをとても大事に思っているのは、今の話をお聞きしてもよく分かります。たとえば、理穂ちゃんのためにでも離婚を思い止どまって、やり直すことはできなかったのですか?」

麻里は当惑したような顔で江美子を見つめている。

「すみません、立ち入ったことをお伺いしていると思うのですが、どうしてもわからなくて」
「江美子さんは、私達が離婚したことは隆一さんにも原因があったと思っているのじゃない?」
「えっ」

逆に麻里から問いかけられて、江美子は言葉を詰まらせる。

「江美子さんが単なる好奇心で私達の離婚の原因を知りたがっているとは思えないわ。どうなの?」
「それは……」

麻里は江美子にまっすぐ視線を注ぎ込み、江美子は目を伏せる。

「隆一さんのことで何か不安があるんじゃないの?」
「……はい」

重ねて問われた江美子が思わずうなずくと、麻里は急に真剣な表情になる。

「江美子さん、これから私が話すことは誰にも……隆一さんにも言わないと約束できる?」
「えっ」
「あなたが私のような過ちを犯してほしくないから話すのよ。私は理穂が悲しむ姿をもう見たくないの」

江美子は麻里に引き込まれるように「わかりました、誰にも言いません」と頷く。

「江美子さん、私が言うのも説得力がないけれど、人間って間違いを犯すことはあると思うの。それを許せる人もいれば許せない人もいて、仮に許せるとしてもそれぞれに許せる範囲と許せない範囲がある」

麻里は少し笑ってカクテルを口にする。

「私は、自分がした過ちがことが許せる範囲だというつもりはない。でも、世の中には妻の浮気を許すことができる人もいるとは思うわ。隆一さんは自分に厳しい人だけれど、その分相手にも厳しいところがあるから。江美子さんは彼と仕事をしたこともあるそうだから、そのあたりは分かるんじゃない?」
「はい」

確かに麻里の言う通りだ。隆一は他人の過ちに対して容赦がないところがある。もちろんそれ以上に自分に対して厳しいため周囲は容認しているが、そのせいでいらぬ軋轢を生んだこともなくはない。

「それと、隆一さんにとって私は過ちを許すことの出来ない相手なんだと思う。もし結婚前から私が彼一筋だったとしたら、かえって一度の過ちを許すことができたんじゃないかしら」
「それは、どうしてですか?」
「隆一さんは、私が自分のもとを去るのではないかと恐れていたんだと思うの。かつて私が有川さんのもとを去り、隆一さんを選んだように。だから私は絶対に彼を裏切るべきではなかった。それなのに私は……」

そのころの辛い記憶がよみがえってきたのか、麻里は悲痛に顔を歪める。

「有川さんはずっと私のことが引っ掛かっていて独身を通していて、前を踏み出せないでいた。一度だけ私を抱くことができたらふっ切れると言われて……私も学生時代に有川さんの気持ちを踏みにじった罪悪感からつい彼に身体を許したの。それはほんとに一度だけのこと」
「絶対に隆一さんに知られないで、それこそ墓まで持って行こうと思っていた。でも、やはり悪いことはできないものね。ある日、隆一さんの携帯にメールが届いたの」
「えっ」

江美子は驚きに息を呑む。

「私と有川さんが浮気をしているという内容のものよ」
「誰から送られてきたのですか?」
「わからない、でも、メールの最後には必ず『有』と記されてあった。隆一さんは有川さんからのものだと思ったわ」
「メールの内容は……」
「自分が奪われたものを奪い返した。本来自分のものだったものをやっと手に入れた、というようなことが書かれてあった。メールには……私の裸の写真や、寝顔が添付されていたの」
  1. 2014/09/29(月) 01:10:54|
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二人の妻 第44回

「江美子さんが今後、理穂と付き合って行くためには役に立つと思うの」
「でも、こんな……これは麻里さんにはとても大事なものじゃ」
「私は理穂から距離を置かなければならないの。そのためにはそのノートはむしろ邪魔になるわ」

麻里の意外な言葉に江美子は胸を衝かれた思いがする。

麻里は江美子にわざと自分が昔していたヘアスタイルを勧めたりして、隆一と江美子の間にさざ波を立てたいのではなかったのか。それでは、あれはまったく麻里の悪気のない行為で、麻里は隆一と江美子がうまく行くことを望んでいたというのか。

「ノートの後ろの方に理穂が私によく聞いてくる事柄もまとめて置いたわ。それがあれば、理穂が私にと細々したことで連絡を取る必要はほとんどなくなると思う」
「麻里さんは、それでいいのですか?」
「言ったでしょう、私は隆一さんに今度こそ幸せになってもらいたいの」
「でも……」

江美子はノートに目を落とす。江美子が、麻里と理穂を引き離したいと思っていたのは事実である。しかしだからと言って麻里にとって理穂との思い出が詰まっているノートを本当に受け取っていいのか。

