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闇文庫

主に寝取られ物を集めた、個人文庫です。

贖罪 第1回

 はじめまして。逆瀬川健一と申します。数週間前にこのサイトを発見したときの衝撃と安堵感は言葉では言い表せません。
 妻と私を襲った三年来のトラブルに気持の面で折り合いのつかぬ日々を送っているときに、このサイトにめぐり会いました。みなさんの赤裸々な告白を読ませていただくうちに、胸のわだかまりが薄らいでゆくのを感じました。トラブルの経過と夫婦の心情を文章にすることによって、心と感情が落ち着くような気がしましたので、ここに書き込みさせていただきます。
 自己憐憫や自己満足に陥らないように心がけるつもりですが、利用者のみなさんのお邪魔になるようでしたらご指摘ください。すぐに削除させていただきます。

【#01 発端】
 三年前、妻の口から“SOHO”という言葉を聞いたときには、てっきりニューヨークにある芸術家の街のことかだとばかり思った。十一年前、新婚旅行で訪れたことがあったからだ。中堅の広告代理店の営業部に勤務する私には、芸術家の街など、どこか浮世離れしたものに見え、羨望と反感という奇妙な感情にとらわれたことを思い出す。
 だが、妻の言うSOHOとは、コンピュータネットによって可能になった新しい勤務形態のことだった。結婚するまではバリバリの営業ウーマンであった妻にとって、子どももいない専業主婦の生活は退屈だったのだろう。私も、インターネットによる情報収集の必要性を感じ、得意先の家電量販店からデスクトップコンピュータを二台購入した。
 妻がSOHOの可能性を知ったのは、地域のタウンペーパーの特集記事によってであった。私鉄沿線に住む主婦たちが独自にネットワークを作り、SOHOを始めたのだそうだ。プロバイダにサインアップした翌日、妻はその主婦サークルに連絡を取り、面談に行った。
 今から思えば、その日が妻と私の地獄の始まりだったのだ。
 営業以外の特殊技能を持たない妻の前途を私は危うんだが、主婦サークルの中にもそのような女性がいて、多忙を極めているという。
「八年のブランクがあるけど、営業の基本に変わりはないと思うの」
 妻は私の疑念をあっさりと否定した。
「現に、Tさんなんて営業の経験はまったくないんだって。私が仲間になれば鬼に金棒って言ってくれたわ」
 Tさんというのは、SOHO主婦サークルの中でも独自にe-コマースに取り組み、月間数十万円の利益を上げている女性だそうだ。まだ三十になったばかりだという。
「補正下着を売ってるんだけど、倍々ゲームで売上が伸びてるらしいの。昔は訪問販売しか手はなかったけど、ネットのおかげで全国展開できるようになったって」
「物販は難しいんじゃないのか。広告代理店とはわけがちがうぞ」
 私は釘を刺したつもりだったが、妻は挑発と受け取ったようだった。
「だからこそやり甲斐があるんじゃない。働けば働いただけ収入があるし。私は自分の伎倆を試してみる」
 勝ち気な営業ウーマンであった頃の表情に戻って、そう言った。
「家庭を犠牲にすることは決してないから。まあ、見ててちょうだい」
 もし、家庭に入らなければ部下を率いていたであろう妻の実力を認めるにはやぶさかではない。だが、物販とはずいぶん思い切ったことを……。
 それから一週間は平穏に過ぎた。
 専用ソフトのインストール、データのコピーなど、妻は自力でなんとかやりおおせたようだった。
 だが、二週間以降、私たち夫婦のライフスタイルが急速に変化しはじめていった。
 広告代理店営業部課長である私の帰宅時間は遅くなりがちだが、出張の前日などは早めに帰ることにしていた。
 その日、午後八時に帰宅した私を待っていたのは、スモールランプだけが灯された薄暗いリビングだった。
 もちろん、夕食の準備もされてはいなかった。
 事業開始の前後は雑事に振り回されがちだということはわかる。それに、明日からの出張は急に決まったことであり、妻には伝えてはいなかった。
 梅雨独得の重たい湿気をエアコンで追い払い、シャワーを浴びた。冷蔵庫から缶ビールを取り出して書斎に向かいながら、ふと、妻のコンピュータのことを思い出した。
 電源を入れ、OSが立ち上がるまでの間、ビールを呷った。
 妻のプライバシーに干渉するつもりはなかった。ただ、管理職の悪い癖で、業務の進捗状況を見てみたかったのだ。そして、Tという女がどのような指示を出しているかということにも興味があった。
 メールソフトを開いた。
 膨大な数のメールが受信済みフォルダに入っていた。
 その内容は、明らかに普通の業務指示ではなかった。
“努力”“前進”“自分を信じること”“商品を信じること”“レベルを上げることが最優先課題”“頑張れ! 頑張れ!”
 そんな空疎な言葉が目についた。
 妻の送信済みメールも読んでみた。
“頑張る!”“前進あるのみ”“商品は世界一”
 やはり虚しい言葉の羅列。私は愕然とした。これはまっとうなビジネスではない。私は、新しいメールが来てはいないか確かめるため、ダイヤルアップしてみた。
 新着メールが一通あった。
 Tからのものだった。
*******************************
お帰りなさい。今夜はご苦労様でした。
さっき、Fさんから報告を受けました。
とても満足されているご様子よ。
「天国のようだった」って(*^_^*)。
このぶんなら、目標より早くレベルアップできるかも。
私も、あなたくらい魅力があれば苦労しなくてもすんだのにね。
いちばんのネックは夫バレだから、十分気をつけて、
おやすみなさい。
*******************************
 この文面からは、いろんなことが推測できた。だが、いずれにせよ、それは憶測の域を出ない。「天国のようだった」というのは、商売仲間の符丁かもしれない。「あなたくらいの魅力があれば苦労しなくても」というのは、いったいどういうことなのだ? そして、「夫バレ」とは……まるで風俗嬢のような物言いではないか。
 混乱する頭で、なんとかメールを未開封の状態に戻してコンピュータからログオフして電源を落とした。
 それから一時間もしないうちに妻が帰ってきた。
 講習会が長引いたからと言っていたが、抱き寄せると、汗の匂いに混じってかすかに石鹸が香った。
 私はリビングのソファで雑誌を読むふりをしながら、妻の動きを目で追った。
 いつもと変わりはないように見えた。気怠げな雰囲気があるような気がしたが、この暑さのせいとも、研修の疲れのせいとも見えなくもない。
 妻が浴室に消えると同時に、私は洗濯機の蓋を開けた。
 パンティストッキング、ブラジャー、スリップ、ハンカチがひとかたまりとなって、私の下着の上にあった。
 ――ショーツはどこにあるのだ?
 私は妻の下着を取り上げて確認した。やはりショーツはない。
 ショーツをはかずに帰ってきたのだろうか。それとも、浴室で洗濯しているのだろうか。すりガラス越しに蠢く妻のシルエットを見る限り、そんな様子はない。
 私の頭はさらに混乱した。明日から三日、関東の得意先回りをしなくてはならない。このような疑念を抱きながら、まともに仕事ができるのだろうか。
 どうせ移動時間は長い。この疑念に対する可能性をじっくり考えるのにちょうどよい。私は、自分に都合のよいように考えながら、リビングに戻った。

 長々と書いてしまい、申し訳ありません。当時の自分の愚かさや事なかれ主義がよく見えてきました。これでは、妻ばかりを責めることはできません。
 次に私を見舞った衝撃を克明に書くことに非常に抵抗がありますが、匿名ということに甘えて、続けさせていただきます。何度も申し上げますが、迷惑でしたら遠慮なくおっしゃってください。
 では、また後日。
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  1. 2014/07/30(水) 06:05:31|
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贖罪 第2回

【#02 疑惑】
「それって、マルチ商法じゃん」
 出張二日目。接待の席で、得意先の担当者に「こんな知り合いがいるんですが……」という調子で例のメールのことを切り出したところ、この言葉が返ってきた。
 大手洗剤メーカーの広報部長の彼は公正取引委員会との付き合いも長く、マルチ商法からネズミ講に関する知識は半端なものではなかった。
 現在、ネズミ講や悪質なマルチ商法は法規制により全滅してはいるものの、法の網を巧みにくぐりぬけたマルチまがい商法は後を絶たないらしい。
「『商品を信じること。頑張れ、頑張れ』ってのは、下の者にハッパかけるときの常套句さ。被害者が加害者に化ける恐ろしい世界だ。その知り合いには近づかないほうがいいよ。ヤケドどころじゃすまなくなるから」
 ホテルに帰り着いたときには、午後十一時を回っていた。自宅の妻は、まだ起きている時間だ。
 だが、耳に押し当てた携帯電話からは空しい呼び出し音が続くだけだった。
 もし寝ていたとしても、私の職業柄、寝室にも電話を置いているので目を醒まさないはずはない。
 スモールランプだけが灯るマンションの部屋を思い浮かべたとたん、私の中で疑惑が現実的なものになりつつあった。新事業が忙しいのか? いや、そもそも自宅でできるという魅力にひかれてSOHOなるものを始めたのではなかったか。なぜ、家にいないんだ?
 翌日正午。業務を消化した私は、東京駅に向かいながら自宅に電話した。
 妻はすぐに出た。どんな微妙な口調の変化も聞き逃すまいと携帯電話を耳に押し当てたが、いつもと変わらぬ妻の声だった。私の質問に先んじて、昨夜は気分が悪かったから電話の呼び出し音はすべてオフにしていたと言った。
 出張があと二日延びたこと、接待が続くから電話はできないことを伝えて電話を切った。もちろん嘘だ。にわか探偵として、週末まで妻の張り込みをするつもりだった。といっても、会社に通いながらだから、限られた時間しか私には許されていない。
 報告書を書き終え、交通費等の伝票を経理に渡して会社を出ると、すでに午後七時前だった。レンタカーを借りて自宅に向かった。
 マンションはなだらかな丘陵の斜面に建っている。風致地区のため、高さも三階建てだ。自宅は二階。近づくと、クルマの中からでも室内の人影が判別できる。
 初夏の宵闇の中、意外にも、自宅のリビングから蛍光灯の光が洩れていた。私は、胸に温かいものが満ちるのを感じた。すべては私の狭量さから生じた疑惑だったのだ。あのメールに関しても、主婦同士の内緒のおしゃべりの域を出ないものなのだろう。マルチ商法にしても、私の思い込みだったのだろう。
(馬鹿だった。おれは大馬鹿者だ)
 妻に猛アタックしたあの日、結婚式、新婚旅行、妻と過ごした十一年の歳月……。愛おしい一シーン、一シーンがよみがえった。
 レンタカーを最寄りの営業所に返して自宅に帰ろうと思った。出張が予定どおり終わった件は、何とでも理由がつけられる。
 勇んでエンジンキイを回そうとした私の手が止まった。
 ベランダに妻が現れたのだった。
 黒のビスチェに同色のチョーカー。短めの髪はジェルかムースでぴっちりと固められている。片手にはタンブラーらしきグラス。
 それが自宅のベランダでなかったら、パーティの一コマと見間違うほど、妻の顔と身のこなしはよそ行きのものだった。
 妻が室内を振り向き、何事かしゃべっている。
 客か? SOHO仲間が集まっているのかもしれない。主婦ばかりのホームパーティのまっただ中に帰っていくのはぞっとしない。
 妻の背後に人影が立った。
 私は息をのんだ。男が現れ、妻のむき出しの両肩に手をかけたのだ。男は四十年輩。見たこともない顔だ。深紅のポロシャツに白っぽいジャケット。首には金色の太いチェーンが見て取れる。
 妻がこちらに視線を向けた。この距離で暗い車内に座る私の顔がわかろうはずはなかったが、私は反射的に顔を伏せた。
 顔を上げたときには、すでにベランダから妻と男は消えていた。
 すぐに窓が閉じられ、カーテンが引かれた。
 さきほどまでの温かい気持と良心の痛みは霧消していた。私が目撃したのは不倫の現場に違いなかった。ホームパーティなどでは決してない。私の不在をいいことに、妻は男を自宅に引き込んでいたのだ。
 私は深呼吸して息を整えてから携帯電話をプッシュした。
『はい、逆瀬川ですが』妻の声。固さがにじんでいる。
「おれやけど、ちょっと時間ができたから。気分はどないや?」
『もう、だいじょうぶ。心配かけてごめんね。明日、帰れるん?」
「ああ。最終の新幹線や。それまで羽伸ばしたらええよ」
『あなたがいないと退屈やわ』
 心のこもらない、上滑りの言葉。それだけ聞けば十分だ。私は、おやすみを言って電話を切った。
 男と外出するという可能性に気づいた私は、マンションの前にクルマを停めて見張った。この事態に対するさまざまな感情がわき起こるのを辛うじて押さえつけた。今は、感情にまかせて暴走するときではない。営業という職業柄、感情をコントロールする術は身につけている。
 午後十時。クルマを移動してからすでに二時間以上経っていた。妻が出かけた様子はなかった。三十三歳の主婦と四十男が二人きりでマンションの一室にいれば、することは一つだ。
 意を決して、クルマを降りた。
 暗証番号を押してエントランスに入る。近所の顔見知りと出くわすのを避けて階段を使う。自宅の玄関ドアの前に立ったが、戸内の気配はまったく窺えない。キイホルダーを取り出し、ひとつ大きく息を吸い込んで鍵穴にキイを押し込んだ。細心の注意をはらってキイを回す。ドアを開けた瞬間、修羅場が始まる。私は腹に力を入れてドアを引いた。
 エアコンの冷気が流れ出してきた。三和土には、男物の革靴が揃えられている。あの四十男には似合いそうもない白いウイングチップ。
 ぼそぼそとしゃべる声を聞いたような気がした。間違いない。男が一人で話しているようだ。妻の嬌声を耳にするものとばかり思っていた私は、ふたたび甘い連想にすがろうとした。やはり男は、妻のSOHO仲間なのだ。ビギナーの妻に商売のコツを教えにきてくれただけだ、と。
 だが、私の心の深い部分では、疑惑は強まるばかりだった。靴を履いたまま、上がり框を踏んだ。リビングは廊下を突き当たって右。音を立てずに進んだ。リビングのドアは全面ガラスになっている。薄いグレーに彩色されたガラスを透かして室内が見えた。
 部屋のコーナーに配したソファに、全裸の男がふんぞり返っていた。妻の姿を探して部屋をさまよった私の視線が、男の股間でうごめく黒い影に吸い寄せられた。
 ちょうどテーブルが妻の姿を遮っていたのだ。白い体が床に跪き、男の股間に顔を埋めていた。一心不乱に上下する後頭部しか、ここからは見えない。男が言った。
「もうぼちぼちディーラー卒業やな。奥さんの情熱には、頭が下がるで。ふつう、マネージャーへの昇格は、早くとも入会後半年はかかるもんや。そないに焦らんかて……」
 快楽のツボを刺激されたのか、男は太い吐息を洩らしながら天井を仰いだ。
 妻の頭が男の性器から離れた。妻の甘えた声が私の耳を打った。
「Fさん、いつマネージャーにしてもらえるんですか」
(あいつが、Tからのメールに出てきたFか!)
「そうやな。来週早々ちゅうとこやな。奥さんの頑張りはエリアマネージャーにもしっかり伝えてあるから、大船に乗った気でおったらええ」
 返事の代わりに、妻は立ち上がった。
 蛍光灯の光に白く浮かぶ妻の肩、くびれた腰、双臀には淫らがましさがまつわりついていた。この二時間あまりの間に、Fと何度情を交わしたのだろうか。いや、あのメールを見つけた日にもホテルでFと交わっていたはずだ。ショーツを記念品代わりにFに奪われたに違いないあの夜に。昨夜もきっとFと……。
 本来なら、怒声を上げながら室内に踏み込むべきなのだろうが、私にはできなかった。痛いほどの勃起が、夏物の薄いスラックスを突き上げていたのだ。成り行きを見守ってからでも遅くはない、と私の中でささやく別の声があった。
 妻はFをソファに腹這いにさせた。Fはにやにやしながら膝立ちになり、尻を掲げた。その尻を妻が両手が割り、中心部に口を寄せた。Fが女のような声で呻いた。
 体側から見るFの肉体は堅太りだが要所に筋肉がついている。揃えた太腿と腹がつくる三角形の空間に揺れる男根のシルエットが見えた。今しがたまで妻の口腔を犯していた勃起は、太く長く猛々しかった。妻にアナルを責められるたびに重たげな肉塊がびくっ、びくっと跳ねる。
 Fの尻を責めながら、妻は腕を伸ばし、勃起を掴んでゆるゆるとしごきはじめた。Fの甲高い呻き声に遠慮はなかった。
「奥さん、いいよお、いいよお。旦那に……ずいぶん仕込まれたんとちゃうか。なんべんされても……天国やで。もっと速くしごいてえな……ああ、そやそや、その調子や」
(おれがいつアナル舐めなんかさせた?)
 リビングのドアは、日常と非日常を隔てる結界のようだった。向こう側で男の尻を舐める妻は、姿形こそ妻だが、これまでの妻ではない。いや、少なくとも私と接してきた妻ではない。マネージャーとやらに昇格するためなら男に体を開き、積極的に男に奉仕することも厭わない、見知らぬ女だ。
 やがて妻はFを仰向けにすると、獰猛な勃起に唇をかぶせていった。唾液が口のまわりをてらてらと光らせ、顎にまで流れ出すのもかまわず、口腔による奉仕が続いた。聞くにたえない下品な音がガラス越しに聞こえてくる。
「おっと、そこまでや」
 Fはあわてて身を起こした。口を男根の太さに半開きにした妻を軽々と抱えると、寝室に消えた。
 私は、股間に生暖かいものを感じて我に返った。スラックスの中で射精してしまったのだ。それでも、私の性器は硬度を失わずにいた。
 寝室で繰り広げられているであろう痴態を観察したかったが、これ以上、深追いすべきではない。懸命に思いとどまった私は、後ろ髪を引かれる思いで玄関にとって返し、戸外に出た。
 熱帯夜を告げる重く熱い夜気が、私を包んだ。

 また長々と書いてしまい、申し訳ありません。書きながら、三年前のあの夜が鮮明に浮かび上がってまいりました。記憶の底に封印し、風化したはずの記憶がそっくり残っていることに、我ながら驚いています。
 では、また後日、続きを書かせていただきます。おやすみなさい。
  1. 2014/07/30(水) 06:06:44|
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贖罪 第3回

【#03 発見】
 どんな顔をして妻に接すればよいのだろう。いつもの笑みを浮かべて「ただいま」と言えるだろうか。最寄り駅から自宅へ続くだらだら坂を上る私の足は重かった。
 昨夜はクルマの中でまどろんだ。仕事中に身が入るわけはない。外せないアポイントメントをどうにかこなしたものの、脳裏に浮かんでは消える妻の裸体に思考能力を奪われていた。
 八十二センチのバストはやや手に余り、すくい上げるように持ち上げると量感を増して柔らかさと重みを掌に伝えてくる。Fは、その双乳をどのように揉みしだいたのだろうか。節くれだった十本の指を食い込ませ、淡い褐色の乳首をこね回したのか。くそっ! フラッシュバックのように、リアルな映像が現れる。清潔感のある相貌からは想像できない濃い陰毛を、Fの赤黒いナメクジのような舌がかき分ける。やがて密やかな突起を探り当て、つついたり舐め上げたりしながら、肉襞のほころびを促すのだろう。その間も、Fのどす黒い男根は妻の口に収まり、巨大なアメリカンチェリーを思わせるその先端は軟口蓋で暴れまくっているのだ、今、この時間にも……。ふざけやがって! 果てのない妄想を、私は力を振り絞って頭から追い出したのだった。
 マンションのエントランスに入った。エレベーターのボタンを押したが、三階からなかなか降りてこない。
(三階建てのくせにエレベーターなんかつけんなよ!)
 何に対しても当たらずにはいられない精神状態に気づき、私は激しく首を振り、両頬を掌で叩いて気合いを入れた。営業モードに入ればいいのだ。いつものテンションを保て。感情を完全に殺し、相手の心の動きを読んで場をもたせろ。取引とか金銭の授受とかがないだけ、仕事よりも楽だろうが。
 その作戦は成功した。私はいつもの夫を演じきった。週明けの会議に資料作りだと偽って妻を先に休ませ、スコッチのボトルとグラスを携えて書斎にこもった。ベッドにもぐりこむには、もう少しアルコールの助けが必要だった。
 シーツは洗濯してあるだろうし、マットレスも干してあるだろう。例えそうであろうとも、見知らぬ男と妻が汚した寝室はすでに夫婦の聖域ではない。そんなところですんなり眠れるわけなどありはしない。
 グラスを空にするほどに、私の思考は冴え渡った。これからのことを考えなくてはならなかった。いつまでも営業モードを続けるわけにもいかない。妻の本音を糾すとともに、状況を把握しなければならない。
 妻と私は、一緒に映画や芝居を観て感想を話し合い、自分が気づかなかったことを互いに発見するのが楽しみだった。いわば人生のパートナーだ。食わせてやってるという気持を私は持ったことはない。肉体的なコミュニケーションよりも精神的なつながりを尊重していた。
 それが大きな間違いだったのだろうか。月に二、三度の肉体の交歓では、妻の渇きは収まらなかったのだろうか。もし、それが原因なら、私はいくらでも反省し、改めよう。だが、だからといって男を自宅に引き込んでいいという理由にはならない。
 夜が白み、スズメのさえずりが聞こえはじめても、私は眠れなかった。アルコールは胃の底に溜まっているだけで、活性化する気配もない。
 妻が熟睡しているのを確かめて、居間に入った。妻のコンピュータの電源を入れる。まずは状況の把握だ。先日、こっそり覗いたときはざっとチェックしただけだったので、きっと見落としがあるに違いない。
 メールソフトを立ち上げ、書斎から持ってきたフロッピーディスクをドライブに挿入する。受信済みアイテム、送信済みアイテム、削除済みアイテム、受信トレイ、送信トレイの全フォルダの中身をコピーした。フロッピーディスク三枚が必要だった。
(たかだか一か月で、この容量はいったい……?)
 書斎に戻り、私のコンピュータでフロッピーディスクをじっくりとチェックした。
 最初の二週間はTとのやりとりのみだった。どうせマルチ商法の洗脳メールだろうとたかをくくっていた私は、その文面を目にして声を上げそうになった。

*****************************
クレジットOKです!
よく決心したね。成功の階段が目の前に現れた気分でしょう?
心からお祝いするわ。おめでとう\(^o^)/。
投資を怖がる人がいるけど、そういう人は、
所詮、そのレベル止まりなのよね。
私達が目指しているのは、チンケな夢じゃないもんね。
ディーラー10日目でマネージャーへの昇格資格を取得するなんて、
まったく、何てすごい人なの!
さて、クレジットの件だけど、
明日、AM9時に迎えに行くから、一緒に契約しましょう。
その足で、エリアマネージャーのアシスタントに会います。
そこで5セット購入すれば立派なマネージャー候補!
あとは、エリアマネージャーと昇格時期の相談ね。
地域での競合を避けるための割り振りが大変らしいから、
ちょっと待たされるかも。それだけは覚えておいてね。
じゃ、また明日。今夜は眠れるかな? ふ・ふ・ふ。
*****************************

(五セット? いったいいくらになるんだ)
 答えは翌日の受信メールにあった。補正下着一セット二十万円。つまり百万円分を現金一括払いで買ったことをTがほめちぎっていた。クレジットなのに現金だと? 変だ。
(個人融資だ!)
 私にはピンときた。だが、消費者金融の融資額は通常五十万円のはずだ。それ以上になると連帯保証人が必要だ。Tが保証人にでもなったというのか? それは考えられない。知り合って十日目の妻の保証人になどなるはずがない。
 まさか預金の一部で半金をまかなったのではないだろうか。通帳は寝室にある。妻がいないときに確認しておくことを心のメモに刻んだ。
 その他のメールは、二、三行程度の連絡だった。次に削除済みアイテムのチェックに取りかかった。メール数の割には、フロッピーディスク二枚を消費する容量があった。

*****************************
昨日の記念です。楽しいひとときをありがとう。F
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 文面はこれだけだ。日付は、私の出張初日。つまり、妻がショーツを履かずに帰ってきたあの日の翌日ということだ。
 添付ファイルは六点。拡張子はいずれも“.jpg”――画像データだ。
〈一点目〉麻のスーツに身を包んだ妻とロングヘアの女とのツーショット。神戸北野あたりの洒落たレストランだろうか。一目で上等なものとわかるプレートが卓上にあった。隣の女が、Tだろうか。メールで「チンケな」という下卑た言葉を使っていたような女には見えない。胸の谷間が覗きそうなワンピースを着ているが、高級な素材と上品なプリントが品格を醸していた。どこか緊張気味の妻と対照的に、女は自信にあふれ、自分の美貌がもたらす効果を知り尽くした笑みを浮かべている。
〈二点目〉ホテルの一室。無人。ベッドのサイズはダブル。そのままホテルのパンフレットに使えそうな無味乾燥な構図。
〈三点目〉ベッドに伏せた妻。後ろ手に手錠を咬まされている。限界までねじってこちらを睨みつける眼から、混乱と激しい怒りが伝わってくる。
〈四点目〉両足首それぞれにロープが結わえられ、ベッドの脚に固定されている。妻の体は“人”の字を描いている。スカートは腰まで捲り上げられ、パンティストッキングはショーツごと太腿の半ばまで引き下げられていた。ジャケットを着けたままの上半身とのアンバランスさがエロチックだった。
 私は深呼吸をして、この先に待つ映像に備えて気持を落ち着けた。妻はSMじみたプレイまで行っているのだろうか。それとも、ホテルでFに強姦されたのだろうか。いや、それはないだろう。女としての誇りを蹂躙した男を自宅に招待するわけはない。
 私の下半身は、すでにこれ以上固くなりえないほど充血していた。パジャマのズボンの上から軽くしごいて、再びマウスに右手を伸ばした。

 またまた長く書きすぎました。管理人さま、もし私の駄文が掲示板のスペースを空費しているようでしたら警告くださいますよう、お願いいたします。
 明日は休みですので、続きを送らせていただきます。では、おやすみなさい。
  1. 2014/07/30(水) 06:09:08|
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贖罪 第4回

【#04 馴致】
 朝の青白い光が差し込む書斎に、マウスの乾いた音が響いた。
〈五点目〉ベッドの上の妻は全裸に剥かれ、仰向けにされていた。両手を頭上に引き上げられ、二の腕はロープで固定されている。手首をまとめたロープはヘッドボードの上部の壁のブラケットの支柱に留められていた。両脚は、四点目の写真と同じようにロープの張力で強引に割り広げられていた。妻の顔は屈辱感に歪み、頬は膨らんでいる。よく見ると、口の端からグレーの布きれがはみ出していた。ショーツだ。今まで履いていた下着を猿轡代わりに頬張らされているのだ。涙でアイラインが流れ、妻の目尻に黒い筋を描いていた。極度の緊張のために、両の乳首が完全に尖っていた。
(強姦……なのか?)
 私は、食い入るように画面を見つめた。SMという特殊な趣味を持つ人々がいることは知っていたが、その実際に関する知識はまるでなかった。だから、どこまでがプレイかどうかは判然としない。妻の表情はプレイを盛り上げる演技なのかもしれない。
〈六点目〉泣き濡れた妻の顔のアップ。眉間に皺を寄せ、頬に押しつけられた男根から逃れようとしている。軸の部分の直径が五センチを超える勃起に添えられた男の指には、太い指輪が光っていた。左の手首にはロレックス。
〈七点目〉妻の局部。肉芽に卵型の性具が当てられている。その下には、四枚の花弁を割って男根状の黒い淫具が半ばまで挿入されていた。花弁は膨らみきってほころび、透明な蜜と白い粘液にまみれている。
〈八点目〉男性器と女性器の結合ショット。肉の隘路を自らの容積と固さで押し広げ、勃起の根本まで打ち込まれている。激しい抽挿のせいで花蜜が泡立ち、クリームを塗りつけたような惨状を呈している。
〈九点目〉Fの男根のクローズアップ。亀頭のてかり、軸を這う血管、雁首のくびれに溜まる白い花蜜を質感たっぷりに捉えている。眺めているだけで、生臭ささが匂ってきそうだ。戦果をレンズに向かって披露するFの得意げな表情が浮かぶ。
〈十点目〉妻の顔。もう泣いてはいない。屈辱感に貌を歪ませてもいない。焦点の合わぬ眼をレンズに向けている。すっきりと伸びた鼻筋から片頬にかけて、白濁した粘液がこびりついている。口紅が半ばほど落ちてしまった唇にあてがった男根が、残液を吐き出していた。
 無惨な光景だったが、やはり、これはプレイなのだ。ついさっきまで泣いていた妻が、これほどまで陶然とした表情を浮かべるものだろうか。下半身を強ばらせながらも、私の心は重いもので満たされていた。
 溜息をつこうとしたそのとき、写真に写り込んだサイドテーブルの時計に気がついた。ピンぼけだが、長針と短針の角度はわかる。
 二点目から確認をしていった。時計が写っているものは四点あった。
 三点目――三時。
 四点目――三時十分。
 五点目――三時三十分。
 十点目――八時二十分。
(冗談やろ! 五時間やで)
 私は呆気にとられ、もう一度、確認した。妻が全裸にされてから約五時間。淫具で責められはじめたのは、その直後か……?
 五時間にわたって性感を刺激し続けられたら、始まりは強姦であっても、最終的には快楽の高みに押し上げられるのではないだろうか。
 固く閉じられた女陰の合わせ目を熱い唾液で溶かされ、機械の淫らな振動で肉芽を揺すぶられるうちに、体は心を裏切りはじめる。そこに張形を押し込まれてはひとたまりもないだろう。乳首への刺激と相まって、下半身の疼きは急速に高まってゆく。すでに花蜜はおびただしい分泌量となり会陰からアヌスまでぬめ光らせているにちがいない。機械の無機質な振動とシリコンの質感に、やがて妻は物足りなくなる。その瞬間を狙って口元に男根があてがわれる。本物の快楽を与えてくれる肉棒。オーガズムへのパスポート。妻の理性ははじけ飛び、重たげに揺れる男根に自ら唇を近づけてゆく。Fに命じられるままに性器の俗称を口走り、腰をせり上げて挿入を請う。
 あり得るだろう。一種の性的拷問に妻は屈したのかもしれない。
 私は三枚目のフロッピーディスクを挿入した。

*****************************
もう、私無しではいられないのがよくわかったでしょう? F
*****************************

 相変わらず素っ気ない文面だ。日付は昨日の午後六時。私が帰宅する五時間ほど前に送信されたものだ。それが削除済みアイテムにあるということが、妻が頻繁にメールチェックを行っていることを示している。
 このメールには、画像ファイルが六点、添付されていた。
 妻とFの初めての交わりを記録した映像ほどのインパクトはなかった。俗に“ハメ撮り”というやつだ。しかし、醜い交合が行われてる場を確認したとき、私は激しい脱力感とやりきれなさに見舞われた。それは、今、妻が穏やかな寝息を立てている寝室だったのだ。
 見慣れた家具、インテリア、そして寝具……。私と妻が入ることだけが許される空間に、かつてFの体臭や声が満ちたのだ。写真の一枚に写り込んだ掛け時計は六時すぎを示している。カーテンを開けっ放しにした窓から風景が見える。影の向きから、それが朝であることがわかった。ちょうど二十四時間前だ。
 私の留守をいいことに、Fは一泊したのだ。
 ――もう、私無しではいられないのがよくわかったでしょう?
 Fの自信たっぷりのメッセージが、真実味を帯びて私の胸に突き刺さった。
 妻は、マネージャー昇格という餌に釣られ、Fの男根と性技の罠にかかってしまったのか。
 私は、妻との交わりの回数をもっと増やすべきだったと悔やんだ。性的な欲求不満を、新事業でまぎらわせようとしたのかもしれない。もし、そうであったなら、原因は私にあることになる。夫婦のトラブルは、妻か夫かどちらか片方が引き起こしたものにせよ、その責任は双方で負わねばならないのだ。
 Fに飼い慣らされつつある妻が不憫でならなかった。同時に、妻の性感がどのように開発されてゆくのかということに一抹の興味があったことは確かだ。
 フロッピーディスクの中身をハードディスクに移し替えて作業を終了した。
 窓を開けると蝉の声が飛び込んできた。
 私に睡魔が訪れる気配はなかった。

  本日は公休日のため、文章書きに専念することができました。当時の状況を冷静に思い出しながら文章にしてゆくうちに、いろいろなことが見えてきました。愚かなほどの楽観主義。妻の性感がどう変わるかなどと考える無責任さ。自己嫌悪に陥りそうになります。
 泣き言はここまで。続きは、また後日。よい週末をお過ごしください。
  1. 2014/07/30(水) 06:10:08|
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贖罪 第5回