「心配しないで。こんな偉そうなことを言っても実はちゃんとコピーを取ってあるのよ。私も未練がましいでしょう」

麻里はにっこり笑う。

「それで、改めてノートを見返しているうちに思い出したんだけれど……」

麻里はそう前置きして、理穂が幼いころの様々なエピソードを披露する。幼稚園で男の子二人を相手に喧嘩して泣かせたこと。しかしそのうちの一人とはその後大の仲良しになって「大きくなったらお嫁さんになる」とまで言い出して隆一を慌てさせたこと。

ある年の大晦日、いつもは早く寝かせられるのに、その日は特別に遅くまで起きていいと言われたので夕方から大はしゃぎをして、かえっていつもより早く眠り込んでしまったこと。眠ったまま隆一に抱かれて初詣でに行って、初日の出とともに目が覚めてきょとんとしていたこと。

初めて寝返りを打ったとき、つかまり立ちをしたとき、回らない舌で「ママ」と呼びかけたとき──幼いころの理穂のことを楽しげに話し続ける麻里を江美子は認識を改める思いで見ている。

(こんなに理穂ちゃんに愛情を注いでいたなんて……麻里さんは誤解されやすいけど、本当は心の優しい人なんだ。やはり、隆一さんが愛した人だけあるわ)
(でも、それならなぜ隆一さんと別れたのかしら。このノートを見ても、家庭を顧みなくなるような浮気をする人とはとても思えない。隆一さんにとってどうしても許せないことがあったのか)
(それともひょっとして隆一さんの方に原因が……)

「ごめんなさい、昔話ばかりしちゃって。退屈だったでしょう」
「いえ、とんでもないです」

江美子は首を振る。

「理穂ちゃんの話が聞けて、よかったです。隆一さんはあまり話してくれませんから」
「あの人は、理穂の事になると照れくさがるから……本当は理穂のことを溺愛しているのよ」

麻里はそう言うと微笑する。

その後しばらく、江美子と麻里は理穂と隆一の話題で盛り上がった。もっとも、話す量は二人との付き合いが長い麻里の方が圧倒的に多かったが。麻里の口調には二人に対する家族としての愛情や懐かしさなどは感じられるが、隆一への未練や執着というものは窺えない。

いつの間にか江美子はカクテルのグラスを重ねていた。今回はバーテンダーが気を遣ってくれているようで、量を飲んだ割りには酔ってはいない。麻里も気分の良い酔い方をしているのか、饒舌に話しながら時折声をあげて笑ったりしている。

今なら酒の力を借りて聞けるかもしれない。江美子は思い切って、一番聞きたかったことを麻里に尋ねる。

「あの、麻里さん」
「何?」
「隆一さんと離婚した理由はいったいなんだったんですか?」

麻里の目が一瞬、暗闇の猫の目のようにキラリと光る。
  1. 2014/09/29(月) 01:09:18|
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二人の妻 第43回

「この前江美子さんの髪型を見て、素敵だなと思ったの。だから少し真似をしてみたのよ」
「真似って……これはもともと麻里さんの髪型じゃ」
「そうだったかしら」

麻里は軽く首をかしげる。

「昔のことなのでよく覚えていないわ。でも、今はすっかり江美子さんのものといっていいわ。とてもよく似合っているわよ」
「……」

江美子が自分の服に視線を向けているのを感じたのか、麻里は微笑を浮かべたまま続ける。

「たまにはこんな硬めの服もいいかなと思って、これも江美子さんの影響かしら」
「そう……ですか」
「江美子さん、とても素敵なんですもの。あの人が惚れ込むのも無理はないわ」

麻里はそう言うと手に持った大きめの紙袋を足元に置き、カウンター席に座る。

「あら、まだ頼んでいなかったの」
「ええ」
「ねえ、この前の、何といったかしら。ペパーミントのカクテルをお願い。江美子さんは何にする?」
「あ、同じものでいいです」
「かしこまりました」

バーテンダーは微かに江美子に目配せする。それが、酒にあまり強くない江美子が酔い過ぎないようにラム酒の量を調節するという意味だと解釈した江美子は了解したというように目で合図する。

「どうぞ」

カウンターに2つのグラスが並べられる。麻里はグラスを取ると「乾杯」と声を上げる。江美子も釣られて「乾杯」とグラスを合わせる。

「でも、よかったわ」
「何がですか」
「あの人のところに江美子さんのような人が来てくれて」

ペパーミントのモヒートを口にした麻里は邪気のない表情で江美子に話しかける。

「これで私も安心できるわ」

江美子は麻里の意図が図りかねて黙り込む。

「あら、おかしな意味じゃないのよ。変に気を回さないでくださいね、江美子さん」
「私は、別に……」
「そうそう、今日は江美子さんにお渡ししたいものがあったの」

麻里は鞄の中から古いノートのようなものを取り出し、江美子に渡す。

「これは」
「中を見て」

江美子はノートをめくる。几帳面な手書きの文字でびっしりと埋められたそれは、理穂の誕生から成長の過程を綴った育児日記というべきものだった。

いつどんな病気をしたのか、接種済みの予防注射は何かというような実際的な記載だけでなく、育児の過程での苦労やささやかな喜びがこと細かく記載されている。麻里は仕事と育児の両立、およびそれに伴う義母との確執に苦心していたと聞いているが、そのような記述はほとんどない。そのノートの中の麻里の視線はまっすぐに理穂に向けられていた。