【#05 停滞】
 週末に、また急な出張が入ってしまった。得意先の年末キャンペーン企画の詰めを行わねばならない。担当者が夏の休暇に入るまでに決済事項をクリアするのだ。
 妻が風呂に入っているときを見計らって、すべての預金通帳の残高を確認したが、使い込みや無断の解約などの証拠は見つからなかった。やはり、Tが連帯保証人になったのだろうか。それほど、Tたちの事業は将来性があるのだろうか。
 今となっては、私の手元にあるネタは例のデジタルフォトのみだ。妻からFへのメールがあればまだしも、Fからの一方的なメールだけでは、いくらでも言い逃れができる。デジタルフォトにしても、電子的にコラージュした“悪い冗談”だと言われればそれまでだ。
 妻の不倫を暴く最後の手段は、現場に踏み込むこと。
 だが、それでどうなる。離婚か?
 妻がどうしようもない性悪女ならまだしも、家事はそつなくこなすし、近所づきあいにも如才ない。夫婦仲はいたって円満だし、家を空けることもない。
(あれ……?)
 心の中のバランスシートは、プラス面に傾いている。自分ひとりが熱くなって空回りしているような錯覚にとらわれた。Fが妻の人生に登場したこと以外、これまでと何も変わりはしない。夫婦関係にヒビが入らないかぎり、Fとの浮気は妻のプライベートな出来事、単なる気晴らしだと言えるのかもしれない。
 私は自分が醒めていくのを感じた。この一週間の懊悩はいったい何だったのだろう。自分で掛けた梯子を自分で外してしまった今、着地点が見つかるまで、私は宙ぶらりんのままでいなくてはならない。出張の間中、その思いがエンドレスで私の脳裏を去来した。
 課長、と呼びかけられて、私は我に返った。出張に同行している部下のMだった。出張帰りという安堵感のせいか、表情がゆるんでいる。Mの無防備さにつけこむことに胸の痛みを感じながらも、私は訊かずにはおれなかった。
「M、おまえ確かバツイチやったな。ええ人はもう出来たんか」
「まさか。今でもヨメはん思い出して枕を涙で濡らしてますよ」
「ほんなら、なんで別れたんや」
「アホな亭主に愛想づかしいうとこですわ。ヨメはんが男作って抜き差しならんようになるまで気づかんかったんです」
「修羅場……やったんやろな」
「いや、円満離婚でした。すっかり男に馴染んでしもた言われると、怒る気ものうなってしもて……。今でも、その男といろいろしよるんやろな思うと、もやもやしてきます。男はほんまに損や。いや、ぼくだけかもしれへんけど」
 車内販売のワゴンが車両に入ってきた。私は札入れを取り出した。新幹線は米原を過ぎたあたりだ。ねぎらってやってもいいだろう。「ビール、飲むか」
「ええんですか?」
「どうせ直帰や。ビールくらいかまわんやろ」
 私は、Mの話に着地点を見つけた思いがした。不倫によって妻がどう変化してゆくかを見守るのもいいかもしれない。結婚して十一年間、男といえば私しか知らなかった妻が、どう変貌してゆくかを。
 Mは法的にも物理的にも伴侶と別れなくてはならなかった。だが、精神的には、まだ妻の面影を追い続けている。それに比べて私の恵まれた境遇はどうだ? 夫婦関係の維持と性的好奇心への刺激との両方が満たされようとしているのだ。
(歓迎すべき状況ということかな)
 わだかまりが消えたような気がした。喉を滑り降りるビールの冷たさが、なんとも心地よかった。
 その日を境に、私は二日に一度、妻と交わるようになった。
 義務感ではない。見慣れていたはずの仕種、肢体、声、ちょっとした表情に新鮮な色気を感じ、三十三歳の肉体を貪らずにはおられなくなったのだ。
 ベッドでの妻は、別人と言ってもよいほどの豹変ぶりを見せた。
 これまでおざなりだったフェラチオがねちっこくなった。以前は唇をかぶせて舌を蠢かすだけだったのが、今では一方の手で陰嚢をやわやわと揉み込みながら、もう片方の手で軸をしごき、舌全体で亀頭を圧迫するなど、さまざまな技巧を弄するようになった。とりわけ、私の反応を窺うかのように投げかけてくる視線にとても興奮させられた。
 もちろん、変化はフェラチオだけにとどまらなかった。
 私を最初に受け入れる体位は騎乗位が定番となった。自ら両の乳房を握りしめ指を食い込ませながら、腰をグラインドさせ、スライドさせ、打ち込み、早々にいってしまう。
 だが、それはまだ妻にとっては前戯に等しい。
 結合を解くと、ふたたび私の怒張を咥えて自らの愛液を舐め取り、その口でキスを求めてくる。私の先走りの粘液と妻の愛液が混ざり合った唾液は獣じみた匂いを発し、私の理性は消し飛んだ。
 それまで三十分ほどで終わっていた夫婦の交歓が、最低一時間かかるようになった。週末の夜は二時間たっぷり使って快楽を共有する。それで厭きることはなかった。妻の肉体を貪る私の脳裏には、常にFから妻に送られてきた写真の残像があった。その一ショット、一ショットがフラッシュバックするたびに、男根に力がみなぎった。
 そんな自分は変態ではないか、と自己嫌悪に陥るほど私はうぶではない。妻の密やかなアバンチュールを認めた以上、その見返りを受ける権利がある。どこまで妻が淫らになるか、私をどれだけ愉しませてくれるか……。それは新婚時代以来の性的興奮と言えた。
 秋の気配が漂いはじめたある日。帰宅した私を迎えたのは、ドレスアップした妻と、華やかに飾られたダイニングテーブルだった。特上のにぎり寿司と大吟醸の一升瓶をキャンドルの柔らかい光が彩っていた。
(何の祝いだ? いや、記念日か?)
 とまどう私に、妻が封筒を差し出した。
「マネージャーの認定証なの。誰でもなれるディーラーは、もう卒業。これからは、ディーラーを育てる役割やから大変やわ。もちろん、収入かて増えるから楽しみにしてて」
「まだ二か月も経ってへんやんか。ずいぶん無理したんとちゃうか」
 私は水を向けてみた。
「カネかてちょっとは遣うたんやろ」
「ちょっとだけ、ね。マネージャーになるためには避けて通れん借金やったけど、もう全額返済ずみやから心配せんとって。さあ、いよいよ事業主への第一歩。一緒に祝って」
 私はそそくさとシャワーを浴びると、テーブルに着いた。
 いつになく、妻は饒舌だった。商売のシステムを得意げに説明してくれたが、マルチ商法に関する書籍を読みあさっていた私にとって目新しいものではなかった。
「それで、会社でも興したりするわけ?」
「ううん。まずはTさんのアシスタントをしながらマネージャーの仕事を覚えようと思てる。Fさんいうエリアマネージャーも力を貸してくれるらしいから心強いわ」
(Fってのは、エリアマネージャーだったのか)
 マルチ商法はいずれもそうだが、レベルアップするためには上位レベルの者の推薦が必要だ。マネージャーTの一存では妻をマネージャーに引き上げることはできない。推薦の代償として、妻の肉体を要求したのだろう。このようなことは日常茶飯事なのだろうか。
 問題は、いつ妻にストップをかけるかだ。幸い、妻は被害者にはならなかったが、加害者になりうる可能性は十分ある。
 だが、妻に言い出すタイミングが掴めない。それを考えると、うまいはずの寿司が急に味気ないものになった。
 停滞の始まりだった。

 今回は、あまり変化のない話で申し訳ありませんでした。このときに手を打っておかなかったことが、非常に悔やまれてなりません。停滞だとばかり思っていたこの時期に、妻と私が絡め取られることになる罠の布石が次々と打たれていたことは想像の埒外でした。
 では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 06:11:13|
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贖罪 第6回

【#06 接触】
 例の一件以来、妻と私との関係は良好だった。特に、性的な面での充実感は結婚して初めて感じるものだった。新婚時代にもこのような満足感を得たことはない。結婚生活というのは、互いの生活環境の違いからくる違和感をすり合わせる過程にもっとも時間を使うものだ。新鮮な悦びを代償にしながら。
 結婚十一年にして、このような新しい視野が開けるとは思わなかった。Fという男と今でも会っているのは確かだが、純粋に肉体だけの関係だろう。私の心がざわめかなかったといえば嘘になるが、その心の揺れすらをも官能の加速剤にできるほど、当時の私には余裕のようなものがあった。さらに、マネージャーに昇格したからといって、妻の収入が飛躍的に上がることがなかったことにも安堵していた。妻自身がディーラー勧誘を行っているのではないことを、収入の横這い状態が意味していたからだ。
 妻がTと知り合ってからすでに半年。もうすぐ事業熱も冷めるだろうと、たかをくくったまま、新年を迎えた。
 私の実家と妻の実家に年賀の電話を入れ、屠蘇代わりのビールを冷蔵庫から取り出したとき、玄関のチャイムが鳴った。
 おれが出るよ、と言って玄関に向かった。オートロック解除を求めずにいきなりチャイムを鳴らせるのはご近所の者か、極々親しい友人だけだ。
 相手の確認もせずにドアを開けた私の前に立っていたのは、Fだった。
 タートルネックのセーターに目の粗いウールのジャケット、厚手のチノパンツという出で立ちだ。満面に人なつこそうな笑みをたたえているが、薄い色のついたサングラスの向こうの眼は笑ってはいない。
「明けまして、おめでとうございます」
 名乗りもせずにFが言った。私はつられて同じ言葉を返した。
「すでにご案内いただいているかと思いますが、私はFと申します。昨年の夏から奥さんにはいろいろお世話になりまして」
「いえ、こちらこそ、……どうも」
 迂闊だった。妻のビジネスと自分はいっさい関係がないというスタンスで接するべきだった。
「あら、Fさん!」
 妻が廊下に姿を現した。Fと新年の挨拶を交わすと、私に向かって言った。
「せっかく来られたんだから、あがってもらいましょうよ」
「よろしいんですか?」Fは私を見た。「大手広告代理店の管理職をなさってるんでしょ。部下の方が新年のご挨拶に見えるんやないんですか」
「もう五年も前から、そんな虚礼は廃止になったんです」すかさず妻が答えた。「さ、遠慮なさらず、どうぞ、お上がりください」
 リビングのソファにどっかと腰を据えたFは、遊び人風の格好からは想像できないほど、よく気のつく男だった。妻の料理をほめ、私の仕事をねぎらい、次から次へと話題を繰り出した。
 だが、相槌を打ちながらも、私は上の空だった。
 今、Fが座っているソファで、妻に口腔奉仕をさせていた光景が脳裏から離れない。出張期間が延びたと偽ってマンションにとって返した私が見た、あの夏の宵の光景が……。
 Fの話題が一段落つくと、妻が腰を上げた。「あ、そうそう。Tさんに年始の電話をしておかなきゃ」
「そらええこっちゃ」Fが大きくうなずいた。「このビジネス、基本は人間関係やからね。節目節目のコミュニケーションは大切や」
「ほな、話が長くなるかもしれへんから、あっちの電話使うね」
 寝室へ消える妻を見送り、Fが目尻を下げた。「ほんまにええ奥さんやねえ。ご主人、幸せ者でっせ。あんな嫁はんを毎晩、抱けるっちゅうのは」
 露骨な言葉に唖然となっている私にかまわず、Fは続けた。
「ご存じやと思いますが、ご主人のお留守にときどきお邪魔してるんですわ。そのたびに奥さんを抱かしてもろてますが、いやあ、最高やね。天国に昇る心地とはあのこっちゃね」
(挑発してるんか?)
 私は決して血の気の多いほうではないが、このときばかりは獰猛な怒りが膨れあがるのを感じた。次の言葉を待って、殴るなり、マンションから叩き出すなりの行動を起こすつもりだった。
「悪いとは思たけど、ご主人のパソコン、見せてもらいましたで」
 頭にのぼった血が一気に下がった。まさか……?
「ぎょうさんコピーしたファイルが残ってましたな。いくら夫婦いうたかて、奥さん宛のメールを勝手に覗くのは、ええ趣味とちゃいますな」
「そ、それは夫婦の問題やろ。あんたに指図される筋合いは――」
「奥さん宛のメールには、私らの商売のノウハウが詰まってるんです。夫とはいえ、部外者に洩れたら困るノウハウがね」
「ぼくは誰にも――」
「それに」Fは私をさえぎって声を低めた。「ただでさえ、大損しそうやいうのに」
「……大損?」
「元旦からこういうことは言いたくはないんやけど、奥さんの成績がいまいちでねえ。Tさんや私が保証人になって、どうにかマネージャーの地位をキープさせてやってるんですわ。どういうことがわかりますやろ?」
 私は首を振った。Fは溜息をついてから、経緯を語った。
 マネージャー以上のレベルにある者は毎月のノルマを果たさねばならないという。商品の売上か、ディーラーの勧誘かどちらかのノルマを。だが妻は、マネージャー昇格以来、ノルマを果たしていないのだそうだ。マネージャーに固執するあまり、妻は商品を自分で買い取って見かけ上のノルマをどうにか維持してきたという。
「奥さんの負債、知ってはります?」
 Fはますます声をひそめた。
「元金だけで三百万いってまっせ。私もTさんも、もう保証人としては限界や」
「私に払え、とおっしゃるんですか」
 元金だけで三百万円。利息を合わせればどれくらいになっているのだろう。
「まさか。名義は奥さんですから、ご主人には関係のない話や。いちおう、情報としてお耳に入れておこう思たんですわ」
 しかし、と反論しようとした私を、Fは押しとどめた。
「奥さんは、自力で返済する言うてます。あんたにできることは、おとなしく見守ってやることだけや。奥さんが家を空けたりしても、騒がんこと。できますやろ、それくらい。私と奥さんとの関係を黙認していたくらいやから」
 私にはぐうの音も出なかった。声を荒げるわけでもなく、ドスを効かせて恫喝するでもなく、Fは事実の積み重ねだけで私を圧倒した。
「そうでもしないとノルマが消化できないんですか」
「いや、そうやない。ここまでくれば、商売で返済することは無理ですわ。レベルアップとかの問題やのうて、返済のみに絞ってもらわんとね」
「とにかく負債の額を確認して、返済できる分は何とかします。あとは、夫婦でパートでも何でもして――」
「無理やと思うけどね。こうしてる間も金利はどんどん膨らんでるんやから。ほんまにトイチいうのは怖いわ」
 トイチ――十日で一割の金利という融資だ。元金が三百万円だとしたら、十日で三十万円の利子がつく。月収十五万という妻の収入では、利子の半分でしかない。利子が元金に繰り入れられ、さらに負債がかさんでゆく無間地獄だ。
「どうすればいいんでしょうか」
「だから、さっきから言うてるやないですか。奥さんの行動にとやかく口出ししないこと。これで丸く収まるんやから楽なもんや」
(主婦売春!)
 ひらめいたのは、その言葉だった。私の表情の変化を、Fは咄嗟に見抜いていた。
「おっと。想像するのは勝手やけど、そんなしょうもないもんちゃいまっせ。人品骨柄卑しからぬ人物と付き合ってもらうだけですわ。まあ、半年もすれば借金はきれいに無くなります。心配せんかてよろしい」
 私はうなだれた。
「まあ、心配するな言うほうが無理やろな」Fは腕組みをして天井をにらんだ。「気になるんやったら、あんたも来たらどうや? そのかわり、単なるオブザーバーに徹してもらいまっせ。約束できるんやったら、できるかぎり便宜を図ったるわ」
 私は激しくうなずいた。妻の帰りを、この部屋で悶々として待つ日々を想像するだけで気が狂いそうだ。妻が誰に、何をされているのかを見るほうがまだましだ。
「そういうことやから」いつの間にか、リビングに入ってきた妻がぽつりと言った。「ごめんね。こんなんなるまで黙ってて。あなたには決して迷惑をかけたくなかったの」
 片腕にコートを掛けた妻はセーター・ドレスを着込み、すでに化粧まで済ませていた。髪はオールバックになでつけられている。
 Fが立ちあがった。「奥さん、ほれぼれするくらいべっぴんやなあ。ほな、行こか」
「どこへ?」私はソファにへたり込んだまま訊いた。
「ご主人。借金返済のためのお仕事や言うたやろ」
「い、一緒に行ってもいいですか」
「あかん。今日は先さんに話を通してへんから。次は連れてったるわ」
 玄関先で妻にコートを着せてやるFは、私よりも夫然としていた。
 妻は振り返ることなく出ていった。
「今夜は遅くなるで」
 Fの最後の言葉が、私の脳裏に突き刺さっていた。

 またまた中途半端なところで終わってしまい、申し訳ありません。次の土日で悪夢の正月を総括した文章をしたためたく思います。どうかよろしくお付き合いくださいませ。では、後日。
  1. 2014/07/30(水) 06:12:36|
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贖罪 第7回

【#07 決意】
 正月のテレビがつまらないのは毎年のことだが、その日ばかりは、番組の内容のなさ、タレントたちの馬鹿騒ぎぶりがありがたかった。
 私はリビングのソファにだらしなく身を沈め、ブラウン管をただ眺めていた。目まぐるしく落ち着きのないショット、正月ムードを演出するための極彩色のセットが私の注意を促し、ネガティブなものになりがちな思考の邪魔をしてくれていた。
 今夜は遅くなる、とFは言ったが、何時頃になるんだろうか。現在、午後九時三十分。Fに伴われて妻が出ていってすでに十二時間近く経つ。妻がどんな目にあっているのかがわからないだけに、焦燥感が募る。
 F以外の男に組み敷かれているのは確かだが、十二時間は長すぎる。五時間におよぶFの性的な玩弄に陥落した妻だったが、夫以外の男との性交に対するハードルをすでに越えてしまった今、初対面の男に体を開くことへの抵抗は、そう強くはないだろう。
(なんちゅうこと考えてるんや!)
 妻を庇護し、妻が味わう苦痛を和らげるために存在していると自負していた私は、胸に忍び込んできた邪悪な思いに愕然とした。
 Fの口ぶりでは、妻が相手をさせられるのは、社会的地位の高い人物ばかりだそうだ。そんな紳士たちが、一介の主婦をカネで買ったりするだろうか。素性の知れないFのようなやつから女を買うような危険を冒すだろうか。
 そんな楽観的な発想は、湧いてくるそばから、もう一人の私に却下された。
 社会的地位の高い人物が紳士とは限らない。Fの素性は確かで、それなりのステイタスを持っているのかもしれない。
 長年、広告代理店の営業マンをしていれば、財界、学会、医師会、そしてマスコミ業界の噂話が当然耳に入ってくる。私自身、いろんな業界のトップたちの接待に同席してきたが、清廉な人物もいればゲス野郎もいた。特に、社会的な地位があるだけにゲス野郎は始末に負えなかった。
 そんなやつらに、今、妻が組み敷かれているのではないかと思うだけで、屈辱感で胸が押し潰されそうになる。
 玄関のチャイムが鳴った。
 午後十時。夜更けという時間ではない。バラエティショーの効果音かとテレビに注意を向けたとき、再びチャイムが鳴った。うちだ!
 あわてて玄関に向かい、ドアを開けた。
 妻が立っていた。
 朝、出ていったままの姿だった。異なるのは手にペーパーバッグを提げていることだけだ。
「……おかえり」私は自然な笑みをつくろうとしたがうまくいかなかった。
「………」妻の唇がこまかく震え、私を見上げる眼から涙があふれた。「ごめんね、お正月なのに……ひとりにしちゃって」
 そのとき、妻がまったく化粧をしていないことに気づいた。そういえば、家を出るとき手ぶらだった。メイクを直そうにも化粧品はなかったのだ。
 リビングに入っても、妻はコートを脱ごうとはしなかった。
「寒いんか? 今、ヒーターの温度上げたるから」
 ファンヒーターに歩み寄ろうとする私を制して、妻はコートのベルトに手をかけた。うなだれたままでボタンをはずし、前を開く。
 セーター・ドレスはなかった。ブラジャーもない。ショーツもストッキングも着けていなかった。
 場違いな全裸に私は言葉を失い、ただ凝視するほかなかった。
 寒さのためか性交の余韻か、乳首は固くしこっていた。柔らかく繁っているはずの陰毛はヘアジェルを塗りたくられたように恥丘に張り付いている。私は、他にも異変はないかと妻の白い肌に視線を這わせた。
 乳房と脇腹に赤紫の痣が散っている。キスマークだ。
 妻は私の眼の動きを読み、コートを足下に落として回れ右した。
 肩、腰のくびれ、臀部、ふくらはぎにもキスマークがつけられていた。
 今夜のことを妻に決して問い質すまい、と私は決意していた。性交のあからさまな痕跡を目にした今となっても、私の心は変わらなかった。
「くやしい……」床に広がったコートに膝をつき、妻が泣きじゃくった。「この体が、憎い。この体が……」
 私は寝室から妻のパジャマを取ってきた。上着を羽織らせ、ソファに座らせると肩を抱いてやった。
 妻が落ち着きを取り戻したのは、小一時間ほど経ってからだった。
「風呂に入ってさっぱりしてきたらどうや」
「何があったか訊かへんの?」
「いやなことを思い出させとうないし、もう済んだことやんか」
「済んでへんよ」妻は両手で乳房を持ち上げ、キスマークを私に見せつけた。「ずっと、こんなもんがつくのよ、私の体に。消える前に新しいのをつけられ、それが消える前にまた新しいのをつけられ……。きっと、こんな私がいやになると思う。別れるんなら、早いうちがええやない。そやから、聞いてもらいたいの、あれから何があったか」
 妻の眼には真摯な光が宿っていた。私は深くうなずき、すべてを聞く心構えができたことを伝えた。

 あれから、妻はFのクルマで大阪に連れていかれたという。
 駅前にある外資系のホテルで早めの昼食をとり、ふたたびクルマに乗せられて、中央区にある寺の駐車場に入った。
 場慣れしている様子のFは、鉄筋コンクリート建ての庫裡に妻を案内した。迷路のような廊下の先にあったのは茶室だった。Fの後からにじり口をくぐると、そこにはテレビでときどき見かける僧侶が作務衣姿で座っていた。
 僧侶とFは神妙に年賀の挨拶を交わした。
「管長、初詣などでお忙しいんじゃないんですか」
「かまわん、かまわん。そういうことは、下っ端の坊主にまかせておけばよろしい」
 七十年輩にしては張りのある声だったそうだ。勤行で鍛えているせいかもしれない。
「お約束のご婦人をお連れしました。なにぶん初めてですので、お手柔らかに」
「初めて? まさか、生娘というわけではあるまい」
 ご冗談を、と追従笑いをしながら、Fは妻のバックグラウンドを語って聞かせた。
「なるほど。それは責任重大。私のやり方しだいで、あとの者が極楽を見るか地獄を見るか、というわけだね」
「地獄やなんて、正月早々、縁起でもない。お気が済みましたら、ご連絡ください。すぐに引き取りに伺いますので」
 Fはそう言うと、茶室を出ていった。
 妻と二人きりになると、僧侶の態度ががらりと変わった。僧職にある人物ならよもや、という一縷の希望を、妻は絶たれた。
「正月というのに、亭主に留守居をさせて男を漁りにきたか。いい度胸だ。まずは身体検査だ。さっさと裸になれ。ぐずぐずしてると火箸でお仕置きだぞ」
 全裸になった妻はさまざまな姿態をとらさせられたあと、犯された。
 僧侶の陰茎はどす黒く、傘の部分が異常に張り出していた。それは、長年にわたる女遍歴を如実に物語っていた。
 その醜悪な男根に嫌悪感を抱きつつも、羞恥心を刺激され湿り気を帯びはじめていた妻は、腰を沈めずにはおれなかったという。
 仰向けになって妻を乗せた僧侶は余裕と自信にあふれていた。
 乳房を揉みしだいたり、結合部に手を伸ばして肉の突起を嬲られたりされ、妻は完全に性感の虜となってしまった。
 老人斑の浮いた太腿や尻が、妻の白い尻と重なり合うさまは、本来は不自然で醜いものであるはずだ。だが、その光景を思い浮かべた私は、強い刺激を受けていることに気づいた。
 僧侶はなかなかいかなかった。幾度も達し、自分の腹の上に身を投げ出した妻との結合を解き、全身に舌を這わせはじめたという。
 数センチずつというのろさで妻の肌を味わい、首筋から爪先まで時間をかけて舐め下ろすと、次はうつぶせにして同じことを繰り返した。その間、気の向くまま肌を激しく吸い、征服の印をつけていったというわけだ。
 それは、私へのあてつけだったのだろう。自分の女房の不始末にすら気づかず、ついには他人に汚されなくてはならない間抜けぶりを嘲笑っているのだ。
 舌の愛撫だけで、妻はさらに数え切れないほどのエクスタシーを迎えた。そのときには理性などなく、一匹の牝として、男根の挿入を涙ながらに乞うたという。
 僧侶は床の間に置いていた数珠を引き寄せると、妻の尻を掲げさせた。
「魔羅が欲しいか、女?」
「お願いします。く……ください」
「ちょっと締まりがゆるいな。それではわしを満足させることはできん」
「精一杯、締めますから。お願いです。じらさないで……」
「締まるようにしてやろう。管長様じきじきの情けだぞ。ありがたく頂戴しろよ。返事は?」
「ありがとうございます。お情けをくださいませ」
「よく言った。尻の穴の力を抜け」
 言うと同時に、僧侶は数珠を丸めて妻のぬかるみにまぶした。Fとの情交には淫具を使うことが常だったが、数珠の感触はシリコンや樹脂とは異なった感触だったそうだ。
 妻は腰をグラインドさせて、あてがわれた異物をくわえ込もうとしたが、すぐに数珠の感触は消えた。異物感はアヌスに移動したのだ。わずかに残っていた羞恥心によって妻は片手を後ろに回した。だが、すぐにその手も邪慳に払われてしまった。
「もう一度、そんなことをしてみろ。Fに叩き返す。おまえを使わんように、全員に回状を出す。借金は一文も返せんようになる。それでもいいのか」
「申し訳ありませんでした。私が心得違いをしておりました」
「うん、それでいい。反省の証に、自分で数珠を入れてみろ」
 僧侶は妻の手に数珠を握らせた。
 妻は自らの愛液にまみれた数珠を一粒ずつ、臀部のすぼまりに押し込んでいった。
 数珠のほとんどが直腸に消えると、僧侶は肛門から顔を覗かせた数珠の端を手に取り、後背位で妻を貫いた。
 そして、数珠をゆっくりと引き、食い締めようとする括約筋の抵抗を愉しむかのように数珠を引き出した。
 妻は、かつてない鋭い快感を味わった。数珠の一粒を括約筋が解放するたびに、陰茎が打ち込まれた肉洞全体に波が走る。内部の襞が肉棒に密着したところで勃起の抽挿が行われる。
 四粒目が引き出されたとき、妻は完全な牝になった。ひどく盛りのついた牝に。

「いやらしいことをいっぱい言わされたけど、よく覚えていない」
 語り終えると、妻は薄く自嘲の笑みを浮かべた。
「どお? こんな女なんか嫌いになったでしょ」
 私は下半身のこわばりを妻にさとられないように脚を組んだ。妻の体に刻まれたキスマークが、生々しさを増していた。
 私の沈黙を逡巡と受け取ったのか、妻は決定打のつもりで両脚を開いた。
「見える? お坊さんの精液。たった一度だけ、最後に私の中でいったの」
 透明になりつつある白濁液が、充血した肉裂の合わせ目から滴り、妻の会陰部から肛門まで濡らしていた。
「ほんまはもっと溢れてたけど、旦那に見てもらえって、下の毛になすりつけられたのよ」
 陰毛のこわばりは、そのせいだったのか。私は、生き物のように息づいては粘液を吐き出す女陰を、ただ眺めていただけだった。
 もちろん、妻と離婚する気はまったくなかった。新婚夫婦であったなら、感情が先走って事態をさらに悪化させたかもしれない。だが、当時、私たちの結婚は十一年目に入っていた。妻は私の一部であり、人生のパートナーであると信じていた。
 妻の体を男の肉体がよぎるたびに感じる烈しい刺激の正体を確かめたいというのが、私の本心だった。私に対する妻の愛情に変わりがないかぎり、最後まで付き合ってやろうと、心に決めていた。

 何かの本で、「男は三十歳で人生の大きな転機を迎える」というような一文を読んだ記憶がありますが、そんなことはない、というのが私の正直な気持です。男は、いや、夫婦はいくつになろうとも人生の転機を迎えることができると思います。現に、私たちがそうでしたから。おっと、柄にもなく説教じみたことを書いてしまいました。申し訳ありません。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 06:13:54|
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贖罪 第8回

【#08 傍観】
 三宮の駅前で私を拾うと、Fの運転するBMWは山手に向かった。
 午後八時。すでに日本屈指の夜景がクルマの前後左右に広がりつつある。だが、神戸の夜景は、そのさなかにあっては堪能できない。神戸港からのパノラマがすばらしいのだ。それはまさに、官能のありようにも似ている。エロティシズムとは、ある程度、距離を置いてこそ、その香りを味わうことができる。どっぷり浸かってしまっては、単なる肉体の刺激が支配するベタで無粋な世界が広がるだけだ。
 これから私は妻の痴態を目撃する。指一本触れることなく、声ひとつかけることなく、ただのオブザーバーとして、見知らぬ男に狂わされてゆく妻の姿を見つめていなくてはならない。そんなことはごめんだという男性もいるだろう。精神の均衡を乱されてしまう男性もいるかもしれない。だが、私は取り乱すことなく、妻の狂態を見届けることができるという確信めいた自信があった。
 元旦の夜、妻の告白を聞き終えた私は、妻と風呂に入った。汚れてしまった身を嘆き、不本意にも激しく反応した性感を呪う妻を湯船の中で抱き、隅々まで洗ってやった。すべての汚れは洗えば落ちる。心まで汚れていなければ大丈夫だと励ましながら、湯が生ぬるくなるまで妻を抱き続けた。
 BMWは、山手の大通りから急な坂に入り、高価そうな分譲マンションの駐車場に乗り入れた。
「着いたで」
 助手席の私を一瞥して、Fはドアを開けた。

 七階建てのマンションの最上階でエレベーターを降りた。
 一戸一戸の面積が広いらしく、吹き抜けの周囲をポーチ付きの玄関が四つ囲んでいるだけだ。その一つのドアにFがカードキーを差し込んだ。
 作りつけの下駄箱のガラス扉の向こうに男物の靴が三足、女物の靴が二足見えた。一つは妻が気に入っているショートブーツだった。
(いわゆる5Pというやつか……)
 私は溜息を洩らした。仕事帰りの身にとって、いささかヘビーな光景を見ることになる。
 住戸内のどこからか、かすかに人の話し声がする。妻の嬌声が耳に飛び込んでくるものと覚悟していた私には、ちょっと意外だった。
 Fに招き入れられた六畳ほどの和室の一方の壁にはモニターテレビが三台並び、その前に置かれた文机には、レバーやつまみがひしめくビデオ編集機のような装置があった。
「適当に座り」
 部屋の隅に積まれた座布団を指し示すと、Fはモニターテレビのスイッチを入れていった。三つの画面のノイズがかき消え、鮮明な映像を映しだした。フローリングの広い部屋が三つのアングルから捉えられている。
「リビングや」
 Fはぶっきらぼうに言うと、レバーを操作した。
 画面の一つがソファセットをズームインした。三人掛けのソファに初老の男たち、一人掛けのソファ二脚のそれぞれに女の姿があった。一人は妻、もう一人はTだ。五人は服を着ていた。着衣に乱れはない。
 私は首をひねった。すでに九時前だというのに悠長なものだ。カネに明かせてこんな高級マンションを秘密の隠れ家にしている爺さんやおっさんの割にはがつがつしたところがない。元旦の日に妻を犯した僧侶とはまったく違う。
「しもた! つまらんな」
 Fが舌打ちをして、私に首をねじった。
「もうお開きやで、今夜は」
「妻を、このまま帰してもらえるんですか」
「帰すもなにも、あとの祭りやがな。いや、祭りの後、言うたほうが正しいんかな」
「………?」
「もうとっくに終わったちゅうことや。もうちょっと早よ会社を出て来なあかんで。オブザーバー失格や」
 合点がいかない様子の私に、Fは面倒くさそうに語って聞かせた。
 三人の男とTは、すでに妻を貪ったあとなのだという。午後六時集合だったから、クライマックスは八時過ぎだろうとFは踏んでいた。だが、予想に反して5Pの宴は終わり、全員がシャワーを浴びて身繕いをすませたばかりの場面だったのだ。
「奥さんが新鮮やったから、おっさんたち飛ばしすぎたんちゃうか」
 私は肩を落とした。何を目撃してもうろたえぬように、朝から気を張ってきた。その反動が、落胆にも似た疲れとなって私の心をふさいだ。
「見たかったなあ、奥さんが四人に責められるとこ」Fは大袈裟な溜息をついた。
「ちょっと待ってください。今、四人て言いませんでした?」
「ああ。Tさんが指導係になって、おっさんたちに奥さんを嬲らせたんや。同じ女やから、結構えぐいことやったんちゃうか。それが見たかったんや」
 同意しそうになる自分を必死に抑えた。妻が味わう恥辱を共有し、痛みを分かち合おうと心に誓っていたんじゃないのか、おれは? なぜ落胆する? なぜ、モニターに近づいて妻の憔悴ぶりを見守ってやろうとしない?
「そないにがっかりせんかてええやろ」
 Fは私を見て苦笑した。
「一部始終はビデオに撮ってあるから、次の機会にでも渡したるわ」
「いえ、結構です。その場におらんと意味がありませんから」
「ははーん、ライブ志向か? 臨場感がないと立ちが悪いちゅうわけかいな」
「いや、そういうわけでは……」
 Fに本心を見透かされたような気がして、私はあわてて首を振った。
「まあ、ええ。声だけでも拾てみよか」
 操作盤のつまみにFの手が触れると、文机の端にセットされたミニスピーカーから男たちの声が流れはじめた。
『とは思えなかったよ、あの反応ぶりを見るかぎりね』
『まったくや。Tさんの出る幕がなかったんと違うかい?』
『私なんか邪魔なくせに』Tの声。写真の印象とは異なり、透明感のある細い声だった。『でも、教授がお持ちになったバイブはよさそうでしたわ』
『実用面では日本製にまさるものはないらしいが、ドイツ製のものには独特のムードがあるよね』
 教授と呼ばれた白髪頭が、ソファの脇に載せた書類鞄から箱を取り出し、蓋を開けてみせる。Tが中身を掴んだ。
 長さも太さも男の二の腕ほどはありそうな筒具が姿を現した。
 男たちは好色な笑みの中にも複雑な表情を浮かべている。妻が顔をそむけるのを、私は見逃さなかった。
『最初は無理だと思ったんやけどな』五分刈りの男が言った。『ふつう、そんなん入れられたら壊れるで。そやろ、Tさん?』
『女って、意外とタフなもんなんですよ』Tは、手にした淫具を弄びながら答えた。『赤ちゃんかて産むくらいやから、これくらい平気なんちゃいます?』
『そこまで言うんやったら、あんたもいっぺん試してみたらどうや』髪の薄い痩躯の男がからかった。『この奥さんみたいにひいひい言わしたろか』
『お尻にも入れてえ、と言ったのは傑作でしたな』教授が神妙な顔で言った。『それこそ壊れてしまう』
『どっちが? 奥さんのアヌス? それともそのバイブが?』五分刈りが調子に乗る。
『そらバイブに決まってるやろ』
 痩躯の男がまぜっかえすと、妻を除く全員が爆笑した。
「妻は……妻は、いったい何を……?」
 呆然とつぶやく私を見て、Fは鼻を鳴らした。「だいたいわかるやろ。気になるんやったら、奥さんに訊けばええこっちゃ。今夜は燃えるで」
「やっぱり、ビデオいただけますか」
 万事まかせろ、と言いたげな表情で、Fは私を見た。
『しかし、こんな奥さんと暮らしてる旦那も体力もたんで』五分刈りが喋っていた。『わし、腰がふらふらやで。抜かずのなんとやらいうのは二十年ぶりとちゃうかな。教授はどないでした?』
『社長にあやかりたいもんですなあ。あいにく、そこまではいきませんでしたが、とても満足しました。前と後ろから責められながら、ときおり見せる表情がなんともすばらしい。退官後も、やめられそうにありませんな』
『やめたら老け込みまっせ』痩躯が言った。『それに、教授が持ってきてくれるオモチャが毎回楽しみで楽しみで。体とカネが続くかぎり、この集まりを続けていきましょうや』
 高笑と苦笑が交差する中、妻は最後まで顔を上げなかった。
 三宮駅まで、Fが送ってくれた。
 BMWのリアシートに私と並んで座る妻に、気になっていたことを訊いた。大阪の僧侶に嬲られた日は月経直後だったから妊娠の心配はなかったが、これからも頻繁に男たちに奉仕しなくてはならないのなら避けて通れない問題だ。望まない妊娠の結果、妻の体がダメージを受けては取り返しがつかない。妻の返事によっては、貯金を下ろし、保険を解約し、それでも足りなければ退職金の前借りをして全額返済するつもりだった。私の中に芽生えた邪悪な好奇心のために妻を傷つけるわけにはいかない。
「避妊は……どうしてる?」
「低容量ピルを服んでる」
「体調は、悪くないか」
「だいじょうぶ。アレルギーなんかないから」
「それは知ってる」妻の肩を抱き寄せた。「たいへんやったな、今夜は」
「ほんとにいいの、このままで?」妻の声が湿り気を帯びた。「何人もの男の人に抱かれる、こんな私でも」
「夫婦やのに、なに水くさいこと言うてるんや」
 妻がしがみついてきた。歯磨きペーストの香料が妻の吐息に混じっていた。
 フロントグラスいっぱいに広がる神戸の夜景を眺めながら、脳裏に満ちる不道徳な悦びの奔流に、私はとまどっていた。妻はあと幾人、いや、幾十人もの男の精を子宮に浴びるのだろう。喉にも、そして、いずれは直腸にも。
 その思いに、私の性器をは甘くうずいた。
 帰宅後の妻の一人語りを待ちかねる暗い情熱を、私はそのときはっきりと自覚した。