ところどころ隆一に関する記述もある。そこには理穂が慕い、麻里が頼りにしている一家の大黒柱である父親としての隆一が描かれている。あくまで中心には理穂が置かれているため、男性としての隆一の姿は希薄だが、それがかえって江美子にとっては新鮮だった。

ノートの最後の方には最近まとめられたのか、比較的新しい筆跡がある。理穂や隆一の好物と思われるメニューのレシピ、入居しているマンションに関する注意書き、親戚付き合いや冠婚葬祭に関する簡単な記述ーー。

江美子は驚いて麻里の顔を見る。江美子にとって麻里は良く言えば奔放、悪く言えばルーズな印象しかなかった。しかしそのノートの記述から伺える麻里の姿は典型的な良妻賢母である。

「江美子さん、そのノート、もらってくれないかしら」
「えっ」

江美子は驚いて麻里の顔を見る。
  1. 2014/09/29(月) 01:08:15|
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二人の妻 第42回

「あの……」

江美子は気になってバーテンダーに問いかける。

「この前ですが、私、酔っ払っておかしなことを話していませんでした?」
「いえ」

バーテンダーは再び微笑して首を振る。

「お客様の会話は聞かない様にしていますので」
「そうですか……」
「どうかされたんですか?」
「なんだか、酔っ払って、その……とてもプライベートなお話をしたような気がして……後悔していたんです」

バーテンダーは少し考えるように首をかしげていたが、やがて口を開く。

「でもたぶん、ご心配は要らないと思いますよ」
「えっ」
「お客様は店の中ではとてもしっかりされていました。だから私も強めのカクテルをお勧めしていたのです」
「そうですか」
「ただ、途中でお手洗いに立たれて、それから急にご気分が悪くなられたようですね。まもなく中条様に抱えられるようにしてお帰りになりました。それで、少し心配していたのです」
「そうなんですか……」

すると、自分は突然酩酊状態になったのであって、その後は少なくともバーでは麻里との会話は交わしていないということか。

それまでどうもなかったのに、急に酒がまわるということは考えられないことではない。まして、バーテンダーの作るカクテルが美味しく、もともとそれほどアルコールに強くない江美子がついつい飲みすぎてしまったとしても不自然ではない。

「麻里さん……中条さんはこの店は良く来られるんですか」
「はい、ご贔屓にして頂いています」
「あの、麻里さんは私のことに関して、何か前もってお伝えしていたのでしょうか」
「大事なお友達だからよろしくとおっしゃっていました。お料理もお酒もお好きだと」
「そうですか」

江美子は考え込む。麻里がバーテンダーに伝えたことは単なる社交辞令で、それほど意味のないことかもしれない。しかし、なぜか江美子にはひっかかるものがあった。

(わざと酔わせようとしたのかしら……でも、いったい何のために)

いや、それは考えすぎだろう、と江美子は思い直す。江美子は自分が酒に強いとも弱いとも麻里に対して伝えた覚えはない。江美子がもし酒に強ければ、数杯のカクテル程度で正体をなくすほど酔わせることは不可能なのだ。計画的に酔わせるなど、予め江美子の酒量を知っていないと出来ないことだ。

江美子がそんなことを考えていると、バーテンダーの「いらっしゃいませ」という声がする。顔を上げると麻里が微笑しながら江美子に近づいてくるところである。

「お待たせ、江美子さん」

麻里の姿を目にした江美子は、思わず息を呑む。

(髪型が変わっている──)

以前の麻里の髪型は短めの黒髪とはいえ、江美子のものとは違いウェーブが強めにかかったものだった。しかし、今は江美子の髪型とそっくりというわけではないが、かなり近いものになっている。

服装もそうである。前回会ったときはインテリアコーディネーターという職業柄か、明るめでファッショナブルな装いだったのだが、今日の服はそれに比べるとスクエアなもので、銀行の営業に就いている江美子が着るものに近い。

要するに、麻里の外観は、前回に比べて江美子に非常に似てきているのだ。

(どういうつもりなのだろう──)

江美子はすっと背筋が寒くなるような気がする。

「麻里さん、その髪型は……」

思わず江美子が尋ねると、麻里は微笑を浮かべたまま平然と答える。
  1. 2014/09/29(月) 01:06:16|
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二人の妻 第41回

あれ以来隆一との関係はぎこちない。夫婦のそんな不自然な様子が理穂にも伝わったのか、以前のような笑顔は見られない。

(このままではいけない。隆一に疑いを解いてもらわなくては)