 今、思い返しても、そのときの嗜虐的(被虐的?)な情念がどこから湧いてきたのかよくわかりません。性格的な欠陥があるのか、それとも男とはそういうものなのか……。「妻物語」に寄せられる皆さんのお話に、その答えがありそうなのですが、今は私たちの物語を思い出すのに精一杯です。これからも、よろしくお付き合いください。では、後日。
  1. 2014/07/30(水) 06:32:59|
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贖罪 第9回

【#09 反発】
 気を利かしたのか、それともあの高級マンションでビデオ編集をしなくてはならないのか、Fは私たちを三宮の駅前でクルマから降ろすとそそくさと引き返していった。
 私たちは腕を組み、電車に揺られた。お互い、無言だった。
 自宅マンションの玄関に入るなり、妻はコートを脱いでロングスカートの前をたくし上げた。
 何やってるんや、と咎めようとした私はわが眼を疑った。
 妻の下半身から翳りが消滅していたのだ。
 天井の白熱灯の黄色みを帯びた光が、妻の無毛の恥丘を照らしている。
 まだ二十代の頃、水着を着るからと陰毛を短く刈り込んだことはあったが、その部分の皮膚をじかに見たことは今までなかった。
 私は靴を履いたままで三和土に膝をつき、妻の太腿を両側から掴んだ。
 こんもりと盛り上がった肉の丘に深い亀裂が刻まれ、その下部から肉芽を覆う莢の付け根が顔をのぞかせている。
 俗に“幼女のような”と形容されるが、三十三歳という年齢を考えると、無垢などという連想はわかなかった。淫らがましさだけが強調されているように思えた。
「ごめんね、ごめんね」私の驚きようを知った妻は、かすれた声で詫びた。「あの男の人たちに三人がかりで……」
 必死に抵抗すれば、いくら三人が相手とはいえ剃られるのは避けられたのではないのか。なぜたやすくこういう悪戯を受け入れたのか。駅前からFが逃げるように去っていったのは、やりすぎたという後ろめたさがあったからなのではないのか。
(ふざけやがって!)
 昨夏のあの夜、Fに口腔性交をほどこす妻の姿を見たときにすら感じたことのなかった憤りが私を貫いた。その激しい感情がどこから湧いてきたのかわからぬまま、妻を玄関に残しリビングに入った。受話器を掴んでプッシュダイヤルを乱暴に押した。
 Fはすぐに出た。私は、妻の体になされた悪戯に対して激しい言葉で抗議した。いや、詰ったと言うほうが正しいだろう。Fは黙ったまま、私がひととおり言い終えるのを待っていた。
「ご主人、当たる相手が違うんやないですか」Fの口調は穏やかだった。「あんたがぐずぐずしてるから見逃したんやで。七時前後の約束やったやろ?」
「立ち会えなかったこととは関係ない。妻の毛を剃っていいとは――」
「奥さんの体はあんたの所有物なんですか」Fは固い声で私の抗議をさえぎった。「奥さんは自分の債務を自分の体で返そうとしてはるんや。あんたにとやかく言う権利はないんちゃうか? ゴネるんやったら、始めにゴネてもらわんと。今さら、子どもみたいなこと言うたらあきまへんで。それに、こっちには誓約書いうもんがあるんですわ」
(誓約書? 知らんで、そんなもん)
 言葉を呑んだ私に、Fはやわらかい口調を取り戻した。
「途中で気が変わらんように、奥さんから一筆入れてもろてます。とにかく、あんたに横槍入れられるような事柄とちゃうんやで。あんたをオブザーバーにしたのは、こっちの温情いうもんや。そのへん、きっちりわかってくれなあきまへんで。お互い、大人やったらな」
 電話が切れた。振り上げた拳をどこに下ろしてよいのかわらぬまま受話器を戻した。
 妻がソファの端に尻を乗せて、落ち着かなげに私を見ていた。
(おれは何をやってるんだ?)
 怒りが自責の念に変わった。妻が好きこのんで娼婦のようなことをやっていると思ったのか? 私は妻の隣に腰を下ろした。触れあった太腿に妻の体温を感じた。
 そのとき、私を襲った怒りの正体がわかった。蚊帳の外に置かれたことが面白くなかったのだ。つまり、ひがみだ。加えて、妻が遠くへ行ってしまうのではないかという不安。それらが一気に噴き出し、私は自制心を失ったのだ。妻の体温を感じたときの何ともいえない安堵感が、その証拠だ。現に、あれほど激しかった怒りがきれいに消え去っている。
「すまん、大きな声を出してしもて。毛まで剃られるとは思うてもみんかったから、ついかっとなったんや」
「ほんまにええの。こんなんにまでされてる私で?」
「もういっぺん、見せてくれへんか」
 妻の返事を待たず、リビングのヒーターのスイッチを入れた。
「いいけど……。その前にシャワー浴びていい?」
「風呂を貸してもらわんかったんか?」
「汚れたままのほうがあなたが喜ぶから、なんて勝手なことを言うてたわ、あの人たち」
(なんちゅうやつらや!)
 私は、初老の三人組の変態ぶりに驚いた。たしかに、妻が受けた陵辱の痕跡を見いだすことに、私はひどく興奮を覚えるようになっていた。そこまで読むことのできる三人組の洞察力が空恐ろしかった。
「おまえがされたことを見て、おまえのつらさを分かち合いたいんや」
 半分真実、半分口実だった。あの三人組が、こちらを見て笑いながらうなずいているような気がした。
 部屋が暖まるのを待ち、妻が全裸になった。
 ソファに深く掛けさせ、両脚を広げるように言った。
 陰毛は一本残らず剃り落とされていた。秘唇の外側も、会陰のあたりもすべて。女の構造を、これほどはっきりと見たことはなかった。内側の陰唇は充血したままなのだろうか、はみだし気味だ。肉孔は完全に閉じきってはおらず、親指がくぐらせられそうな隙間を見せている。無理もない、ドイツ製の巨大な張り型をさんざん抽挿されたのだろうから。
「あんまり見んといて。……恥ずかしい」
 私はネクタイをゆるめた。「あいつら、どんなことしたんや」
「最初は自分でさせられたわ」
「何をや」訊くまでもないことだったが、羞恥に顔を染める妻を見ると訊かずにはおれなかった。
「自分でいじらされたの」
「だから、何をや」
「あそこ。今、あなたが見てるとこ」
「なるほど、オナニーさせられたんやな。感じたんか?」
「濡れるまでし続けるように言われて……」
 濡れるまでじゃなく、いくまでだろう。新婚時代、酔った勢いで自慰を見せてくれと頼んだことがあったが、妻に激しく拒否されて諦めたことを思い出した。そんな妻が、初対面の男たちや、同性であるTの前でさしたる抵抗もしないまま秘部をまさぐって見せたというのか。
「で、オナニーショーでいった後は?」
 私の露骨な言葉に、妻は唇を噛んだ。「お風呂場に連れていかれて……」
「風呂にでも入ったんか」
「いじわる。わかってるくせに」
「剃られたんやな」深追いすべき段階ではない。私のゲームは始まったばかりだ。「誰が剃ったんや」
「Tさんが準備して、あの三人が代わる代わる」
「よくおとなしゅう剃らせたもんやな」
「やめてくださいって言おうにも……口を塞がれてて」
「さるぐつわか?」
 かぶりを振る妻の頬が赤みを増した。
「何や、何を口に入れてたんや。おれにはわからへん」
「教授の……教授のあれを」
「尺八しながら剃られたんか。三人から剃られたんやったら、尺八したんは教授のもんばかりとちゃうやろ」
「社長のも、顧問のも」
 元日の管長といい、Fの一味は肩書きで呼び合っているらしい。功成り名遂げた男たちのプライドをくすぐりながらも、匿名性を保持するためのうまいやり口だ。
「誰のがよかった」直截で淫らな質問には似つかわしくない、生真面目な表情を私はつくった。「それぞれの特徴を言うてごらん」
 妻は目を閉じ、口の中で暴れ回った剛棒の一つひとつを思い返しているようだった。ときおり眉間に刻まれる縦皺は、屈辱の記憶か、甘美な追憶か。
 視線をゆっくりと下ろしながら、私は妻の体を観察した。
 乳房の頂がはっきりとわかるように尖っていた。挟まれ、こね回されるのを渇望しているかのようだ。若い頃のような張りがないぶん、肌理がこまかくなったような気がする。
 わずかに脂肪がつきはじめた下腹部が浅く上下しはじめた。欲情の気配を隠すためか、妻は両腕を臍の前で交差した。
 だが、花芯は正直だった。
 秘唇は充血の度合いを増し、完全に開花していた。その合わせ目にある肉芽は莢から半分ほど顔を覗かせている。肉孔は間断なく収縮し、内部から白み帯びた粘液を垂れ流している。
 それに気づかないふりをして、私は言葉を続けた。「黙っとったらわからんやないか。まず、教授のはどうやった?」
「柔らかかったけど、えらい長かったわ」
「どのくらいや」
「喉の半分くらいまで入ってきて……、最初は吐きそうやったけど、なんとか根本まで呑み込めたわ」
「舌は使うたんか」
「うん。必死に動かしてるうちに大きなって、息が止まりそうやった」
「次は誰や」
「社長いう、坊主頭の人」
 齢の割りには脂ぎった五分刈りの男だ。好色さが、表情からも話しぶりからもにじみ出ていた。押し出しの強さだけでのし上がってきたような、典型的なおっさん。私の苦手なタイプだ。
「えげつないやつやったやろ」
「ううん。社長がいちばん優しかった。喉の奥まで入れたりせんかったし、舐めさせながらおっぱいを揉んでくれはったわ」
(教授より、よけいスケベやないかい!)
 妻の言う“優しさ”の基準がよくわからない。
「それで、どんなんやったんや」
「段になってるところがえらい大きくて、歯が当たらへんか心配やった」
(嬲りものにされながら、変な気を遣うんやない)
「顧問は?」
「なんもしゃべらん人やったけど、あれは強烈やったわ」
 私は固唾を飲んで、次の言葉を待った。
「社長のを咥えてるとき握らされたけど、指が回らないほど太うて」
「尺八はしたんか?」
「顎がはずれるかと思うたけど、なんとか」
「それで?」
「気がついたときには、すっかり終わってた。それから寝室に連れてかれて……」
 すでに妻の秘部は濡れ光り、次々と湧きだしてくる分泌液と精液の残滓がソファを汚していた。私も激しく勃起し、先走りの粘液で下着を濡らしている。
 その場で衣服を脱ぎ捨てると、私は妻の脚を大きく割り広げて男根を押し込んだ。
 さしたる抵抗感もなく、男根は妻の肉洞に収まった。内部は滾っていた。三本の陰茎と巨大な張り型に蹂躙されたにもかかわらず、妻の膣は私を握りしめるように圧迫してきた。無数の襞がざわめき、蠕動運動を繰り返す。
(なんや、これは!)
 妻との交接で初めて経験する感触だった。
 不自由な体勢のまま、妻が尻を迫り上げる。
 急速に射精が近づいていた。「あ、あかん。そないしたら、あかん」
「中で出していいんよ」ソファの背をずり下がり、妻はさらに腰を打ちつけた。「思いっきり、中で出して!」
 根本まで妻の中に押し込んだまま、私は精を放った。
「ああ、太くなってる。えらい太くなってる」
 妻はほほえみを浮かべながら、波状的に脈打つ男根の感触を味わっていた。
 射精が治まっても、私の勃起は衰えなかった。十分な硬さを保ったまま、妻の滾りの中で徐々に力を回復しつつあった。初老の男たちの精液と私のものが混ざり合っていることなどまったく気にならない。いや、それどころか、男たちとともに妻を嬲っているようで、興奮すらした。
「まだいってへんやろ」妻にやさしく問いかけながら、律動をゆるやかに開始した。「いちばん感じたのはどの体位や?」
 妻は間欠的な呻きを洩らした。私は動きを止めた。
「続けて……あなた、続けて」
「答えんとやめるで」
「う、後ろからのが、いちばんよかった」
 つながったままで、妻の体を反転させた。結合部から泡状になった粘液が溢れ、滴った。
 量感のある双臀を両手で鷲掴みにして、私は腰を打ちつけた。ソファの背に押しつけられた妻の頭が振りたくられる。
「誰が後ろからやったんや。社長か? 教授か? 顧問か?」
 妻は、喉から呻きを放った。私は、腰を休めた。むずがるようにうごめきながら、尻が押しつけられる。「やめんといて! お願いやから、動かして!」
「後ろから誰にやられたんか訊いてるやろ」
「みんなに、みんなにお尻から犯されたの!」
「気持よかったんか!」腰をねじり込んだ。
 くうっと喉を鳴らすと、妻は身をのけぞらせた。背中の中心を走るくぼみが際だった。
 私は動きを止め、同じ質問を浴びせかけた。荒い息を吐きながら妻が言った。
「気絶するほど、気持よかったの。それぞれ違うの、気持のよさが」
「おれより良かったんやろ。正直に言うんや」妻の肉洞をえぐる。
 妻は両腕で上半身の体重を支え、顎を上げた。
「あなたより、よかった。ほんまによかった。みんな上手やし、これからも犯してもらいたいくらいやわ」
「なんやて! もういっぺん言うてみい」
 私の肉棒はこれ以上はないというくらい勃起していた。嫉妬、嗜虐、被虐、妻の肉体への崇拝、そして冒涜の衝動がないまぜになり、脳が揺さぶられた。
 妻をソファに横たえると片脚を抱え、膣をまっすぐに貫いた。無毛の秘園を割って出入りする暗褐色の男根。その眺めは卑猥以外の何物でもなかった。
「そ、そ、そんなん、ぜんぜん感じひんわ」絶頂に押し上げられつつも、妻はなおも言い募った。「い、い、いき、いきそうにないわ、そんなんで……」
 妻が私のゲームを受け入れてくれたのがわかった瞬間、私は二度目の射精を迎えた。
 妻が同時に達するのを眼の端で捉えながら、私は床に膝をついた。

 長々と書いてしまいまして、申し訳ありません。書きながら、はっきりとわかってまいりました。年明け間もないあの一夜こそ、私の、いや、私と妻にとってのターニングポイントだったのですね。好色さは人並みだとばかり思っていた私たち夫婦のポテンシャルが一気に噴き出した夜でした。いつ、どこに、どんなきっかけが潜んでいるかわからないものです。あとしばらく、夫婦の物語にお付き合いください。では、後日。みなさまが、よい夏期休暇を過ごされますよう。
  1. 2014/07/30(水) 06:34:46|
  2. 贖罪・逆瀬川健一
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贖罪 第10回

【#10 倒錯】
 神戸の山の手にある高級マンションで剃毛を施された日以来、私は、Fからの妻への呼び出しを心待ちにするようになった。
 頻度は週に一度。いずれも平日の夕方から妻は陵辱の場に出かけてゆき、夜十時前には解放されるのがパターンとなっていた。仕事の都合をつけて、できるだけ現場を見守りたかったが、二回には一回は諦めざるをえなかった。
 だが、Fは妻が辱められる様子を収めたビデオカセットを律儀にも届けてくれた。男たちの顔にはモザイクがかけられているが、妻の顔はもろに写っている。週末は、その映像を眺めながら妻と交わった。妻を嬲る男たちの際限のない欲望とマニアックな技巧には舌を巻いたが、そんなことよりも妻の変化のほうに、私は何倍も驚いた。
 初対面の男たちに体を開くことへの嫌悪感と抵抗感は消えないようだが、いったん男たちの視線に秘部を晒し、フェラチオを始めたとたん、妻の精神は急速に変容するようになっていた。直接的な接触を経なくとも、男たちの好色な視線だけで十分に潤い、眼前に突き立てられた男根に自ら舌を伸ばす。そのさまには芝居めいたものがなく、本能的なものに衝き動かされているとしか思えない自然なものだった。
 ワイドテレビのブラウン管いっぱいに広がる、そんな妻の姿に私の心は揺れ動いた。Fからの呼び出しの電話を受けるたびに暗い表情を見せ、ときには私の胸で「もう行きたくない」と涙を流してみせたのはいったい何だったのだろう。男たちに蹂躙されることは本意ではないことを強調するためか。嫌悪感しかおぼえないことを訴えたいためか。ビデオに収められている姿は演技だと私に信じ込ませたいためか。
 だが、妻の性感が飛躍的に高まっていることを私は知っている。妻の膣が柔軟性を増していることを知っている。私に対する妻の技巧が洗練されつつあることを知っている。
 もし、妻が自分の肉体の可能性に興味を抱いたとしたら、私になす術はない。男たちの性技に馴らされ、そこからしか深い満足感が得られなくなったとしたら……。
 嫉妬と恐怖が、いつのまにか私の心にわだかまっていた。
 そんな気持とは逆に、ふだんの妻に目立った変化はなかった。ちょっとしたまなざしや仕種に色気を感じることもあったが、それは、ビデオの映像で妻の肉体の魅力を再確認した、私の心の作用だったのかもしれない。

 二月半ば、静岡支社への短期赴任の内示があった。浜松にある某メーカーは私が開拓したクライアントだったが、支社の梃子入れのためという東京本社からの指示があったのだ。残念だったが、一介の営業課長が異を唱えるわけにはいかない。
 三月から関西と関東の二重生活が始まった。会社が用意したウィークリーマンションに住み、週末は自宅に帰った。だがそれも最初のうちだけで、月のうちの半分は販売応援でつぶれた。
 妻とは毎晩、電話で連絡を取り合っていたが、とりたてて変わったところは感じられなかった。Fに呼び出された日はさすがに沈んだりしていたが、私の健康を案じる気配りは忘れなかった。そしてなにより、私の不在をFが利用しようとはしていなことにほっとした。週一回のペースをくずさず、妻をちゃんんと帰宅させていたのだ。

 四月下旬、私は大阪支社に呼びつけられた。部下が和歌山のクライアントとトラブルを起こしたのだという。そのクライアントとの長い付き合いのある私でなければ事態を収めることはできないと、部長は判断したらしかった。
 騒ぎは午前中に収まった。部下と昼食をとって別れた私は、自宅に向かった。
 今日はFの呼び出しがないことは昨夜の電話で知っていた。
 午後二時には自宅の玄関ドアの前に立ち、ドアチャイムを押していた。
「どなたさん?」
 インターフォンから流れてきたのは、聞き覚えのある男の声だった。
「Fさん……じゃないですか。なぜ、あなたがここに?」
「旦那さんかいな」Fの声がゆるんだ。「脅かさんといてよ。いま開けたるから待っとき」
 ドアを開けると、Fは私を押しやるようにして玄関ポーチに出た。ジーンズにトレーナー姿。まるでこの家の主人のような格好だ。
「今、取り込み中やから、ばたばたせんようにな」
「何をやってるんですか。うちを使うなんて……」
「まあまあ、ええから」なおも言い募ろうとする私に顔を近づけて、Fは秘密めかしてささやいた。「お詫びのしるしに、同室させたるから」
 これまで、妻の痴態をモニターテレビやビデオカセットの映像越しにしか見ることができなかった私は、“同室”という単語のインパクトに言葉を飲み込んだ。
 Fとともに足音を忍ばせて廊下を進んだ。Fがリビングのドアを開けると、男たちの哄笑と妻の呻きが聞こえた。初めて生で見る蹂躙の光景に備えて深く息を吸い込んだ。だが、リビングは無人だった。仕立てのいい男物のスーツが五着、ハンガーに吊られてサッシュ窓のカーテンレールに掛けてあった。
 寝室から洩れる妻の間欠的な呻きの合間に「動くと切れるぞ」とか「蝋燭で蓋をしてやろうか」とかの物騒な声が湧く。思わず寝室に向かおうとした私をFが押しとどめた。
「生で見たいんやったら、これをつけるんや」
 Fの手には手錠が載っていた。
「部屋の隅でぼーっと見てられたら白けるから、あんたにも協力してもらわんと。嫁はんが犯されてるちゅうのに手も足も出ん亭主の役や」
「家内は大丈夫なんですよね。ひどいことをされてはいませんよね」
「遊びやがな。奥さんも結構のってまっせ。さあ、これをつけて一緒に楽しもうやないの」
 私は両手首を合わせて差し出した。Fは首を振った。「後ろ手やがな」
 両手の自由を奪われた私を引っ立てるようにして、Fは寝室に入った。
 肉で充満した部屋というのが第一印象だった。六畳の室内に六つの裸体があった。
 三人の初老の男が私のベッドの縁に腰掛け、残りの二人はもう一つのベッドで妻に剃毛をほどこしていた。
 真っ赤なロープで上下から絞り出された乳房に眼が吸い寄せられた。さらにそれぞれの付け根を細めの紐で巻かれ、乳房全体が充血し、砲弾のように尖っていた。両腕は頭上で一つにまとめられ、肘から手首にかけてロープが隙もなく覆い、その縄尻はカーテンレールに結わえられていた。下半身はやはりロープで強制的に開脚させられていた。膝の上下に幅広に巻かれたロープ同士が結わえられているのか、両膝を折った状態で固定されている。さらに、両のくるぶしに巻き付いたロープの縄尻がベッドの左右に伸び、開脚を強いているのだ。
 M字に開いた脚の間に洗面器が置かれていた。シェービングフォームの泡が浮き、無数の黒い点が埋まっていた。伸びかけた陰毛の残骸だ。
 妻の膝を掴んでぎりぎりまでの開かせた男と、妻の股間で背を丸めていた男がこちらを振り向いた。二人ともやはり五十半ばの年輩だ。
「すんません、お邪魔して」
 Fは私を突き飛ばした。
「今、アホ亭主がのこのこ帰ってきたもんですから、こいつの前で嫁はんをやっつけるのも一興やないかと」
「おう、そらええアイデアや」
 私のベッドに掛けた小太りの男が立ち上がった。リーダー格のようだった。半分ほど勃起した陰茎を揺らしながら私に歩み寄ると足を飛ばした。腰を蹴られ、私はその場に尻餅をついた。
「正座せいや、アホ亭主。女のほんまの悦ばし方いうのんを教えたるから、そこでよう見とけ」
 生まれて初めて足蹴にされた屈辱感が、私に甘い痺れをもたらしていた。男の蹴りはかなり加減したものだった。たぶん、これはゲームなのだ。反抗を封じた亭主の前で女房を犯すというシチュエーションを楽しむための。
 リーダーは、妻の傍らに立つと、髪を鷲掴みにして頭を起こさせた。妻は私のみじめな姿をみとめると小さく息を飲んだ。
「どないや、奥さん。亭主に見られながら嬲られるいうのは? あの亭主にしかにしか見せたことのないとこを大勢の男から見られるちゅうのは?」
 同じ空間に私がいるというのは、妻にとってはさすがに苦痛らしかった。リーダーに髪を掴まれたまま、顔を激しく左右に振った。予告もなくFが男たちを連れてきたのだろうか、化粧っけはまったくなかった。それが生々しい日常性を醸し、私を興奮させた。
 リーダーは私に軽い蹴りを二、三回入れた。私は喉の奥で呻いてみせた。
 抵抗すれば旦那が痛い目にあうだけだ、とリーダーは妻を脅した。
 妻はその言葉に屈した。

 五人の責めは私の想像をはるかに超えていた。男たちはいずれもSMマニアだった。夫婦の寝室に持ち込んだ道具のいずれも使い込んだもののようで、それらを遅滞なく扱って妻を蹂躙した。
 一人が妻の上体を背後から起こすと、もう一人が両脚を割り広げ、三人目が性具を妻の無毛の秘部に抽挿し、四人目が鑞涙を垂らす。そして、最後の男がベッドに仁王立ちになって妻にフェラチオを強制するといった、淫らで流麗なチームプレイを発揮した。その間にも妻に対する言葉嬲りを忘れない。
「そんな尺八で旦那を満足させとったんかい。ふつう、そんなんで男はいかんで」
「ほほお、いやらしいおつゆがぎょうさん出てきよったがな。見てみいな。イヤや言うてもここは正直なもんや」
「びらびらも膨れて、おさねさんもおっ立ってるわ。この奥さん、もうすぐいきよるんとちゃうか」
「亭主の前で、そら殺生やで。商売女でも、ここまでようせんわな」
「もう一本欲しそうやな。ケツでも悦びよるで、この女やったらな。どや、お願いしてみいな。アヌスにバイブくださいって」
 乱暴な台詞とは裏腹に、男たちの性技は繊細で巧みだった。生け贄の反応を素早くキャッチしては責めに緩急をつけていく。一対一の前戯ではとうていなおざりにされる部分を手が這い回り、舌が唾液をなすりつけてゆく。
 口を男根で塞がれた妻は、鼻腔から唸りとも呻きともつかぬ音を洩らして達した。だがすぐに、男たちの執拗な責めに反応しはじめ、短時間のうちにふたたびオルガスムスを迎えた。男たちは目配せしあうと、三度目の絶頂に誘いはじめた。だが、あと数秒で頂にというところでぴたりと責めをやめ、妻から離れた。
 妻は一瞬きょとんとした。そして、腰を前後左右に激しく蠢かせながら、声を絞り出した。
「や、や、やめないでえ! いやっ、いやよお。お願い、犯して。犯し続けてください。お願いしますう……お願いしますう」
 その哀願を耳にしたとたん、私はショーツの中に射精した。
「まだ犯してへんがな」リーダーが真顔で言った。「入れとるのはバイブだけやないか。犯すなんて人聞きのわるい。またバイブを突っ込んで欲しいんか」
 妻は首を横にふった。「それだけやなくて……いろいろ」
「いろいろって何やろな。自分で言うまでお預けや」
「熱いのをください」
「わからんな、それだけじゃ。何を何にどうしてほしいんや?」
「蝋燭を……お乳に垂らしてください。そ、それから、バイブをあそこに入れてください」
「あそこじゃわからんがな。耳の穴か?」
 妻は女性器の俗称を口走った。妻の口から関西弁のそれが発せられるとは……。私の男根は一瞬にして硬度を取り戻した。
「よっしゃ。最後は何や?」
「男の人のあれを、お口にください。しゃぶらせてください」
「男の人のあれ? わからんなあ。もしかして指のことか?」
「おちんちん! おちんちんを」
「もっと別の言い方があるやろ。その齢でカマトトぶってもろたら困るで」
 妻の口から、男たちの――そして私の――期待どおりの単語が洩れた。

 その後、三十分間にわたって妻はいかされつづけた。
 男たちは持ち場をローテーションした。口腔を犯す男根、蝋燭責め、バイブ嬲り、そして愛撫が男ごとに微妙に異なるせいか、妻の反応は弱まることがなかった。
 ついに失神してしまった妻をベッドに残すと、リーダーは私の前に立ちはだかった。
「ズボンに大きな染みができてるで。情けないやつやな、嫁はんが嬲られる姿をみながらいくやなんて、変態やで。おまえのようなやつを、女の腐ったような男いうんや。そんなやつにはこいつで十分じゃ」
 リーダーは腰を落とし、屹立したままの男根を私の眼前にもってきた。
 妻の唾液がまぶされた男根はぬめ光り、亀頭が凶暴なまでにてかっている。
「ほら、咥えんかい。これから嫁はんに突っ込んでいただくありがたいもんやぞ。おまえの態度しだいでは嫁はんが痛い目にあうで」
 そのときの私の精神状態は常軌を逸していたのだと思う。三十分も妻の狂態を見せつけられて、倒錯の世界に足を踏み込んでいたのだ。リーダーに足蹴にされたことで、私の無意識の領域で眠っていたマゾヒズムにスイッチが入ってしまっていたのかもしれない?
 私は突きつけられた男根に舌を伸ばした。リーダーの哄笑を遠くに聞きながら、それを含んでいた。思いのほか、男根は熱く固かった。
「尺八のライバル現る、やで」
 別の男が、妻を揺すり起こしていた。
(かまうものか)
 私は筋肉よりも強靱な男根の感触を堪能した。
「やめて! あなた、やめてえ!」
 妻の叫びが上がるたびに、口の中の陰茎がどくんと太くなって軟口蓋を塞いだ。
「男の尺八もええもんやな」
 リーダーが言うと、残りの四人が下卑た笑い声を上げた。
「こいつの口の中に出してもええなあ」
「やめてください、お願いします」妻が嗚咽を洩らした。「何でもしますから、どうか主人をいじめるのだけは……」
「いじめてへんがな。こいつ、よろこんで舌を使いよるで」
「お願いします。何でもしますから」
「奥さん、ケツの穴でやったことがあるか」
「………」
「何でもする言うたがな、今。嘘やったんか?」
「お願いします。お尻にください。私のお尻を犯してください」
「よっしゃ、ええ心がけや」
 リーダーは私の口から男根を引き抜いた。
「奥さんの申し出や。ありがたく頂戴しようやないか。さ、準備しよか」
 リーダーの言葉が終わらぬうちに、四人は素早く立ち上がり、寝室の隅に置かれたバッグに歩み寄った。

 長くなってしまいましたので、今日はこのへんで終わらせていただきます。書きながら、当時のことを思い出すと奇妙な興奮をおぼえます。人間の精神とは、なんと不可解なものかと首を傾げずにはおられません。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 06:36:09|
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贖罪 第11回

【#11 誘導】
 SMに対して、荒縄と鞭と蝋燭という貧困なイメージしか持ち合わせていなかった私は、
男たちと妻が繰り広げる行為に激しい衝撃を受けた。
 リーダーに命じられた四人は、革製のバッグ巨大な注射器を思わせるガラス器と小さなPETボトルを取り出すと、
洗面器を抱えて寝室から消えた。風呂場のドアを開く音が聞こえた。
 妻のロープをゆっくりとほどいているリーダーと目が合った。
 男は、温かみのある笑顔を浮かべて私に頷いてみせた。安心しろ、何も言うな、と男の眼は言っていた。そして
、すぐに冷酷な表情をつくると妻の髪を掴み、耳許で言った。
「さあ、ケツの穴でおれたちをお迎えする前にきれいにせんとな。糞だらけの穴に突っ込んだら一発で尿道炎やがな」
 弱々しく首を振る妻に下卑た笑い声を浴びせ、ベッドから抱え上げると寝室を出ていった。
 あんたも役者やで、と言いながらFがやってきた。私の前にしゃがみこむとタバコを咥え、ライターで火をつけた。
「奥さんの浣腸ショーを見せてやりたいところやけど、そこまでやったら三文芝居になる。ここで我慢しててな」
「あの五人は誰なんですか」
 私の質問にすぐには答えず、Fはタバコの煙を真上に吹き上げた。ふたたび私の顔に視線を戻すと、おもむろに口を開いた。
 五人の初老の男たちは、いずれも中堅企業の会社役員だという。もちろん、会社は別々だ。経済界交流ゴルフコンペで知り合い、
知己になった。いずれもSMマニアだという。まさに類は友を呼ぶ、だ。バブルの頃は各自が性交奴隷を飼っていたが、
このご時世ではそれもままならず、Fが用意した女を五人で嬲ることで欲望をなだめているらしい。
 男たちが仕える会社名を、Fがはっきりと口にしたことにも驚かされた。
「そろそろ教えてもええやろ」私の表情を読んで、Fはにやりと笑った。「もうあんたは一線を越えてしもたんや。
こっち側の人間になったちゅうこっちゃ」
「………?」
「おっさんに尺八してるとこを撮影させてもろたで。妙な気を起こしたくても起こせんいうことやな。意味はわかるやろ?」
 私が男根を咥えている写真をばらまくということだ。つまり、保険をかけたということだろう。私はうなずいた。
 風呂場から悲鳴が湧いた。ここからでははっきりとはわからない。切迫した妻の声に、男の低い声がかぶさる。
 Fは私の手錠の具合を確かめると、立ち上がった。「食い込んで痛いようやったら、そこの小さいボタンを押せばすぐゆるむから。
まあ、腹をくくって楽しむこっちゃ。あんたはそれができる男や」
 私はその場にあぐらをかいて耳を澄ませた。
 妻が弱々しい声で哀願していた。
 男の声が響いた。「まだ出したらあかんがな。たった三本で音を上げてどないすんねん。あと二本も残っとるんやで」
 数分間の間があった。その沈黙を破ったのは、下品な破裂音だった。妻の呻き声がそれに続く。勢いのある水音が断続的にし、
ふたたび破裂音が響く。
 男たちが囃し立てる。
 やがてシャワーの音が聞こえてきた。

 男たちに抱きかかえられるようにして寝室に戻ってきた妻は、感情を失ってしまっていた。
目は虚ろなまま見開かれ、口許もゆるみきっている。女としてもっとも人目にさらしたくない行為を
五人もの男の前でさせられたということが、妻の精神を焼き尽くしたのではないだろうか。
もう元の妻に戻らないのではないだろうか。
 だが、それは杞憂だった。
 ベッドに仰向けにされ、五人がかりの愛撫を受けはじめたとたん、妻は嬌声を洩らしはじめた。
「なんや、もう洪水やないか。年増女の本性いうやつや」
 リーダーがからかった。
「奥さん、欲しいんやろ? 欲しいんやったら、はっきり言うんやで」
 妻はためらいもなく淫らな単語を口にした。
 それを合図に、一人の男が妻の脚の間に腰を入れた。妻の喉から短い呻きが洩れた。挿入されたことがわかった。
妻の両脚が男の脇腹を挟み込んだ。
 ベッドの両脇で男たちが勃起しきった男根を突き出すと、妻の手が素早く伸びてそれぞれの掌で肉棒を握り、しごく。
 四人目の男が妻の胸に尻を載せ、陰茎を口に押し込んだ。
 妻を思い思いに犯す男たちが、重い吐息を洩らした。
 私のベッドで様子を窺うリーダーは、満足げな表情を浮かべている。
 四人は位置を変えては、妻の手と口と膣の感触を堪能した。
 三十分間のうちに、妻が十回は達したのが見てとれた。本当はそれ以上、オルガスムスに襲われていたのかもしれない。
「そろそろほぐれてきたやろう」
 リーダーがつぶやくと、四人は妻を腹這いにさせた。下腹部に枕を入れて臀を掲げさせる。
さらにベッドの両側から太腿を引くようにして脚を開かせた。
 ガラス製の平たい容器を手に、リーダーが妻の両脚の間にあぐらをかいた。
 容器の蓋を開け、白い軟膏を太い指ですくうと妻の肛門に塗りつけた。
 気を失っていた妻が、ひっと呻いて身を起こしかけた。すかさず、残りの二人が妻の背中を押さえつけた。
「や、や、やめてください。そこだけは、そこだけは……」
「今さら何言うてるんや。糞までひりだして見せたくせに」
 下卑た笑いを浮かべたリーダーは、妻の哀願を一顧だにせず指を動かした。軟膏は体温で溶けて透明な粘液になった。
指は円を描き、肛門の皺を伸ばすように揉み込んでゆく。
 ときおり、妻の肩胛骨が浮き出す。嫌悪か、それとも快感か。ベッドの足下で眺めている私にはわからない。
「あうっ」
 妻の呻きが上がった。リーダーの親指が根本まで肛門に突き刺さっていた。
あとの四本の指は会陰をまたいで秘苑をまさぐっている。すぐに粘った音が聞こえはじめた。
「むちゃくちゃ濡れとるやないか。もうワセリンはいらんな」
 リーダーはワセリンにまみれた親指と愛液に濡れ光る四本の指をこすり合わせると、
すでに屹立した男根に塗りたくった。さきほど、私の口を犯したそれは、サイズこそ標準的だったが
五十男のものとは思えぬほどの硬度を見せ、鋭角に天を衝いていた。
「さあ、初物をいただこうか」
 リーダーは妻の双臀を掴むと、左右に割った。男たちに押さえつけられたままの妻は、かすかにいやいやをした。
「奥さん、ゆっくりと息を吐きや。そうそう。うんこするときのようにケツの穴をゆるめて……よっしゃ、そのままやで」
 一瞬、妻の背中が反った。押さえつける四人の男たちの表情が真剣味を帯びる。リーダーの尻が筋肉を浮かび上がらせる。
 嬌声とも呻吟とも形容できない声が、妻の口から発せられた。
「よう締まりよるで」リーダーがつぶやいた。「食いつきよるみたいや」
「感想はええから、早よ回しなさいよ」
「見てるだけで洩らしそうや」
 などと男たちは言いながら、うらやましげな視線をリーダーの顔と妻の臀に這わせる。
「奥さん、痛いことあらへんか」ゆっくりと腰を動かしながら、リーダーが声をかける。
「痛かったらすぐに言いや。アナルセックスは最初が肝心やからな」
「ああっ、ああっ」妻の顎が上がった。「へ、変なの。熱いの。お尻が熱いの。いや、いやあ」
 四人は妻を解放した。だが、妻は肛門での結合を自ら解こうとはしない。むしろ、両腕をベッドに
つき掲げた臀に力を込めようとまでしている。
「なんや奥さん、一発目からアヌスで感じてるんかいな。おい、アホ亭主、見てみい。これがおまえの嫁はんの本性や」
 直腸の奥深くに男根を呑み込もうと、妻は双臀をグラインドさせながらリーダーの下半身に押しつけている。
 道はつけた、と宣言してリーダーはベッドから降りた。
 男たちが妻に群がった。
 全員が一通りアナルセックスを試みたあと、複合技ともいえる陵辱が始まった。肛門に男を咥え込んだままで膣に別の男根を呑み、
口腔を三人目の肉棒で突かれまくられるという有様だった。残りの一人は乳房を嬲ったり陰核をいじったりした。
 その間、妻は狂ったように腰を振り続け、男たち以上に悦楽を耽った。
 一服していたリーダーはタバコを消すと、おもむろに立ち上がった。片手いっぱいに洗濯ばさみを持って近づく。
これから行われることは想像に難くない。私は全容を見守ろうとベッドの脇に移動した。