江美子が昔、水上と不倫の関係にあったこと、そしてそれを隆一に話していなかったことから、江美子の言葉は隆一には素直に受け入れることが出来ないものとなっている。どうすれば以前のような信頼関係を回復することができるのだろう。

(いっそ、昔の不倫の償いをすべきなのか……)

水上の妻に詫びを入れ、しかるべく慰謝料を払ったら、隆一は江美子を許してくれるだろうか。

(……いや、それは駄目だ)

江美子はすぐにその考えを否定する。それは一見潔いことのように見えるが、実は単なる江美子のエゴに過ぎない。知らなくてすんだ夫の不倫を知らされた水上の妻の苦しみはどれほどのものだろうか。水上の妻から要求されるのなら別だが、こちらからわざわざ過去を暴き立て、平和な家庭に波風を立てるのは愚の骨頂だ。

(それならどうしたら……)

江美子が頭を悩ませていると、携帯にメールの着信の音がした。発信名には「中条麻里」と表示されている。

『この前のお話の続きをしませんか。金曜日、同じ時刻で例のバーで待っています』

(この前の話って……)

江美子がバーで麻里に対して「主に隆一さんとの」セックスのことまで話したという。江美子は酒に酔っていておりはっきりとした記憶がないため、いったい何を話したのか問いただしたが、麻里は口元に微妙な笑みを浮かべて言葉を濁すだけだった。

(でもこれは、いい機会かもしれない)

前回は結果的に酒の力で麻里に対して本音をさらけ出すことになった。麻里も江美子に対する警戒を解いているだろう。麻里から、隆一との別れの真相をなんとか聞き出すのだ。それによって隆一との関係修復の方法が見えてくるかもしれない。

(隆一さんに話しておいた方がいいだろうか)

今回のことは結婚前の孝之との関係を、隆一に対して正直に伝えていなかったことが原因の一つになっている。内緒で麻里と連絡を取っていることが後になって隆一に知られれば、かえって問題を悪化させないだろうか。

(いや、今はやはり言うべきではない)

江美子はそう思い直す。隆一と麻里が別れた原因については、夫婦の間のすれ違いや育児と仕事を両立し難いことのジレンマから、麻里が有川に悩みを打ち明けるうちに深い仲になったとは聞かされた。しかし、それだけでは本当のことは分からない。二人の間に何があったのか、麻里の言い分はまだ聞いていないのだ。

『心配要らないわ。私が教えてあげる。隆一さんのことを全部』

麻里の言葉が頭の中によみがえった江美子は、承諾のメールを返した。

江美子が麻里と再び会うことを決めたのは、この時、結婚前の孝之との関係を隆一に責められることが辛くて麻里との話の中から隆一の失点を見つけ、自らの立場を回復したいという気持ちがあったのも否めない。しかし、それがこの後の江美子にとって予想もしなかった結果をもたらすのだった。


その週の金曜日、江美子は指定の時間に六本木通りのバーを訪れた。少し早めに着いたため麻里はまだ来ていない。バーテンダーは江美子の顔を覚えていたのか、会釈をして声をかける。

「いらっしゃいませ。この前は申し訳ありませんでした」
「えっ」
「強いカクテルばかりお勧めしてしまって。お気分を悪くされたでしょう」
「いえ……」

江美子は首を振る。

「私の方こそ、調子に乗って呑みすぎて、お恥ずかしいところをお見せしました」
「いえ、とんでもありません」

バーテンダーは微笑する。
  1. 2014/09/29(月) 01:03:05|
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二人の妻 第40回

「江美子から呼び出すとはどういう風の吹き回しだ」

孝之はいつものように約束の時間を大幅に遅れて待ち合わせの喫茶店に到着すると、江美子の前の椅子に腰掛ける。

「少し痩せたんじゃないか。仕事のし過ぎは美容によくないぜ。それとも愛する亭主が寝かせてくれないか」

孝之はニヤニヤ笑いながら江美子を見る。スーツのスカートの裾の辺りに孝之の視線を感じた江美子は、苛立たしげに膝を閉じる。

「水上さん、あなた、この前私が言ったことを忘れたわけじゃないでしょうね」
「どういうことだ」
「夫におかしなメールを送り付けているのは、あなたじゃないの?」
「おかしなメール?」

孝之はけげんな顔付きをする。

「どんなメールだ」
「私とあなたが、まだ付き合っているようなメールよ」
「俺がそんなものを送るはずがないだろう」

孝之は口元に笑いを浮かべる。品のない笑いだ。この男は昔からこんな笑い方をしただろうか。

「この前江美子に脅されたせいで気が弱い俺は震え上がった。そんな恐ろしいことはしない」
「写真もついているわ」
「写真だと?」

孝之は眉を上げる。

「どんな写真だ」

孝之に聞かれて江美子は口ごもる。

「ふん、言いにくいところを見ると、人には見せられないようなものか。なにか卑猥な写真だな」
「違うわ」

江美子は慌てて否定する。

「隠しても無駄だ。昔から嘘が下手だな。この前俺を引っかけて盗み録りしたのは江美子としては上出来だ。しかしそれはそれとして、疑われるのは心外だな」
「私にあんな手紙を送ってくるくらいだから、疑われても当然でしょう」
「どんな写真だか知らないが、俺の手元には江美子との写真は残っていないぜ。それに、そもそも一度江美子の裸を撮ろうとしたら、思い切り拒否したじゃないか」
「あなたはメールも写真も送っていないというの?」
「当たり前だ。それに俺は江美子の亭主のアドレスも知らん」

孝之はそう言って首を振ると、珈琲を一口すする。

「本当ね? 嘘を言っていたらこの前の事を実行するわよ」
「そんなことをしたら江美子だってただじゃすまないぞ。俺とのことが亭主にばれてもいいのか」
「馬鹿ね。もうばれているのよ」
「……」

孝之はじっと江美子の顔を見る。

「メールに送信人の名前が入っていたのか?」
「はっきりとではないけれど、あなたを思わせるようなものがね」
「それじゃあ尚更だ。江美子との関係は俺にとって切り札だ。どうしてその切り札を、無駄に使わなきゃならん?」
「……」

確かに孝之の言う通りだ。孝之は江美子との昔の関係を隆一や理穂にばらすということをちらつかせながら、江美子と関係を持ちたいのであって、ただ単に江美子に嫌がらせをする理由はない。もともと自分の得にならないことは興味がない男である。

「わかったわ、呼び出したりしてごめんなさい」
「せっかくだからこの後食事でも付き合わないか」
「冗談はやめて」

江美子はそう言うと伝票を取り上げ、レジに向かう。背中に水上の視線を感じながら江美子は店の外に出た。江美子は孝之に対する疑いを完全に解いた訳ではないが、今日話した感触では白に近いグレーといったところである。孝之でないのなら、一体誰があのようなメールを隆一に送ったのか。
  1. 2014/09/29(月) 01:01:47|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第39回

「……いえ」
「その後どれくらい続いたんだ」

駄目だ、全部知っている。もうごまかすことは出来ない。

「……一年くらいです」
「その間、水上の奥さんや子供に悪いとは思わなかったのか」
「もちろん悪いとは思っていました。早くやめようと……」
「嘘をつくな。本当に悪いと思っていたらどうしてそんなことが出来る」
「水上さんが、夫婦生活はもう破綻していると言ったから」
「それを信じたのか。本当はどうだったんだ」
「……破綻していませんでした。私と付き合っている間に次のお子さんが出来て……結局それが別れる決定的なきっかけに……私、馬鹿でした」

隆一は土下座をしている江美子にじっと悲しげな視線を向けている。

「麻里も有川にそう言っていたそうだ。俺との夫婦生活は破綻していると。おまえは有川や麻里と同じ種類の人間だ。平気で人を裏切ることが出来る」
「……そんな……違います」
「どこが違うんだ。おまえがやったことと有川がやったことは男と女の立場を変えれば全く同じだろう。違うのはおまえは水上の奥さんにばれなかったが、有川は俺にばれた」
「隆一さん……」
「いや、違うところは他にもあるな。有川と麻里は俺に償いをしたが、おまえと水上は水上の奥さんに何の償いもしていない。そういう意味ではおまえ達の方がたちが悪い」
「そんな……」
「江美子、おまえは不倫相手のことも恋人というのか?」
「えっ」
「この前水上からメールが来た時、おまえは水上のことを昔の恋人としか言わなかった。不倫の関係にあったことを隠していたのはなぜだ」
「……」

隆一の追求に江美子は言葉を詰まらせる。

「隆一さんに……嫌われたくなかった」
「俺は嘘をつかれるのが嫌いだ」
「嘘をついた訳ではありません」
「夫婦の間で、大事なことを黙っているのは嘘をついているのと同じだ」
「隆一さん、聞いてください」

江美子は必死な目を隆一に向ける。

「私が水上さんと不倫の関係にあったのは事実です。でも、最初は水上さんが結婚していることを本当に知らなかったのです。さっきもお話したとおり、知ったのは彼との結婚を意識した、付き合い始めてから一年ほどたってのことです」

「そこできっぱり彼との付き合いをやめるべきでした。私に対して一年もの間、大事なことを話していなかった彼が、今さら奥様とは破綻している、いずれ離婚するなどと言っても信じるべきではなかった。それは頭では分かっていたのです。そう出来なかったのは私の未練です。その時の私は彼を本気で愛していたのです」

「隆一さんの言うとおり、確かに私は不倫の罪を犯しました。奥様に償っていないと言われればその通りです。でも、私は私で苦しんだのです。その後ずっと男性不信になり、結婚も諦めていました。でも、隆一さんに出会ってから私は変わりました」

「事前にお話しておくべきでした。でも、その時はそれがそれほどまでに重いことだと思っていなかった。隆一さんと奥様の離婚の原因が、奥様の裏切りにあるとは知らなかった。もし知っていれば……」