 欲情に満ちた妻のあえぎが悲鳴に変わった。肛門と膣を男根に塞がれたままの妻に、一個、また一個、洗濯ばさみが食いついてゆく。
重たげに揺れる乳房に洗濯ばさみの花が咲いた。両方の乳房に、その凄惨なアクセサリーをつけ終えると、リーダーは仕上げを施した。
両乳首に一個ずつ咬ませたのだった。
「痛い痛い痛い痛い……堪忍してくださいいい」
 食いしばった歯の間から絞り出す訴えを無視して、リーダーは妻の脇腹の柔らかい皮膚をつまみ、洗濯ばさみを食い込ませた。
「きいいいいいいっ」
 妻がのけぞった。同時に、妻を犯している二人が呻いた。
「よう締まるやろ」洗濯ばさみをすべて妻に咬ませたリーダーが笑った。「お楽しみはこれからや。辛抱たまらんようになるで」
 お手柔らかに、と口々に言いながら、二人の男は再び抽挿を開始した。乳房と脇腹を襲う激痛よりも、
秘苑と菊座からもたらされる刺激のほうが優るのか、妻の鼻腔から洩れる声に甘いものが混ざる。
 リーダーに替わり、二人の男がベッドの両脇に立った。手には、火のついた太い蝋燭が握られている。
二人は無造作に蝋燭を傾け、大量の鑞涙を妻の背中に滴らせた。
「うわっ」肛門を犯す男が呻いた。「あかん。そんなに締めたらあかんがな」
「ほんまや」仰向けになった男が相槌をうつ。「ただでさえよう締まるんやから、もっと加減してくれんと」
「交代したろか?」
「止めへんから、早よいきや」
 二人は軽口をたたきながら鑞涙を落としてゆく。熱鑞から逃れようとからだをくねらせる妻の姿態が哀れでもあり、
また、私の興奮を誘った。
 背中が鑞涙で覆われてしまうまでに、妻は五度は絶頂を迎えた。
 妻の前後を貫いていた男たちはベッドから降りて、ベッドサイドの二人と交代した。
 私は膝立ちになって妻の体を観察した。臀を掲げたままの妻は、息をのむほどエロチックだった。
鑞涙や洗濯ばさみが陵辱の無惨さを強調し、女体の脆さとはかなさを際立たせている。
双臀の間からのぞく無毛の秘苑にはクリーム状の愛液がまつわりつき、肛門はぽっかりと広がったままだ。
ときおり、その二つを結ぶ括約筋が痙攣し、男根を求めているかのように会陰がひくつく。
女体の強靱さと貪欲さを、私は思い知らされた。
 やはり二人は同時に妻を犯した。体位も、前の二人と同じく、一人が仰向けになり膣に、もう一人が後背位で肛門を貫いた。
「入れすぎやで。ゆるゆるになってるわ」アヌスに挿入するなり男が言った。
「こっちもや。おまけに濡れすぎやし、おもろないなあ」仰向けの男も不平を洩らす。
「まあまあ、そう言わんと」一人が苦笑しながらリーダーの隣に腰を下ろした。「おれが締まるようにしてやるから」
もう一人が、細い棒を手に鞭を手にしてベッドサイドに歩み寄った。新たな肉棒を受け入れて悦楽の世界に耽りはじめた
妻の顎に手をかける。「奥さん。ちょっと痛いめにおうてもらうよ。ええな?」
 妻は焦点の合わぬ眼で男を一瞥してうなずいた。
 よっしゃ、と言うが早いか、鑞涙にまみれた背中に棒を振り下ろした。乾いた音がした。
 妻の短い悲鳴が上がる。
 間隔を空けずに、二打、三打が放たれた。鋭い衝撃に鑞涙が飛び散る。
「やめてっ、お願いですから、ぶつのはやめてください」
 妻は首をねじり、男に許しを請うた。
「洗濯ばさみと蝋燭で感じとったくせに」男は唇をゆがめて妻の哀願を一蹴した。「指揮棒ごときを怖がることはあらへんで。
特に、これは白木やのうてカーボングラファイト製や。折れたりせえへんから安心して楽しんだらええ」
 男の笞打ちは延々と続いた。最初は一打ごとに悲鳴を上げつづけていた妻だったが、痛みによる括約筋の収縮が思わぬ
快感を引き起こしたらしい。前後の肉孔を犯す男たちは指揮棒の動きに合わせて抽挿を行っている。括約筋が締まった瞬間、
肉襞をえぐるように陰茎を打ち込むのだ。
 鑞涙のほとんどが飛び散った頃、真っ赤に充血した背中をくねらせ、妻がひときわ強烈なオルガスムスを迎えた。
 私は二度目の精をショーツの中に放った。

 しばらくして、男たちは責め道具をバッグに丁寧に収め、身支度をしてマンションを出ていった。
「いつもながら、感心するわ」Fが私の手錠を外しながら言った。「あの五人組、一回も出してへんのや」
 私も、それが疑問だった。妻の体に何度も挿入しながら射精だけはしなかった。
「SMいうのは、そういうもんなんやて。精神的ななんとか……て言うてたな」
 Fは私の股間の染みを見てにやりと笑った。
「あんたは、奥さんに触ってもいないのに暴発かい。もっと鍛えんと、これから大変やで」
(これから? これ以上、刺激的なことが妻と私の身の上に起こりうるんやろか)
 これからのプレイに期待していると思われるのもばつが悪いので、借金のことを代わりに持ち出した。負債は減ったのか、
あといくらほど残っているのかと。
 失神している妻を一瞥すると、Fは私をリビングに導いた。寝室のドアを閉め、小声で答えた。
「ぶっちゃけて言うと、債務はほとんど消えてるよ。あんたが静岡に行ってから、ほぼ毎日、男や女に抱かれてるからね」
「それじゃ、妻を解放してもらえるんですか」
「そこで相談やがな」Fはますます声をひそめた。「あんたは、どうなんや? もう、こんなことやめたいんか」
 私は口ごもった。「妻の意思を尊重するつもりですけど……」
「今、見たやろ? 奥さんは完全にハマってるで。もし、あんたが『おまえが決めろ』と奥さんに言うたら、答えは一つやろ?」
「やめる、と?」
「ああ。人妻の誠、いうやつや。しかし、それは奥さんの本意やない。泣く泣く旦那に従うてるだけや。
変なやつと浮気されるよりは、この状態のほうがええんとちゃうかな」
 私は、非情にもうなずいてしまった。妻の狂態を見せつけられたせいで、正常な判断ができなくなっていたのだろうか。
いや、それはあまりにも見えすいた言い訳だ。私は、妻が性的にどう変わってゆくかということに激しく興味をいだいていた。
そして、私もまた、未知の快楽を知りたくてしょうがなかった。
 来月いっぱいで短期赴任が終わる予定だ。六月から妻とともにFがいざなう悦楽の園に飛び込める。夫婦二人なら、怖いことはない。
これまでの四か月間、肉体的、精神的、社会的なリスクはまったくなかった。
私にとって、Fはアリスを不思議の国に導いた白うさぎのような存在だった。
いや、ファウストに地獄を覗かせたメフィストフェレスに例えられるかもしれない。
 Fは、私の手を握ると晴れやかな笑みを浮かべた。
 つられて、私も微笑を浮かべていた。

 中間管理職として部下に説教を垂れる立場にある私ですが、そんな資格なんてないことを、
今回の文章を書いていて痛感しました。夫婦が話し合って決めるべきことを独断してしまいました。
そのときは、未知の領域に対する好奇心しかありませんでした。悔やんでも悔やみきれません。では、後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:28:07|
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贖罪 第12回

【#12 耽溺】
 Fと密約を交わした日、最終の新幹線で私は静岡に帰った。
 昼間の激しい行為で疲弊しきった妻は、見送りに行くと言い張ったが、私は固辞した。
明日から妻が呑まれることになる状況を考えれば、一時間でも多く休息させたほうがよいと思ったからだ。
 車窓を流れ去る郊外の民家の明かりをぼんやりと眺めながら、鈍痛にも似た性欲の高まりを密かに味わっていた。
 私に精通があったのは小学六年の冬休みだった。童貞を捨てたのは高校三年の春。そして結婚するまで、
プロを含めて八人の女と関係を持った。すべてノーマルな性交だった。
異常な性愛があることはマスメディアなどから知識を得ていたが、自分には関わりのないことだと決めつけていた。
 そんな世界観がいかに狭量であったかを、この十か月の間に思い知らされた。Fの手によって強制的に導かれたが、
この世の中には自ら性の迷宮へ飛び込む勇敢な人々もいるだろう。もっと早く、あり余るほどの体力と精神の柔軟性をもつうちに、
なぜ、私は踏み出そうとしなかったのか悔やまれた。
 だが、これからは違う。退屈なセックスのために空費した時間を、これから取り戻すのだ、妻と一緒に。

 関東の梅雨入り前に、私は大阪支社に戻ることができた。
 それからは、まさに性の桃源郷に耽溺する日々を過ごした。私が見守っているということに馴れた妻は、
存分に悦楽を味わっているようだった。
 私が危惧していたのは、エスカレーションだった。
 SM、複数、露出などさまざまなプレイを経験し、異物挿入、肛交などあらゆる性技を仕込まれてしまった妻は、
もう引き返せなくなるのではないだろうか。より深く、より異常な性感にしか興味を示さなくなるのでは……?
 だが、丸一年が過ぎるうちに、それが杞憂でしかなかったことがわかった。
 グレーフェンベルク・スポット――Gスポットの存在と、それがもたらす悦楽に開眼した妻は、
行為のエスカレーションよりも、自分の肉体の探求に興味を持ったようだった。したがって、
男根の挿入をともなうプレイをより好んだ。性交無しの純粋なSMプレイでは不完全燃焼を訴えるようになった。
 わがままが言える立場かい、と口では乱暴なことを言いながらも、Fは妻の意思を尊重してくれた。
それは、密約を交わした私に対する誠意かと思われた。なにしろ、負債がとうに消えていることを、
私は妻に伝えてはいなかったのだから。
 それは、耽溺としか表現できない月日だった。
 男や女に陵辱される妻の痴態に見とれ、我が家のベッドでは妻の性技に骨抜きにされる日々。
 性欲のテンションがこれほど維持できるとは、私は想像すらしたことがなかった。
 仕事で移動している間も、妻の肉体が脳裏に去来し、地下鉄の中で勃起させている自分に気づくことも少なくなかった。
 だからといって、学生時代の頃のように性欲で頭がいっぱいになるほど、私は若くはなかった。
むしろ、仕事にも身が入り、さまざまな案件を精力的にこなすことができた。
 始まりがどうであれ、この状況は私たち夫婦にとって天からの贈り物のような気がしていた。

 だが、その日は唐突にやってきた。
 得意先の接待が長引き、私が自宅マンションに帰り着いたのは午前一時前だった。もう寝ているだろう妻を起こさぬように、
静かに室内に入った。
 真っ暗闇だった。廊下のブラケットすら灯っていない。
 結婚以来、こんなことは一度もなかった。
 もしかして、Fとの密約が明るみに出て怒っているのだろうか。それとも具合が悪いのだろうか。妻の実家の両親が急病とか……?
 いや、緊急事態なら私の携帯電話に連絡を入れるはずだ。
 私はリビングの明かりをつけて寝室を覗いた。
 妻の姿はなかった。
 居宅内を捜したが、妻はいなかった。
 留守番電話の発光ダイオードは点灯したままで、録音のないことを示していた。
(Fの急な呼び出しか?)
 受話器を取って、Fの携帯電話の番号をプッシュしたが、留守番サービスに切り替えられていた。
(メールかも!)
 案の定、Fからのメールがあった。

*******************************
予定外の事で、ご迷惑をお掛けします。奥さんを暫くお借りします。
私の方から連絡致しますので悪しからずご了承下さい。
*******************************

 アドレスを確かめると、携帯電話からのメールだった。饒舌なくせに文書は素っ気ないFらしいメールだが、
焦りのようなものが短い文面から感じられた。それに、真夜中まで妻を連れ出したことも初めてだった。
 不吉な予感のようなものを、私は感じた。
 性愛の桃源郷がかき消えてしまうような気がした。
 そんなことはない、考えすぎや。私は無理に自分に言い聞かせ、ネクタイをゆるめた。

 これから書こうとしていることは、私を含めていろんな方にとって差し障りのあることになると思います。
どのような書き方をするのがベストか、考えあぐねていますが、ここまで書いておきながら、
とけしかけるもう一人の自分の甘言に乗ってしまいそうです。
これは、人様に読んでいただく文章を書くうえで避けられないことなのでしょうね。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:35:05|
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贖罪 第13回

【#13 調教】
 翌日、私は会社から何度となく席を立ち、トイレの中で携帯電話のプッシュダイヤルを押した。
自宅の電話もFの携帯電話も虚しく呼び出し音が鳴るだけだった。
 尋常な事態ではない。私は仮病を使って会社を早退して自宅に戻った。
 妻はまだ帰っていなかった。Fからの新しいメールも届いていなかった。
 それから夕方までの約四時間に私がしたことは、スーツを脱いで普段着に着替えたことだけだった。
あとは室内をうろうろと歩き回っていた。
 部屋の中がすっかり暗くなっていることに気づき、リビングの照明を灯したとき、電話が鳴った。
こちらが声を発する前にFの切迫した声が耳に飛び込んできた。
「帰ってたんやな。助かったわ」
「妻は……妻は一緒なんでしょ」
「そこにおってや。今、近くまで来てる。すぐ行くわ」
 電話が切れた。
 十分もたたぬうちに、ドアチャイムがFの来訪を告げた。
 Fの表情からは、いつもの押し出しの強さが消え去っていた。
無精髭が口許をくすませているうえ、仕立てのいいスーツも皺だらけだった。カラーシャツの襟元に汗染みがついていた。
 流しで勝手に水を飲むと、Fはソファに腰を下ろして口を開いた。
 今、妻はFのサークルの有力メンバーとともにいるという。そいつの名を、Fは教えてくれなかった。
関西財界の重鎮で、当然のように裏の世界にも影響力を持っているという。
メンバーの一人が、妻のことをその男に喋ったために食指を動かしたらしい。すぐにその主婦に会ってみたい、と。
 Fに否やはなかった。いつものように夜半には帰せるとたかをくくっていたらしのだが、その男は妻を手放さなかったのだという。
「黙って連れ出したりして悪かったけど、あんたにもええ話やと思うたんや。
あのじいさんのコネを掴んだら、あんたの営業成績も鰻登りになるから」
 自分の仕事のために妻の肉体を差し出そうなんて考えたこともなかった。妻をいろんな男や女に嬲らせるのは、性の冒険のためだった。
Fがステイタスがどのように作られてきたか、そのとき私ははっきりと理解した。こんな男に関わるのは、もうよしたほうがいい。
「で、妻はいつ帰るんですか」
「………」
 Fは腕を組んで溜息をついた。私は重ねて訊いた。
「それが、おれにもわからへんねん。あのじいさん、大阪におるかどうかもわからん」
「そんな無責任な。そのじいさんに妻を預ければどんなことになるか、知ってたんやろ」
 Fはうなだれた。「面目ない。あのじいさんには頭が上がらん。おれだけやない。
関西の企業は、じいさんのことを神様みたいに思うとるんや」
 神様という言葉で、私にはそのじいさんの正体に見当がついた。
「ひょっとして、Sというんじゃないですか、そのじいさん?」
 Fの表情は、私の推測が正しいことを伝えていた。Sは、経済コンサルタントとして日本全国に知れ渡っている。
バブルによる日本経済の失速とともに顧客の数が減ったものの、中堅企業にはまだまだ影響力を持っている。
 性的な奉仕をさせられているにしても、どこの誰ともわからない老人ではない。
マスコミによく登場するSということで、わずかに気が楽になった。
「まさか、Sさんまであんたのサークルのメンバーだったとは……。で、Sさんはどんな嗜好なんですか」
「それが……」Fは口ごもった。「よくわからんのよ。じいさんがメンバーになったのはつい最近のことやし、
サークルを利用するのは今回が初めてやから」
 私は失望した。八十過ぎというSにどのような性癖があるのか興味は尽きない。カネと権力をほしいままにしてきた男だ。
数え切れないほどの女と関係してきただろう。そんな男が、妻をどのような桃源郷に導いてくれるのか、
具体的な情報をもとに夢想したかった。
「しょうがないなあ。それで、Sさんと連絡はつかないんですか」
「向こうから電話がかかってくるだけやねん。番号非通知で」
「メンバーの電話番号も把握してないんですか」
「直通の電話は知ってるけど、携帯を使われたらアウトや。まあ、あれだけのお人やから、滅多なことにはならへんと思うけどな」
「それはそうでしょうけどね」
 私は溜息を洩らした。Fにビールだけでもふるまってやろうと腰を上げたとき、電話のベルが鳴った。
(妻かも!)
 一気に鼓動が高まった。受話器を耳に当てると、聞き慣れない男の声が私の名を確かめ、ゆっくりと話しだした。
『はじめまして。Sと申します。このたびは奥さんを拝借しております。いやあ、実にすばらしい女性ですな。ご主人がうらやましい。
もう少し奥さんをお借りしようと、お電話を差し上げたしだいです。ご不自由をおかけしますが、なにとぞご容赦ください』
 言葉使いは丁寧だが、抗議や反論はいっさい許さぬという強引なニュアンスが感じられた。
周囲からちやほやされて思い上がってしまった老人特有の口ぶりだ。こんな年寄りは、私は何人も見てきた。
「Sさんのご高名はかねがねうかがっております」私は営業モードに切り替えた。
「このたびは、家内がお世話になりまして。ところで、いつごろ家内をお返しいただけますか。
家内がおりませんと、ワイシャツのありかひとつわかりませんものですから」
 老人はからからと笑った。
「この借りはずれ返させてもらいますよ。まあ、細君がいない間、きみも羽根を伸ばせばいい」
「家内は、いつ帰してもらえるんでしょうか」
「せっかちだな」老人の声に冷ややかさが忍び込んだ。「その齢で、おかあちゃん恋しいでもあるまい。私にまかせておきなさい。
悪いようにはせんから」
「いえ、家内がどのような辱めにあうのか非常に気になりまして」
「同じ穴の狢、だな」Sは穏やかに笑った。「きみの気持はよくわかる。そうだ、こうしよう……」
 Sは、妻が陵辱される光景をビデオカセットや映像ファイルで送ると約束して電話を切った。
以後の連絡はメールでするようにと最後に付け加えて。
「あのじいさん、ITには乗り遅れ気味だから必死なんや。今ではコンピュータも達者になったらしいけど、六十半ばで根性あるで」
 Fの言葉を聞きながら、私は胸が躍った。強い意志を持った老人が、妻にどのようなプレイを仕掛けるのか、まるで想像がつかなかった。
輪姦、肛門性交、SM、レズ、露出などの修羅場をくぐってきた妻を待ち受けているものはいったい何だろう。
 そんな疑問をFにぶつけてみたが、明快な回答は得られなかった。
 Sからのメールなり小包なりを待つしかない。

 寝酒のスコッチをなめながら、メールをチェックした。
 Sの約束がその日のうちに遂行されるとは期待していなかった。なにしろグループ企業十社のトップに君臨する男だ。
多忙を極めているはずだ。
 だが、メールは送られてきた。
 三メガバイトものサイズのメールをダウンロードし終わるまでの十数分間がどれほど長く感じられたことか。
 送信者のメールアドレスに心当たりはなかった。
 件名は「調教記録その1」
 本文は無し。画像ファイルが十点添付されているだけ。
 マウスに伸ばした手が、期待と不安に細かく震えた。
 被写体は、すべて妻だった。

ファイル01:革張りのソファに座っている。Sの執務室か?
ファイル02:強ばった笑みを浮かべ、一糸まとわぬ姿で佇んでいる。背後の書棚にSの著書がずらりと並んでいる。やはり執務室だ。
ファイル03:ソファに座り、両脚を限界まで広げて無毛の性器を自らの指で広げている。
ファイル04:標準サイズの筒具を根本まで呑み込んだ花芯のアップ。ピンぼけだが妻の貌が写り込んでいる。表情まではわからない。
ファイル05:花芯を貫いていた筒具が、アヌスを犯している。
ファイル06:鑞涙にまみれた乳房のアップ。
ファイル07:白髪のまじった陰毛から屹立する黒い男根に舌を寄せる妻。よく見てみると、妻はフェラチオしながら自ら蝋燭を持ち、背中に鑞涙を垂らしている。
ファイル08:大理石製の応接テーブルの上にしゃがみ込んでいる。豊かな臀には鞭痕らしいみみず腫れが幾筋も走っている。押し潰されたイチジク浣腸が五個転がっている。
ファイル09:Sの専用トイレにうずくまる妻。鑞涙を体中に張り付けたまま顔をゆがませている。
ファイル10:妻の貌のアップ。長く泣いていたようだ。涙が頬を濡らしている。目許は腫れぼったくなり、鼻の頭が赤みを帯びている。

 正直なところ、Sの行為には落胆した。たぶん、自分のオフィスで妻と二人きりで行ったのだろう。
ドアを開ければ営業中の会社であるという状況を楽しんでいるだけだ。新味がまったくなかった。
 こんなことは、これまでの一年足らずの間に経験済みだ。もっと凄いことをSならやってくれるだろうと期待していたのに。
(こんな生ぬるいSMでも、じいさんには精一杯なんだろうな)
 なにが調教記録だ、口ほどにもないとはこのことだ。
がっかりする反面、経営の生き神と崇められているSのハッスルぶりが微笑ましくもあった。
「あんた、女を調教するより企業を調教するほうが、やっぱ向いてるで」
 ディスプレイに向かって軽口をたたいた私は、グラスを口に近づけた。どうやら安眠できそうだ。
 最初の一口を含んだとき、私の脳裡を何かがかすめ飛んだ。
(……こんなことは、これまでの一年足らずの間に経験済み?)
 そして、妻の涙。これくらいの行為で妻が泣き腫らすわけはない。
 いったい、妻はSに何を言われたのだ? 私はふたたび画像ファイルを開いた。どんな細かいところも見逃すまいと、眼に力をこめた。
 だが、新たな発見はなかった。
 十一か月ぶんを一気にたどった組写真と言うだけだ。
(一気にたどる? 十一か月ぶんを……?)
「そういうことか!」
 思わず、私は呻いた。Sの書いたシナリオがわかった。妻が経てきた陵辱の数々をオフィスでおさらいしたのだ。
たぶん、妻に告白させながら。
 Sは、妻の現在のレベルを確認したのだ。
 そのうえで、自分なりの調教を施していこうといこうという腹づもりなのだろう。
“調教記録”という件名に、その期待と自負が表れている。
 これ以上、どのような責めがあるというのだろう。
 私は、SMに関する国内外のサイトを閲覧しまくった。流血をともなう拷問まがいのプレイ写真にたどり着いたときは、
さすがに胸が悪くなった。それがオランダのサイトであることが、唯一の救いだった。日本人の感性では発想できないプレイだった。
まさか、あんなことまではしないだろう、私は自分に言い聞かせた。
 SMに関して無知であることを、そのときの私はまったく自覚してはいなかった。

 これ以降、私たち夫婦の生活が激変いたしました。Sの老獪さと情熱に翻弄される私たちの有様は、
今から顧みますと滑稽でもあった気がします。次回は短期間でアップしようと思っていますが、どうなりますやら。では、後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:41:12|
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贖罪 第14回

逆瀬川健一です。公私ともに多忙を極め、最後の書き込みから数か月も経ってしまいました。ようやくパソコンの前に座り、キーを叩く余裕ができましたので、ふたたび妻と私の話を続けさせていただこうと思います。

【#14 傾斜】
 三日間、Sからの連絡はなかった。電話もメールも。
 仕事を終え、暗い部屋に帰ってくるたびに、私の不安は深まっていった。
 もう二度と、妻の顔を見ることができないのではないか。軽やかな足音も、小気味いい包丁の音も、私の冗談に笑う声も、もう聴けないのではないだろうか。
 そんな不吉なことばかり考えるようになったのは、Sがオカルトに傾倒しているという噂を思い出したからだった。
 日本企業が国際的な競争力を持つに至る過程では、Sのマネジメント理論は確かに効力があった。だが、貿易摩擦が起き、日本バッシングが行われると、Sの理論は回答を提示しえなかった。Sは、急速に終末論に傾いていった。すべての苦しみは今に終わる。それまで辛抱すれば、ふたたび日本の時代がやって来るのだ、と。
 柔和という言葉そのもののSの顔だが、その裏には悪魔に魂を売り渡したオカルト亡者の表情があるのだろうか。
 たかが噂だ。それも三流ジャーナリズムが垂れ流した。
 私の心は揺れた。この揺れを止めるのは、Sからの連絡だけだ。

 四日目。限界に達しそうな私の心を読んだかのように、携帯にSからのメールが入った。
***********************************
奥方はお元気です。土地柄のせいか食欲も増し、あちらのほうもなかなか積極的になっておられる。同行の経営者たちも骨抜きにされ、現地のナイトライフを楽しむ暇も精力も残っていぬほど。明後日、奥方を送り届ける予定。不自由をかけるが、しばらく我慢されたし。 北京にて。
***********************************
 Sは、最初から妻を中国に連れてゆくつもりだったのだ。視察旅行の同行者の性欲処理のために。
 言葉が通じない外国では、Sの存在は妻にとっては絶対だ。ホテルから無一文で放り出されるのではという危惧に、妻は抵抗を完全にあきらめてしまったのだろう。
 外国に連れ出されることを知りながら、妻は命じられるままにパスポートをもって出たのか。
 そこに、性の地獄への妻の傾斜を見たような気がした。
 Fと私との密約を、妻が知るはずはない。さまざまな蹂躙を定期的に受け、性感を開拓されながらも、借金返済のためだと、妻は自分に言い聞かせていたはずだ。少なくとも、私に対して引け目を感じているのではないかと思いこんでいた。
 だが、妻は、性の地獄の深みにはまってしまったのだ。いや、妻にとっては地獄ではない。たぶん、極楽だ。つい数日まで私が悦にいっていた観念にとうに気づいていたのかもしれない。
 私の手前、不本意であるようなそぶりを見せながら、内心は嬉々として新しい快楽を貪っていたのではないだろうか。

 約束の日、残業を早めに切り上げて帰宅した私を待っていたのは、いつもの暗い部屋だった。八時前だというのに、妻の姿はなかった。
 ブリーフケースをソファに放り投げ、ネクタイをゆるめようとしたとき、電話が鳴った。
『S先生の使いの者です。一時間後、西宮北口駅の改札までいらしてください。奥様にお引き合わせいたします』
 一方的にそう告げられて電話が切れた。
 
 実際、妻の姿を見ることができたのは、二時間後だった。
 西宮北口駅前で迎えのワゴンに乗せられ、京都に連れて行かれたのだ。
 三条大橋の近くのマンションに入り、最上階に上がった。
「おお。きみがご主人か。はじめまして。私がSです」
 雑誌などで目にする写真よりも、実物のほうがはるかに若かった。トレーナーにコーデュロイのパンツ。背筋はぴんと伸びて胸板は厚い。
「このたびは、奥方を勝手にお借りしたうえ、海外まで同行していただいて申し訳なかった。迷惑をかけたね」
「とんでもない」
 私の口をついて出た言葉は、それまで用意していた恨み言とはまったく異なったものだった。Sの口調に誠を感じ取ったからだった。
「かえってお邪魔になったのではありませんか」
「いや、すばらしい奥方だ。送ったメールのとおりだよ。私はもとより、一緒に行った社長たちがいたく感激してね」
「ところで妻は?」
 私の質問に、Sは無言の笑みで答えた。テーブルの上のリモコンを手に取り、今のコーナーに据え付けられた六十インチのプロジェクションテレビに向けてスイッチを押した。
 妻の姿がスクリーンに現れた。秋物の、丈の長いドレスに身を包み、椅子に腰掛けている。周囲は闇に溶けていた。光軸を絞った真上からのスポットライトが妻を漆黒の中に浮かび上がらせている。頬や鼻の下を隈取る陰影が、妻の孤独と心細さを表しているかのようだった。

 神戸北野にあったマンションと同じ仕組みか? 隣室の映像をここでモニターするとか……。
「残念だが、奥さんはこのマンションにはいない」
 Sは、私の考えを読んでいた。
「とにかく、元気な様子をご覧にいれたくてね。さて、男同士の話をしようか。なにか飲むかい」
 私はうなずいた。こんな大物相手に、しらふで話などできるわけがない。
 雑談を交わしながら私たちはスコッチを呑んだ。
 アルコールに、私の緊張を急速にほぐした。
「回りくどいのは嫌いだ」Sがぴしゃりと言った。「奥さんを雇いたい。私の秘書として」
 私もずばりと質問した。「つまり、愛人として?」
「いや、愛人ではない。私のビジネスを手伝ってほしんだよ」
「………?」
「もちろん、会社が雇う秘書ではない。私設秘書だ。給与はポケットマネーで支払う」
「お手当……。やっぱり愛人じゃないですか」
「そうじゃない。私の話をよく聞きたまえ」
 自分の性欲と征服欲を満たすために女を囲うというわけではない、とSはきっぱりと言い放った。
 経営の神様などと呼ばれてはいるが、それはマスコミが作った偶像だ。S自身の、たぬまぬ営業努力のすえに現在の顧客を獲得したのだ。へりくだってはいけないし、傲慢であってもいけない。その微妙なラインをどう保つか? そこに女が必要になってくる。
 毅然とした態度を取りながらも、顧客の趣味や道楽に理解を示し、有用な情報や物品を与えることが、契約継続の秘訣だ。古美術が好きな客には、貰い物だと言って高価な品物を手渡す。ゴルフが好きな客には、有名なプロゴルファーのサイン入りクラブセットを進呈する。そして、好色な客には女をあてがうというあんばいだ。
 もちろん、好色な客の数は圧倒的だ。そんな客たちに、私の妻をレンタルしようというのだ。
「中堅広告代理店営業部課長のきみにとって悪い話じゃないはずだ。顧客の大手メーカーの宣伝戦略をきみの会社にお願いするように持っていくことだってできる。勘違いしないでくれよ。仕事をネタに取り引きしようと言うのではない。これは、お願いなんだ。頼みます」
 私は浮かしかけた腰を、ふたたびソファに沈めた。仕事の発注という卑劣な手段を本気で使うような男と取り引きする気はなかった。私は、自身の営業手腕に自信があった。営業成績のために妻を売るような男と思われるのが我慢できなかった。だが、私に深々と頭を下げるSの態度に、怒りが消えた。Sの言葉に、私は誠を感じた。

 私はモニターテレビに視線を投げた。「これから何が始まるんですか」
「もし、きみが頑なに拒否したら、奥さんの乱れぶりを見せようと思ったんだ。そうすれば気も変わるだろうと思ったんだ。年寄りの嫌味な計略だよ。だが、きみの心は決まったようだね。ん?」
 老人のたしかな洞察力に、私は舌を巻いた。
「Sさんにはかないません。いいでしょう。妻を私設秘書に使ってください。ただ、私の仕事に便宜を図っていただかなくても結構です。そんなつもりで、妻をお貸しするわけではありませんから」
「じゃあ、どんなつもりなのかね」
「見てみたいんです。私たち夫婦が行き着く先を」
「きみも奥さんも、まだ三十代なんだろ?」Sは呆れたように言った。「地獄を見るかもしれんよ、そんなこと言ってると」
「かまいません」そう言いながら、私はかすかに震えていたかもしれない。
 それじゃ、手始めに、とSはつぶやいて懐から携帯電話を取り出してダイヤルキイをプッシュした。
「私だ。首尾は上々。予定どおり奥さんのお相手を頼む。手加減は無用」
 そう言い終え、Sが電話を畳むと同時に、スポットライトの中に二人の男が現れた。妻が身を固くした。
「――これは!」
 含んだスコッチに、私はむせそうになった。
 男たちが全裸だということに驚いたのではない。
 彫像のように筋肉が盛り上がっているさまに感嘆したのではない。
 二人の背中一面に彫られた刺青に度肝を抜かれたのだ。
「ヤクザじゃないですか。なんてことを……」
「そう驚かなくてもいい」Sは苦笑した。「彫り物を入れてはいるが、れっきとした会社員だよ。私がコンサルティングしているくらいだから、変な会社ではない」