駄目だ、何を言っても言い訳になる。私は本当は何を言いたいんだろう。

「私はあなたを愛しました。本当は、私の醜い過去が知られることであなたに嫌われたくなかった……」

そこまで言った江美子は振り絞るような声で泣きじゃくる。

「……今は本当に、水上とは何もないのか」

江美子はこくりとうなずく。

隆一はしばらく黙ったまま江美子を見下ろしていたが、やがて口を開く。

「すまないが、江美子の言うことをすぐに信じることは出来ない」
「隆一さん……」
「乱暴なことをして悪かった」

隆一はそう言うと寝室を出て行く。残された江美子は裸のまま床にしゃがみこみ、いつまでもすすり泣いていた。
  1. 2014/09/29(月) 01:00:29|
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二人の妻 第38回

その言葉に江美子は諦めたように唇を開く。笠の張った隆一の亀頭が江美子の口中に押し込まれていく。

「もっと気を入れて嘗めろ。江美子の舌技は風俗嬢並みじゃなかったのか」

江美子の目尻からポロポロと涙がこぼれ落ちる。恨みがましい目で見上げる江美子に、隆一は決めつけるように言う。

「この男の時も、そんな風にいやいやしてやっていたのか。どうなんだ、江美子」

そんなことを言われても、隆一の怒張で口の中を塞がれた江美子には答えようがない。隆一が催促するように腰を突き出し、肉棒の先端で江美子の喉の奥をぐいと突く。

「ごほっ」

江美子が咳き込み、隆一の肉塊を吐き出す。隆一は江美子の頭を苛立たしげに押さえ付け、口内に再び肉棒を押し込む。

「ごほっ、ぐっ、ぐふっ……」

激しく咳き込む江美子の口の端から泡のような涎が噴きこぼれる。江美子は涙と涎でその顔をどろどろにしながら、隆一から強いられる苦行から一刻も早く解放されようと、必死で舌を使う。

「うぶっ」

その努力の甲斐あってか、ようやく隆一に射精感が訪れる。隆一の腰部がブルブル痙攣したかと思うと、江美子の口内が生臭い隆一のもので満たされる。

「吐き出すんじゃないっ! そのまま口の中に溜めているんだ」

江美子は命じられるまま、込み上げる嘔吐感を必死でこらえ、隆一のものを受け止めている。ようやく射精が終わり、隆一は江美子から肉棒を抜く。

「口を開けて見せてみろ」

人形のようになった江美子は静かに口を開く。江美子の舌の上には大量の白濁がたまっている。

「そのまま飲み込め」

江美子はゴクリと音を立てて飲み込む。あまりの汚辱に肩先を小刻みに震わせていた江美子は、やがて声をあげて泣きじゃくる。

「ひどい……ひどいわ……隆一さん」

江美子はしゃくり上げながら隆一に抗議する。

「水上さんとのことは昔のこと。全部終わったことなのに、どうして信じてくれないの。私をそんな女だと思っていたの?」

隆一はそんな江美子を冷めた目で眺めていたが、しばらくたって口を開く。

「江美子、水上という男のことで俺に隠していることはないか?」
「えっ……」
「俺と知り合う前に江美子がどんな男とどんな風に付き合っていようが俺にどうこう言える筋合いはない。それを言い出せばバツイチで子持ちの俺の方が分が悪いに決まっている」
「……そんな」
「しかし俺は不倫はしなかった」
「……」
「水上との付き合いは、誰に対しても恥じるものではないものか? ええ、どうなんだ」
「それは……」

詰問するような隆一の口調に江美子は愕然とする。隆一は知っている。自分が妻子ある男と付き合っていたということを。

「答えろ、江美子」
「ごめんなさい」

江美子はベッドから降り、床の上に頭を擦り付ける。

「私、知らなかったんです。水上さんに奥様やお子さんがいたということを。後になって聞かされました」
「それならそうと聞かされてから、すぐに付き合いをやめたのか」
  1. 2014/09/29(月) 00:59:22|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第37回

「もう一枚残っているぞ」
「許して……」
「素っ裸になれと言っただろう」
「お願い、せめて電気を消して」
「駄目だ」

隆一の声に江美子は諦めたようにパンティを引き下ろす。江美子の頬に一筋、二筋涙がしたたり落ちる。

「嘘泣きしやがって」
「嘘泣きなんて、ひどいわ……」
「有川との関係がばれた時の麻里もそうだった。俺の前でメソメソ泣くばかりで……泣いていれば男はそのうち許してくれると踏んでやがる」
「そんな……私は違います」
「何が違うんだ」
「私は、隆一さんを裏切っていません」
「それが本当かどうか今から調べてやる」

隆一は江美子の手を強く引く、いきなりベッドの上に引き倒す。

「何をするのっ。乱暴しないでっ」

隆一は両手で江美子の両腿の付け根を押さえ付けるようにすると、鼻先を江美子の秘部にうずめる。

「やめてっ!」

あまりのことに江美子は両肢をばたつかせる。

「男の匂いがするかどうか、調べてやっているんだ。じっとしていろっ」

江美子は必死に身体の動きを止める。シャワーも浴びていないままで隆一のその部分の匂いを嗅がれるのは死ぬほど恥ずかしい。隆一は鼻先を江美子の秘裂にすりつけるようにしていたが、やがて顔をあげ、今度は江美子の上半身に近づける。