 男たちが体の向きを変えると、刺青の規模が明らかになった。首筋から両胸、腕は両手首まで。下半身は尻から太腿の半ばまで鮮やかな色彩に覆われている。図柄の知識は私にはなかったが、とにかく半端な刺青ではない。会社員というのは表向きにちがいない。暴力団新法で合法的な稼業に転換した暴力団の会社の者だろう。
 モニターの中の妻が、男たちの刺青を凝視し、いやいやをするように首を振った。
 Sはテーブルの上のリモコンを取り、音量を上げた。
『かわいがってほしかったら、自分で脱げや』
 龍の刺青の男が言った。
『別に……いいです。帰してください』妻の声がおののく。『Sさんは、あなたがたのことご存じなんですか』
『なめた口ぬかすと、しばきまわすぞ』仁王のような刺青を入れた男が低く言った。『あのじじいはどうでもええんや。堅気のくたばりぞこないの知ったこっちゃない』
「テンションが上がってるね」Sは苦笑を浮かべて私を見た。「役者だね、二人とも」
 Sの庇護が受けられぬと観念したのか、妻は椅子から腰を上げ、背筋を伸ばして立った。背中に手を回してボタンをはずす。ゆるんだ襟元に手をかけるとドレスは小さな衣擦れの音をのこして妻の足下に落ちた。スーツに見えたドレスは、ワンピースだったのだ。
 ドレスの下の妻は全裸に近い格好だった。ノーブラ。そしてショーツとは呼べない紐状の下着が剃毛された恥丘を二分している。
『回ってみい』
 龍が命ると、体を小刻みにふるわせながら妻はターンした。紐が食い込む双臀が強い光線を受けて白く飛んでいる。背筋のくぼみと薄く贅肉がついた脇腹とのコントラストが、成熟の度合いを強調する。ずいぶん長い間、妻の肉体を見ていないような気がした。
 仁王が椅子を片付けた。両胸を抱きかかえて立ちつくしている妻に正座するように龍が言った。妻の両脇に二人が立った。男根はしぼんだまま、勃起の兆候すら見せてはいない。
『わかってるやろな。これからせんならんことは』仁王が言った。『おまえの体を見てもぴくりともせんのや。ほら、お詫びせんかい』
 一瞬、妻がカメラを直視した。私は妻と目があったような気がしてどきりとした。まさか、私がSと一緒にヤクザの調教シーンを観ているとは想像すらすまい。胸がきりりと痛んだが、ヤクザに輪姦されるというおぞましい状況を、妻がどのようにして受け入れるのかという好奇心のほうが強かった。私は、画面から目をそらした。
『まずは、わしからや』仁王が腕組みをし、腰を突き出した。しぼんだままでも、男根は十数センチはあった。
 妻は恐る恐る手を伸ばし、醜悪な肉塊をつまんだ。
『なにしとんじゃ、こらあ!』反対側の龍が妻の髪を掴んで声を荒げた。『誰が手え使て、ええ言うた。お詫びは口でするもんやろが』
 龍の形相におびえた妻は、額を床にこすりつけるようにして謝った。そして、仁王の尻を抱くようにして男根を口に含んだ。
 長い口腔奉仕のあと、妻の唇を割って現れたのは二十センチはあろうかと思われる肉棒だった。間もなく自分を犯す凶器が口の粘膜を圧迫しながら膨張していく感触が、妻から抵抗する気すら奪っていたのかもしれない。妻は、眼前で重たげに揺れる男根に物欲しげな視線を絡みつかせていた。
 すでに亀頭をもたげはじめたもう一本のペニスが妻の口に押し入った。長さこそ標準的だったが、太さと形状が並の男根ではない。成人男性の手首ほどの太さがあり、その表面に海綿体のかたちが浮き出している。まるで筋肉でできているかのようだ。
 妻は鼻腔を広げて空気を貪りながらも、唇を締め、頬をすぼめようとする。
 だが、口を犯す肉塊のため頬はまったくすぼまらない。逆に、頬が内側から不自然に膨らみ、蹂躙のさまを見せつける。
 龍の口腔性交は執拗だった。仁王の倍の時間をかけて妻の口を犯し尽くす。
 勃起を何度も引き抜いては舌で追わせ、裏筋から陰嚢までねっとりとしゃぶらせる。ときおり、どす黒く充血した亀頭を頬や瞼にこすりつけては、卑猥な言葉を投げかける。
『どうや、はよ欲しいんやろ。こんなでかいのを食うたことあるか?』
『……い、いいえ。これほど大きいのは……』
 妻の表情や口調から不快感はうかがえない。鼻筋をなぶる龍の亀頭を見つめる瞳が潤んでいるように見えた。それは、屈辱感による涙ではない。期待感からくる微熱の火照りのせいだ。
 ヤクザに対する恐怖が、妻から消え去っていることに私は愕然とした。
 性感の高まりは、恐怖すら凌いでしまうものなのか。もし、私が妻と同じ状況に置かれたとしたら、たぶん、勃起などさせることは不可能だろう。
 男たちは、こうして何人もの女を嬲ってきたのか、息がぴったりと合っている。龍は妻の体の位置を変えさせると、すかさず仁王が厚手のラグを敷く。
『いつまでもしゃぶってんと横にならんかい』
 暴力的な口調とは異なり、龍は妻にくわえさせたままゆっくりと膝を曲げ、腰を折った。妻の両腋に膝を入れるようにして、真上から口を犯し続ける。
 画面が大きく揺れた。
 固定されたアングルからカメラが解放された。きっと仁王がカメラを三脚から外したのだ。

「おお。いいね、いいね」Sが顔をほころばせた。「あの男のカメラはプロ裸足だからね。きっといい画を見せてくれる」
 私は、不安と期待がないまぜになった表情でうなずき、すぐに視線をプロジェクターに戻した。
 カメラは妻の股間を狙った。単なる紐でしかない下着は、妻の秘唇を割って食い込み、卑猥な肉溝に没している。
『ほおお、えらい洪水や!』仁王のくぐもった声が、ズーミングを始めた画面に重なった。『尺八だけで、こんなに濡らすか?』
 仁王の揶揄が妻の耳に届いたのか、急に脚を閉じる。
『こらあ、脚ひらかんかい! ちんぽ抜かせるぞ!』
 その威嚇は効果的だった。妻がゆっくりと開脚した。
 スクリーンいっぱいに股間が拡大された。
 黒だとばかり思っていた下着は、深い紫だった。その光沢はたぶん絹なのだろうが、妻の愛液が高価な生地を台無しにしてしまっていた。
 食い込む紐に四葉の花弁が絡みつき、おびただしく溢れる蜜がぬめ光る。
 フレームから男の二の腕が現れ、その淫らな布きれを引きはがした。
 妻の秘苑の全貌が明らかになった。複雑な構造をありのままが、ライトのもとにさらけだされた。

「大画面で見るのも一興だね」白濁した粘液をじわりじわりと吐き出す肉の合わせ目を眺めながら、Sは唸った。「きみのところは、たしか子どもはいなかったね?」
 画面から眼を離さぬまま――いや、離せぬまま、私はうなずいた。
「よく締まると評判だよ。実は、私はまだお相手をしてもらったことはないんだが、顧客がそうのろけるんでね」
 意外な言葉に、私はSの顔を見た。
 Sは照れたような笑みをうかべた。「この齢になると、肉の悦びが鬱陶しくなるものだ。肉体の悦楽など、一時的なものでね。やりすぎれば疲れもするし、飽きてもくる。人間の快楽中枢は脳なんだよ。決して粘膜の神経細胞などではない。こうしてきみの奥方のようなご婦人が性感に耽るのを観ることが、なによりも楽しい。射精などとは別の次元の快楽なんだ。まだ若いきみには、年寄りのたわごとにしか聞こえないかもしれないがね」
(これや! これなんや!)
 私は、Sの持論に胸のうちで賛同した。妻との爛れるような日々を送っていた私が求めていたのは、これだったのだ。これまでのもやもやとした思いを、はっきりと言葉にしてくれたSという人物の深さに、感じ入った。
 私はグラスを置き、ソファの上で姿勢を正した。
「Sさん、いや、S先生。今のお言葉に感服いたしました。妻をいろんな男たちに辱めてもらうことに悦びを感じていた私は、実は変態ではないかと思っておりました。しかし、そうではなかった。私もまた、快楽中枢の刺激に酔いたかったのです」
「若いのに変わってるな、きみは」Sは面白そうに笑った。「ところで、奥方の同意は得ているのかな? きみと同じような願望を、奥さんも持っておられないと、悲惨な結果をまねきかねない」
「Fさんと関係を持ってから妻は変わりました。たくさんの男や女の慰み物になることが、どれほどの快楽をもたらすかを知ったのです。その件に関して妻と真剣に話し合ったことはありませんが、妻の思いは私にはよくわかります」
 このような状況に妻を陥れた私とFとの密約のことは明かさなかった。一喝されそうな気がしたからだ。Sの機嫌を損ねたくない一心だった。

 話は後だ、とSはそっけなく言って、プロジェクターに顔を向けた。
 画面の中の妻は、龍の刺青を背負った男を迎え入れようとしていた。
 両肘と両膝で体重を支え、尻を高く掲げている。
 男の両手が腰のくびれをがっしりと掴み、そそり立つ太い肉棒を秘裂に突き立てていた。
 膣内に愛液が満ちているとはいえ、龍の勃起を受け入れるのは難しいだろう。たとえ挿入できたとしても抽挿は困難だ。そのペニスの直径は缶コーヒーほどはあるのだ。
 妻を襲う苦痛から眼をそらそうとしたとき、スピーカーから想像もしなかった声が洩れた。
『はっ……う。くうううっ。す、すごい。いっぱいになってる。くううっ』
 カメラは妻の斜め前から全身をフレームに収めていた。
 ショートカットの髪を振り乱し、背後から犯す男の腰に自らの下半身をうねらせるようにして押しつけている。ペニスは完全に没してるのだろうか。
 やがてカメラがふたたび固定された。そして、淫らな映像が私とSの前に展開した。
 口と膣を同時に犯される妻。太い剛棒と長い屹立を両手で握らされフェラチオを強いられる妻。さらに、膣と肛門を同時に蹂躙される妻。
 これまでの夫婦の性の遍歴で、似たようなシーンは幾度となく眼にしていた。しかし、強靱な肉体に墨を入れた男たちにもてあそばれる今回の様は、禍々しさと淫靡さに満ち、私を魅惑した。

「女は、強いな」
 Sがつぶやいた。
「ヤクザ相手に快楽を貪ることができる。だから、仕込みたい。調教したい。そして、狂う様をつぶさに見たいんだよ」
 同感だった。私は、Sの性哲学と実践に深い感動をおぼえた。もし、妻でよければSに差し出し、私たち夫婦の行き着く先をこの眼で見たいと激しく思った。

ひさしぶりの書き込みなので勘がつかめず、長々と書いてしまいました。管理人さま、もし、ご迷惑のようでしたら削除していただいて結構です。そのときは短縮版とか分割版を書き込ませていただきます。では、後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:45:45|
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贖罪 第15回

【#15 蹂躙】
 胎児のような恰好でラグの上に横たわる妻を、スポットライトが無情に照らしている。
 男たちの姿は、消えていた。狂宴は終わったのだ。
 タンブラーをテーブルに置き、私はSを見た。「ヤクザの神髄を見せつけられました。これじゃ素人が束になっても――」
「せっかちだな、きみは」
 Sは私の言葉をさえぎり、空のタンブラーにスコッチをついでくれた。
「今のはウォーミングアップ。お楽しみはこれからだよ。やつら、出さなかっただろ?」
 妻の凄艶な表情に気を取られ、男たちに対する観察眼が曇っていたのだろうか。確かに、妻の双臀は汗にはまみれてはいるものの、白濁した液がその合わせ目から垂れたりはしていない。
「もちますかね、家内の体は」
 失神してしまった妻の姿を眺めながら、私はつぶやいた。あれほどの剛棒で二時間近くも犯されたのでは、神経が鈍ってしまっていてもおかしくはない。二十代そこそこならともかく、三十四歳という齢では、回復力も衰えているのではないだろうか。
「快感にもいろいろあってね」Sが笑った。「奥方には、今から苦痛が及ぼす快楽を味わってもらう」
「SMですか? そういったプレイなら、あいつは何度も経験していますが……」
「プレイ、ね」Sはあからさまに唇をゆがめた。「しょせん、“ゴッコ”にすぎん。本物の苦痛、死と隣り合わせの恐怖。そこから生じるのが、本物の快感だ。だが、誰でもそこに到達するとは限らない。人間には器というものがあるからね。そこで、奥方の資質を、今から確かめさせていただこうと思う。どうかね、きみの同意は得られるかね」
 本物の苦痛……死と隣り合わせの恐怖……。妻に対して、何が行われようとしているのか。精神的に深いダメージを受けるのではないだろうか。私は、Sに疑問を問いただした。
「すまん、すまん。すっかり怖がらせてしまったようだな。今のは、あくまでも言葉のあやだ。拷問ではあるまいし、加減は心得ている。どうかな、お許しを出していただけるかな?」
 私はうなずいた。この部屋で一部始終がモニターできるのだ。常軌を逸したことが行われれば、すぐにストップをかければいい。
「途中でも、やめさせる権利をいただけますか?」
「もちろんだ」Sは豪快に笑った。「亭主であるきみが止めずに誰が止めるんだね?」
 私は安堵してタンブラーを傾けた。Sは、ふたたび携帯電話を取り出した。

 龍と仁王が画面に現れた。二人とも褌を締めていた。真新しい晒し木綿がライトの光を受けて白く飛んでいる。尻にまで及ぶ刺青が、褌と絶妙なコントラストを見せていた。
 横たわる妻の周囲で、二人はてきぱきと動き回った。
 ときおり、ライトの光軸に紐状のものや、角材のようなものが照らし出される。
 準備が整ったらしい。二人は、妻を抱え上げると両腕を揃えて伸ばさせた。龍が支え、仁王が闇に消えた。
 すぐに金属音が響き、妻の腕がぴんと伸びた。
 滑車に通されたロープで吊られているのだろう。キリキリという金属の軋みのたびに妻の体が伸び、重力に抵抗して筋肉が浮き上がる。
 妻を支えていた龍が手を離し、足下に膝をついた。
 角材とロープを手にした仁王が光の中に現れた。
 二人は手分けして、妻の両足首それぞれにロープを巻き付け、角材に打ち込まれた二対の鉄環に固定した。妻の両脚は限界まで開かれた。膝を曲げることすらできないようだ。
『こらあ、起きんかい!』
 龍の怒声が飛んだ。うなだれていた妻は、はっと顔を上げた。そして、自分の恰好に気づき、頬を赤らめた。
『あれだけよがっといて、いまさら、なに恥ずかしがっとんのや。なんべんいったか言うてみい』
 妻は首をねじり、淫らな問いから逃れようとした。うなじに張り付いた後れ毛に新鮮な色香を感じた。輪姦が終わってからしばらく治まっていた股間に、急速に血液が集まってくるのがわかった。
 妻のうなじに欲情してしまう自分の情緒に、私は当惑した。いろんな男や女に性器をおもちゃにされ、なおかつ陰茎や性具を呑み込まされる光景を、たびたび眼にしていたというのに、たかだかうなじを見ただけで……。二時間近くヤクザに弄ばれる様を眺めていて劣情が蓄積していたのか?
 いや、そうではない。
 そんな単純なことではない。物理の法則に支配されるほど、私は若くはない。
「夫婦とは、不思議なものだな」
 Sが真摯なまなざしを私に向けた。
「野放図な新婚時代を経て、やがて倦怠期。悩んだり、不倫の泥沼に入り込んだり……。お互い、もうすっかり味わいつくしたと思っていたのに、互いに欲情する未知のポイントがあったりもする。そんな発見が、夫婦の醍醐味なのかもしれないな。ちょうど、今のきみのように」
 私は虚をつかれた。これほど鋭い洞察力を持つ人物に会ったのは初めてだ。
「……せ、先生。これはいったい? 私は今、非常に妻が愛おしいんです。性的に、そして人間的に……うーん、なんと言えばいいのか……」
「急いて感情を分析する必要はない」Sはスコッチを舐め、スクリーンに視線を戻した。「夜は長いし、きみたち夫婦の人生も長い」

 妻への責めは酸鼻を極めた。精神的に、そして肉体的に。
 まずは言葉による羞恥責めだ。いましがたの輪姦で迎えたオルガスムスの回数を皮切りに、これまでの性的な体験を仔細に語らせた。それも、普通の言葉ではなく、妻が知りうる語彙の中からもっとも下品で猥褻な単語を使わせてのうえでだ。その間、二人の刺青男は妻にフェラチオさせるわけでもなく性具で刺激するわけでもなく、記憶の曖昧な点を追及した。まるで取り調べだった。妻が口ごもると、仁王が竹笞を振り下ろし、脇腹や内腿にみみず腫れをつけてゆく。
 これまで、欲情に正気を失って淫らな言葉を洩らす妻の姿は、何度も見てきた。だが、今の妻は冷静なまま淫猥な単語を口にしているのだ。言葉の取捨選択の迷いが表情に出る。言おうか言うまいか。人格のハードルを越えられるか越えられないか……。
 妻がもっとも抵抗したのは、夫婦の性生活に関する告白だった。私の性器のサイズ、前戯の手順、持続時間、好みの体位、最中に妻にかける言葉、アナルセックスの有無、性具の使用状況、写真およびビデオ撮影の習慣の有無などをことこまかに聞き出す。
 そうなの? というような眼でSが私を見遣る。照れ隠しに、私はスコッチをあおった。

 次に妻を襲ったのは針責めだった。
 二人は妻の正面にあぐらをかくと、エタノールの瓶をこれみよがしに置いた。
 龍は、浅い陶器皿に二十本ほどの細い洋裁針を並べ、アルコールを注ぎかけた。
 一方、仁王は脱脂綿の塊からひとつかみむしり取り、アルコールをしみこませた。そして、やにわに立ち上がると、片手で妻の乳房を揉みはじめた。
 節くれ立ってはいるが、その動きは繊細そのものだった。五本の指が右の乳房を麓から絞り上げたかと思うと、すぐに左の乳首を指先でなぶる。楽器を弾いてでもいるかのような、自信にあふれた指使いだ。
 妻の両乳首はすぐに変化を見せた。
 色素の沈着がひときわ濃くなり、形もいびつなものへと変わってゆく。
 完全に尖りきったが、仁王の愛撫はやまない。
 ブランデーグラスを揺らすように指の股に乳首を挟み、すべての指先で乳房を揉み込む。
 妻が、甘い吐息を洩らした。
『おつゆが湧いてきたで』あぐらをかいたまま妻の股間を観察していた龍が、秘苑の変化をからかった。『ほんまにすけべなおめこやな。旦那に申し訳ないと思わへんのかいな。どこの誰ともわからん男にいいようなされて濡らすやなんてな』
『ほんまや。乳首をちょっといじったっただけでこのありさまや。えげつない女やで』
 妻が乱れはじめた吐息を急に我慢したのを見て、二人は低い声で笑った。
 乳房なぶりが続いた。妻の吐息は、よがり声に変わっていた。
 切迫したその声は、オルガスムスが近いことを示している。
 そろそろやで、と仁王が告げ、左の乳房を脱脂綿で拭いた。よっしゃ、と龍が答えて立ち上がった。アルコールのしずくが垂れる針をつまんで。

「ほんまに刺すんですか?」私はSに訊いた。
「ああ。しかし、大丈夫だよ。消毒は万全だし、針だって細いメリケン針だ。たしか8番だったかな」
「針は針でしょ。痛いんじゃないですか?」
「見た目ほどは。我慢できない痛さじゃない」
 Sとの会話は、妻の悲鳴によってさえぎられた。
 乳房の外側面に針が突き立っていた。妻のおののきが乳房に伝わるが、針は抜ける気配もない。
 どれほど深く刺さっているのだろう。針など持ったことのない私には見当もつかなかった。
『ゆ、ゆ、ゆるしてください』妻は涙をこぼして哀願した。『なんでもしますから――いいえ、させていただきますから、どうか針だけは堪忍してください』
 その答えは、新たなる針の植え込みだった。
『うぐっ。くうううう!』
『乳首がえろう固うなってるやんか』
 仁王が乳房なぶりを再開した。その間、龍は次の打ち所を物色する。
 Sの言うように、見た目ほどは痛くはないのだろうか。つい今しがたまで涙をぽろぽろとこぼしていたのが嘘のように、鼻翼をひくつかせて甘い息を洩らしはじめた。
『はあっ、くううっ、ううん……』
 三本目の針に対して、先ほどのような悲鳴はもう湧かない。
 次々と針が乳房に打たれるが、痛みすら快感に変質させているのか、妻は頭を振りたくり、初めて経験する異様な悦楽を味わっているかのようだ。
 両の乳房に九本ずつ、計十八本の針を打たれたまま、妻は荒い息をつき不自由な体勢のまま腰を前後に揺らしている。無毛の恥丘を突き出し、幻の性交を行っている。
 白い内腿から膝まで愛液が伝っていた。
 快感は、苦痛によってブーストされるものなのか。だが、まだ妻はオルガスムスを迎えてはいない。やはり、コントロールされた痛みと巧みな愛撫だけでは、これが限界なのだろう。
『さあ、奥さん。最後の二本やで』皿から残りの針をつまみ、龍が笑った。『どこに欲しい? 遠慮せんと言うてみいや』
『……おっぱいに、ください』
『もうぎょうさん刺さっとるがな。まだ足りん言うんかいな』
『ち……ち、乳首にください』
『おお、そやった。まだ、そこが残ってるな。ほんまにええんやな? ほんまに刺すで』
『お願いします』
 私は耳を疑った。
(なんでや! 痛くないんか?)
『よう言うた。ほんじゃ、景気ようブスリといくで』
 言いながら、龍は一本の針を仁王に渡した。二人が同時に左右の乳首をつまんだ。目配せを交わし、息を合わせて乳首の真横に尖端を埋め込んだ。そのまま針を進め、ついに乳首を貫いた。凄絶なボディピアスの完成だった。
 妻は眉間に皺を刻み、白い喉をのけぞらせた。
 声にならぬ声を上げ、恥丘を限界まで突き出す。
 広げた脚のぴんと突っ張る。ふくらはぎの筋肉が痙攣した。
 どろり、と秘苑から粘液が垂れ、長い糸を引いて床のラグに落ちた。

「合格だ。いやあ、すばらしい。なんて女性だ、きみの奥方は」
 Sは相好を崩して膝を叩いた。
「見たか、今のいきっぷりを。乳首を針に貫かれていくなんてのは、めったに見られるものではない。素質は十分ある」
「はあ。ありがとうございます」
 今、目撃した凄惨な光景とともに、Sの興奮ぶりに私は驚かされ、間抜けな受け答えをしてしまった。
「まさか、ここまでとは思わなかったよ。申し訳ないが、もうしばらく奥方を貸していただけないか」
 憑かれたようなSのまなざしに、私は反論する気を失った。
「ここまでくれば一気呵成だ。こういうのはタイミングでね。期間を空けるのがいい場合もあれば、奥方のように矢継ぎ早に仕込むほうがいい場合もある。どうだ、いいかね?」
「これ以上、何をなさるんですか」
「まず、針責めの後処理をして、一眠りしていただく。それから、針責めの第二段階だ」
 私は露骨にげんなりしていたのだろう。そんな私をSは気づかってくれた。
「きみにも刺激が強すぎたね。帰るかね。奥方の様子は、メールで報告してあげるから」
 目の前に妻がいるならまだしも、どこともわからない場所で調教を受けているのだ。この空間にこだわる必要はない。
 それに、妻の変容ぶりを頭の中で反芻し、整理しておきたかった。
 私は辞去することを告げた。
「下にクルマを待たせてある。乗っていきなさい。ずいぶん呑んだからね」
 テーブルの上のボトルは、半分以上、空になっていた。スコッチは胃に溜まるばかりで活性化していない。
 Sに会釈して、私は玄関に向かった。
 脳裡には、Sの言葉が反響していた。
 ――『夜は長いし、きみたち夫婦の人生も長い』

今回ばかりは書いていてつらさがこみあげてきました。こういうシーンはちょっと、とおっしゃる方もいらっしゃるかと思います。しかし、この夜が妻にとって、本当の意味でのターニングポイントになりましたので、端折るわけにはまいりません。不愉快になった方にはお詫び申し上げます。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:47:44|
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贖罪 第16回

【#16 翻弄】
 自宅に帰り着いたとき、すでに暦は変わっていた。
 名神高速の途中で降りはじめた雨は次第にその強さを増している。
 締め切った室内にこもった梅雨時独得の湿り気に、気分が滅入りそうだった。エアコンを除湿にして、ソファに座り込んだ。いや、へたり込んだと言ったほうがよいかもしれない。
 冷気を含んだ乾いた空気の中でだらだらと服を脱ぎ、パジャマに着替えた。
 スコッチは胃の腑にたまったままだ。私はキッチンで湯を沸かし、焼酎の湯割りを作った。こいつを流し込めば、ウイスキーだって活性化するだろう。
 とにかく、今は酔いたかった。体を貫いたままの緊張感をほぐさねば、考えだってまとまらない。

 湯割りの一気呑みの効果はてきめんだった。
 五臓六腑にしみわたるとは、このことだ。毛細血管の隅々まで新鮮な血流が届き、体が温もった。同時に、頭はどんどん冴えてくる。
 Sとの対面。入れ墨男の衝撃。巧妙にコントロールされた輪姦。Sの性哲学。そして、私の同意のもとで妻に加えられた針責め。
 今夜、京都のマンションの一室で眼にし、耳にしたあらゆるシーンが奔流のように脳裡に立ち現れては消えた。
 かすかな震えが取りついていた。
 妻を私設秘書にと請われて、私たち夫婦が行き着く先を見てみたいからと快諾したのは、強がりだったのか。いい格好がしたくてあんなことを言ってしまったのか?
 私はくじけそうな心を見つめて自問した。
 答えは否だった。
 Sの性哲学に感銘を受ける以前から、私はそれを願っていたではないか。
 平凡な主婦で終わるはずだった妻が、意に添わぬ性交を受け入れたことをきっかけに、非凡な経験を積み重ね、性の地獄を覗いてしまった。責任の一端は、Fと密約を交わした私にもある。だが、妻は自分が堕ちたセックスの闇から眼を背けることはしなかった。
 ということは、Sの言葉どおり、妻はある資質に恵まれているに違いない。
 死の恐怖を甘い悦楽に昇華できるという、恐るべき資質に。
 性的な面で私をはるかに凌ぐ妻に対して嫉妬が湧いた。
 夫婦合意のうえで性の世界を渉猟しているのではないだけに、私は劣等感に打ちのめされてもいた。
 一線を踏み越えたと言っても、私がやったことは初老のSMマニアのペニスを咥えたことくらいだ。それも芝居がかった状況で、興奮に衝き動かされて。
 だが、妻は違う。
 予備知識もなく、心の準備もできないままで、見知らぬ男や女に体を開かざるをえないのだ。
 それには、覚悟と勇気が必要だ。そう、私の仕事になぞらえると、飛び込み営業の状況そのものだ。出たとこ勝負だと腹をくくらなくてはならない。
 いや、ずいぶん違う。
 飛び込み営業には、駄目で元々という心理的な逃げ道があるが、妻にそんな甘えは許されてはいない。すべてを現場で受け入れなくてはならないのだ。
 妻を一瞬でも妬んだ私は、自分の幼稚さを恥じた。
 この境遇を妻が求めたわけではない。途中からは、私が仕組んだのだ。あまつさえ、Sの調教計画に差し出してしまった。もし、妻の肉体や精神が破壊されるという最悪のシナリオが待っていたら……。
(何を考えとるんや、おれは!)
 私は頭を振って、不吉な連想を追い払った。アルコールが脳を痺れさせているのだろうか。
(S先生がそんな無責任なことするわけないやろ……)
 Sという人物を見込んだ自分の眼力を信じるしかないことを、私は悟った。
 ふと、掛け時計に眼をやった。午前三時を回っていた。三時間ちかく自問自答していたことになる。
 湯割りのお代わりを作り、書斎のパソコンの前に座った。
 メーラーを起動した。Sはじっくりと調教のプロセスを味わっているはずだ。例の「調教記録」とやらをしたためている余裕などないだろう。
 期待はするな、と自分に言い聞かせながら、ダイヤルアップを実行した。
 メールサーバが受信メールを送りはじめた。
 私の眼はディスプレイに釘付けになった。
 六通の新着メールが送られてきている。タイムスタンプは、ほぼ三十分おきににメールが送信されていたことを示している。
 フリーメールで、妻のファーストネームが発信元になっていた。
 添付ファイルはない。
(映像は無いんか?)
 私は首を傾げた。
 最初のメールは午前一時ちょうどに発信されていた。

***********************************
「調教記録その2-a」
先程は有意義な時間を持つことが出来た。感謝する。若い人の考え方を拝聴するのも新鮮で良いものだ。君の事だから、多分、これをそれほどの時間差も無く読んでくれているものと思う。
細君は、つい今し方休憩を終え、調教の次の局面に進まれ様としておられる。君も落ち着かないだろうから、こちらの様子を逐次報告して上げよう。映像を送ろうかとも思ったが、撮影等によって現場の緊張感を殺いでしまうような事にでもなれば元も子も無い。後日、ビデオを届けさせるから、今夜の所は御容赦願いたし。
現在、細君は胡座縛りをされている所だ。働き者の2人が、肌に傷を付けぬよう細心の注意を払いつつ縄を掛けている。先程の歓楽を思い出しているのか、細君の頬に心なしか赤味が差して来た様に思えるのは気のせいか・・・。
***********************************

 胡座縛りがどのようなものなのか、はっきりとは知らないが、読んで字の如しなのだろう。
 あの入れ墨男たちの手によって拘束されつつある妻の姿を想像すると、私のペニスは急速に硬度を増した。
 マウスを動かすのももどかしく、次のメールをクリックした。

***********************************
「調教記録その2-b」
緊縛が済んだ。細君は胡座の体位で固定され、更に足首の縄留めと乳房を上下から締め上げる縄が繋がれている。つまり、胡座をかいたまま前屈した状態だ。呼吸は楽では無いし、目の前には剥き出しの己の女陰が在る。この苦痛と屈辱感が想像出来るかね。
1人が竹笞を、1人が蝋燭を持ち、細君に歩み寄った。成る程、3種の苦痛で細君を楽しませ様という趣向か。息苦しさの為、悲鳴を出す事は出来ぬ。だが、その間にも笞が肌を打ち、熱蝋が滴る。流石、私が見込んだけの事はある連中だ。相変わらず言葉嬲りが上手い。細君を追い込んで、懲罰の口実を探している。
***********************************

 笞に加えて、蝋燭までも! 針責めの応急手当を受けただけの妻にとっては、あまりにも過酷な調教だ。
 強制的に前屈させられて、圧迫感も急速に増しているにちがいない。そんな妻にふたたび言葉による陵辱を加えるとは……。
「耐えろ。いや、耐えんでええ。つらかったらギブアップしたらええんや。無理したらあかんで!」
 ヤクザの容赦のない折檻に、ひとり全裸で立ち向かう妻の姿を思い、私はつい声に出した。

***********************************
「調教記録その2-c」
何時、この様な言葉を覚えるものか、私には想像がつかない。聞いているこちらが赤面する様な下品な言葉を細君は知っているね。君が教えたのかな。その様な下品な言葉を口にするのが余程嬉しいらしく、細君は随喜の涙を流しておられる。
いや、嬉しいのはそれだけでは無い様だ。既に背中一面に蝋の花びらが散り、脇腹や尻を笞痕が走る。芸術的なオブジェとしても通用しそうな位だ。これ程迄に肉体を彩られたのが嬉しいのだろう。声もまた素晴らしい。笞の一振り、蝋の一滴毎に漏れる嗚咽に風情がある。
勿論、細君には最新型の筒具を銜えて貰っている。無粋なモーター音が殆ど耳につかぬ程の優秀な品だ。だが、安心し給え。動作は強力無比。奥に向かって進むような細工が胴にしてあるから抜け落ちる心配は無い。先端部は断続的に膨張して最奥に刺激を送る。流石、国産品だけの事はある。これは、業界で大化けするかも知れない。
それにしても、目から涙を流しながら、女陰からは涎を流す。まあ、何と忙しく貪欲であることか、女という生き物は。
***********************************

 妻に加えられる責めの数々が眼に見えるようだ。Sは、私をからかったり、経営コンサルタントならではの感想を洩らしたりと、余裕を見せつける。そこがまた憎らしくもあり、頼もしくもある。
 妻は安全だ。私は、そう確信した。Sの冷静な観察眼が保たれているかぎり、限界を超える責めを受けることはないだろう。
 次のメールの予想もしない文面に、私は一瞬混乱し、Sの用意周到さに唸った。

***********************************
「調教記録その2-d」
私です。あなたに断りもなく中国に行ったりしてごめんなさい。Sさんがあなたに直接説明してくださったそうですね。ちょっと気が楽になりました。
帰国したら、すぐに帰してもらえると思っていたのですが、京都で一泊することになりました。
ずいぶん不自由していると思いますが、明日には戻りますからもう一日辛抱してください。埋め合わせはきっとしますから。
私の方は元気です。北京でおいしいものを食べ過ぎて、ちょっと太ったかもしれません。あなたも、私のことは気にしないでしっかり食べてくださいね。
Sさんには、とても優しく接していただいています。
週末は、あなたと2人きりでゆっくり過ごせますように。心配をかけてごめんなさい。
***********************************

 妻からのメールだった。
 私に送ってやるからと、昼間にでも妻に入力させたのだろう。
 あのような仕打ちを受けるとは想像すらしていない文面だ。知らぬ者には無邪気とも読める書きようだが、文章の裏側に張り付いている妻の胸の内を思うと、愛しさがこみ上げてくる。性交用秘書として中国に同行させられたことをおくびにも出さず、私の身を気づかってくれている。すべてを、私が知っているとも思わずに……。
 何度も、読み返した。
 そのうち、ディスプレイの文字がゆがんで見えはじめた。不覚にも、涙があふれていた。
 そのとき、Sの哄笑を聴いたような気がした。
 思い出せ! とSの声が言った。これが女だ、と。
 美醜、善悪、優劣などの単純な価値判断がいかに愚かしいことかを女は教えてくれる。清濁併せ呑んでこそ人間。成熟の意味を知れ。
 幻の声はそう語った。

***********************************
「調教記録その2-e」
細君のメッセージをお伝えした。と言うのは建前で、タイピングに疲れてしまったものだから手抜きをさせて戴いた次第。
夕食後、細君に打って貰ったものだ。なかなか健気なものではないか。どの様な視察旅行であったかは、君から問い質して戴きたい。
さて、細君は3度アクメを迎えた。高性能の淫具を嵌められているとは言え、笞と蝋涙を受け続けながら気を遣るとは・・・。
今、細君は縄を解かれて2人に口で奉仕している。矢張り本物が良いと見えて、1本を呑んでいる時も手は遊んでいない。もう1本に、袋から竿迄技巧を極めた愛撫を加えている。普通の男であれば噴出させているだろう。
おやおや、細君が2人に何か言っている。本性が甦ってきた様だ。挿入を懇願している。卑猥な言葉を駆使して、2人をその気にさせ様としている。
2人は、あの立派なモノで細君の頬を横殴りにしたりして焦らしている。もちろん、2人は細君の望みをすぐに叶える気はない。今夜の目的を達成する迄は・・・。
***********************************

(今夜の目的やて……?)
 酔いが一気に醒めた。まだ、妻に対する性的な蹂躙が行われるというのか。
 何度もオルガスムスを迎えさせられたあげく、針責めを受け、さらに笞と熱蝋で虐げられた妻に何をしようというのか。責めを受ける間、精神的にも痛めつけられている。このままでは、妻は壊れてしまいかねない。
 ――『針責めの第二段階だ』
 京都のマンションを辞去しようとした私に、Sが洩らした言葉をふいに思い出した。あのときは、妻の狂乱ぶりと凄惨な光景を大画面で見せつけられて頭が混乱していた。
 Sからのメールには針責めのことはいっさい記されていない。すると、今夜の目的というのは、針責めの第二段階ということか。
 苦痛を快楽に昇華できるかどうかを、それによって試そうとしているのだ。
 これ以上、どこに針を刺そうというのか。
 もし、無茶な部位に刺し、針が折れたらどうするのか。
 その答は、次のメールに記されているのだろう。タイムスタンプは午前二時四十九分。現在時刻、三時二十分。すでに針責めは行われてしまったか、最中かだ。
 マウスにかぶせた右手が震える。
 私は最後のメールをダブルクリックした。

申し訳ありません。長々と書いてしまったあげく、思わせぶりな形で終わってしまいました。性導師S氏の巧みな誘導に翻弄される私の感情の乱れぶりを、冗長とは思いましたが敢えて書かせていただきました。このような経験をお持ちの方には、きっとご理解いただけると信じています。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:50:34|
  2. 贖罪・逆瀬川健一
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贖罪 第17回

【#17 動揺】
 六通目のメールには、添付ファイルを示すクリップマークがついていた。
 メールを開いたが、たった一行、「調教記録その2-f」と記されていただけだ。
 添付ファイルは二点。拡張子は、.jpg。
 クリックした。
 妻の顔のクローズアップだった。
 顎を突き上げ、眉間に縦皺を刻んでいる。真上からの強い光を正面から浴びているため陰影がないが、それだけに表情のありのままが写し取られている。
 苦悶――最初の印象はそうだった。だが、じっくり眺めているうちに、歓喜の表情に見えてきた。
 なぜだろう? 私はさらに観察した。そうだ、妻は歯を食いしばってはいないのだ。上下の犬歯を唾液の糸が結んでいる。
 もし、針を刺されるほどの激痛を与えられれば、奥歯を噛みしめて耐えるはずだ。Sの言うように、苦痛と快感は表裏を成すものなのだとしても、苦痛イコール快感ではないはずだ。苦痛のあとに、快感がやってくるものなのではないのか。
 二点目の添付ファイルをクリックした。
 私は思わず声を上げていた。
 この写真もクローズアップ。それも、妻の秘苑の。
 かなり大きな角度で開脚させられている。無毛の恥部のすべてが露わになっている。
 大陰唇は洗濯ばさみで左右に大きく広げられているうえ、左右の小陰唇に針が二本ずつ貫通していたのだ。さらに、包皮からむき出されたクリトリスをも太めの針が貫いていた。
 わずかだが出血がみとめられた。だが、膣口からあふれるおびただしい量の愛液が秘苑全体を潤ませているせいで、血液は滲むことなく細い糸のように粘膜に張りついているだけだ。
 本当に妻の性器になされた責めなのだろうか。
 にわかには信じることができず、私はその考えにすがろうとした。
 だが、解像度の高い映像はそんな私の願望を打ち砕く。
 左大陰唇の脇のほくろが、被写体が妻であることを示していたのだ。

 それから明け方までパソコンに向かい、何度もメーラーを立ち上げダイアルアップしたが、Sからのメールは来なかった。
 私の眼は冴えに冴えていた。考えねばならないことは山ほどあった。
 メールをあそこで打ち止めにしたSの意図。
 ああまでされて歓喜の表情を浮かべる妻の心理的な変化。
 妻の肉体的ダメージに対する危惧。
 そして、私がこれまでの人生で経験したことのないほどの動揺。
 これらについて、ひとつひとつ考えてゆかねばならない。もちろん、そばに妻がいない現状では、考えても詮無い事柄もある。
 私はパソコンの電源を切り、デスクに頬杖をついた。
 不思議に、妻の体が傷つけられたことへの怒りはなかった。乳房への針責めで、消毒などに気を配っていたSのことだから、取り返しのつかない無茶をすることはないという安心感があったからだ。
 それよりも、私の動揺は、妻の心理面に対する不安から来ていた。
 Sが求める快楽は、常識とか好色とかいう日常的な感覚から突き抜けてしまっている。それに引きずられ、究極の悦楽に開眼してしまったであろう妻は、元の暮らしを送ることができるのか、という不安。Sに与えられたような苦痛と快感を、私は妻に与えることができるのだろうかという恐怖。
 いや、それよりも妻はもう私のもとに帰ってこないのではないだろうかという喪失感に、私の心は揺れた。

 昼前。インターフォンのチャイムが鳴った。受話器に飛びついて耳に押し当てた。
『ただいま』
 妻の声だった。
 私は短い廊下を走り、玄関のロックを外した。
 どんよりと曇った空をバックに、明るい色のワンピースが私の眼を射た。
「かんにんしてね。勝手ばかりして」
 妻はいつもの笑顔を私に向けた。だが、その笑みはすぐに薄れ、顔がゆがんだ。唇を固く結び、閉じた眼から涙が溢れ出す。
 私は、おののきはじめた妻の肩を抱き、リビングに連れていった。
 ごめんなさい、と何度も詫びながら妻は泣いた。
「どないしたんや。謝らんかてええやんか。おれも納得済みのことやないか。Sさんには優しくしてもろたんやろ? おまえからのメール、読ませてもろたで」
「そんなんじゃないの。あなたに断らんと、からだに……からだに……」
「おまえが納得したことやったら、それでええやんか。うん? からだに何したんやて」
 妻は涙を拭くこともせず、立ち上がった。
 ワンピースを乱暴に脱いだ。下着はいっさい着けていなかった。
 全身に笞痕が走っていた。一打、一打が慎重にコントロールされていたのだろう。すべてのミミズ腫れが同じ色だった。皮膚が破れたり、皮下出血を起こしたりしている箇所はない。
「二、三日もすれば消えるやろ。だいじょうぶや」
 妻はかすかに首を振り、脚をゆっくりと開いた。
 小さな金属音がした。
 股間の亀裂に光るものがあった。
 金色の環がクリトリスを穿っている。
 そして、小陰唇からは繊細なチェーンが垂れていた。
(ボディピアスまでされたんか……!)
 私の表情に気づいた妻は、両手で顔を覆った。「ごめんなさい! みんな私が悪いの。決してSさんに無理強いされたわけと違うんよ」

 私は、妻をソファに深々と座らせ、両の太腿を掴んで左右に押し開いた。
 秘裂の頂点の肉芽には金色のリングが取り付けられていた。リングのせいで、包皮は上部にたくし上げられたままの状態になっていた。クリトリスは真っ赤に充血し腫れている。
 そして、小陰唇。左右対称二か所ずつ、計四か所に肉芽を貫くものよりも小ぶりのリングが顔を覗かせ、それぞれにチェーンが取り付けられている。金色の鎖は左右のリングから互い違いに渡され、ちょうど膣口の前でエックスを描いていた。小陰唇もまた腫れ気味で、貝の舌のように肉溝からはみ出している。
「腫れてるやないか。だいじょうぶか? 痛くはないんか?」
「これ……ピアスのせいだけやないの」
 つい今しがたまで涙をためていた眼が細められた。まるで、遠くの風景に焦点を合わせるときのように。
「ピアスをつけられてから、二人の男に朝まで愛されたせい」
 私は絶句した。
“愛された”と言ってのける妻に。そして、針で責められたばかりの妻が入れ墨者たちに蹂躙される光景を思い描いて。

 秘苑全体のむくみというか、腫れは、荒淫によるものだったのか。
 無理もない。仁王のペニスは勃起時には二十センチにもなろうかという逸物だ。龍のそれは、妻の指が回りきらないほどの極太だ。女を責めるプロとはいえ、昨夜から妻にフェラチオをさせ、接しても洩らさなかったため、溜まりに溜まっていただろう。射精を前提にした輪姦の壮絶さは想像を絶するものだったに違いない。
 妻の小さな溜息に、私はわれにかえった。
 秘裂のあわいから液体がにじみ出していた。
 ピアスに気をつけて襞をかき分けた。その瞬間、どろりと半透明に濁った粘液がこぼれ落ちた。精液特有の青臭い匂いが私の鼻腔を直撃した。
 見上げると、妻と眼が合った。
 妻がうなずいた。「二人分のエキス。Sさんが『溜めて帰るように』って」
「で、どうしろって?」
「わかってるくせに」妻は私を見つめたまま言った。「あなたはきっと舐めるだろう、とSさんが……」
「ヤクザが出したものをか」
「やっぱり見てたんやね、私が犯されるところを」
「最後までは見てへん。Sさんにならおまかせしても安心やと思たから。しかし、おまえがいややったら正直に言うんやで。いつでも中止できるんやからな」
「いややない。あなたがいつもついていてくれると思うと何でもできそう」

 昨夜来、私に取りついていた心の揺れがぴたりと治まった。
 妻は、私の存在があるから正気を失わずにいられるのだ。つまり、私の公認が、妻の心理的な命綱というわけだ。命綱の強靱さを信じているから日常から大きく外れることができる。狂気にも近いSの性の迷宮に分け入ることができるのだ。
(しっかりせな、あかんがな)
 私は自身を一喝した。妻が帰ってこないのではと、一瞬でも疑ったことを恥じた。私の心の強さがすべての鍵なのだ。
 妻の秘苑に顔を寄せ、こんこんと溢れ出す精液の残滓に舌を伸ばした。
 妻の胎内で温められた粘液を掬い、飲み下す。
「うれしいっ、うれしいっ」
 うわごとのように繰り返し、妻は私の髪を指で梳いた。
 ヤクザたちの精液をすっかり舐め取るまで、妻は二度達した。激しいオルガスムスではなく、安堵感に満ちた静かな絶頂だった。

 ソファの上で、私たちは抱き合ってまどろんだ。
 雨足が強くなったような音に、私は目覚めた。
 シャワーの水音だった。
 やがて、髪にタオルを巻いただけの妻がリビングに戻ってきた。
「なに、それ?」
 妻の手のチューブと脱脂綿に視線を投げた。
「化膿止め。一週間は気を抜いたらあかんのやて」
「セックスはお預けかいな」
「あ、そうや」
 妻はチューブと脱脂綿をダイニングテーブルに置き、キッチンカウンターのハンドバッグを手にした。中からビデオカセットを取り出す。
「Sさんから、あなたに。約束の物やて』
 私はソファから飛び起きた。
 昨夜の一部始終が記録されているテープだ。
 私はテレビラックに歩み寄り、ビデオデッキにカセットを挿入した。
 テレビの電源を入れ、ソファにとって返した。
 そんな私の性急な動きを、妻は驚いたように見つめるだけだった。

この文章を書いていると、いろんなことを思い出します。動揺というより、混乱と言ったほうが正しいのではと思えてきます。それもこれもSの巧妙な演出にまんまと乗せられてしまったからでしょう。まだまだ、Sに翻弄され続ける愚かな私なのですが……。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:51:51|
  2. 贖罪・逆瀬川健一
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贖罪 第18回

【#18 転換】
 妻が他の男に刺し貫かれるシーンを二人で観るというのは、私たち夫婦にとって初めての体験になるだろう。
 これまで私は、蹂躙を受ける妻を別室のモニターで、あるいはメールに添付された画像ファイルでばかり見せられてきた。唯一、夫婦のベッドルームでSMマニアたちから激しい責めを受けたときに同室が許されだけだ。あれほどの興奮を味わってしまうと、もどかしさだけがつきまとう。リアルタイムであればあるほど、映像ではなく現場を見たくてたまらなくなる。
 だが、今日は違う。ビデオは観るが、それだけではない。隣には妻がいるのだから。
 妻の反応を窺いながら、疑問点を質し、感想を訊く。
 考えるだけで、下腹部に疼きが走る。

「やめて!」
 妻はテレビに駆け寄ると、スイッチを切った。
「観るんやったら、一人で観て」
「なんでや? 今までと同じことやないか。おまえの姿を別室でモニターすることと、ちっとも変わらへん。それに、うちの寝室で一緒やったことがあるやろ。SMのおっさんたちが来たときに」
 私は、わざと無神経な言い方をして妻を見た。
 口紅をさしていない唇が引き絞られる。妻は、片腕で両の乳房を覆い、もう一方の掌で恥丘を隠した。私に対する不信感がそうさせたのだろう。
 初対面の男に対して、妻はいつもこのような態度を取っているにちがいない。
(面白い。自分の妻を犯すなんて、どんな気持なんやろう)
 邪悪な思いつきに加速度がついた。
「ほら、テレビをつけてくれへんか。ヤクザとのお楽しみの続きを見たいんや」
「本気で言うてるの?」
 妻の眼が、私の本意を見逃すまいと凝視する。私は口元を皮肉っぽくゆがめて見せた。これで、私の本意が伝わっただろう。夫婦だけにわかる微妙な表情の揺れ。ゲームの始まりを告げる合図だ。
 ひと呼吸ほどの間の後、妻は乳房と陰部を隠したまま膝を折り、テレビのスイッチを押した。

 オーラルセックスから始めた。
 ビデオと同じように妻の口に勃起を押し込み、時間をかけてしゃぶらせた。妻の口技はプロさながらだった。性感のツボを巧みに刺激してくる。ただ、プロと異なるのは、フィニッシュまでもっていかないことだ。
 片手でやわやわと私の陰嚢を揉みながら、射精の兆しを常にチェックする。睾丸が緊張する気配を感じると、陰茎を横咥えして私のほとぼりを冷ますことを繰り返した。
 そのたびに、私の尿道を先触れの粘液がどくりと走るのを感じ、腰が痺れた。
 テレビのスクリーンでは、龍の入れ墨を背負った男の野太いペニスを含まされようとしていた。
 その映像に、一年前、このソファの上でFのものに口で奉仕する妻の姿がだぶった。テレビ、記憶、そして現実。空間と時間を超越して口腔性交に耽る妻に、私は激しく欲情した。その瞬間、私の忍耐に限界が訪れた。
 慌てて妻が亀頭に唇をかぶせようとしたが、遅かった。
 私はおびただしい量の精液を放った。
 大部分は妻の口元を直撃したが、脈動のたびに排出される粘液の一部は、私の腹ばかりでなく、ソファや床にも飛び散った。
 ティッシュペーパーの箱に伸ばしかけた私の手を妻が押さえた。そのままの格好で、精液にまみれた顎を私の腹にこすりつけ、きれいに舐め取ってしまうと、次にソファと床の粘液を舌で掬った。
 その自然な動きは、妻がそんな行為を常に強いられていることを示していた。もはや、不潔などという感覚はないのかもしれない。背中に刻まれた無数の笞痕が、妻の行為を無惨に彩っている。
 妻にその行為を仕込んだ男たちの力量に、私は嫉妬した。そのせいか、大量に射精したばかりだというのに、勃起の勢いに衰えはまったくない

 口をすすぎたいとの乞いを無視して、妻をソファに仰向けにし、これ以上硬くなりようがないほどの充血しているペニスを秘裂に押し当てた。
 すでに、自らの分泌物で潤っている肉洞は、私のものをスムーズに受け入れてくれるものとばかり思っていた。だが、大陰唇や小陰唇は完全に充血してほころんでいるものの、膣口は固く閉じ、私の亀頭を押し返す。
「………?」
 私の驚きようを、妻はいたずらっぽい眼で見た。
「これも教わったの。男の人っていいんでしょ、こういうの? さあ、入ってきて」
 腰を入れると、ようやく妻の肉洞に進入することができた。襞が私の肉柱を圧迫する。根本まで押し込むと、亀頭の先端が子宮口に触れた。少しでも動かすと精を洩らしそうだ。私は気をそらすために妻に語りかけた。
「男を悦ばすため言うてるけど、おまえかて、ええんやろ?」
「うん」妻は両腕を私の背中に回してきた。「でも、いつもより大きいような気がするんやけど、気のせい?」
「ここにヤクザのものが入ってたんかと思うと、妙に興奮するんや」
「好きで抱かれてるんと違うんよ」
「ほんまかどうかわからへんな」
 私はテレビのリモコンを取り、音量の調節をした。
『はっ……う。くうううっ。す、すごい。いっぱいになってる。くううっ』
 妻が龍の凶器を受け入れていた。Sと一緒に観たシーンだった。
 ビデオは粗編集がなされており、映像は、二人のヤクザに膣と肛門を犯されるシーンに変わった。この間、妻は数え切れないほど頂を極めさせられていたことを、私は知っている。
『……お願いします。もう……もう、堪忍してください。これ以上、だめ……』
 言葉とは裏腹に、画面の妻は、仰向けなった龍の厚い胸板に両手をつき、背中を弓なりにして、二本の剛棒をさらに体の奥深くに受け入れるために尻を蠢かせていた。
「ほら、自分から尻を振ってるやないか」
 顔をテレビに向けてやると、妻は食い入るように見つめはじめた。ヤクザたちのストロークに合わせて、肉襞がリズミカルに締まる。
「どっちがええんや? おれとヤクザと」
 妻はテレビに目を向けたまま、針の痕がかすかに残る乳房を揉みはじめた。麓を掴み、乳首まで絞っていく。乳首は、興奮のためばかりでなく、針の貫通による腫れも加わって、色も大きさもアメリカンチェリーさながらだった。
「正直に言うてええんやで。どっちがよかった?」
「ヤクザのほうがええに決まってるやないの」
 つまむというよりも潰すといったほうがふさわしい荒々しい愛撫に、乳首にルビーのような血玉がわいた。
 私は妻の手首を掴んだ。「だいじょうぶか? 痛いんとちゃうか」
 だが、その手は邪険に払われてしまった。
「あなたのじゃ物足りないから、こんなことせなあかんのよ」
 妻は、左手で乳首を責め、右手を無毛の下腹部におろして、むき出しのクリトリスを指の腹でこすった。
 夫婦のゲームは、あうんの境地に達している。
 私は妻の中からペニスをあっさりと抜き去った。あっ、と小さな声を上げる妻を腹這いにさせ、双臀を割った。さまざまな男の肉棒や器具に蹂躙されてきた割には、アヌスに崩れはなかった。
 すでに愛液にまみれているすぼまりに屹立を突き立て、一気に押し込んだ。
 目立った変形こそないものの、妻の括約筋は柔軟性を増していた。私の亀頭は抵抗なく前進し、直腸に収まった。
 ソファに顔を埋めた妻の口からくぐもった呻きが洩れた。
 妻の両肩を掴んで引き起こし、つながったままで床に足を下ろて立ち上がった。
「な……なにするん?」
 嫉妬と怒りに狂った私に激しく突かれることを、妻は予想していたらしい妻は、意外な成り行きにとまどっていた。
 私は返事をせず、ペニスを根本まで埋めたまま冷蔵庫に向かって歩を進めた。
「野菜室」
 私が命じると、妻は腰を折り、冷蔵庫の最下段を開いた。妻の不在の間、自炊せざるをえなかったせいで、野菜室の内容は把握していた。
「おれのものじゃ物足りないんやろ。好きな物を食べさせたる」
 野菜室の中にはレタス、トマト、レモン、そしてキュウリがある。妻は私の意図を悟り、直径が三センチはありそうなキュウリを選んだ。

 両脚を揃えてソファに腰を下ろす私の上で、妻は正面を向いて大きく脚を開いていた。
 私は妻の肛門を犯しながら、背後から両手を回して乳房をなぶった。妻は、キュウリを自ら秘裂に埋め込み抽挿している。膣の薄膜越しに、キュウリのワイルドな感触が私の陰茎に伝わってくる。
 音量を絞ったテレビには、妻が笞打たれ、蝋涙を垂らされる姿が映っていた。
「あなた、もっとぶって、もっと熱いのをちょうだい……なんでもしますから。お願いですから……」
 うわごとを洩らす妻は、すでにビデオの世界に入ってしまっている。演技などではない。痛みと快楽が不可分になった次元に達してしまっているのだ。
 妻は何を見、何を感じているのだろうか。
 直腸の蠢動を味わいながらも、私の理性は働きつづけていた。やがて、男と女を隔てる大きな障壁の存在に思い至っていた。それは、文字通り壁だった。ジェンダーという大きな一枚岩。
 しょせん、男には女の肉体の内奥までわからない。オルガスムスのイメージすら描くことができないではないか。ノーマルなセックスを行っていてもその有り様なのに、アブノーマルな世界で女が得ることのできる快楽がいかようなものかわかるわけがない。
 性差、という簡単な言葉で、男はそれを受け入れるほかはない。
 性のぬかるみに夫婦が手を携えて踏み込んだところで、二人が同じ快楽を味わうことは不可能だろう。かといって、性の冒険が男をみじめにするだけだと決めつけたりするつもりはない。
 男には男の、女には女の、性愛を極めるプロセスがある。女の悦楽を同じように感じようとすること自体が間違いだったのだ。
 Sの言葉の断片が脳裏によみがえった。

「――人間の快楽中枢は脳なんだよ。決して粘膜の神経細胞などではない。
 ――ご婦人が性感に耽るのを観ることが、なによりも楽しい。
 ――射精などとは別の次元の快楽」

“人間”を“男”に置き換えてみてはどうだろう。Sが調教メールを律儀に送ってくれたのは、私にそれを悟らせるためだったのではないだろうか。ディスプレイで発光する文字の連なりに、私は激しく興奮させられたことを思い出した。
 Fが妻をこの部屋で犯しているさまを盗み見したとき、私は図らずも精を洩らしてしまった。肉体的な刺激をまったく受けていなかったにもかかわらずだ。
 原点に立ち返ろう。
 妻を観察しつづけよう。ストップをかける権利を、夫の私が行使する瞬間まで。
 だが、今夜はたっぷりと妻の肉体を貪る。今現在の感触を五官に叩き込み、妻が、どのように変わりゆくかを眺めてゆけるように。
 私は、ペニスに力を込め、激しく突き上げた。
 喜悦の声を洩らすために、妻が大きく息を吸い込むのがわかった。

またまた長文になってしまいました。スペースを圧迫してしまい、申し訳ありません。ちびちびと短い間隔で書き込むのが理想なのですが、書きはじめるとあれもこれもと盛り込みたくなってしまいます。もうしばらくお付き合いくださいましたら幸いです。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:53:01|
  2. 贖罪・逆瀬川健一
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贖罪 第19回

【#18 隷従-1】
 週明けから、妻はSの私設秘書として大阪本部に通いはじめた。出勤は朝十時、退勤時間は特に定まっていない。
 Sが差し向けるバンが行き帰りの足だ。電車やバス、地下鉄のような公共の乗物を使わずに勤め先に赴くのは、妻にとって初めての経験のようだった。
 初日から妻のレンタルが始まるものとばかり思っていたが、最初の一週間はSの雑用をことづかっただけだった。もちろん、この期におよんで妻が隠し立てをするとは思えない。
 そんな私の落胆を見透かしたかのように、Sからのメールが届いた。

***********************************
前略 明後日より某国の日系人実業家に招かれて講演を行う予定。細君には勿論同行して戴く。予定は一週間。不自由をお掛けするが、御容赦の程を。
***********************************

(某国やて?)
 ディスプレイの前で、私は吹き出した。もったいぶった表現で煽る、Sの茶目っ気がおかしかった。煽られてやろうじゃないか、望むところだ。
 私は妄想の翼を広げた。
 世界のどこかに心の準備もしないままに連れて行かれた妻は、やはりホテルに軟禁状態にされ、日系人実業家とやらの性欲処理をさせられるのだろう。人種が同じとはいえ食べ物も言葉も考え方も異なる、そんな連中の嬲りものにされる妻の不安は、やがて新鮮な悦楽に取って代わるにちがいない。
 Sに連れられて外国に行くのは、これが初めてではない。中国での映像をいまだ見ることができずにいる私は、今回の妻の渡航が非常に楽しみだった。意外性が私の欲情の炎に油を注いでくれることに期待して、あえて行き先は訊ねないことにした。某国、と秘密めかしたSの意図もそこにあるのかもしれない。もちろん、このメールのことを妻に告げるつもりもなかった。私はFやSからのメールや添付ファイル専用の隠しフォルダにメールを移し替えてOSを閉じた。

 二日後、無人の自宅に帰宅した。
 覚悟していた私は、会社の近所で夕食をすませていた。
 一人でシャワーを浴び、ビールを飲んだ。読もうと思って積んでいた本を広げた。心が騒いで活字を追うことができないのではないかという不安は杞憂だった。午前一時前まで読書に集中することができたことに、私自身、驚いた。いったん腹を決めると、これほどまでに平静になれるのだろうか。
 いや、そうではない。一週間、どうあがいても妻の顔が見られないことを知っているからだ。もし妻が、近畿圏で見知らぬ男たちに陵辱されているのなら、心は揺れ動いていただろう。どんな責めを受け、どれほど淫らな言葉を吐き、どれくらい激しい悦楽に身を焦がしているのか……。帰宅した妻に一部始終を聴くのが待ちきれずに悶々と時間を空費している自身の姿が見える。
「大人になったもんやで、健一くん」
 自嘲ともつかぬ言葉を洩らして、寝支度にかかった。

 妻が帰ってきたのは日曜日の昼下がり。予定より一日早かった。
「ごめんね。ゆうべ関空に着いたんやけど、時差ボケがひどくて空港のホテルに一泊させてもらったの」
 私は目を疑った。薄化粧が無意味なほど、妻はよく日に焼けていた。
「どないしたんや。真っ黒やないか」
「ほんまはこの歳で焼きたなかったんやけど、あんまりビーチが気持よくて、つい……ね」
 小さく舌を出す妻は三十四歳とは思えぬほど初々しかった。
「ビ、ビーチって、いったいどこに」
「Sさんに聞いてないの?」
「聞いてへんよ」
「ハワイ」
「………」
「現地でタクシー会社やってはる社長のプライベートビーチ」
「そやったんか。楽しんだようやな」
 聞きたいことは山ほどあった。だが、私は妻の表情ににじむ疲労を見て、それ以上の質問はやめた。焦ることはない。夜、ゆっくり聴けるのだから。
「腹へってないか」
「だいじょうぶ。朝、たっぷり食べたから。あなたこそどう? ろくなもの食べてないんとちがう。何かつくろうか?」
「適当に食ったから、いいよ。どうする? シャワーでも浴びるか?」
「ちょっと横になっていい? 日焼けが火照ってつらいのよ」
 妻はベッドルームに入り、全裸にタオルケットを巻き付けて出てきた。
 革のソファは体に張りつくからとタオルケットをソファに敷き、その上に赤味の残る小麦色の肌を横たえた。
 その焼けっぷりを感心しながら眺めていた私は、水着の跡がないことに気がついた。
 トップレスまではわかる。だが、妻の下半身に日焼けを免れた箇所はない。剃り上げられた恥丘まで褐色になっている。
 私の視線に気づき、妻が身じろぎした。
 クリトリスと小陰唇を貫く金色のリングがちらりと見えた。
 太腿の内側までも焼けている。
 プライベートビーチで妻は開脚させられ、秘部を潮風と陽光に晒させられつづけていたのだろうか。
「ぜんぶ聞きたい?」
 妻がささやいた。呆気にとられていた私は、あわててうなずいた。
 Sの調教は往路の機内から始まったという。
 離陸し、シートベルト着用のサインが消えるとすぐに、Sは最新型のノートパソコンを取り出した。手慣れたしぐさで操作して、液晶ディスプレイに写真を映し出した。
マルチ商法で妻をがんじがらめにしたFから提供されたデジカメ映像だった。ホテルで犯されてゆく過程が鮮明に記録されている。
 Sは、写真を見せながら妻にそのときの状況、精神の動揺、肉体の反応を語らせた。妻にしてみれば思い出したくもない記憶だったろう。だが、Sは執拗に妻に迫った。プライバシー重視のファーストクラスだからこそできる精神的な拷問だ。
 Fが提供した写真のすべてを見終わるのに三時間はかかったそうだ。
「それだけじゃなかったの」妻は両手を後頭部にあてがって枕にした。腋窩が黒い。伸びかけた腋毛だった。「写真はもっとあった」
 Sと関わりはじめてからのものも、大量にハードディスクに格納されていたのだ。Sはシートをリクライニングにし、見たければ自由に見ていいと言って眠った。
 ノートパソコンを閉じるのも自由。続きを見るのも自由。三時間にわたってマゾ性のツボを刺激されつづけた妻は後者を選んだ。
 Sのオフィスで嬲られる姿、中国で視察団の中年男たちに奉仕させられる姿、入れ墨を背負った男二人に蝋燭と針で責められ、あげくのはてに淫裂にボディピアスを打たれる姿。
「フライトはあっという間だったわ」
 妻は両腿を閉じ、小刻みにこすり合わせていた。それだけで陰唇のリングが刺激を呼び、剥き出しになったクリトリスに淫らな快感が湧くのだろう。
「気持ち悪いくらい濡れちゃって、たいへん。着陸してから機内のトイレで拭いたけど、あとからあとから溢れてきて、トイレからよう出られんかったわ」
 迎えのクルマでオアフ島の繁華街を抜け、滞在予定地のコテージに向かった。講演会の主催者が所有するゲストハウスだった。スペイン風のバルコニーをもつ瀟洒なたたずまいは、コテージと呼ぶにはあまりにも豪奢だった。五人のメイドに出迎えられた妻はどぎまぎしてしまったそうだ。
 ゆっくり夕食を食べて旅の疲れを癒しておくがいいと言って、Sはすぐに歓迎レセプションに出かけた。
「一回くらいはしてもらえるかと思うたのに」
 Sのつれなさを思い出して、妻は唇をとがらせた。
「飛行機からずっと高ぶってたんよ、私」
「忙しい人やから、無理もないんとちゃう」
 私は他人事のように言った。本当は、Sの意図が痛いほどわかっていた。飢えと渇きを妻に与えたのだ。その夜の、いや、滞在期間中、常に繰り広げられるであろう狂宴のために。
「それで、Sさんが帰ってきたのは何時頃?」
「十一時頃かな」
 メイドはいずれも通いで、夜の九時には帰ってしまうらしい。入れ替わりに、警備員が敷地に配置されたという。
 リムジンが一台、コテージの車回しに停まった。
 運転手がドアを開けると、Sと二人の日系人、一人の白人が現れた。
 四人は談笑しながらコテージに向かってきた。
 ふいに私設秘書としての身分を思い出した妻は、出迎えなければと焦った。だが着る服がない。日本から着てきたドレスは、クリーニングのためにメイドが持ち帰っていた。残るはバスローブくらいしかない。
「それで、どないしたんや?」私はダイニングチェアを引き寄せて腰を下ろした。「いくらなんでもバスローブいうのは失礼やろ」
「Sさんの考えてることが、そのときわかったの」妻の目がきらりと光った。「服を残しておかなかった意味がね」
 ドアを開けたときのSの満足げな顔、あとの三人の驚きの表情は今でもはっきりと思い出すことができると妻は言う。
 それはそうだろう。歓迎レセプションの二次会をやるものとばかり思っていた三人を出迎えたのが全裸の女とあっては、誰だってびっくりする。
 おまけに、その女が玄関ホールに正座して三つ指をついているのだから。
 ふた呼吸ほどの間をおいて、Sが沈黙を破った。
「ミスター・コバヤシ、お話ししていた日本土産とはこのことです」
「S先生にこんなご趣味があるとは意外でした」四十半ばのコバヤシは海千山千の経営者らしく、動揺を隠して好色な笑みを浮かべた。「お土産というからには頂戴できるのでしょうか」
「それは、あなたがたしだいです。ミスター・ミウラ、ミスター・ルイス、お気に召しましたかな」
 三十代のミウラはうなずいただけだった。ルイスは肩をすくめてコバヤシに視線を投げた。
「あなたがたが気に入らなければ、この女はハワイに捨てていきます。もし、非常に気に入っていただければ、日本に連れ帰ります」
「話が逆ではありませんか?」コバヤシが首をかしげた。
「合衆国五十番目の州で、日本人の魂を持ち続けておられるあなたのお眼鏡にかなうということは、まさに日本の至宝。こんな島に置いて帰るわけにはいきません」
「見せびらかして、おしまいとは……」コバヤシは憤慨した。「あなたはひどい人だ」
「見るだけ、と言いましたか?」Sはコバヤシの肩を抱いた。「滞在期間中、
存分に使っていただいて結構。その上でご判断ください」
「お人がわるい」
 コバヤシが野太い声で笑った。あとの二人もつられて笑った。
「そういうことなら遠慮なく楽しませていただきましょう。ミウラ、アレックス、このご婦人をリビングにお連れして」
「お待ちなさい」
 興奮を隠しきれないコバヤシをSが押しとどめた。
「この国ではレディファーストが常識かもしれませんが、この女はあなたがたの奴隷なのです。気遣いは無用」
 おい、とSは妻に声をかけた。
「『ご主人様たちの手を煩わせるんじゃない』って。はじめて見たわ、Sさんの怖い顔」
「で、それから?」身を乗り出そうとした私は、ペニスが勃起しきっていることに初めて気づいた。「それからどうしたんや」
「這ったわ。掌と膝でリビングルームまで」
「Sさんたちは?」
「後ろからついてきた。私のお尻を品定めしながら」

今回のエピソードは、一回では終わりそうにありません。妻への調教の本当の第一歩だと思えますので、できるだけ細かく書かせていただくつもりです。Sさんや妻から訊き出したことをつなぎ合わせていると、やはり矛盾点が出てきます。書いては妻に読ませ、疑問点を質しながら書き進めております。中途半端なところで終わりますが、なにとぞご容赦ください。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:54:29|
  2. 贖罪・逆瀬川健一
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贖罪 第20回

【#20 隷従-2】
「さて、まずはご婦人の素性からうかがいたいものですな」
 リビングに入ると、コバヤシはフォーマルジャケットを脱いだ。ミウラとルイスもそれにならった。
「S先生の口から紹介していただけますか、それともセルフイントロダクションで?」
「ミスター・コバヤシ、あなたほどのかたが何を気弱なことを。今夜は、私はオブザーバーです。お好きなようにこの宴を盛り上げてください」
 コバヤシたち三人は、Sに深々と頭を下げた。「お言葉に甘えさせていただきます」

 たっぷり三十分をかけて、妻は自分のプロファイルを語らされた。ソファから見上げる三人の前で全裸のままで。
「それではこれから、あなたのことを奥さんと呼びます」
 コバヤシの表情に下卑たところはなく、面接官のような生真面目さと鷹揚さをただよわせていた。
「ところで、日本ではそのような身体装飾が流行しているのですか」
 股間に視線を浴び、妻は頬を染めた。しっかりと両腿を閉じていても、陰核を貫通したリングは亀裂の上部に顔をのぞかせている。ほかのリングのありかも、リビングに入るまでにじっくり観察されていたはずだ。
「……若い人たちの中には、耳や鼻や唇にいくつもしている人がいるようですけど」
「プッシーの話ですよ」コバヤシは無表情のまま質問を重ねた。「多くの女性がプッシーを飾っているのですか」
「わかりません」
「ではなぜ、奥さんはそのようなことをするのですか。『身体髪膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始めなり』。修身です。幼い頃に祖父によく聞かされました。あなたのそんな姿をご両親に見せることができますか?」
「………」
「もう一度、訊きます。あなたはなぜ、そのようなものを身につけているのですか」
「……別の自分になれるから……だと思います」
「美しい言葉ですな。しかし、それは言い訳です。多重人格でもあるまいし、別の自分などありはしません。さあ、どうです、奥さん? 本当の気持を言ってみなさい」
「うまく言えないんですけど、こんなところにピアスを入れている自分がとても愛おしんです。見られ、からかわれ、いろいろいたずらされるためだけのピアス。そんなものをみずから入れている自分が哀しくもあり、誇らしくもあり……すみません、わけがわからないことを言って」
「そんなものですか」
 コバヤシの質問は妻にではなく、ホームバーでグラスを傾けているSに向けられたものだった。
「さあね」オブザーバーに徹するSは素っ気なく言った。「本当かどうか、じかに確かめてみてはどうですか」
 Sにうなずいてみせると、ダイニングルームから椅子を一脚運んでくるようにルイスに命じた。