「キスマークがないか調べてやる」
「私は……潔白です」
「口先だけで騙されるのはもうたくさんだ」

隆一は江美子のうなじから胸元、乳房、腹部、脇腹と言った辺りをまさになめるように点検する。ようやく確認し終えた隆一は江美子に「背中を向けろ」と告げる。

「な、何をするの」
「言うとおりにするんだ」

隆一の目が狂気を帯びているようで、江美子は恐怖さえ感じながら言われたとおりにする。隆一がうつ伏せになった江美子の双臀をいきなり桃の実を割るように両手で押し開いたので、江美子は悲鳴をあげる。

「い、嫌っ」
「じっとしていろといっただろうっ」
「で、でもっ、あんまりですっ」

露わになった江美子の肛門に、隆一が鼻先を擦り付けて行く。江美子は毎朝便通があるが、マンションのトイレはその部分を洗浄出来るタイプであるためほとんど汚れていないはずだが、それでもシャワーも浴びないまま排泄器官を隆一の目の前に晒す羞恥は言語に絶するものと言ってよい。

この時の江美子の頭には、隆一の行為は自分が隆一に苦しみを与えているためだという自覚はほとんどない。どうしてこんな恥ずかしい、屈辱的な目にあわなければならないのかという怒りに似た思いに満たされているだけである。

隆一はいったん江美子の身体から離れると、せかせかと服を脱ぎ始める。江美子はベッドの上でうつ伏せになったままハア、ハアと荒い息を吐いている。素っ裸になった隆一は江美子の豊満な尻をパシリッと平手打ちする。

「嘗めろ、江美子」

江美子は顔をあげ、脅えたような目を隆一に向ける。

「この男にしてやったように嘗めるんだ」

嫌々と首を振る江美子の唇に、隆一が屹立した肉棒を押し付ける。

「この男にはしてやれて、俺には出来ないというのか」
  1. 2014/09/29(月) 00:57:53|
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二人の妻 第36回

「どういうことか説明してくれ」
「これは……」

言葉に詰まる江美子に、隆一がメールの本文を見せる。

『今日も奥様をいただきました。相変わらず奥様の舌技は風俗嬢並で、あっと言う間にいかされてしまいました。奥様も寝取られ男のチンポより、僕のチンポの方が美味しいと何度も言いながら喉の奥まで使って咥え込んでくれました。水』

メールの本文も衝撃的であったが、もっと驚いたのは添付されている写真での江美子の髪の形と色が今のものと同じだったことである。メールの文章はさらに続く。

『追伸:前回は間違えて、昔の奥様の写真を送ってしまいました。今回の写真が現在の奥様のものです。水』

(嘘だ)

水上との関係は五年前に終わっている。こんな写真を撮られることはありえない。

また、水上と付き合っている時も、江美子はこのような写真を撮らせた記憶は一切ない。こんな写真が存在する訳がないのだ。

「江美子、説明してくれ」
「これは……嘘です」
「嘘だと?」
「デタラメです。こんなことはあり得ません。私は隆一さんを裏切ったことはありません」
「それならどうして水上という男がこんな写真を持っているんだ。前回の物は髪形が違うから、昔の写真だろうということはわかる。しかし、これは今の江美子だろう」
「……」
「それとも、水上と付き合っている時にも、こんな髪形をしていたのか?」
「いいえ……」

江美子は首を振る。こんなところで嘘をついても意味がない。隆一が当時の江美子を知る人に確認すればわかってしまうかもしれないのだ。

「私は、今の髪形にするまでは大きく変えたことはありません。あの時は本部勤務だったので、髪も明るい栗色でした」
「それなら、これは今のものじゃないのか」
「こんな小さな写真ではわかりません。デジカメで撮った写真は後で色の修正が可能だと聞きました」
「苦しい言い訳だな」

隆一が口を歪め、江美子を見つめる。

(疑われている……)

状況から判断して仕方ないとは言え、隆一が自分に対する信頼をなくしているという事実が江美子の心に突き刺さる。夫婦の信頼というものはこんなに簡単にが失われていくのか。何があろうが妻を信じるという気持ちにはならないのか。

「今日はどうして遅くなった」
「残業です」
「本当か」
「本当です。上司に聞いてもらってもかまいません」

隆一は少し考えるがやがて首をかしげる。

「そんなみっともないことができるか。同じ銀行で女房が働いていて、その上司に対して女房の素行確認をするなんて、いい笑い者だ。江美子も出来るはずがないとわかっていてそんなことを言うのだろう」
「そんなこと……」
「服を脱げ」
「えっ?」
「聞こえなかったか? 服を脱げと言っているんだ。全部脱いで素っ裸になれ」
「大きな声を出さないでください。理穂ちゃんに聞こえます」
「えらそうに俺に指示をするな。愚図愚図言わずに脱ぐんだ」

隆一がこんな風に怒鳴るのを、江美子は初めて見た。江美子はショックで顔を引きつらせながらジャケットを脱ぎ、ブラウスのボタンを外し始める。

ブラウスを肩から外し、スカートを降ろすと江美子は下着のみの半裸となる。

「全部脱ぐんだ。素っ裸になれといっただろう」

江美子は恨みがましい視線を隆一に向けるが、すぐに目を伏せ、パンティストッキングを脱ぎ、ブラジャーを外す。
  1. 2014/09/29(月) 00:56:30|
  2. 二人の妻・桐
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二人の妻 第35回

次の週の半ばになっても、江美子は孝之に連絡が取れないでいた。

いや、こちらから連絡をしていないのである。あの後落ち着いて考えてみたが、孝之が今になって江美子の卑猥な画像を隆一に送ってくるのはいかにも不自然である。確かに孝之は卑劣な人間だが、半面小心で計算高い。自爆テロのような愚かな振る舞いは孝之にはどうにも似つかわしくないのだ。

さらに江美子には、孝之からあのような写真を撮られた記憶はない。子供の付き合いではないのだから孝之とは肉体関係があったし、彼に妻子がいると判明するまでは恋人だと思っていたから、行為の後で寝入ってしまうことはあった。その際にあのようなしどけない姿を撮影された可能性はないとはいえない。

しかし、孝之の軽躁な性格上、そういったことをしたら江美子に対して黙っていられないのではないかと思うのだ。

それに江美子が見せられた二枚の写真、そのうち下半身を撮影したものは江美子のものだとは限らない。ネットから拾ってきた卑猥な画像を送ってきただけかもしれない。

(孝之でないとすると、いったい誰が……)

残業でかなり遅くなった江美子は会社から帰る電車の中で、窓に映る自分自身の姿をぼんやりと見つめながら考える。

だからといって孝之以外の「犯人」も江美子には思いつかない。江美子に対して、または隆一に対して恨みを抱いている人間がいないか思い巡らせてみたが、見当がつかない。また、もしそうならもっと直截的な方法をとるのではないかとも思うのだ。

(ひょっとして……)

江美子は麻里の顔を思い浮かべる。

麻里なら出来るだろうか──江美子はその可能性を考える。

先週の金曜に、うかつにも酒に酔って麻里のマンションに泊まったとき、寝顔を撮影された可能性はある。それを麻里は、自分の携帯を使って隆一の携帯に送ったのではないか。

(しかし、それなら『水』と記されていたのはなぜ? どうして孝之さんと私の関係を知っている?)

麻里は江美子が酒に酔って「主に隆一とのセックスの話」をしたと告げた。その時は水上との不倫の関係まで喋ってしまったかと慌てた江美子だったが、いくらなんでも自分がそこまで自制心を失うとは思えない。

(それに、メールに添付されていた写真の髪の色が栗色だったことが理屈に合わない)

もし麻里が自分を撮影したのなら、当然髪の色は今のもの──黒であるはずだ。ウィッグを使って撮影すれば、栗色の写真も撮れるが、そんなことをしたら少なくとも現在は江美子が水上と関係を持っていないことを証明しているようなものである。

(いずれにしても、私と隆一さんの関係に水を差したい人間がいることは確かだ)

確信が持てない以上、こちらから動くのは禁物だ、と江美子は考える。水上との関係について隆一にきちんと話せていないのは、江美子にとってウィークポイントでもある。

(いずれは話さなければならない。だけど、今はその時ではない。今の隆一さんは、麻里さんがと久し振りに再会し、おまけにそれが自分から麻里さんを奪った有川さんと一緒だったからかなり動揺している)

結論がでないまま家に着く。玄関に隆一の靴があるところを見ると、先に帰っているようである。

「ただいま」

声をかけるが返事がない。江美子が戸惑っていると、寝室から隆一が顔を出した。隆一の顔は今朝見た時と比べてすっかり憔悴していたので江美子は驚く。

「隆一さん……」
「入れ」

隆一に促されて江美子は寝室に入る。

「さっきまたメールが届いた」
「えっ」

驚く江美子に隆一が携帯を突き付ける。そこには裸の江美子がうっとりと目を閉じ、硬化した男の肉棒を咥えている写真が表示されていた。
  1. 2014/09/29(月) 00:55:09|
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1話完結■不倫・不貞・浮気 (18)
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揺れる胸・晦冥 (29)
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妻からのメール・あきら (6)
一夜で変貌した妻・田舎の狸 (39)
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嫁を会社の後輩に抱かせた・京子の夫 (5)
妻への夜這い依頼・則子の夫 (22)
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● 宵 待 妻・小野まさお (11)
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優しい妻 ・妄僧 (3)
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1話完結■寝取らせ (8)
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