 スラックスにアンダーウェアというラフな格好になった三人に、妻は淫裂をさらした。木製のシンプルな椅子に腰を落とし、左右の肘掛け両膝を載せてM字に開脚させられた。
「両手を頭の後ろに回しなさい」
 コバヤシの残酷な指示が飛ぶ。伸びはじめた腋毛が腋窩をくすませていた。
「ほおお。あんがい怠け者なんですね、奥さんは」
「バスルームに……か、か、剃刀が見あたらなかったものですから」
「腋がそんな様子じゃ、下のほうもちくちくするんじゃないかな」
 初めてミウラが言葉を発した。玄関での衝撃が薄れ、冷静さを取り戻したのだ。アレックス・ルイスも同様に、好色な笑みを浮かべている。
「ねえ、コバヤシさん、そう思いませんか」
「ハイスクールの教員が吐くセリフとは思えんな。アレックス、おまえはどうだ。奥さんの感想は」
「スレンダーな体型はボス好みかもしれませんが、もうちょっと太っていてもいいんじゃないですかね」
 流暢な日本語だった。日本語を喋れることがセールスポイントの外人タレントとよりはるかにましだった。
 男たちはいろんな単語を使って妻の体を値踏みした。
 妻は秘苑をさらしたまま言葉の陵辱に耐えた。
「ボス、おかしなことになってますよ」アレックスが妻の微妙な変化に気づいた。「ほら、プッシーが」
 妻は濡らしはじめていた。男たちの視線が、まるで物理的な力をもつかのように、妻の襞をほころばせていた。
「クリットもさっきより大きくなってる」ミウラもうなずく。
「私にはそう見えないが」
 コバヤシは首をかしげた。
「奥さん、ちょっと広げてみせてください」
 肉体の変化を鋭く捉えられ、妻の羞恥心がよみがえった。ほどよい温度に保たれていた室内の空気が数度上昇したかのようだった。
「さあ、この若い連中の目が節穴だということを証明してください。見られるだけで濡らす大和撫子などいないことも教えてやってください」
 後頭部の手を下半身に移した。目を固く閉じ、両の人差し指で左右の小陰唇を外側に開いた。
 肉の合わせ目にかろうじてとどまっていた粘液が会陰部をゆっくりと伝い、アヌスに達した。
「なんとまあ!」
 コバヤシは大仰に驚いた。
「S先生、お国の女性はみなこのようにふしだらなのですか」
 Sの返事はなかった。
「まったく、なんてことだ。こんな奥さんにはお仕置きしかありませんな。自分の淫らさを痛感していただきましょう。そして、反省してください」
 コバヤシの強い口調にびくりと身をふるわせた妻だったが、お仕置きという甘美な言葉に性感がさらに刺激されていた。

「なかなかお上手だ。S先生が仕込まれたのですか」
 今回も返事はない。コバヤシは気を悪くしたふうもなく、股間の妻に視線を戻した。
「どうですか、奥さん。ひどい臭いでしょう? 朝からスーツを着ているうえに、一日中、準備に追われていましたからね。アフターランチのシャワーを浴びることができなかったんですよ」
 確かに、コバヤシの陰茎は汗や尿などが分解する際の臭気を放っていた。だが妻にとって、それは性欲を加速させるフェロモンだ。その匂いには男の個性が詰まっている。匂いのちがいが性技のちがいを連想させ、子宮口がみるみる下りてくるのだ。
 四十半ばの、脂ののりきった男のペニスは、事業の成功に裏打ちされた自信に満ちあふれているかのようだ。えらの部分が張り出し、軸の皮膚をとおして逞しい海綿体の束がびくりびくりと脈動を繰り返すのが舌に伝わってくる。
 先端からは、すでに粘液がしみ出していた。
(ここまで固くしてあげたのは私。射精をコントロールをするのも私)
 その思いに、口技に力がこもる。一方では、口腔性交を強いられているという被虐心もある。征服しているのかされているのか……。揺らぐ思いの中で悦楽の炎が勢いを増す。
「ミウラ、アレックス、交代だ」
 怒張を妻の口から引き抜き、三十代の二人に言った。
「たまらないぞ、奥さんのブロウジョブは。きみたちなんかあっという間に陥落だ」
 日系人と白人はすでに全裸でみずからの陰茎をしごいていた。ミウラのものは標準サイズだったが、大和民族特有の強靱さを示して反り返っていた。一方、アレックスのものは西洋人ならではの太さと長さを備えている。亀頭だけが鮮やかなルビー色だ。初めて目の当たりにした白人のペニスに、一瞬、妻は見とれた。
 その二本の屹立が同時に近づいてきたとき、妻はその意図を悟り、幸福感に包まれた。
 だが、リゾートという舞台、西洋の流儀を身につけた男たちという登場人物にいだいていたものが、はかない幻想であったことをすぐに思い知らされた。ミウラもアレックスも、妻を女性として、いや、人間として扱うつもりはなかったのだ。
 アレックスは妻の顎を掴むと強引に押し込んできた。長さ二十センチ、直径七、八センチはある肉柱が軟口蓋まで突き進んだ。吐き気にあらがいながら呼吸を確保しようとしたが、鼻は栗色の陰毛に埋まってしまっている。アレックスは髪を掴み、激しい腰使いで抽挿を繰り返した。ストロークのタイミングを見計らいながら、妻はかろうじて呼吸を確保した。
 アレックスを射精に導くことだけに気を取られて、ミウラの存在を忘れてしまっていた。太い指が双臀を掴み、割り広げた。手を添えることなく器用に腰を調節し、剛棒の峰を淫裂にすべらせた。すぐに突き立てる気配はない。幾度もこすりつけているだけだ。そのたびに亀頭の先端が露出した陰核をつつき、妻の腰をしびれさせる。
(おねがい、入れて! その硬いちんぽを入れてちょうだい!)
 妻の願いが通じたのか、ミウラは秘苑なぶりをふいにやめた。尻を掴んだ指に力を入れ、さらに割る。熱い亀頭がアヌスにあてがわれた。
(あっ、そ、そこは――)
 狙いをそらそうと尻を振ろうとしたが遅かった。妻の愛液にまみれ、先端からは先走りの粘液を吐き出す肉の凶器は、襞のすぼまりを一気に貫いた。
 肛門性交は初めてではない。いろんな器具やペニスを何度も受け入れている。痛みはなかったが、予想以上の激しい圧迫感に喉の奥で悲鳴を上げた。
「……あがっ……あぐっ……」
 突かれるたびに妻が洩らす、うめきとも咳ともつかない奇妙な声にミウラとアレックスは哄笑した。
 やがて、口腔への蹂躙にあきたアレックスは床に仰向けになり、肛門にミウラの屹立を呑んだままの妻を下から刺し貫いた。
 隣接する二か所に杭を打たれ、妻は下半身の自由を失っていた。腰を動かそうにも、二本のどちらの動きに即せばよいのかわからない。
 男たちは勝手に動いた。片方が推せば、片方が引く。同時に推される場合もあれば、その逆もある。
「いっちゃう、いっちゃう、いっちゃう……」
 唾液を顎まで滴らせながら、妻は背筋を弓折りにした。
 ミウラとアレックスが唸った。
 うすい膜の前後をふさぐ陰茎の体積が倍加した。一瞬後、熱いつぶてが膣と直腸にはじけた。二人はほぼ同時に精を放ったのだった。
 すでに妻は言葉を吐く余裕すらなくなっていた。アレックスの厚い胸に両手をつき、ふくらはぎをミウラの脛に密着させた。
 何度も経てきたのに馴れることの決してないオルガスムスの奔流に、妻は身をゆだねた。
 シャワータイムを二度はさんだだけで、妻への陵辱は明け方までつづいた。長時間、一人が占有することもあれば、三人同時に妻を貫くこともあった。ミウラが三度、アレックスが四度、妻を精液で穢した。奇妙なことに、コバヤシは挿入はするが決して射精はしなかった。

 荒淫のためふらつきぎみの体で、妻は三人を見送った。昨夜、出迎えたときのように全裸のままで三つ指を突いて。
 開け放たれた玄関から流れ込むすがすがしい潮の香が、邸内のよどんだ空気に混じる。
「ミスター・コバヤシ、ひとつ訊いてもよろしいですか」
 オブザーバーに徹しきったSが笑みを浮かべて言った。
「どうして出さなかったのです? 土産がお気に召しませんでしたか」
「とんでもない。私なりの健康法です。『四十以上の人は、交接のみしばしばにして、精気をば泄(もら)すべからず』」
「『養生訓』ですな。大いにけっこう。経営者たるもの、体が資本ですから」
「では、先生。二時間後にお迎えに上がります。座談会、経営者面談、講演会とスケジュールが詰まっておりますが、なにとぞよろしくお願い申し上げます」
「こちらこそ」Sは鷹揚に会釈した。「ミスター・ミウラ、ミスター・ルイス、よろしく頼みます」
 ところで、とコバヤシが声をひそめた。「今夜はいかがいたしましょう。お土産を、また楽しませていただくことはできますか」
「もちろんです」
「実は、お引き合わせしたい人物がいるのですが……よろしゅうございますか」
「ここでのマスターはあなたです。私は単なるオブザーバーだと申し上げたはずですが」
 コバヤシはひどく感激した様子でSの手を握って力強く振った。

量が増えそうなので、今回はここまでとさせていただきます。調子に乗って書いてしまって申し訳ありません。掲示板の容量を圧迫しているようで気が気ではありません。管理人さま、投稿者のみなさま、どうかご容赦のほどを。では、後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:55:43|
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贖罪 第21回

【#21 隷従-3】
 リビングダイニングの窓からは、ぐんぐん成長する入道雲が見えた。すでに午後四時を過ぎていたが、まだ戸外は昼間の勢いを保っている。
「けんちゃん、ちょっと寒い」
 無理もない。妻は全裸のままで語りつづけていたのだ。
 私はエアコンを切り、窓を開けた。蝉の鳴き声とともに熱気が流れ込んできた。
「それで?」私はソファの前の椅子にふたたび腰をおろした。「昼間はどうしてたの」
「ビーチで日光浴。くまなく焼くようにとSさんに言われてたから」
「だいじょうぶなんか? いくらプライベートビーチいうたかて……」
「マングローブや椰子で目隠しは完璧やったけど、メイドさんやガードマンの目は防げへんかった」
 ゲスト滞在中は、日中でも一人はガードをつけているという。日本人の中年女が無防備な格好で日光浴をしているのを見つけた当番のガードマンは、仲間を呼び寄せた。いかつい体格のポリネシア人に全裸で抗議するのも怖く、卑猥な視線を浴びながら、デッキチェアに横たわって不本意なポーズを取りつづけた。
 午前中二時間、午後三時間。噴き出す汗を、ときおり海水浴で洗い流しながら強烈な太陽光線に晒された。
「大変やったな」私は心から同情した。「日焼けって、けっこう疲れるやろ」
「たっぷり食べたから、疲れも平気」
 朝はクラブハウスサンドイッチ、昼はビーフステーキと茹でたロブスターとたっぷりのフルーツ。ふだんは魚ばかり食べている妻だが、ハワイ滞在中はえり好みせずにすべて平らげたらしい。
「それに、しんどいなんて言うてられへんもん。夜のおもてなしが待ってると思うと」
 義務感? それとも期待感? 妻の表情から読み取れるのは、明らかに後者だった。初対面の男たちの性欲処理をすることに、すでにためらいはみられない。

 その夜、ゲストハウスに集ったのは、S、コバヤシ、そしてイチノセと名乗る日系人男性。年齢は三十代半ば、日に焼けた顔と白い歯が精悍さを醸し出していた。
 ハワイの大学で経営学を学び、あまりの居心地の良さに現地女性と結婚してグリーンカードを取得したという。ホテル業界では頭角を現しつつある青年実業家だ。
 妻は一糸もまとわぬ姿でテーブルに仰向けになり、生きた塑像となっていた。妻の存在をまったく無視したまま、三人は本題に入った。
 話題は、イチノセが新たに始める会員制ホテルに関するものだった。ワイキキなどにある大衆的なホテルはすでに飽和状態だ。薄利多売よりも、これからは趣味性の高いサービスを少数の客に提供するほうが得策ではないかというのだ。目をつけているのは、ハワイ島。ビッグ・アイランドと呼ばれるほどの面積をもっているからVIPのお忍び旅行には最適だ。
「ただのお忍び用ではありません」
 イチノセが声をひそめた。
「特殊な趣味の方々向けのホテルにするつもりです。S先生のようなご趣味に合わせた」
「SM……かね?」
「はい。こちらの方面には疎いものですから、先生に現実的な見通しなどをご教示ねがえましたら幸いです」
「それは買いかぶりというものだ」Sが笑った。「ただの好色な年寄りですよ」
「ご謙遜を」イチノセは初めて妻を凝視した。「素人の女性――それもハウスワイフにここまでさせられるとは、大したものです」
「わかりました。聞くだけ聞かせていただきましょう。あなたのアイデアを具体的に話してみてください」
 三人の話が終わったのは、二時間後だった。

「その間、テーブルでじっとしてたんか」
「………」
 妻は急に口をつぐんだ。日焼けしていても、頬がみるみる染まってゆくのがわかる。
「分かちたいんや。快楽も屈辱も」私は誠実さを装ったが、内心では、ここまで調教された妻がまだ隠したがることがあるのが驚きだった。そして、暗い期待感に心がふるえた。「けど、どうしても話したないいうんやったらしかたないな」
「からだを責められるのは、まだ我慢できるけど……」
 伏し目がちのまま、妻は口を開いた。

 イチノセの話をひととおり聞き終えると、Sは満面の笑みを浮かべた。
「暴利を貪らないかぎり成功するね。オーナーにSMの気がまったくないというのが気に入りました。お手伝いさせていただきますよ」
 Sの言葉に、青年実業家ははじかれたように立ち上がり、深々と頭を下げた。
 笑みをくずさず、Sが訊いた。「ところで、あなたはSMに対してどのようなイメージを抱いていますか」
 イチノセは首をかしげながら、率直な言葉をもらした。「まったく興味がないものですから、わかりません。女王様とか鞭とか蝋燭とか……俗っぽくてすみません」
「大いにけっこう」Sは腰を上げ、小さくなっている青年実業家の肩を叩いた。「あなたはサービスに力を注げばよいのです。客と一緒に興奮しているようじゃ困る。だが、まるきり無知というのもどうかな。ちょうどいい、SMがどういうものか、簡単にレクチャーしてあげよう」
 Sは妻に命じて二階のベッドルームからノートパソコンを取ってこさせた。
 三人掛けのソファの真ん中に座る妻の左右にイチノセとコバヤシが腰を下ろす。
「操作はわかるな?」ソファの背後に立つと、Sは妻に言った。「行きのジェットでマスターしただろうからな。まず“Training”というフォルダを開きなさい。サムネイルをお見せして、お二人にご説明しなさい」
 妻の軽やかなキータッチの音が、高い天井に響いた。
 ディスプレイいっぱいに、写真がサムネイル表示された瞬間、イチノセとコバヤシが小さく息を呑んだ。
「せ……説明が必要な写真がありましたら……」消え入りそうな声で、妻が言った。「……おっしゃってください」
 むき出しの両肩に太い鼻息がかかる。イチノセからはビジネスのヒントを見逃すまいという意気込みが、コバヤシからは加速する劣情が感じられた。
 拘束、性具、責め具のそれぞれにあらゆるバリエーションがある、それに対する性感もさまざまであることを、つかえながら説明した。一昨日、飛行機の中で見たばかりだというのに、新たに湧きあがる淫らな感情に抗することはできなかった。男たちの眼を意識することで、写真の一葉一葉が新鮮に生まれ変わるようだった。
 だが、子宮に痛痒をもたらす甘美な刺激に、イチノセの質問が水をかける。ロープと革の感触の違いはどうなのかとか、ロープならどんな種類のものがいいのかとかを妻に問い、Sには拘束のベース材の強度や常備すべき抗生物質や消毒薬等を訊ねる。
 拘束に快適さなど求めてはいない妻はあいまいな感想しか返せなかった。一方、Sは多彩な事例を示しては的確に誠実に答えていった。
 二時間もその状態が続くと、妻はついに限界に達した。子宮口は下がりきり、肉洞がうねっては襞に溜めた愛液を押し出す。四弁の陰唇はふくらみきり、ピアスによって包皮から露出させられたクリトリスが硬くしこる。括約筋を絞るだけでオルガスムスが得られそうだった。
「おねがいします」ディスプレイにうつろな瞳を向けたまま、妻が言った。「……い、い、いかせてくだ……さい」
「だめだ」
 Sが即座に言った。
「イチノセさんが真剣に質問しているのに、なんだ、そのはしたなさは。男に媚びればすべて許されると思っているのか。続けなさい」
「一度でいいんです。それからちゃんとご説明させていただきますから。ああ、おねがいします……一度でいいんです」
「くどい。続けられんというのなら、守衛に下げ渡す。朝までビーチで可愛がってもらえ」
「そ、それだけは!」
 褐色の膚、力士といっても通用しそうな体格、特殊な訓練を受けた者だけが放つ緊張感を妻は思い出し、激しく首を振った。そんな男たちに夜を徹して貫かれたら、女としての機能が破壊されかねない。
「さあ、どうする?」
「申し訳ございません。二度とわがままは申し上げません。お許しください」
 妻は蒼白になりながら、キーボードに指を伸ばした。
 夜が白みはじめた頃、妻の願いがようやくかなえられた。
 ホテルに関する詰めを真剣に話し合うイチノセとSのかたわらでコバヤシが下半身だけ裸になった。陰茎は勃起しきり、尿道口から透明な粘液が吐き出されている。
 ひざまずいて肉棒に口技をほどこそうとした妻に、コバヤシは切迫した口調で命じた。「尺八はいい。さあ、ソファに乗って」
 一人掛けのソファの座面に妻は膝を突き、椅子の背を両手で抱きかかえるポーズをとらされた。
「そうだ。よし、もっと尻を突き出して……うん、そうそう」
 背後から妻のウエストを掴み、一気に挿入した。
 一瞬で妻はオルガスムスに達した。逸っていたにしては、コバヤシはもちこたえた。われにかえった妻は、肉洞の中で間欠的に脈動する男根を感じ、幸福感をおぼえた。
「ありがとうございます。とってもようございました。コバヤシさまもいってください」
「『いってください』か」コバヤシは侮蔑のこもった声をもらした。「端女のくせに、なんという口のききようだ。昨夜は遠慮していたが、さっきの写真を見てよくわかった。おまえはただの道具だ。ブロージョブとカントとアスホールで男たちの性欲を満たす道具だ。もっと締めろ、ほら、まだ締まるだろう」
 妻は懸命に括約筋に力を込めた。締めるたびに男根の凹凸や亀頭冠を粘膜で感じ、そこから愉悦が湧いてくる。
「ああ、だめです。これ以上は……あうっ」
「馬鹿者!」
 怒声とともに、臀部を平手打ちが襲った。二発、三発と一定間隔で打ち込まれるたびに反射的に括約筋が収縮する。それがまた快感を激しく活性化させる。
「この程度じゃ蚊が止まったほどにも感じんぞ」
 妻はコバヤシの真意を悟った。膣の圧力だけで射精を迎えようとしているのだ。その証拠に、コバヤシは抽挿をいっさいしようとしない。最初のひと突きのまま、男根の位置を維持している。
「つ、つ、突いていただけませんか。このままでは、コバヤシさまを満足させることができません。お願いしま――うんっ!」
 アヌスに異物が押し入ってきた。とっさに振り向いた妻は、異物の正体を見た。コバヤシの右手の親指が臀の合わせ目に第一関節まで埋まっていた。反射的に前部の肉洞が締まる。
「いいぞ、その調子だ」
 コバヤシの機嫌のいい声が響く。
「よし、これでどうだ」
 若いころ野良仕事や建設作業に明け暮れていたことを示す、節くれだった指が根本まで埋められた。
 妻はのけぞった。肛交にはようやく馴れ、快感を得るすべを心得ていたが、いずれもペニス相手だった。骨という固い芯を持つ指で強引にえぐられたことはない。
「おお、締まる締まる」
 うわごとのようにつぶやきながら左手で妻の秘裂をまさぐり、おびただしい愛液を掬い取って肛門にまぶす。
 深く突き刺さった親指は直腸の中で鈎のように曲げられ、粘膜を押したり掻いたりした。
 肛交からでは得られない鋭い快感が、妻の脳髄を突き上げる。
「あうっ、あうっ、いい。いい。これ、いい。やめないで……ああっ」
 ふいにコバヤシの嬲りがやんだ。腸内の親指が伸びた。新たな圧迫感が肛門に加えられた。左手の親指を挿入しはじめたのだ。背中合わせとはいえ太い指が合わさると四、五センチにはなる。
 妻は咽喉の奥で呻いた。みずからの淫液が潤滑剤になっているとはいえ、ぎしぎしという軋みを感じた。口から息を吸い込みながら括約筋の力を抜いた。
「入ったぞ!」
 その声に、イチノセとSが振り向いた。
「すごいですよ、S先生」コバヤシは顔を輝かせた。「アスホールに親指が二本」
 またか、というふうにイチノセが苦笑した。「S先生、気になさらないでください。コバヤシさんの趣味なんですよ。気に入った女には、あれをやらないと気がすまないんです。いわば、マーキングですね」
「口がわるいな」Sが楽しげに笑った。「犬や猫じゃあるまいし。しかし、気に入っていただけてよかった。ミスタ・コバヤシ、われわれの滞在は今晩までです。存分に楽しんでください」

「で、どうなったんや」
 私は先をうながした。
「エアコンつけてくれる?」妻はけだるそうに額に片手を当てた。「汗出てるわ。ちょっと火照ったんやね」
 窓を閉め、エアコンのスイッチを入れると、ふたたび妻と向き合った。
 その日、妻はコバヤシの両手の人差し指を含めて四本の指を肛門に受け入れさせられたという。その間、妻は数え切れぬほど達し、膣に打ち込まれた肉杭を粘膜で食い締めつづけた。
 コバヤシは最後に激しく射精し、粘液のつぶてを子宮口に注いだ。
「それで終わり? イチノセは?」
「最後まで指一本ふれなかった」妻の表情に落ちるかすかな落胆の影を私は見逃さなかった。「そんな彼に、Sはとても満足していらっしゃるようやったわ」
 翌朝からフリーになったSは、妻を伴ってハワイ島のリゾートホテルに滞在した。イチノセのアイデアを検証するためか、昼間はレンタカーを駆ってさまざまなビーチを訪れた。人気のないビーチでは妻を全裸にして秘部まで日光に晒させた。夜は、性交奴隷としてのマナーを諄々と説き、妻に実践させた。
 ハワイ旅行は、妻を本物のマゾに造りかえるための第一歩だったのだ。
 妻の痛々しい日焼けを気づかっている場合ではなかった。妻は、皮膚のひりつきにSとの旅の名残を感じ、生まれ変わりつつある自分への愛しさを心に刻みつけていたのだということに、私は気づかなかった。

三回に分割したうえに、前回から間が空いてしまい申し訳ありません。書けないときでもできるだけお邪魔させていただいておりますが、みなさんのお話につい引き込まれて読みふけっていることもしばしば。すばらしいサイトだと思います。不定期ではありますが、皆さまの末席に連ならさせていただける幸福を噛みしめております。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:56:50|
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贖罪 第22回

【#22 空白】
 九月に入ったばかりの頃、部長からあるプロジェクトの立ち上げが発表された。エコロジー企業のコンベンションを二月に大阪で開催するというもので、私は折衝担当者として特別チームに出向することになった。参画予定企業は大小とりまぜて約二百社。この手のイベントの成否をにぎる鍵は折衝だ。部下三名を得た私は、さっそく折衝のためのスケジュールの作成に取りかかった。一週間後には、北は北海道から南は沖縄まで散在するクライアントに赴かなくてはならない。

「そう。だったらしばらく秘書をおやすみさせてもらう?」
 プロジェクトの件を告げると、妻はすぐに言った。
「けんちゃんの留守に、勝手なことはしたくないし」
 妻の言葉が意外だった。私がいようがいまいが、Sとの秘書契約が継続するのは当然だと思っていたからだ。
「べつに勝手なことやあらへんやろ」私は部屋着に着替えて食卓についた。「内容はともかく、仕事は仕事なんやから」
 一拍おくれて、妻の顔に笑みが広がった。「新しいことを始めたいんやて、Sさん。けんちゃんが出張やて知ったら、帰してくれへんかも」
「おれはええよ、それでも。一人で留守番してるより、はるかにましやろ。おれかて、おまえがどう変わるか楽しみやし」
 実際、ハワイの随行以来、これといった調教を妻は受けていない。Sの年齢と多忙さを考えると、ハードな調教がそうそう行えるわけはない。こんなものか、という思いが私の中に生じはじめていた。荒っぽいところはあったが、マルチ商法の元締のFが誘ってくれた世界のほうが私たち――いや、私にとっては刺激的ですらあった。
 しばらく間を空けたほうがいいかもしれない。“新しいこと”がどのように妻を変えてくれるのかを楽しみに、仕事に没頭してみよう。
 その夜、私はSにメールを書いた。しばらく仕事に忙殺されるため、妻をぜひにも帰宅させるにおよばないこと、調教内容に関して逐次報告にはおよばないこと。そして最後に、万一のことを考えて「先生のこれまでの調教スタイルを顧みますと、妻をおまかせして何ら不安はございません。なにとぞよろしくお願いいたします」と、やわらかく釘をさしておいた。
 翌週から、私はほとんど自宅に帰れなくなった。たまに帰れても、妻はつねに不在だった。

 ビジネスホテルに帰り着き、寝酒を呑んでいるときなどに、ふと妻の顔が浮かぶことがあった。無性に声が聞きたくなって電話してみるのだが、いつも妻はいなかった。Sにメールを入れてもよかったのだが、どうせからかわれるのがオチだ。そのうち酔いが回り、私は寝てしまう。そんな日々が、二か月ちかく続き、折衝の仕事はひととおり終わった。
 明日、自宅に帰る旨のメールをSに入れ、私は簡素なホテルでひとり祝杯を上げた。

 午前中に大阪に戻り、半日かかって報告書を仕上げた。プロジェクトを仕切る部長のパソコンにファイルを送ると、お役ご免だ。今日は金曜。妻と外食をするのもいい。いや、ケータリングサービスもいいかもしれない。
 会社を出てすぐに妻の携帯電話へ電話した。
 コール音を十回数え、通話スイッチを押そうとしたとき妻の声が聞こえた。
「もしもし」
 ひさしぶりに聞く妻の声は新鮮だった。あわてて電話を取ったのか、息が弾んでいる。つきあい始めた頃の初々しい妻を連想した。
「おれや。ついにドサまわりが終わったよ。今、社を出たところ。どっかで待ち合わせてディナーでもどう?」
「………」
「残業でもあるんか?」
「今夜は人妻奴隷としてのお披露目があるの」
 私は絶句した。
(人妻奴隷……やて?)
 アダルトビデオかピンク映画のタイトルのような単語を平然と口にする妻に、私は激しい違和感を抱いた。この二か月で、おまえはどう変わってしまったのか。何をされたんだ。訊きたいことが一斉に脳裡に噴出した。だが、私は言葉の接ぎ穂が見つけられないでいた。
「逆瀬川くんか。仕事、たいへんだったね」Sの声だった。「こっちも今日に合わせるために必死だったよ」
「ああ、どうも。今日に合わせるって、どういうことなんですか」
「来てもらえればわかるから」Sは楽しげな含み笑いをもらした。「会場ではアルコールと軽食しか出ないから、何が腹に入れてきたほうがいい。なにしろ長丁場だしね」
 会場と時間を告げると、Sは電話を切った。

 その料亭は、中央区のオフィスビルのはざまにあった。午後七時前だというのに暖簾も下がっていない。生垣と玄関先の盛り塩がなければ見落とすところだった。
 格子戸に手を伸ばしかけたとき、内側から勢いよく開かれた。ダークスーツに身を包んだ短髪の青年が掬い上げるような目を向ける。
「こ、こ、こんばんは。逆瀬川と申しますが」男の体から立ち上る異質な雰囲気に圧されながらも名乗った。「S先生から、こちらに伺うようにと言われまして」
 男の顔に、一瞬にして愛想笑いが広がった。「どうぞ、こちらへ」
 長い廊下の左右に襖が並んでいた。磨き込まれた廊下に、往事の繁盛ぶりの名残を見ることができる。かすかに湿り気を帯びた空気に、時間の堆積が放つ体臭のようなものが混じっていた。
「気をつけてください。狭いですから」
 男は、階段の脇に立ち、先に行くようにうながした。
 階段の上からは、中年以上とおぼしき年配の低い声が談笑している。悪い予感が、階段を一段上るごとに高まる。ここは鉄火場に違いない。親分衆の前で賽子が舞い、壺が振られる。動悸が激しくなるのがわかった。もう引き返せないのか。いったいどこで狂ってしもたんや!
 階段を上りつめた私は、目の前の光景がにわかには信じられなかった。
 二階は板張りの大広間だった。部屋の奥には小さいながらも能舞台がしつらえてある。能舞台に向かって椅子が十数脚置かれ、その半分が先客に占められている。談笑していた男たちは、私の存在に気づくとにこやかに会釈した。ぎくしゃくしながら、私も礼を返した。
 いつの間にか階段を上ってきていた案内役の男が壁際の椅子を勧めた。
「お飲物は何がよろしいでしょうか」
 水を、と答えるのが精一杯だった。先客の幾人かには見覚えがあった。関西を代表する企業の経営者だった。もちろん面識はなく、経済誌や新聞で顔を知っているだけだが。
 午後七時、椅子はすべて埋まった。私も入れて総勢十二人。男九人、女三人。だが、Sと妻の姿はその中にはなかった。
 室内の照明が落とされた。能舞台が薄暗がりの中に浮かび上がる。
 五色の揚幕が跳ね上がり、三人のダークスーツ姿が橋掛りから鏡板の前へと移動した。本式の能楽堂よりすべてのサイズがひとまわりほど小さいため、鏡板に描かれた松が男たちの背後に隠れてしまった。
 客たちのおしゃべりがやむのを見計らったように、初老の男が橋掛りをしずしずと進んだ。六十を超えているが、背筋は伸び、上等なスーツに着負けしてはいない。本舞台の中央に立つと、客に向かって深々と腰を折ったのちに口上を述べた。老人の挨拶から、この集いの概要をつかむことができた。
 会場、会員とも固定されていないこと。また、不定期に開催され、年に一度のこともあれば三度行われることもある。この会に関しては口外厳禁であること。そして最後に「この能舞台は、さる好事家が昭和初期に造ったものやそうです。銀行に渡って取り壊される寸前、私が買い取りました。能狂言の素養はありませんが、このような会には風情があってよろしゅうおまっしゃろ。まあ、今夜は浮き世の憂さを忘れて、せいぜいお楽しみください。以降の司会進行はS先生にお願いしております」と言って頭を下げた。
 老人と入れ替わりにSが舞台に立った。ユーモアをまじえたなめらかな口舌で客の緊張をほぐし、本題にずばりと入った。
「一盗、二婢、三妓、四妾、五妻と申しますが、やはりわれわれの劣情を刺激してやまないのは人妻です。これは一般的な色事だけでなくSMにも共通する原理ですな。おっと、申し訳ない。ここにいらっしゃるみなさんは、先刻ご承知でした。今夜は、私の“人脈”から募りました人妻奴隷を、みなさんにご覧いただきます。さらには品評会、試用もお願いいたしますので、じっくりお楽しみください。では、奴隷一号、こちらへ!」
 全員の目が揚幕に吸い寄せられた。
 私は歯を食いしばった。人妻奴隷とは、こういう趣向だったのか。これが調教の到達点なのだろうか。密室で数時間かけてなぶることではもはや刺激は得られないのか。嗜虐と被虐が絡み合う底知れぬ深みに、私は身震いした。この二か月の空白が、妻を完全に変えてしまったのだろうか。品評会? 試用? 人間に対してこのような単語が当然のように使われる場があることじたい、理解できない。
 揚幕が上がった。女が現れた。妻ではなかった。
 初冬だというのに、黒のタンクトップに同色のショーツという姿だ。年格好は四十半ば。年齢に似合わず、たるみのない異常に巨きな乳房が黒い布地を押し上げている。その頂には固くしこった突起が浮き出ていた。
 Sは中年女の後ろ髪を掴み、客席に向けて顎を上げさせた。派手な顔立ちだが、容色は衰えはじめている。だが、荒淫の蓄積による妖しい色香がそれをおぎなって余りある。
「さる新進電子メーカー社長の細君であり愛奴のR子です。十年前から豊胸術を受け、現在では百二十センチを達成。この見苦しい胸を揺すりながら夫君のビジネスをサポートしているとのことです。さあ、ゲストの皆さまに、そのいやらしい体をお見せしなさい」
 しばしのためらいののち、R子は黒いショーツを脱いだ。陰毛はきれいに剃られ、恥丘のかなり上部にまで切れ込んだ秘裂からクリトリスの突起が見えた。
「ほほう。下よりも胸を晒すほうが恥ずかしいようですな」
 Sの揶揄に、客席から笑い声がわき、「牛みたいな乳を見せてみろ!」という野次が飛ぶ。
 唇を固く結ぶと、R子は意を決してタンクトップを脱ぎ捨てた。
 美容整形医の腕がよほどよいらしく、双乳は自然なフォルムを保っている。へたな豊胸術にありがちな固さやいびつさはない。羞恥心からくる細かいふるえが両の乳房をゆさりと揺らす。直径七、八センチはある褐色の乳暈の中心に、大人の親指大の乳首が勃起していた。
 客席に感嘆の溜息が広がった。
 Sの指示を受けた若い衆が、天井の梁にロープを投げ、手際よくR子を吊った。両手首と爪先だけで体重を支えるR子の全身にうっすらと汗が浮いた。ハンドボールほどの大きさに見えた乳房が、吊りに強調されてサッカーボールほどに見える。
「縛りやのうて、吊りで来るとは」私の前に座る初老の男がうなった。「Sさんは心得てはるわ」
「では、奴隷二号をご覧いただきましょう」
 ゲストたちの視線が揚幕に注がれた。
 トレーナーにチノパンツ姿の男が現れた。三十代前半。年輩者の目立つ客席に向かって小さく頭を下げる姿が初々しい。堅気の会社員にしか見えない。
 橋掛りを数歩踏み出した男の右手から伸びたロープがぴんと張った。まるで犬のリードのように、男が邪険にロープを引っ張ると、跳ね上げられた揚幕の下から全裸の女が現れた。いや、正確に言うと、ロープを結わえられた革製の首輪、乳房をくびり出す麻縄を身につけていた。
 Sは男を手招きしながら、客席に険しい顔を向けた。
「許されざる関係に溺れるK美は、五十一歳。夫は商社マンで、東南アジアに赴任中です。そこの彼とは不倫の関係ですが、ただの不倫じゃない。家庭内不倫というか、近親相姦というか……」
 理解できない、というふうに眉をひそめてかぶりを振った。
「つまり、血を分けた息子さんと十八年間にわたって淫らな関係を持っているのです。信じられますか、みなさん。この青年が十二のとき、母親のほうから誘惑したんです。だが、長男のほうが一枚も二枚も上手だった。果たして、今では息子の愛奴になりさがったというわけです」
 舞台の中央に立つ青年がリードを手繰り、母親を自分の前に押し出した。
「Tくん、今日はありがとう」Sが青年の肩をやわらかく叩いた。「これまで、細君を息子と交わらせるご趣味の方は何人かご登場願ったが、息子本人が奴隷でもある母親を連れてきたことはない。この会の歴史に残る。ありがとう」
 客席から拍手が起こった。
「それでは、この恥知らずな母親がどのようにきみを誘惑したか、そして、きみがどのように調教したのか聞かせてもらえるかな?」
「お言葉ですが、それは私の任ではありません。雌犬こそ、それを語るにふさわしいと思いますが」
 Sは哄笑した。「もっともだ。わかってるねえ、きみは」
 やれ、という青年のひと言でK美はその場に正座した。うなだれ、肩を小刻みにふるわせていたが、リードのストラップでうなじを打擲されて顎を上げた。真一文字に引き絞られた唇がわななき、涙の筋が頬を濡らしていた。

 それから約一時間ほどかけて、近親相姦から実の息子の奴隷となるまでの一人語りが続いた。ゲストたちは私話を交わすことなく淫靡な告白に聴き入っていた。私はといえば、妻がどのように舞台に引っ立てられどのような玩弄を受けるのかということばかりが気になり、K美の話に集中できなかった。
 K美は語り終えると、顔を上げたまま号泣した。
「罪深い私を、厳しく罰してくださいませ! 夫もうすうす感づいていて、赴任先で現地の女性と暮らしています。Tご主人さまは、もう私の体に飽きたと明言されております。ご主人さまに見放されたら、もう行く当ても暮らすあてもございません。ご主人さまに私の誠意をご覧いただくために、どんな罰にも耐えます。どうか、私に厳しい折檻をお願いします」
 ここまで人間、堕ちることができものだろうか。商社マンの妻として家庭を守り、すでに老後の人生設計も視野に入れて生活を充実させているであろう女が衆人環視の中で吐く言葉ではない。息子の手によって、肉体的な反応ばかりでなく精神も完全に調教されている。こんなことがありうるのだろうか。
 だが、これは現実だ。現に、私の妻だってSの調教に染まってしまい、体のあらゆる部位で男や女の性欲処理を行っている。痛覚を快感に、屈辱を愉悦に、いとも簡単に変質させる回路が日々、太く複雑になっていたではないか。
『こっちも今日に合わせるために必死だったよ』。
 夕刻のSの声がよみがえった。
 この二か月間で、何かが大きく変わったのだ。妻の精神を改造し終えたということか?
 こんなことなら、調教の予定と経過の報告をSに要求すべきだった。全面的に妻を預けるなんて、安易なことをすべきではなかったのだ。約六十日間の空白がもたらした結果が、もうすぐ明らかになる。
 息子にリードを曳かれ、四つん這いで舞台の奥に移動する女のみじめな姿を視野の端でとらえながら、私は来るべき衝撃にそなえて固唾を呑んだ。

まとまった時間が取れると、ついつい長文になってしまう悪い癖が今回も出てしまいました。掲示板を利用されている皆さま、ひいては管理人さまにはご迷惑をおかけするかと存じますが、なにとぞご容赦を。
初めてお邪魔させていただいてから、すでに一年。あと一、二回で、私の告解を終わらせていただきます。よろしくお付き合いくださいませ。では、また後日。
  1. 2014/07/30(水) 07:58:39|
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贖罪 第23回

#23【狂宴】
「では、最後の奴隷を紹介しましょう」
 プロの司会者のような粋なアクションで、Sは橋掛りに片手を伸ばした。
 揚幕がぱっと上がると、褌姿の男二人に挟まれた妻の姿が現れた。革製の猿轡が頬に食い込み、白い貌を二分している。スリップとパンティだけを着けているが、ふだんの調教で着せられていたような扇情的なものではないし、デザイナーズブランドのものでもない。どこの主婦でも普通に着けている平凡なものだ。マニアックな猿轡の異様さが際だち、つい今しがた一般家庭から拉致されてきたかのような印象を受ける。
 妻の両腕を背後にねじり上げるとき、男たちの背中が見えた。仁王と龍の刺青。間違いない、京都のマンションで妻に針責めを行ったヤクザたちだ。それぞれが禍々しい陰茎を持つ、あの男たち。
「今夜の奴隷の中ではもっとも若い。しかも、いちサラリーマンの細君です」
 客席に真剣なまなざしをむけ、会場の空気を吟味したSは、ゆっくりと頷いて口許をゆがめた。
「ちょっとがっかりされているようですな。しかし、しばし待っていただきたい。この奴隷の境遇をお知りになれば、みなさんの見る目も変わりますよ」
 Sは咳払いをひとつして、私を指さした。客の眼が、その指先を追う。
「奴隷のご主人がお見えになっております。おっと失礼、ご主人といっても戸籍上――つまり夫君ということです。このかたは、われわれのような因果な趣味を持ち合わせておられない、いたってノーマルです」
 客たちの視線に射るような鋭さが加わっていた。
「ご心配なく。趣味人ではありませんが、こちらの世界に非常に興味を持たれています。細君を私の手に委ねたのは、ご主人本人なのですから」
 室内の空気が、わずかに和らいだ。
「二年前、細君はマルチ商法にひっかかり、ご主人に内緒で借金をこさえました。返済のために、みなさんもご存じのF氏のサークルに入りました」
 F……なつかしい名だった。妻を強姦し、被虐の悦びを仕込んだ男。Sという性の求道者に妻を引き渡した男。Fの名を耳にすると、客同士が下卑た笑みを浮かべながら目配せし合っている。関西経済界に顔が利くとうそぶいていたが、このような陰の部分で暗躍しているのだろう。
「細君の借金は、一年もかからずに返済されました」
 Fと交わした密約を、Sは平然と口にした。借金は、妻が快楽に屈するための、そして私の劣情を容認するための免罪符だった。私たち夫婦が耽る倒錯の性を正当化するためのもののはずだった。それが根底から覆されたとすると、私たちは再び平凡な性に目を向けなくてはならなくなる。いや、夫婦でいられるならまだましだ。自分の卑しい興味のために完済の事実を告げなかったことを妻が知ったら……。夫婦は崩壊する。私の心を読んだかのように、Sが言葉を継いだ。
「もちろん、そのことを細君は知らされていません。ご主人はとっくに知っているというのにね」
 だめだ。破滅だ。私は意を決して舞台の妻を見た。視線があった。妻はかすかにうなずいて見せた。夫に裏切られたことに対する怨嗟も失望もなかった。
「だが、とっくに細君は完済の事実を知っていました――まあ、私が教えたんですがね」
 えげつない奴やで! と誰かがSに野次を飛ばした。数人が笑った。
「賭けでしたよ。去るもよし、残るもよし、とね。その結果が、これです」
 先生がご主人様やったんか! 野次が飛んだ。Sは鷹揚に会釈をし、俯く妻の顎を掴んで正面に向けた。
「私が調教しましたが、奴隷一匹にそう時間はかけられない。人生の持ち時間が少ないおいぼれですからな」
 Sはふいに真顔になって私を見やった。
「この奴隷は、あちらのご主人にお返しすることにします。これで、名実ともにご主人様ということになる。さあ、舞台にお連れしてくれ」
 最後の言葉が終わらないうちに私の肩と両腕に強い圧力がかかった。知らぬ間に、ダークスーツが三人、私の背後に控えていたのだった。もがく間もなく、左右の肘掛けにそれぞれの腕を縛りつけられてしまった。椅子ごと持ち上げられて客席を縫って舞台に向かった。
 目付柱を背に坐らされた私にSがゆっくりと歩み寄ってきた。にこやかな表情を客に向けたままだ。「さきほど、このご主人はノーマルと言いましたが、『今のところは』と言い直しましょう。自分では認めたがらないが、素質は大ありです。そこで、こういった性癖の実際をお目にかけて、こっち側に飛び込んできていただこうという趣向です。なにかご意見はございませんか?」
「手間とちゃいますか」中年男の声。私の位置からでは見えない。「旦那まで構うてたら、きりありまへんで」
「そう焦らんと」年輩の婦人が穏やかな声で制した。「Sさんにまかせといたら大丈夫や。私はええ趣向やと思います」
「ご心配はもっともですが」Sが言った。「このご主人は筋がいい。私が保証します。ご主人は広告代理店に勤務しておられるから、のちのちお世話になるかもわかりませんよ。同好の士やったら商談も早いというメリットもありますからな」
 職業まで暴露されたことに、私は複雑な気分になった。それになんだ? 筋がいいというのは褒め言葉か?

 それから私の眼前で繰り広げられたのは、本物のSMプレイだった。自宅で強制的に見せられたプレイにも激しく興奮させられたが、これに較べると、あれは輪姦の一バリエーションにしか思えないほどだった。
 最初は鞭打ちから始まった。
 三人の女奴隷が舞台に跪き、両手を後頭部で組んで背筋を伸ばしたところへ鞭が唸った。
 仁王と龍の二人に唐獅子の刺青を入れた男が加わり、奴隷たちの背にわずかにタイミングをずらして振り下ろした。Sが膝を折り、私の目線の高さで顔を近づけた。「あれが一本鞭のショート。ショートのほうが小回りが利くから使いやすい。編み目があるから強打は禁物だ。よほどやり過ぎんかぎり疵は残らない。様子を見ながら加減したらいいだろう」
 最初から全裸で現れた奴隷二号のK美以外、一号のR子も妻も衣類の上からの鞭打ちだった。じかに鞭を受けるよりダメージは軽いだろうと考えた私に、Sは言葉を重ねた。
「下着の上からのほうが効く場合もある。布地の繊維で皮膚がすりむけることもあるからね。だが、腕に自信がつくまでは試さないほうがいい」
(腕に自身やと? 何を言うてるんや?)
 私が妻を鞭打つようになるとでも言わんばかりの口ぶりだった。SMプレイを見せつけられただけで性癖が変わってしまうわけはない。私はノーマルだ。妻が性的に満足するシチュエーションを認めているというだけのこと。嗜虐癖はないと言い切れる。
 鞭の打擲音がコンスタントに上がる。そのたびに眉間に皺を刻んではいたが、、両腕を下ろす女は一人もいない。
「よし、ゲストに背を向けて」
 Sの命令に、三人は正座のままでゆっくりと体の向きを変えた。妻がスリップを脱いだ。鞭痕は内出血をおこし、鮮やかな条痕が幾重にも浮かんでいた。そんな背中が並ぶさまは、朱墨より紅い墨で描かれた水墨画の趣を醸し出している。
「名づけて『夕照竹林図』。お気に召しましたかな?」
 客席から湧くうなり声と感嘆の溜息が消える間もなく、三人の刺青男は鞭を和蝋燭に持ち替え、紅の蝋涙を女奴隷の背中に注いだ。女たちは身を左右によじるが、正座は崩さない。
「竹林に雨が降ってまいりましたようで。風も出てきたようですな」
 紅の雨が竹林を彩り、深紅の竹がゆらめく。能舞台と相まって淫靡と幽玄の絶妙なコントラストを立ちのぼらせる。やがて、深紅の竹林は蝋涙に覆われて消えた。
「ゲストのみなさんに見ていただこうか」
 Sの言葉と同時に、男たちは自分が担当する女奴隷の前に回ると、肩に手をかけて膝を崩させると客席に正面を向かせた。背後に膝を突くと、女の上体を倒して胸で受け止めた。両の膝頭を掴んで左右に大きく割る。
 奴隷一号と二号の無毛の股間が見えた。天井のライトをうけ、秘裂がきらめく。濡れているのだ。鞭打たれ、熱蝋を浴びただけで愛液を分泌させる女の姿は哀れだった。
 妻のショーツに男の手がかかった。両サイドの、細い布地を力まかせに断ち、用をなさなくなった布きれを取り去る。露わになったの秘裂は愛液にまみれていた。
「それじゃ見えんだろう」
 Sにうながされた三人の女は、両腕を前に回し、両の指先で左右の大陰唇をつまみ、両側に引っ張った。ピアスをつけているのは妻だけだった。一号と二号の秘部には、ピアスよりも強烈なものが施されていた。大陰唇の裏側に文字があったのだ。分泌液にさらされながらも輪郭が滲んでいないところを見ると、刺青なのだろうか。
「さあ、いよいよお披露目だ。一号から口上を述べなさい」
 一号と二号は、それぞれ隷従の証を口にした。今夜はご主人様の許可をいただいたので、どんな責めでも謹んでお受けしますというようなことを、つかえつかえ言った。
 妻の番だが、猿轡は噛まされたままだ。
「一号と二号は、ゲストのみなさんにご奉仕しなさい」
 全裸の年増は橋掛りを戻り、揚幕の中に消えた。そして、すぐに客席に現れ、四つん這いになって歩んだ。私の位置からは、息子にリードを曳かれた二号が、女性客に平手打ちを食わされるのが見えた。一号の動向は、ここからではわからない。
「三号に関しては、口上は抜きでまいりましょう。とにかく淫蕩な奴隷ですから、その浅ましい様をご覧いただくのが何よりの口上になるかと」
 舞台に立つ三人の刺青男が同時に褌をはずした。すでに陰茎は八分立ちというところか。何人、いや、何十人もの女を貫いてきたであろうペニスは暗褐色に変色し、あきれるほどの存在感と重量感を見せつけている。

 妻への弄虐が始まった。
 前戯はいっさい行われなかった。仰臥した龍の陰茎をていねいにしごいて硬度を高めると、腰を跨いで自らの手で勃起を胎内に納めた。妻の鼻翼がふくらみ、顎が跳ね上がる。ひと呼吸ほどの間を空けてペニスを肉洞になじませると、妻の腰は円運動と前後運動を合わせた複雑な動きを見せた。さらに上下運動も加わる。大臀筋が酷使されているためか、双臀の肉にたるみはない。真横からは連結部が見えないが、淫らな音で様子は容易に想像できた。
 唐獅子が妻の背後に回り、背中を押した。妻はその意味を悟り、両手を龍の胸板に突いて上体を傾けた。唐獅子のペニスは準備万端のようだった。腹とほぼ平行になるまで起き、その先端は臍まで届いている。
 龍との結合部に手を差し込み、そのぬめりをペニスに塗りたくった。粘液による艶が勃起に禍々しさを与えた。妻の尻の前に膝を突くと、唐獅子は一気にアヌスに挿入した。
 妻の鼻腔から呻きが放たれた。二十数センチはある肉幹を押し込まれたのだ、激しい苦痛に襲われているのだろう。思わず顔をしかめた私に、Sがにこやかに言った。
「痛そうだねえ。あんなものを突っ込まれた日には、壊れてしまうかもしれないね。口で息ができるようにしてやれば、まだましだろうが、どうする? 猿轡をはずしてやってもいいかな?」
 私は激しくうなずいた。「もちろんです。あれじゃ体がもちません」
「決定権はきみにある。責めはプログラムどおりに行っていくが、きみがストップをかければ、すべてが終わる。そして夫婦でお引き取り願う。これがルールだ。心得ておいてくれたまえ」
 Sが仁王に目配せすると、妻の猿轡がはずされた。口中に溜まっていた唾液がどっとあふれ、龍の胸元に糸を引いて滴った。苦痛を訴える妻の声を予測していた私は、次の瞬間、わが耳を疑った。
 悲痛な呻きではなかった。男たちのストロークにどんどん追い上げられ高ぶらされているのがはっきりとわかった。荒い吐息の合間に、懸命に言葉を洩らす。「……あう、あう……ありがとうございます。はあっ……はあっ。奴隷の穢れた穴にお情けをちょうだいして……くうっ、いい。それ、いい! ううん、ううん、当たる! 奥まで当たるの……み、身に余る光栄でございます。どうか……どうか、口もお使いくださいませ。せいいっぱい、ご奉仕させていただき……はうっ……」
 妻は首をねじり、私に顔を向けた。細められた眼には欲情の膜がかかっている。
「きみに訴えてるんだよ」
 耳許でSにささやかれ、私は我に返った。
「うなずくだけでいい。いやなら『ストップ』と一言」
 妻の視線を受け止めると、私はうなずいた。即座に、仁王の剛棒が妻の口を犯した。三本の肉杭を受け入れた妻は満足げな吐息を鼻腔から洩らしながら奉仕に没頭しはじめた。
 短時間の間に二度、三度と上りつめる妻に、私は奇妙な感情を抱いた。それは羨望だった。私以外の男と交わることで妻の性欲が深く満たされるならそれでいい、と懐の広いふりをしていたのは単なる強がりだった。私の中の嫉妬心が強い性欲を引き出してくれるのではないかと、Sに委ねた私の浅はかさを呪った。
 妻はすでに以前の妻ではない。口、性器、肛門を開発され、貪欲に男を受け入れる性の囚人になり果てていた。命じられるがままに奉仕することで、自らの性的エナジーを充電する。それはまさに桃源郷に遊ぶ心地だろう。エクスタシーという目的のために肉体と精神がみごとに融合していた。
 羨望を超えて、嫉妬すらおぼえた。発情を自在にコントロールできるばかりか、欲情を満たす肉体を持つ妻に対して。常に欲情することなど、私には無理だ。四六時中、勃起を持続することはできはしない。
 五度目の絶頂を極めると、妻は気を失って龍の胸に突っ伏した。
「何度見ても、たいしたもんだよ」
 Sが溜息をついた。
「ほら、尻だけは蠢いている。肉体のみで勝負しても、男に分はない。だから、私たち男は姑息な手に出るというわけだ。SMしかりスワッピングしかり」
 舞台では、男たちが妻から身を離しつつあった。ゆっくりと引かれる唐獅子の腰を、妻の双臀が追うそぶりを見せた。あきれるほどの貪欲さに、私は固唾を呑んだ。
「心配はいらない。きみの出張中、毎日のように若い衆に突っ込ませていたが、むしろ締まりは良くなっているそうだ」
「いや、そうじゃなくて、ちょっと圧倒されてしまって……」
「調教記録をさんざん見てきただろうに」
「生では一度しか見たことがないもので」
「そういうことか。まあ、じっくり楽しむことだ」
 舞台の男たちがロープを手に、妻に取り付いていた。客席から悲鳴が上がった。見ると、奴隷二号が獣の体位で客に犯されていた。二人の脇に佇む上品な女性客が、十センチほどの針を無慈悲に一号の尻に突き刺している。
 その二列奥に奴隷一号がいた。椅子の上でのけぞるような格好をした男性客の股間に巨大な双乳を押しつけている。俗にいうパイズリを行っているのだろう。
 周囲の客たちは椅子から立ち上がることもせず、奴隷の奉仕ぶりを眺めたり、舞台に目をやったりしている。
「さあ、第二弾が始まるよ」
 Sにうながされて舞台に視線を戻した。
 妻はM字に開脚した状態で緊縛されていた。腹部から胸にかけて亀甲模様が並ぶ。さらに縄は乳房の麓をきつく縛り、双乳を絞り出していた。その頂の突起は、これ以上ないほどに固くしこっている。背後で妻の体重を支える龍が、その痛々しい乳房を揉み込んでゆく。
 新たな快感に陶酔の表情を浮かべはじめていた妻の鼻先に、唐獅子が黒い棒を突き出した。それを自由な両手で押し頂くと、妻は私に面を向けた。
「ご主人様の……ち、ちんぽはもったいのうございますから、この淫らな道具で卑しいおまんこを罰してもよろしゅうございますか」
 妻は私に向かって黒い男根そのものの棒を掲げて見せた。
「特別製の張型だ」Sが言った。「黒人のものを型取りしたものでね、感触、芯の固さまで克明に再現してある。全長三十センチ、直径十センチ」
 私がうなずくのを待ちかねたように、妻はその凶器で自らの女陰を突いた。
「……ふううっ、あう! 太い。無理です。こんなの、入りません。どうか許して、許してください。こんなものを入れると女のお務めができなくなります。お、お許しください」
 無理にやることはない、と口に出かかったが、私の脳裡を浸食しはじめた邪悪な興味と想念がそれを封じた。私の口からは、正反対の言葉が滑り出ていた。
「だめだ。甘えは許さん」
 妻の目に、安堵と諦めの色が交錯したように見えた。
「申し訳ございません。入れさせていただきます。それでお許しいただけますか」
 私は首を横に振った。
 仁王と唐獅子が妻の左右に跪き、両乳首に洗濯ばさみを噛ませた。妻の絶叫が上がった。さらに、左右の大陰唇も洗濯ばさみの餌食になり、新たな叫び声が湧く。それぞれの洗濯ばさみには紐が結わえ付けられており、その先は仁王と唐獅子の手に握られている。
 激痛に耐えながら、妻は両手で握りしめたディルドウを小さく前後させながら秘裂に押し込みはじめた。
「あああ、入ってくる。黒人のぶっといちんぽが入ってくる。裂けそうなの、でも、それがいいの! いいの!……」
 紐を持つ二人は、絶妙のタイミングで妻を快楽の淵から現実に引き戻す。龍も、乳房を揺らしたりしながら仲間の意図を効果的にサポートする。
「ひいいいい……くうっ、痛いの! お願い、いかせて、罰は後で受けますから、お願い! 今はいかせてえええええ」
 哀願とは裏腹に、妻はゆるみきった口許からよだれの筋を幾重も落とし、眉間に皺を刻みながら快楽に身を委ねつつある。妻の脳の中では屈辱感と羞恥心を触媒に、痛覚が愉悦へと変質しているのだろう。
 ディルドウの動きがスムーズになっている。沸き立つ淫液が卑猥な粘着音を響かせる。龍に下から貫かれていたときとは較べものにならないほど猥褻な音だった。
「いきそうだな」Sは、私の腕のロープをほどきはじめた。「どうする? あっさりいかせてもいいのかね」
「さっきたっぷり満足させてもらったようですから、これ以上は贅沢というものでしょう」
 Sは顔に笑みが広がった。「何がいい?」
 私は椅子から腰を上げた。「針をください」

 素人の私は、Sの指導を受けて初めての針責めを行った。
 最初の一刺しには緊張したが、二本、三本と注射針を刺すうちに、この責めの虜になった。乳房はもちろん、太腿にまで針を打った。以前に龍と仁王が使ったまち針とは異なり、シリンダーにジョイントするためのパーツが並ぶさまは美しくすらあった。
 二十一本めの針を刺された瞬間、妻が達した。粘液ではない分泌物を、模造男根に押し広げられた秘裂の上部から噴き上げた。
 その光景を目にした瞬間、私は激しく哄笑していた。その衝動がどこから出てきたものか今もってわからない。ついに何かを突き抜けたという達成感だけはあったような気がする。

 それから数時間にわたって、能舞台と客席で乱交が繰り広げられた。
 九人の男性客が三人の女奴隷を、あらゆるやり方で陵辱した。三人の女性客は、ときおり女奴隷にちょっかいを出すことはあったが、だいたいは刺青男やダークスーツのスタッフたちに組み伏せられ、飽くことなく肉欲を貪っていた。
 私は、九人の趣味人の責めを見学した。年季の入った責め具を持ち込んで使う者、素手のみで巧妙な責めを行う者、さまざまだった。
 やがて、狂宴の熱気も落ち着いた頃、客席の真ん中に一枚のマットレスが敷かれた。スタッフの手によって、その周囲に椅子が並べられた。身繕いをした観客が着席するのを見計らって、Sが言った。
「奴隷三号の刻印の儀を執り行います」
 荒淫にぐったりとした妻が、スタッフの手によってマットレスの上に寝かされた。作務衣姿の痩せた老人が、妻の腰のあたりに木製の道具箱を置いた。
「では、ご主人。どこに、どのようなものをお入れになりますか?」
 かしこまった表情と口調で、Sが私に訊いた。
「何を入れるんですか?」
 私の質問に、客の一部から小さな笑いが洩れた。
「墨を入れます。あなたの所有物である証に。奴隷一号と二号が入れているのをご覧になったはずだ」
 年増の大陰唇に刻まれていたのは、やはり刺青だったのだ。Sからすでに引導を渡されていたのか、妻の表情に驚きはない。穏やかな表情を浮かべて私を見上げている。
 私に否やはなかった。夫婦という法的な絆よりも固いもので、私たちは結ばれようとしているのだ。ご主人様と奴隷という呼び名は芝居じみてはいるが、互いの欲望を尊重する関係を示すにはこれ以上的確な名称はない。
「“爛”――“ただれる”の爛を、恥丘に」
 客の間から溜息が洩れた。
 そして、私は妻が好きな色を思い出して付け加えた。
「紫陽花色でお願いします」
 作務衣の老人が和紙に“爛”と記し、私に確認した。
 私はしっかりとうなずいた。

今回も長々と書いてしまい、申し訳ありません。次回で私たち夫婦の告白を終わらせていただきます。では、後日。
  1. 2014/07/30(水) 08:00:45|
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贖罪 最終回

【#24 終局】
 それから約一年半、私たち夫婦は性の煉獄の囚われ人になった。ただし、その煉獄で味わうのは苦痛ではなく、爛れるような快楽と新鮮な感動だった。
 妻は相変わらずSの私設秘書として働いた。もちろん、業務内容は接待用性奴隷だ。成功した実業家ほど、刺激を求めているらしい。陽の高いうちから自社の執務室で嬲ることもあれば、別邸に呼びつけて辱めることもあった。週に一度、宿泊を含む残業を私は認めた。自分が受けた屈辱を、奴隷の作法に則った言葉で逐一語ってもらうのがとても楽しみだったからだ。とくに、外泊明けの妻の告白は刺激に満ちていた。私が感銘を受けたのは以下のケースだ。

#1/さる宗教法人の修行場で、若き修行僧たち十数名の性欲処理をさせられた。男色による綱紀の乱れを予防する措置ということ。修業期間中、妻のような女たちが代わる代わる山門をくぐるのだという。
#2/三宮のクラブで黒人を誘惑し、予約していたホテルに連れ込んでは情交の様子を隠しカメラで撮影されるというもの。黒人特有の体臭にどうしてもなじめない妻にとっては苦痛の時間だということだ。(Sがこっそり教えてくれたが、黒人はいずれもクライアントの仕込みらしい)
#3/北新地のスナックを貸し切ってのSMショー。四人の女奴隷とともに、夜通しゲストに奉仕させられた。
#4/暴力団の襲名式に仲居として送り込まれ、幹部たちの慰み者になった。最初は死ぬほど緊張したらしいが、ヤクザならではの色責めに気絶するまで虐げられた。
#5/中部地方某所で五頭もの犬と交わらされた。獣姦専門に育てられた犬の最終調教の実験台になったらしい。

 これらの光景はすべてビデオによって記録されていた。Sはいつでも見せると言ってくれたが、もはや、私は映像では満足できなくなっていた。妻の痴態は、生で味わうか、さもなくば本人の一人語りにかぎる。
 男は、視覚からの刺激で欲情すると言われるが、私を激しく高ぶらせるのは想像力だ。かつてSが私に言った「人間の快楽中枢は脳なんだよ。決して粘膜の神経細胞などではない」という言葉が重みを増している。妻が陵辱をどのように受け入れ、果てしなく湧き出す欲情をどのように味わっているかを想像することがいかに楽しいか。妻の肉体と精神が蹂躙されたという確かな事実が根底にあるから、この想像は、無から生み出される妄想とは一線を画すほど強烈だ。
 妻は、私の目の前で責め苛まれることを欲していたようだが、はっきりと口に出したことはなかった。自宅でSMプレイを行うこともなかった。
 私は枯れてしまったのだろうか。一夜にしてSMの神髄に触れてしまったせいかもしれない。妻を思う気持はあったが、妻を伴って積極的に秘密のパーティに参加することはなかった。
 そんな私を振り向かせるためか、より濃厚な刺激を得るためか、妻は密かにSにある申し出をしていた。さる中堅企業の会長夫妻に自分の身柄を期限付きで預けてくれませんか、と。
 驚いたSは、勤務中の私に直通電話をかけてきた。昼休みを待って、Sの会社に赴いた。
「会長夫妻の件はちらっと話したことがあったんだが、まさか細君が覚えていたとは思わなかった。どうする、逆瀬川くん?」
「どうするとおっしゃいましても、私には判断のしようがありませんよ。S先生がご判断ください」
「その会長夫妻はご夫婦ともに六十歳半ばなんだが、ハードSMで有名でねえ。われわれとはちょっと指向が異なるんだよ」
 SがやっていることこそハードSMではないのか? いつもの余裕が見られないSの様子が、妙に滑稽に思えた。
「会長夫妻のところからは、ただでは帰ってこられんという噂があってね」
「一生残るような疵とか?」
「肉体的にはNOだ。精神的なダメージが大きいらしい」
「なぜ、そんなところに妻が……?」
「限界に挑戦してみたいそうだ。きみ、何か不用意なことでも言ったりしたのか」
「まさか。夫婦仲は良好ですよ」
「マゾの業かねえ。突き詰めたいという願望は」
 Sは宙をにらんだ。
「で、細君を預けてもいいのかな。期間は二週間。報酬は――」
「報酬なんて結構です。私は金銭の授受など関係ない世界を純粋に愉しんでいるだけですから」
「青いな」Sはにやりと笑った。「有償貸与というのは、細君を身も心も奴隷に堕とすためにするものだ。きみが気に病むことはない。私設秘書の給与と一緒に細君の口座に振り込むから。どうだ、本当に預けてもいいのかね?」
「今、妻はどこにおりますか」
「件の会長夫妻と会食中だ。こういうのは見合いと同じでね。こちらからお願いしても相手先の意に染まぬこともある。その逆も然り」
「双方合意ということであれば、私には何も言うことはありません」
 Sは深くうなずき、辞去する私をドアまで送ってくれた。

 その翌朝、妻は会長夫妻から回されたクルマで、奈良の自宅に向かった。
 会長夫妻に対する妻の印象はすこぶる良かった。昼食を摂りながら、世間話でもするように妻の調教歴を訊いたという。
「初対面やのに、何でも話せるのが不思議やったわ。ご夫婦とも精神的に若いんやろね、どう見ても五十歳くらいにしか見えへんのよ。奥さんは、SもMもいける人でブレスレットの下にはBITCHとSLAVEいう刺青が彫ってあったわ。体中にいろいろ彫ってある言うてはった」
 妻は弾んだ声で会食の印象を語ったが、今頃は夫婦の手によって快楽を味わわせてもらっているのだろう。電車を待つホームで、社内の喫煙コーナーで、私は夢想した。

 二週間後。自宅マンションの部屋に明かりがともっているのを見て、ほっとした。約束どおり、妻が帰ってきたのだ。
 玄関ドアのチャイムを押したが、内部から施錠を解く音がしない。ためしにドアレバーを倒すとドアが開いた。ドアチェーンすらしていないとは不用心にもほどがある。
 三和土に踏み入れた私は、上がり框に正座した妻の姿に仰天した。
 鞣し革に真鍮の鋲が埋め込まれた首輪とブレスレットだけを身につけていた。ボーイッシュに短くカットされた髪が、首輪の茶色を際だたせている。
「お帰りなさいませ」
 それだけ言うと、妻は上体を深く折った。
 背中一面に走る鞭痕が目に飛び込んできた。私は靴を脱ぎ捨て、妻の傍らに膝を突いて背中の傷をあらためた。
 ふくらみの残る真新しいみみず腫れの周囲には、青紫や赤紫に変色した打痕が幾筋も走っている。その背景の膚は、黄色だった。内出血の治癒経過をいっぺんに見せられているようなものだ。二週間、妻への鞭打ちは日課だったのだろう。妻が自ら飛び込んだ地獄の凄惨さに、私は息を呑んだ。
「た、立てよ」
 妻の腰に手を回した。
「よく見せてみろ」
 リビングの照明の下で、妻の体を点検した。
 喉から胸、腹、そして太腿の内側やふくらはぎなど、やわらかい部分に三センチほどの長さの切り傷が無数についていた。見た目は悲惨だが、傷は浅く、裂傷というほどのものではない。
「どうしたんや、この傷は」
「奥様のお仕置きです。言葉づかいや態度など、奴隷の作法をはずすたびに剃刀でお仕置きを受けました。ふつつかな牝犬でございますが、よろしくお願いいたします」
 私は妻の肩に両手をかけて揺さぶった。
「おい、しっかりしろ! おれがわからへんのか。しっかりするんや!」
 妻の視線が私の顔に注がれた。膜のかかったような瞳に輝きが戻ってきた。
「けんちゃん……」
 妻が抱きついてきた。背中の傷に触れぬように、私はあえて腕を回さなかった。

 会長夫妻の自宅を初めて訪れた日のことは鮮明に覚えていたが、二日目以降の妻の記憶はあいまいだった。
 初日から、妻の人間としての尊厳は奪い去られた。妻や私がイメージするSMの範疇を逸脱し、虐待や拷問に近かったという。ちょっとした言葉づかいの誤りを咎められては仕置、奴隷としての誠意が見られないと難癖をつけられては仕置という日々を送ったのだった。会長宅には四十半ばのT子という女中がいたが、ただの家政婦ではなく会長夫妻のアシスタントも務めるサディストだった。夜の性奉仕の際は、一人の男と二人の女に責めを受けることになる。三十代の妻への嫉妬をむき出しにした女たちは、同性のみが知る女の泣き所を巧みに衝いては妻に奴隷の境遇を思い知らせた。
 三日を過ぎた頃から、妻には奴隷としての自覚が芽生えたという。会長夫妻と女中の思惑を先読みし、掃除や洗い物などの家事手伝いはもちろん、寵愛を得るためには何でもやった。奴隷という別人格が私の中に生じたとしか考えられない、と妻は語ってくれた。
「もう二度と行きたくないやろ。よう耐えたな」
 妻の話を聞き終えた私は妻の髪を撫でながらいたわりの言葉をかけた。
 だが、妻の答えは私の予想を大きく裏切った。
「たびたび伺うことにしたの。大きなお宅だから、T子さん一人じゃ大変よ」
「正気か? 神戸から奈良までわざわざ通うんか?」
「週末。せめて一泊で……おねがい」
「おれと一緒にいるよりいいんか?」
 私の問いに動揺も見せず、妻はほほえみをうかべた。
「実は、会長にひとつだけわがままを言わせてもらってるの。ご奉仕するとき、会長を『健一さま』と呼ばせていただきたいって。快くお許しくださったわ」
 胸が締めつけられるようだった。妻は、ご主人様の義務を果たさない私を振り向かせるために、会長夫妻の厳しい調教を受けたのではなかったのだ。苛酷な責めを受けながらも、精神的には私を見つめつづけていたのだった。
 私はいったい何を見、何を聴いていたのか! 惚れあって結婚したはずなのに、妻の気持をこれほど理解できていなかったとは。妻にとっては不本意な不倫から始まった性の闇への冒険を、私は心のどこかで夫婦のトラブルと思っていたようだ。冒険が終われば、穏やかな夫婦生活が戻ってくる、と。だが、これまで私たち夫婦が経験してきたことは、冒険ではなかった。それは、私たちの生き方そのものだったのだ。
 マスコミがつくりだした夫婦のイメージ、人生設計、ライフスタイルに、広告業界に身を置く私自身が洗脳されてしまっていた。そんな私の姑息なはかりごとを、身をもって受け止めてくれた妻に感謝の言葉もない。今はただ、妻への罪を贖うことしかできない。うちのめされた私は、詫びようと口を開いた。
「頼りないご主人様で――」
 妻は私の口に手を当てて言葉を封じた。「ロッキングチェア・マスターは、もっと威張ってなきゃ」
 捕り物に走らず、ロッキングチェアでくつろぎながら真犯人を推理する「ロッキングチェア・ディテクティブ」をもじったものらしかった。奴隷の身に触れることなく調教を施すご主人様……。その言葉で、私の心は一気に軽くなった。
「もうすぐボーナスやし、神戸にも飽きてきたところやし……」
 妻の目をまっすぐに見て言った。
「引っ越そうか、奈良に。毎日でも会長宅に通えるやろ」
 大きな笑みが、妻の顔に浮び、すぐに嬉し泣きに取って代わった。

昨年の七月来、私の不定期な書き込みと拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。現在、妻はS氏の私設秘書として週の半分を、会長宅の家政婦として週の半分を送っており、週末は常に不在です。会長宅まで私たちのマンションから徒歩二十分ほどの距離ですが、いまだに会長夫妻とは面識がありません。もちろん、これからもご夫婦と顔を合わせることはないでしょう。
最後に。管理人さま、私の告白を『妻物語』に書き込ませていただき、感謝しております。五百万ヒットもすでに秒読み。このすばらしいサイトのますますのご発展を心よりお祈り申し上げます。ではまた、機会がありましたら。
  1. 2014/07/30(水) 08:02:09|
  2. 贖罪・逆瀬川健一
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